欧米で絶大な支持を集めるプロ・オーディオ・メーカー「Alcons Audio(アルコンズ・オーディオ)」が、満を持して日本に本格上陸を果たした。ユニークなデザインのリボン・ドライバー『Pro-ribbon』が採用された同社のスピーカーは、世界中の名だたるプロフェッショナルから賞賛されており、ツアーリング/ライブPAからホールや教会、映画館などの固定設備、さらには映画のダビングステージに至るまで、さまざまな現場で活躍している。ブロードウェイの劇場や著名なコンサート・ホールへの導入例も多く、海外の記事などで「Alcons Audio」の名前を目にしたことがある読者もきっと多いだろう。
「Alcons Audio」の国内代理店業務を開始した「イースペック」は去る7月、同社製品のサウンドを日本のプロフェッショナルに体感してもらうべく、「阿倍野区民センター」(大阪・阿倍野)において試聴会を開催した。そこで本誌では、同社の沿革と独自技術、製品ラインを簡単に紹介するとともに、試聴会で実際に試聴した2人のエンジニアのインプレッションをお伝えすることにしよう。
画像: 去る7月、大阪の「阿倍野区民センター」で開催された試聴会。万全のコロナ対策の元、日本全国から約140名の来場者が参加した

去る7月、大阪の「阿倍野区民センター」で開催された試聴会。万全のコロナ対策の元、日本全国から約140名の来場者が参加した

2002年創業のAlcons Audio

「Alcons Audio」は2002年10月、オランダ西部の北ホラント州で設立されたプロ・オーディオ・メーカーである。創業者のトム・バック(Tom Back)氏は、ヨーロッパのプロ・オーディオ業界で長いキャリアを持つ人物で、経験豊富な多くのスタッフとともに会社はスタートした。現在オフィスはオランダだけでなく、ドイツとアメリカにもあり、製品は世界40カ国以上で販売されている。比較的歴史の浅いメーカーではあるが、今や欧米のプロ・オーディオ業界で「Alcons Audio」の名前を知らない人はいないと言っていいだろう。

画像: 「Alcons Audio」の中心メンバー。写真中央が創業者のトム・バック(Tom Back)氏

「Alcons Audio」の中心メンバー。写真中央が創業者のトム・バック(Tom Back)氏

 同社が特にこだわっているのが、目新しいアイディアや技術ではなく、現場で末長く使用できる“トータル・ソリューション”を提供すること。この想いは、同社が掲げる“evolutionary audio solutions(進化したオーディオ・ソリューション)”というタグラインでも強く打ち出されており、各製品はカタログやWebサイトなどで、“シリーズ”ではなく“ソリューション”として紹介されている。現場やアプリケーションに合わせ、スピーカー/アンプ/プロセッサー/ソフトウェアを組み合わせた“トータル・ソリューション”を提供するメーカー、それが「Alcons Audio」なのだ。

 製品の品質にも相当こだわりがあるようで、開発や生産は一貫してオランダで行われている(本社と工場は同じ敷地内にある)。新興メーカーの多くが、大手メーカーにコスト・パフォーマンスで対抗するため、中国やアジアに生産拠点を置くのに対し、自国での生産にこだわっているのは注目ポイントと言えるだろう。同社によれば、伝統的な職人の技術と最新のテクノロジーを組み合わせることで、できるだけ耐用年数の長い(つまりはクライアントにとって投資効果の高い)高品質な製品を製造しているとのことだ。

 「Alcons Audio」の製品ラインナップは多岐にわたっており、ツアーリング/大規模コンサート向けのライブ・システムから、中〜小規模のポータブルPAシステム、シアター/劇場/教会などの固定設備向けシステム、さらには映画のダビングステージ/プロダクション・スタジオ向けのシステムに至るまで、あらゆる現場/アプリケーションをカバーする製品が揃っている。もちろん、“ただラインナップしている”のではなく、いずれの製品も各分野で実績があり、劇場向けシステムはブロードウェイやウエスト・エンドの一流シアター、映画用システムはハリウッドの著名なダビングステージに導入されており、さらには世界的に評価の高いドイツのコンサート・ホール、「エルプフィルハーモニー・ハンブルク(Elbphilharmonie Hamburg)」でも「Alcons Audio」のシステムが使われているとのこと。同社によれば、最近は住宅向けのサウンド・システムにも力を入れているとのことで、まさしく総合スピーカー・メーカーと言っていいだろう。

 

基幹技術『Pro-ribbon』

 「Alcons Audio」の基幹技術であり、多くの製品で採用されているのが、『Pro-ribbon(プロリボン)』と名付けられた独自のリボン・ドライバーだ。同社のR&Dエンジニアであるフィリップ・デ・ハーン・シニア(Philip de Haan Sr.)氏によって開発された『Pro-ribbon』は、大規模コンサートのような高い音圧レベルでも、スタジオ・モニターのような高品位なサウンドが得られる新世代のリボン・ドライバー。繊細で壊れやすい、パワー・ハンドリングが劣るといった従来型リボンのウイークポイントを、「Alcons Audio」独自の技術(特許取得済み)で克服した画期的なドライバーである。

 現在多くのスピーカーで採用されているコンプレッション・ドライバーと比較して、リボンを振動させる『Pro-ribbon』は応答性と再現性に優れ、低域から高域までフラットな特性を実現している点が大きな特徴。音の立ち上がりが早く、卓をミュートしたときに再生音がピタッと止まる反応の良さは、リボン・ドライバーならではのものだろう。また、コンプレッション・ドライバーやドーム・ツイーターのように音を圧縮しないため、歪み率が非常に低いというのもポイント(一般的なコンプレッション・ドライバーと比較すると、実に1/10という歪み率を実現している)。加えて『Pro-ribbon』は、特許取得済みの独自技術によって真の指向性を実現、ラインアレイにも最適なデザインになっている。音の明瞭度が高く、ピーキーな部分が無い分、長時間聴いていても音疲れしないという『Pro-ribbon』。従来のリボン・ドライバーの常識を覆した革新的なコンポーネントと言っていいだろう。

画像: 従来のコンプレッション・ドライバー(図左)と『Pro-ribbon』(図右)の周波数分布の違い。『Pro-ribbon』の特性がフラットであることが分かる

従来のコンプレッション・ドライバー(図左)と『Pro-ribbon』(図右)の周波数分布の違い。『Pro-ribbon』の特性がフラットであることが分かる

 

豊富に用意された製品ラインナップ

 先述のとおり、幅の広い製品ラインナップが揃っているのも「Alcons Audio」の大きな特徴だ。スタンダードなポイントソース・システムは、もっともコンパクトな「T」(TS7、TS3)、多目的に使用できる2ウェイ・タイプの「V」(VR12/90、VR12/60、VR8、VR5)、アンダー・バルコニー/インフィルに対応するロー・プロファイル型の「S」(SR9 mkII)という3シリーズが用意されている。加えてポイントソースの水平アレイ・システム「R」(RR12)、モジュラー型のカラムアレイ・システム「Q」(QR24/80、QR24/110、QM24、QB242)というシリーズも用意され、Jカーブのラインアレイ・システムとして展開されているのが「L」を冠したシリーズだ。「L」シリーズは、大規模な現場に対応するフラッグシップの「LR28」シリーズから、マイクロ・サイズのアレイ・システム「LR7」シリーズに至るまで、5シリーズがラインナップされている。

 その他、サブ・ウーファーの「B」シリーズ(BF Series/BQ211/BC Series)、DSPコントローラーを内蔵した4ch仕様のClass-Dパワー・アンプ「ALC Sentinel」という製品もラインナップ。「ALC Sentinel」は、最高192kHzのAES3信号を入力でき、『Pro-ribbon』の性能を最大限引き出すように設計されている。内蔵DSPエンジンは、IIR/FIRといった複雑な処理の実行時でもレーテンシーが非常に抑えられているのがポイントで、6バンドPEQやディレイといった各種プロセッサーを搭載。パソコン用のソフトウェア「ALControl」や、モバイル・デバイス用のVNCアプリを使用し、詳細な設定はパソコン、現場でのリモート・コントロールはスマートフォンと使い分けることができる。まさしく「Alcons Audio」システムの中核となる機器と言っていいだろう。

画像: DSPコントローラーを内蔵した4ch仕様のClass-Dパワー・アンプ「ALC Sentinel」

DSPコントローラーを内蔵した4ch仕様のClass-Dパワー・アンプ「ALC Sentinel」

画像: ラインアレイ「LR18」システム

ラインアレイ「LR18」システム

画像: 試聴会では代表的なモデルが取り揃えられた

試聴会では代表的なモデルが取り揃えられた

 遂に日本に本格上陸を果たした「Alcons Audio」。製品ラインナップと詳細なスペックは限られた誌面上ではすべて紹介できないので、ぜひ「イースペック」のWebサイト( https://e-spec.co.jp/ )をチェックしていただきたい。一部機種に関してはデモ機の用意もあるとのことだ。

 

 

Alcons Audio Professional Impression #1

他の製品とは別の次元で高いレベルをクリアしてきたという印象のスピーカー

by 橋本敏邦(ティースペック/ライブデバイス)

橋本敏邦氏(ティースペック/ライブデバイス)

 「Alcons Audio」のスピーカーは、フラッグシップのラインアレイ「LR28」を『Prolight+Sound』の「PRG」ブースで聴いたことがあったのですが、そのときの印象と今回の試聴会の印象はほとんど同じでした。決して派手なサウンドではないのですが、音の存在感はしっかりある。全帯域にわたってすごくクリアな音という印象です。大きな特徴である『Pro-ribbon』は、コンプレッション・ドライバーやホーン・タイプのスピーカーと比べると高域の歪みが少ないためなのか、おとなしく聴こえるのですが、大音量で長時間聴いていても耳が疲れることなく聴きやすい。オーディオ・システムの音というイメージですね。また、リボンは弱いという先入観があったのですが、最近のものは昔のものとは違って強いという話を聞いて、先入観にとらわれすぎるのは良くないなと反省した次第です(笑)。指向性制御も広い帯域に対応できるため、エリア・コントロールがしやすいと思いました。

 機能面については、リギングがシンプルで分かりやすいですね。一番小型のモデル「LR7」はかなり軽いので、ワン・ボックスでも積めるのではないかと思います。スタンド・マウント5本は軽くないとできないですから、これはいいですね。それとDSPパワーアンプにカスタムFIRフィルターを入れることができるのは、これからの需要にきっちり対応しているなと思いました。それとパワーアンプのディスプレイの表示もすごく小洒落ていてワクワクします。

 総じてすごく良いスピーカーという印象ですが、オペレートに関しては、慣れるまでどれくらい時間がかかるのか実際に現場で試してみたいですね。基本的にシステム調整をそれほど気にしなくても使えるように設計してあるとのことですが、そのあたりも実際に試してみないと分からない。それと耐入力の高いユニットに対して、MF/LFがどこまでついてくるのかというのも気になります。今回の試聴会では、ドラムのみの生演奏でしたが、機会があればボーカル帯域の音をしっかり聴いてみたい。また、音圧や遠投性も気になるポイントで、屋外の現場でどこまで対応できるのか、遠投性に関しては推奨エリアの距離が比較的控えめだったので、本当にその程度なのかは現場で使ってみないと分かりません。

 最近のスピーカーはどれも、シミュレーション、指向性コントロール、サブ・ウーファー・コンロールなど、非常に高い水準になっていますが、「Alcons Audio」の『Pro-ribbon』の高域は、他のスピーカーとはまた別の次元で高いレベルをクリアしてきたという印象です。なので、実際に現場ではどのように聴こえるか、観客の皆さんはどのように感じるかなど、非常に興味深いスピーカー・システムだと思いました。個人的には、Dante対応のオプション・カードが出てくれると嬉しいですね。(談)

 

 

Alcons Audio Professional Impression #2

リボン・ドライバーが受け持つ高域はまったく詰まる感じが無いのが印象的

by 後藤誠(エスエスピー)

画像: 後藤誠氏(エスエスピー)

後藤誠氏(エスエスピー)

 実際に試聴した印象としては、驚くほどストレス・フリーなサウンドでした。オペレーターが卓前でイメージした音をそのまま表現してくれるスピーカーというか。当たり前のようで、こういうストレス・フリーなスピーカーには、なかなか出会えないものなんです。

 今回複数のモデルを試聴させていただきましたが、どれも色付け/クセのないフラットな音という印象です。歪みの無さとレスポンスの良さ、そしてキャパシティの広さは特に印象に残り、“リボンは弱い”というイメージも見事に覆されました。

 音圧感に関しては、当然ながらサイズなりの音圧感というものは決まっていますし、“小さいのにやたらデカい音がなる”というものではありませんが、今まで自分が使用し経験してきたスピーカーと比べると、サイズやウーファー口径の割にはよく鳴っていた印象です。6.5インチなのに8インチを鳴らしているようなワン・サイズ上のイメージで、非常に能率も良い印象でした。 リボン・ドライバーが受け持つ高域は、まったく詰まる感じが無く、原音のダイナミクスそのままに出てきて、それを再生するに余りあるパワーを感じます。メーカーいわく、“飛ぶことはない”らしいですが、確かに飛ばす前に耳がやられてしまうかもしれません(笑)。それでいて歪まないというのは凄いことだと思います。また、クロスオーバー周波数は非公表のようですが、中域からの繋がりが非常に良く感じました。

 リボン・ドライバーの次に印象に残ったのが、パワー・アンプの「ALC Sentinel」です。サブ・ウーファーの鳴りも「ALC Sentinel」の“SIS”テクノロジーのおかげか、まったくもたつきを感じさせない低域なんです。かつ濁りのない音色で、音圧感も申し分ないものでした。『Pro-ribbon』と「ALC Sentinel」を組み合わせたシステムは、往年の高級アナログ・コンソールを彷彿とさせる余裕感がありますね。アンプ・コントロールのソフトウェア「ALContorol」もよくできていて、自分のMacにもインストールしてみたのですが、直感的でとても使いやすかったです。シミュレーション・ソフトウェアもEASEベースのものが用意されていて、システム的に不足はない印象でした。

 実際に体感してみて、「Alcons Audio」のパンフレットにある“未だ体験したことのない、サウンドがここに”は、そのとおりだと思いましたし、“コンサートクラスの音圧レベルで実現するHiFiサウンド”も、とても頷けるキャッチ・コピーです。いずれ機会があれば、ぜひ現場で使ってみたいですね。(談)

 

  

画像: ドラム演奏のサウンドデモンストレーション(Dr.武田栄)

ドラム演奏のサウンドデモンストレーション(Dr.武田栄)

画像: 試聴会後に行われたフリータイム

試聴会後に行われたフリータイム

 

Alcons Audio製品に関する問い合わせ
イースペック株式会社
https://e-spec.co.jp/ Tel:06-6636-0372

 

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