ライブPAをはじめ、中継収録や設備音響など、様々な現場で活用されている「ローランド」のミキシング・コンソール、「M-5000/M-5000C」および「V-Mixer」シリーズ。間もなく、この両コンソールに対応した非常にユニークな製品が発売になる。「ラグナヒルズ」からリリースされる「Touch Fader MIDI for Roland」は、Apple iPadを使用して、「M-5000/M-5000C」と「V-Mixer」のフェーダー操作を簡単に行うことができるアプリ。例えばスポーツ中継では、競技場の周囲に設置されたマイクの音量を、選手や球の動きに合わせて操作しなければならないが、「Touch Fader MIDI for Roland」を使用すれば、複数のフェーダーを指先で直感的に操作することが可能。背景画像は好みのものを表示させることができ、“コントローラー”と呼ばれる操作子も必要な数だけ配置することが可能で、「ローランド」製コンソールを使用している会社ならば必携と言っていいくらいの画期的なアプリだ。そこで本誌では、その開発コンセプトと機能について、関係者の皆さんに話を伺ってみることにした。取材に応じてくださったのは、このアプリを考案した「TBSテレビ」技術局の小沢冬平氏、開発を手がけた「ラグナヒルズ」の日笠山泉氏と山越雅晴氏の3氏である。
画像: 開発者に聞く!ラグナヒルズ Touch Fader MIDI for Roland

M-5000/V-Mixerで直感的なミキシングを実現

PS 間もなく発売になる「Touch Fader MIDI for Roland」は、「ローランド」のミキシング・コンソールのフェーダー操作を、Apple iPadを使って直感的に行うことができる画期的なアプリです。まずは開発のスタート・ポイントからおしえていただけますでしょうか。

小沢 私はもともとラジオ畑の人間だったのですが、約7年前にテレビ音声技術に異動になったんです。それでサッカー中継を担当することになったのですが、ひたすら球を追いかけるミックスが思っていた以上に大変で。競技場を取り囲むようにマイクが9本設置してあるわけですけど、各フェーダーを球の動きに合わせて操作しなければならない。球の位置にどのフェーダーが対応するのか、一度脳内で変換しなければならなくて、慌ててフェーダーを操作したときには、もうそこには球が無かったり(笑)。ラジオで20年近くミックスを手がけてきて、自分の技術には自信があったわけですけど、「これはヤバいな。何とかしないといけないな」と思ったんです。それで思い浮かんだのが、競技場の形をしたコントローラーを作り、それをコンソールに繋いでミックスするというアイディアだったんですよ。これは画期的なアイディアだと思い、上司に話をしたところ、「昔、お前と同じことを考えた先輩がいるよ」と言って、倉庫からスイッチの塊のようなハードを持ち出してきて。それはサッカー競技場を模した操作盤に配置されたスイッチでマイクのオン/オフを切り替えるという、ほとんど私のアイディアと一緒のものでしたね。「ああ、やっぱり同じことを考えた人がいたんだ」と思いましたよ(笑)。でも、オリジナルのハードを作るのはお金がかかりますし大変じゃないですか。そんなときにふと、「ローランド」のミキシング・コンソールにiPadを接続して、MIDIでコントロールすればいいんじゃないかと思ったんです。ラジオで使っていた「V-Mixer」はMIDIが付いていますし、iOSもMIDIに対応している。あとはアプリを開発すれば、既製品だけで実現できるんじゃないかと。それが2011年のことですね。

PS アプリの開発はどのように行ったのですか。

小沢 弊社には先進的なアイディアに投資してもらえるトライアル的な開発予算枠というのがあり、企画書を提出したら見事通りまして、開発費用はどうにか確保できた。でもiPad用アプリの開発ができるプログラマーの伝手がなく、どうしようと思ったときに、弊社CG部で数々の新規システム開発をされていた青木貴則さんが、「自分が開発してみましょうか?」と言ってくれたんです。青木さんは、iOSアプリを開発するのは初めてだったみたいなんですが、見事私のアイディアを具現化してくれました。その最初のプロト・タイプは、2012年の『Inter BEE』で公開しましたから、きっとご覧になった方も多いのではないかと思います。

PS 最初のプロト・タイプはどのようなものだったのですか?

小沢 今回発売になる「Touch Fader MIDI for Roland」の基本的な部分は、最初の段階で既に出来上がっていましたね。iPadの画面にサッカー場のグラフィックが表示されて、その上にフェーダー代わりの円を自由に配置できる。円の中心が山でいう頂上で、円の周囲が麓。指を円の中心に向かって動かすと、対応するマイクのフェーダーも上がっていくという。「V-Mixer」のフェーダーを、iPadからMIDIコントロール・チェンジで操作するというものでした。実際に現場でも使ってみましたが、想像していたとおりとても便利でしたね。

PS それが約6年の月日を経て、今回発売に至ったのは?

小沢 プログラマーの青木さんが別の部署に異動になり、予算も尽きてしまったので、開発自体は頓挫していたんです。でも昨年「ローランド」さんから、「地方局を中心に“あの『Inter BEE』に展示していたアプリはどうなったんですか?”という問い合わせが増えている。何とか発売できないだろうか」という有難い話をいただきまして。それで今回、「ラグナヒルズ」さんにご協力いただき、ゼロから開発し直したものを「Touch Fader MIDI for Roland」として発売できる運びになったんです。

日笠山 「ローランド」さんとは以前からお付き合いがあり、最近もある公共施設の「V-Mixer」をコントロールする特別なシステムの開発を手がけました。そんなこともあって、今回「ローランド」さんから相談があったんです。

PS 約6年前のプロト・タイプを元に、「ラグナヒルズ」がゼロから開発したのですか?

山越 そうです。小沢さんからはすべてのファイルをご提供いただいたんですけど、当時のアプリはObjective-Cという古い言語で書かれたものだったので、それをSwiftという最新の言語で書き直しました。プロト・タイプの機能をフル・スクラッチで再現するという感じでしたね。

小沢 私の方からは、当時できなかったアイディアを伝えました。例えば、設定を保存できるようにしてほしいとか、サッカー中継以外のミックスでも使えるように背景画像を変えられるようにしてほしいとか。フェーダーを表すコントローラーも、円形だけでなく四角形とか他の形も選べるようにしてほしいといったことを伝えましたね。

PS 完成したリリース・バージョンの「Touch Fader MIDI for Roland」についておしえてください。

小沢 「ローランド」の「O・H・R・C・A」や「V-Mixer」のフェーダー操作をiPadで行えるアプリで、画面をサッカー場などに見立て、現場に設置してあるマイクの音量をコントローラーを使って直感的に操作することができます。コントローラーはいくつでも作成することができ、円形や四角形、六角形など様々な形から選択することが可能です。また各コントローラーは、スライダーやスイッチなどに切り替えることもできるようになりました。これによってフェーダー操作だけでなく、任意の機能のオン/オフといった操作も行うことができます。背景画像は変更できるので、例えばひな壇に並ぶ芸人さんたちの写真を背景画像にして、各人のマイクの音量をコントロールするなんていう使い方も可能です。もちろん、各設定は保存することもできます。

画像: 画面には好みの画像を表示させることができ、例えばサッカー中継の場合は、写真のように競技場の画像を表示させて使用する。そして現場に設置したマイクの収音エリアに“コントローラー”(操作子)を作成すれば、コンソールのフェーダー操作を指先で行うことが可能になる

画面には好みの画像を表示させることができ、例えばサッカー中継の場合は、写真のように競技場の画像を表示させて使用する。そして現場に設置したマイクの収音エリアに“コントローラー”(操作子)を作成すれば、コンソールのフェーダー操作を指先で行うことが可能になる

PS 対応するiPadやMIDIインターフェースの条件はあるのですか?

山越 iPadは5世代以降、iPad miniは4以降で、9以降のiOSを搭載している必要があります。また、ユニバーサル・アプリになっているので、7以降のiPhoneでも使用することができます。MIDIインターフェースに関しては、Core MIDIに対応しているものであれば基本的にどれでも大丈夫だと思いますが、「ローランド」の「UM-ONE mk2」と「IK Multimedia」の「iRig MIDI 2」を推奨しています。

PS 開発にあたって苦労した点というと?

山越 内部の構造的には苦労はありませんでしたが、ユーザー・インターフェースに関しては時間がかかりましたね。各コントローラーをどのように実装するかというところは少し悩みました。

PS ようやく発売になる「Touch Fader MIDI for Roland」ですが、その仕上がりには満足されていますか?

小沢 「ラグナヒルズ」さんのおかげで、かなり完成度の高いアプリになったのではないかと思っています。スタート・ポイントはサッカー中継だったわけですけど、設定次第で何にでも使えるので、「O・H・R・C・A」や「V-Mixer」を使用している会社は、ぜひ活用していただきたいですね。舞台演劇なんかにもいいと思いますし、個人的におもしろそうだなと思っているのがDJミックス。これがあれば複数のトラックの音量を指先でコントロールできますから。今度やってみようと思っているんです。 

画像: 左から、開発を手がけた「ラグナヒルズ」の日笠山泉氏、このアプリを企画した「TBSテレビ」技術局の小沢冬平氏、「ラグナヒルズ」のプログラマーである山越雅晴氏

左から、開発を手がけた「ラグナヒルズ」の日笠山泉氏、このアプリを企画した「TBSテレビ」技術局の小沢冬平氏、「ラグナヒルズ」のプログラマーである山越雅晴氏

PROSOUND特別企画
取材協力:株式会社TBSテレビ、株式会社ラグナヒルズ、ローランド株式会社

 

Touch Fader MIDI for Rolandに関する問い合わせ
株式会社ラグナヒルズ Tel:03-3238-6391 http://www.laguna-hills.co.jp/

 

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