良質な映像と音響が手軽に楽しめる動画ストリーミングサービスの普及もあって、「テレビ内蔵スピーカーでは物足りない」という声が世界的に高まっている。その証拠にテレビの前に設置して、内蔵スピーカーと同等に使えるサウンドバー人気は鰻登りで、市場規模も年々、着実に拡大している。
当然ながら、サウンドバーでは不十分というこだわり派も多く、画面の両脇にステレオスピーカーシステムを設置したり、本格的なサラウンドシステムを導入したり、大画面に見合った良質なサウンドを求めるユーザーも珍しくない。
そうした中で、サウンドバーのように手軽に使えるスピーカーシステムとしてにわかに注目されているのが、ARC対応HDMI端子を装備したアクティブスピーカーだ。小型のアンプ内蔵スピーカーを画面の左右に配置して使うイメージの、2ch仕様のスピーカーであり、声の自然な定位、画面との一体感、音場空間の拡がりと、総合的な表現力はサウンドバーに比較すると、がぜん有利だ。
しかも基本的な操作性はサウンドバーと変わらず、HDMIケーブルを1本接続するだけで、電源制御や音量はテレビのリモコンで、内蔵スピーカー感覚で操作できる(製品によっては一部機能が働かないこともあるが)。テレビの音質改善策としては、まさに本命とも言えるスピーカーシステムと言っていいだろう。
地道な作業の継続がもたらすスムーズなHDMI連動動作は
ところが意外にも、このタイプの製品は限られる。なぜなのか。その理由を色々と調べて分かったのは、HDMI CEC(Consumer Electronics Control)を用いた機器連携機能の実装の難しさ、サポートの継続がネックになるということだ。HDMI CECとは、HDMIケーブルで接続された機器間で、制御信号をやり取りし、相互に連動動作を可能にする業界標準の規格だが、実際はその制御信号の確認や、受け渡しのタイミングなど、メーカーやあるいは機器の世代などのクセが伴ない、目論見通りに動作しないことも少なくない。となると、スピーカーを提供するメーカーとしては、単にHDMI CECを規格通りに製品化するだけでなく、様々なテレビとの動作確認が不可欠。さらにその後、新たに製品化されたテレビについても確認し続ける必要がある。
スピーカー事業を生業とするメーカーにとっては、これが大きな負担となり、世界的に見てもこうしたサポート体制が確保できるメーカーは限られるというわけだ。
その数少ないメーカーのひとつが、魅力的なARC対応HDMI端子搭載のアクティブスピーカーを製品化しているドイツのエラックだ。DCB 41は、約2年前の発売以来、人気モデルとなっているが、ソフトウェアのバージョンアップを重ね、テレビとの安定したHDMI CEC連携を実現している。この地道な作業が極めて重要な意味を持つというわけだ。
人気のDCB 41を大型して強化。アプリ機能の実装にも注目だ
さてここで取り上げるDCB 61は、DCB 41の上級機として登場した2ウェイブックシェルフ型のアクティブスピーカーだ。外観はご覧の通り、DCB 41のデザインテイストを踏襲しつつ、大型化したモデルで、ウーファーユニットは115mm径から165mm径に拡大され、内蔵アンプも50W×2chから80W×2chへとパワーアップしている。

Active Speaker System
ELAC Connex DCB 61
¥165,000 (ペア) 税込
●型式:アンプ内蔵2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:19mmドーム型トゥイーター、165mmコーン型ウーファー
●アンプ出力:80W×2
●接続端子:デジタル音声入力3系統(HDMI[eARC対応]、USBType B、光)、アナログ音声入力1系統(ライン/MMフォノ切替え)、サブウーファー出力1系統(RCA)
●備考:Bluetooth対応(LC3 Plus)
●寸法/質量:W205×H330×D243mm/5.8kg(アンプ内蔵)、5.1kg(パッシブ)
●問合せ先:(株)ユキム TEL. 03(5743)6202
アンプ内蔵側の本体の構造図。本体後方にアンプ回路を含む、各種基板を搭載。内部剛性を高めることに寄与するブレーシング(間仕切り)なども巧みに組み込まれており、入念に作り込まれていることがわかる
本機は接続端子やアンプを内蔵したスピーカーと、パッシブスピーカーを組み合わせてステレオ再生を実現するモデル。写真はアンプ内蔵側の背面に備わるHDMIなどの接続端子部となる。アンプ内蔵側とパッシブスピーカー側は、付属のケーブルで繋げる仕組みだ。アンプ内蔵側は右位置にするのがデフォルトだが、その入れ替えも可能だ
さらにテレビとの連携を想定したARC対応のHDMI端子は、ドルビーデジタルプラスの伝送が可能なeARCの仕様となり、Bluetooth接続も96kHz/24ビット再生が可能なLC3 plus対応へと進化している。また専用アプリによる5バンド・イコライザー調整機能を新設しているが、これはiOS/Androidに対応し、入力切替えや音量調整などの基本機能についても操作可能だ。
その他、ハイレゾ音源再生(96kHz/24ビット)が可能なUSB Type B端子、アナログ・アンバランス端子(ライン/MMフォノ切替え)、光デジタルなどの入力に対応。また低音を補強する独自のX Bassエンハンサーに加え、サブウーファー出力を備え、低音強化の可能性を持たせている。

先行してリリースされた弟機DCB 41との最大の違いは、ユニットやキャビネットサイズが拡大したことだが、操作用アプリ「Debut Connex」が使えることも大きい

本アプリでは入力切替えや音量調整などの操作のほか、セットアップ、イコライザー調整などが可能だ。上はセットアップの画面

セットアップ内の「Placement」では設置位置が「On Wall」「On Shelf」「On Desk」「TV」の4つから選択できる

イコライザーはマニュアルで5バンド調整できるほか、「Flat」を含む7つのプリセットモードから選択が可能だ
期待以上のパフォーマンス。テレビで最も重要な声がいい
早速、その実力を確認していこう。今回はDCB 61単独によるステレオ再生に加えて(下記図参照)、同社のエントリーラインとなるDebutシリーズのサブウーファーDebut S10.2との組合せについても検証している。

まず65インチの有機ELディスプレイ、パナソニックTV-65Z95Aとの組合せで、HDMI ARC接続時の操作性を確認してみたが、なかなか快適だ。テレビのリモコンで電源を入れると、連動してDCB 61がオンとなり、スピーカーからオンエアの音声が出力される。音量も内蔵スピーカー感覚で調整が可能。テレビの電源をオフにすると、DCB 61の電源も連動してオフとなる。
気になるサウンドだが、これが期待通り、いやそれ以上に頑張る。まずニュースの視聴では画面中央から音が出ているように感じさせる明確な定位感が気持ちいい。テレビ用音響システムとして最も重要な声の明瞭度が高く、男性の声には重みがあり、胸板の厚みを感じさせる。
過度な演出をしない正攻法の音づくりということもあるが、その声からキャスターそれぞれの個性、キャラクターまで連想させるほど……。微妙なニュアンス、息づかいまで感じさせるような情報量は、まさに本格派のハイファイスピーカーの証と言っていいだろう。
映画作品の再生でも、実在感に富んだセリフを中心に、効果音、音楽の拡がり、臨場感を盛り上げていく。低音の量感を強くアピールするタイプではなく、ヘリコプターの回転音や銃声、あるいは爆発音なども低音はほどよく締まり、腰砕けにならない。
「全身を揺さぶるような低音が欲しい!」という場合は、X Bassエンハンサーが有効だが、DCB 61の実力からすると、やや演出過多の傾向になりやすい。ここは専用アプリで快適に操作できる5バンド・イコライザーを駆使して、低域を微調整する方がいいだろう。
本質的に低音再生を充実させるのであれば、サブウーファー出力を活用するのがベスト。今回は前述の通り、Debut S10.2を追加し、設置場所や距離など慎重に吟味し、セッティングを追い込んだが、この状態での効果は明確だ。
車の暴走シーン、爆破シーンは単に低音の厚みが増すだけでなく、分解能にも余裕が生まれ、単調になることなく、微妙な抑揚、空気感の変化まで感じ取れる。サブウーファーの追加は、予算に余裕があればぜひ試していただきたい価値ある「プラスワン」だと断言できる。
音楽再生用スピーカーとしても表現力豊かで高い実力を発揮する
最後にデラのミュージックサーバーN1A/3とUSB接続して、Qobuzを再生。聴き慣れた楽曲を数曲再生してみたが、抑えの効いた厚みのあるサウンドが特徴的だ。脚色せずにストレートに聴かせるタイプだが、冷徹な感じではなく、穏やかに、質感の高い音を奏でる。目の前のステージもストレスなく拡がり、ピアノの響きの消え際も滑らかで、大きな空間にスッと溶け込む感じが好ましい。
ジェニファー・ウォーンズ「First We Take Manhattan」の再生では、艶やかで、ニュアンスの豊かな彼女の声に惹きつける。ニュートラルな声の感触といい、おおらかな空間の拡がりといい、随所でスピーカーとしての表現力の豊かさを感じることができた。
ハイファイスピーカーとしてのクォリティと、優れた機能性を高次元で両立させた貴重なモデル。放送、ネット動画、そして高品質の音楽配信と、この1台でリビングルームのサウンドは、がぜん楽しくなる。
視聴したソフト
●Qobuz : 「First We Take Manhattan/ジェニファー・ウォーンズ」(44.1kHz/16ビット)、「モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 第1楽章/チョ・ソンジン(pf)ほか」(96kHz/24ビット)
●UHDブルーレイ : 『ジョーカー』、『DUNE/デューン 砂の惑星』、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』他
使用した機器
● 有機ELディスプレイ : パナソニックTV-65Z95A
● 4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1
● ミュージックサーバー : デラN1A/3
● スイッチングハブ : バッファローBS-GS2016/A
Key Person Interview

ELAC Electronics GmbH Export Manager
Holger Wittさん
サイズ拡大を果たしたDCB 61。
使いやすいアプリにも注目ください
日本でも好調な売上を記録しているDCB 41と同じDebut ConneXシリーズの上位版となる新製品DCB 61をリリースします。DCB 61は、DCB 41と比べて、ウーファーユニットが115mm口径から165mm口径にアップ、アンプ出力も50W×2から80W×2に増強しています。
加えて、専用の操作アプリが使えるようになったことも新機軸です。このアプリ「Debut ConneX」は、入力切替えや音量調整などの基本操作に加えて、イコライザー機能なども備えており、わかりやすく使いやすい画面設計も特徴です。数年前に、アプリ開発会社を買収して、快適なアプリの操作性には非常に注力しています。アプリは、ユーザーとの製品の接点になりますから、とてもこだわっています。
また、DCB 41は、HDMIの接続性も高く評価されていますが、これも日本をはじめとする世界各国からのリポートを元に、積極的にファームウェアを更新した結果です。日本など東アジア諸国では、DCB 41とテレビをHDMI接続で使われている方が多く、スムーズな連携動作や安定性を非常に大切にしています。
Debut ConneXシリーズは、Debutシリーズと同じく、エラックアメリカが基本的に開発、設計していますが、エラックの本拠であるドイツチームとも深く連携をして製品づくりを行なっています。JETユニットを使ったエラックドイツの製品と、Debutシリーズの音質イメージが異なるとイメージしている人はいまだに多いようですね。確かに、我が社はドイツとアメリカで製品開発を行なっていますが、エラックはエラック。ワンカンパニーですので、音質チューニングも含めて、両拠点でしっかり連携して製品づくりをしています。
2026年にはエラックは創業100周年を迎えます。非常にユニークな新製品も含めて、アニバーサリーイヤーにふさわしい、アクティブな活動を企画しています。ご期待ください。
(2025年4月、本誌編集室にて取材。聞き手/HiVi・辻)
>本記事の掲載は『HiVi 2025年夏号』