ネットワーク用スイッチングハブは、ルーターと複数の機器を接続するときには必要なもので、無線LANルーターに内蔵されるものを含めば、今やたいていの家庭に一台はあるものと言っていい。これがQobuzをはじめとするネットワークオーディオ再生でもかなり重要なパーツとなっている。
「0」と「1」からなるデジタルデータ伝送においてハブの違いで音が変わるというと疑問を感じる人も多いだろう。だが、デジタルデータ伝送とは実際は「0」とか「1」という記号を送るのではなく、その正体は電圧の高低で「0」と「1」を表現する、ミクロ的に見ればアナログ的ともいえる電気信号での伝送となる。そこにはノイズも乗るし、時間軸上の揺らぎも生じる。特に複数の機器に間断なくデータを切り替え、分配していくスイッチングハブでは、接続された機器からのノイズ重畳、機器切り替え動作によるノイズ、さらに時間軸の揺らぎが生じる可能性があり、音質にも大きな影響を与えるわけだ。

Switching Hub
SOtM sNH-10GPSMC
¥1,320,000 (銀線仕様)税込
● 型式:マスタークロック付属スイッチングハブ
● 接続端子:本体・LAN端子10系統(RJ45×8、SFP×2)、10MHzクロック入力1系統(BNC)、クロック・10MHzクロック出力4系統(BNC)
● 対応速度:10Mbps、100Mbps、1,000Mbps(自動切替え)
● 寸法/質量:本体・W296×H50×D211mm/2kg、電源部・W106×H48×D230mm/2kg、クロック・W106×H48×D245mm/1.5kg
● 備考:ハブ本体、電源、クロック、クロック接続用ケーブル、給電用ケーブルのセット品。なお、取材・撮影は銀線仕様で実施した。銅線仕様(¥1,210,000 税込)もあり
●問合せ先:(株)ブライトーン TEL. 050(6877)6043
情報量が向上するだけでなく音のエネルギー感が増す
前置きが長くなったが、オーディオ用スイッチングハブはすでにいくつも商品化されており、SOtMのsNH-10GPSMCもそのひとつ。もともとは単体のスイッチングハブ「sNH-10G」として発売されていたが、専用のオーディオ仕様の電源を組み合わせた「sNH-10GPS」が加わった。そして、今回はマスタークロックとして同社のsCLK-OCX10スペシャルエディションを組み合わせた完全仕様とも言える「sNH-10PSMC」として商品化された。電源供給のためのケーブルやマスタークロック接続用ケーブルもセットになり、これまでの製品と同様に銀線仕様と銅線仕様が用意されている。
こうした製品は難しい理屈よりも音に効くかどうかが全てである。とにかく音を聴いてみよう。音源はQobuzで、まずはHiVi視聴室常設のWi-Fiルーターとスイッチングハブ(バッファローBS-GS2016/A)を使用。再生機器はデラのミュージックサーバーN1A/3をネットワークトランスポートとして使い、そのUSBオーディオ出力をデノンDCD-SX1 LIMITEDに接続、そこからバランス接続でデノンPMA-SX1 LIMITEDに送り、Bowers & Wilkinsの802 D4スピーカーで鳴らす。

カラヤン指揮ウィーン・フィルによるホルストの『惑星』より「木星」(2022年リマスター版)を聴くと、なめらかな音色と、カラヤンの指揮のもと一糸乱れぬ演奏が楽しめる。ハイレゾ音源のローカル音源再生と比べても、決して悪くはないが、ここからどう変化するのだろうか。
ということで、スイッチングハブをsNH-10GPSMCに換えて聴いてみた。S/N感や細かな音がさらに増えるなど情報量も上がるが、なにより音のエネルギー感が増す。出音の勢いとパワー感は、アンプの音量位置を上げたかと感じるほどだ。じっくり聴いていくと音の密度が高まり、演奏の精密さが増し、まさにカラヤンがウィーン・フィルを手足のごとく操っている様子が見えるようにわかる。この音の揃い方は、譜面を正確に再現して初めて感じられるようなイメージで、楽曲自身が備えた音楽性の豊かさが得られる。
小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラによるベルリオーズの『幻想交響曲』第5楽章を聴くと、天井が高く、広いコンサートホールの空間が見事に再現されるとともに、音の勢いとキレが際立ってくる。楽章後半で鳴る鐘の音がホールに響き渡る様子や、余韻の細かさと美しさに惚れ惚れとさせられた。大太鼓の打音の力感と、皮が震える様子がわかるような音の再現も見事だ。

従来からリリースされていたソムブランドのスイッチングハブやマスタークロック、給電用パワーサプライ、接続用ケーブルをワンパッケージにしたのが本製品。ハブ自体はRJ45端子8系統、SFP端子2系統を装備する
たっぷり詰め込まれた音を混濁感なく明瞭かつスリリングに鳴らす
パソコンやネットワークに強い人ほど、オーディオ機器とは思わないかもしれないが、ネットワークオーディオにおいてスイッチングハブの効果は絶大であることをsNH-10GPSMCの取材で再認識させられた。明らかに音圧が上がっていると感じさせるだけでなく、ノイズフロアーも下がり、ダイナミックレンジが大きく拡大するのである。こうした表現力の向上は、ネットワーク音楽再生の先入観を大きく覆すものになるだろう。本機はオーディオ用スイッチングハブとしても高価な部類に入るが、価格にふさわしい音が得られた。
最後に、「BOW AND ARROW/米津玄師」では、たっぷり詰め込まれた音を、混濁感なく明瞭に、しかもハイスピードかつスリリングに鳴らしたことも追記しておこう。
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>本記事の掲載は『HiVi 2025年夏号』