今回の「リン・サラウンド体験記」の主人公は、埼玉県の閑静な住宅地に位置する、二世代住宅の二階部分にお住まいのNさん。約束の時間に少し遅れた取材陣をにこやかにお迎えしてくださり、こちらの緊張をほぐしてくれた。玄関の小上がりを抜け、ドアを開けると広々とした空間が飛び込んでくる。ダイニングキッチンとリビング、ベッドルームが機能的に分離しつつ、ひとつの空間にスムーズに融合しているワンルーム構成のお住まいだ。春の温かな陽光がたっぷりと差し込んだ、開放的なスペースに目を瞠る。さっそくお話しをうかがった。

 部屋の奥には、マットブラックに彩られたピエガの大型スピーカーCoax 611が75インチテレビの両サイドに静かに佇んでいる。その先には大型ベッドが配置され、その上の天井造り付け家具にはソニーのプロジェクターが鎮座する。

 Nさんは、一見してかなりのこだわりのシステムをお使いになっているご様子だ。挨拶もそこそこに、この大掛かりなシステムに至るまでの変遷をうかがった。

画像1: 開放的なスペースに朗々と響く躍動するサウンドに日々心打たれる【リン・サラウンド体験記】

 「ここまでのシステムになったのは、結構最近なんです。中学や高校時分は、一応ステレオシステムを使っていましたが、大学に入って下宿したタイミングで、環境の問題もあっていったん処分してしまったんです。就職してからは、仕事が忙しくなったこともあって、あまり音楽を聞く時間もありませんでした。屋根裏の小さな部屋でプロジェクターや5.1chサラウンドセットを使って映画を観てはいましたが、ただ、映画を観るたびにガラガラ引っ張り出して機器をセットするスタイルで、やっぱりそれは面倒だなぁと思っていました。もちろん本格的なオーディオシステムは使ってはいませんでした。

 2015年に、この家をリフォームしようとなったとき、どうせなら、ここで音楽をしっかり聴きたい、映画もきちんと観たい、とホームシアターを作ろうと考えたんです。そこで設計士さんに紹介してもらったホームシアターショップに相談して、プロジェクターやスクリーンをインストールすることになりました」(Nさん)

 2015年から始まったリフォームの結果、2016年には、120インチスクリーンとソニーの4Kプロジェクター、直視型テレビを使った2ウェイ映像鑑賞スタイルが実現した。

画像: Nさんのシアターでは、スクリーンと直視型テレビを併用した2ウェイスタイルを実践。午後の温かな日差しがシアター空間を満たす。壁紙やカーテンなどのインテリアコーディネートの実に巧みな設計が印象的だ

Nさんのシアターでは、スクリーンと直視型テレビを併用した2ウェイスタイルを実践。午後の温かな日差しがシアター空間を満たす。壁紙やカーテンなどのインテリアコーディネートの実に巧みな設計が印象的だ

主な使用機器

● 4K液晶テレビ : パナソニッTH-75LX950 
● 4Kプロジェクター : ソニーVPL-VW315
● スクリーン : キクチ ホワイトマットアドバンスキュア(120インチ/16:9) 
● ネットワーク端末 : アップルApple TV 4K
● 4Kレコーダー : パナソニックDMR-4T301
● スピーカーシステム : ピエガCoax 611(L/R)、リンMAJIK 112(C)、KEF Ci130QR(LS/RS/LSB/RSB)、エラックSUB2050(LFE)
● ネットワークプレーヤー+ヘッドユニット : リンSELEKT DSM-EMO(モノーラルORGANIK DAC/サラウンドプロセッシングモジュール内蔵仕様)
● パワーアンプ : ニュープライムAMG STA 
● デジタルプロセッサー/パワーアンプ : リンEXAKTBOX-I
● アナログレコードプレーヤー : リンMAJIK LP12 SE 
● スイッチングハブ : エディスクリエーションSILENT SWITCH OCXO JPSM
● 光絶縁ツール : エディスクリエーションFIBER BOX 2 JPSM 
● FMチューナー : トリオKT-8300

 

 

リンMAJIK 140スピーカーとの出逢い。7.1chサラウンドシステムを導入

 現在はピエガの大型スピーカーCoax 611をメインスピーカーとして使っているが、そこにたどり着くまでにいくつかの変遷を経ている。

 「リフォームの前後、リン製品を愛用している会社の先輩から、ただのサラウンドシステムだともったいないとアドバイスを受けました。彼から、リンというブランド、そして懇意にしているサウンドクリエイトさんを紹介してもらったんです。そこでリンのMAJIK 140というトールボーイスピーカーを聴いて、音がグッと良くなったこともあって、導入しました」(Nさん)

 MAJIK 140で初めてリンのサウンドクォリティの高さに惹かれたNさん。熟慮の末、ネットワークプレーヤー内蔵ヘッドユニットAKURATE SYSTEM HUBをシステムの核として導入。そこにサラウンドプロセッサーモジュールを組み込み、さらに8chパワーアンプ内蔵デジタルクロスオーバー兼プロセッサーAKURATE EXAKTBOX-Iを組み合わせた。リンMAJIK 140をフロントL/Rに、センターをMAJIK 112、さらにサラウンドとサラウンドバックスピーカーとしてKEFの天井埋込型スピーカーCi130QRと、エラックのサブウーファーSUB2050を用いた7.1chシステムを構築したのである。

ピエガの大型スピーカーCoax 611。同軸リボン型ユニットと、16cm口径ウーファー2基を搭載。さらに16cm口径パッシブラジエーター3基の、合計6ユニットを幅21cmのアルミニウム製エンクロージャーに組み込んだ本格モデルだ

 

画像3: 開放的なスペースに朗々と響く躍動するサウンドに日々心打たれる【リン・サラウンド体験記】

Coax 611は、ニュープライムAMG STAステレオパワーアンプで駆動されている。非常に小型なモデルだが130W×2のハイパワーを発揮する

 

 

思い切ったグレードアップの理由はただただ、音の良さにつきます

 MAJIK 140を使ったシステム構築と相前後して、Nさんは、学生の頃に愛用していたビクターのアナログレコードプレーヤーを保管場所から取り出して、リンのシステムに繋ぎ、久しぶりにブラックディスクを再生してみたという。

 「高校の頃に使っていたアナログレコードプレーヤーでも、こんなに良い音が聴けるのかと非常に驚きました。それならば最新のプレーヤーならもっと良い音で聴けるだろうとサウンドクリエイトの花木さんに相談したんです」(Nさん)

 そんないきさつで、東京・銀座にあるサウンドクリエイトの店舗にて、リンのアナログレコードプレーヤーSondek LP12のデモをNさんは受けたわけだが、そこで運命的な邂逅があった。

 「MAJIK LP12 SEの試聴にうかがったわけですが、そこで、このピエガ(Coax 611)に出逢ったんです。LP12で鳴らすアナログレコードの音の良さはどうかと試聴したんですが、このピエガというスピーカーの音がとても良くて気になってしまったんです。

 かなり悩みましたが、自分が使っているAKURATE SYSTEM HUBとEXAKTBOX-Iでもピエガを鳴らしてもらうと、やはりこれだと思い、導入を決めました」(Nさん)

 このような経緯でピエガCoax 611スピーカーとリンのMAJIK LP12 SEを導入したが、そこからもさらにシステムのグレードアップが図られた。

 Nさんは、2025年に、それまでのAKURATE SYSTEM HUBから、現在のSELEKT DSM-EMOにリプレイスしたのである。本機は、SELEKT DSM EDITION HUBにモノーラル構成のORGANIK(オーガニック)DACの2基のモジュールと、ライン出力モジュールの、合計3つのモジュールを追加した状態で、SELEKT DSMとしては最も高度な仕様である。以前のAKURATE SYSTEM HUBからは、思い切ったグレードアップに思えるが、導入の決め手はどこにあったのだろうか。

 「ただただ、音の良さにつきます。花木さんから提案されてサウンドクリエイトさんに聴きに行ったんですが、もう全然違うんですね。お店で鳴らして違いは理解していましたが、ここで鳴らしても落ち着いて聴いても、別物というくらい違います。思い切って導入して大成功でした」(Nさん)

画像4: 開放的なスペースに朗々と響く躍動するサウンドに日々心打たれる【リン・サラウンド体験記】

Nさんシステムの司令塔がリンSELEKT DSM-EMO。リンのSELEKT DSMシリーズは、2020年に登場したが、2022年に上級ラインとなるEDITIONラインを追加、2グレード構成となった。SELEKT DSM-EMOは、その中で最もハイグレードな状態のセット構成だ。ちなみにEDITIONシリーズは、従来のKLIMAXシリーズの事実上の後継として登場している。筐体は、サウンドクリエイト製オリジナルボードを介してセットされている

 

 

Qobuzストリーミングとアナログレコード再生を実践

 整理してみると、Nさんは、現在主に次のようなコンテンツを楽しまれている。オーディオ系は、①SELEKT DSM-EMOを使ったQobuzハイレゾ音楽ストリーミング再生、②MAJIK LP12 SEによるアナログレコード再生。オーディオビジュアル系は、③Apple TV 4Kによるネット動画サービス、④パナソニックの4KレコーダーDMR-4T301を使ったテレビ放送やBD再生である。

 ①の音楽配信は以前は、TIDAL(タイダル/日本未サービス)を使っていたが、現在は、Qobuzで楽しまれている。

 「TIDALとQobuzは一時期併用していましたが、このシステムで聴く限り、音の差もほとんど感じなかったので、Qobuz一本にしぼりました。Qobuzは特にネットワーク周りの環境をエディスクリエーションのハブと光絶縁ツールを組み込んだら、本当にグッと音が良くなりました。いろいろな音楽を聴きますが、定番のビル・エヴァンスとかアート・ペッパーでもおかけしましょうか」(Nさん)

 iPadをささっと操作し、Qobuzでピエガを鳴らす。情報量が豊富で、空間描写の広さもすぐに把握できるが、ちょっと驚いたのが楽器の音色にデリカシーがありつつ、実在感があったこと。リンのORGANIK DACとピエガの最新世代の大型スピーカーによる組合せの威力をまざまざと感じた次第だ。

画像5: 開放的なスペースに朗々と響く躍動するサウンドに日々心打たれる【リン・サラウンド体験記】

アナログレコードプレーヤーは、永遠の銘機リンSondek LP12をお使いだ。本機は、様々なパーツが用意されているが、NさんはMCカートリッジKoil、強化電源Lingo、サスペンション付き底板Trampolin、ダストカバー付きのMAJIK LP12 SEという仕様を愛用中

 

画像6: 開放的なスペースに朗々と響く躍動するサウンドに日々心打たれる【リン・サラウンド体験記】

シアタールーム後方はベッドルームになっている。その上部にはプロジェクターを組み込んだ造り付け家具があり、機器とインテリアが違和感なく融合されている。サラウンド用スピーカーは、KEFの13cm口径Uni-Qドライバーを搭載する埋込タイプ2組4本を天井にさりげなく配置している

 

 

ふたつの画面を使い分ける日々。使い勝手の良さもリンの魅力

 オーディオビジュアル再生は、二種類の画面を使い分ける2ウェイ再生スタイルを実践している。75インチ直視型テレビ(パナソニックTH-75LX950)と120インチ大画面(ソニーVPL-VW315プロジェクターとキクチのホワイトアンドバンスキュア・スクリーン)のコンビネーションだ。

 「テレビ放送は、パナソニックのテレビ単体で観ることがほとんどです。映画は妻と二人で楽しむことが多く、そのときは120インチスクリーンを使います。私はサスペンス系の映画が好みなんですが、サラウンド効果の高いハリウッド大作の映画もよく見ています」(Nさん)

 Nさんのシステムはまさに暮らしの中に組み込まれているが、その肝となる使い勝手はどうだろうか。

 「リンは、本当に使い勝手がいいと思います。iPadやiPhoneに入れた操作アプリ(LINN App)はとても便利で、リモコンもあまり使わないほどです。

 DSシリーズに搭載されているSpace Optimisationという再生環境の影響を抑える仕組みも、ユーザーがアクティブに再生向上に参加できる感じがあって面白いと思います。

 使い勝手とは別の観点になりますが、AKURATEからSELEKTに換えたとき、サラウンドモジュールを移植できました。これもリンらしい、ユーザー目線のアップグレードの仕組みだと感じました」(Nさん)

 

画像: ふたつの画面を使い分ける日々。使い勝手の良さもリンの魅力

 

 Nさんのシステムはこれからどう進化していくのだろうか。最後に目標をお聞きした。

 「いまQobuzによるデジタルストリーミングがかなり良くて、アナログレコードよりも、そちらを聴く機会が増えています。でも、LP12はいろいろグレードアップできる余地があるので、そこも気にはなっています。こうした長く使える仕組みが盛り込まれたコンポーネントは、リンの魅力の一つだと思いますね。あと、最新の4Kパネル搭載のレーザー光源プロジェクターも気になっています」(Nさん)

 Nさんのホームシアターのグレードアップの果てなき道程はまだ続きそうだ。

(取材/構成:本誌・辻 潔)

 

取材にご協力いただいたインストーラー
●サウンドクリエイト  0120-62-8166

 

>本記事の掲載は『HiVi 2025年夏号』

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