デンマーク製スピーカーの今日の隆盛を牽引してきたダリ。現在その中核を担うラインナップがRUBIKORE(ルビコア)シリーズだ。トップエンドKOREの開発過程で得られたテクノロジーやノウハウが傾注された、これらのモデルは、デンマーク工場でハンドメイドされている。

 最大の特徴は、リボン型とドーム型のふたつのトゥイーターが組み合わせられたハイブリッド型トゥイーターモジュールの採用だ。前者は指向特性を、後者は音圧エネルギーの直進性に寄与する働きをそれぞれ有している。同モジュールは、サラウンドバック用として今回用いた2ウェイ・ブックシェルフ型のRUBIKORE 2を除く、全ての機種に搭載されており、とりわけセンター専用機のRUBIKORE CINEMAのダイアローグ再現に期待が持てる。

 

画像1: DALI RUBIKORE Series with『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』次第にシステムの存在を忘れ、アーサーの哀しくも過酷な物語にわたしは完全に没入したのだった【PICK UP REPORT】

2022年に登場した最高峰機「KORE」の技術資産を、各シリーズモデルに展開中のダリ。高性能と使いやすいサイズを両立して高い人気を博した「RUBICON」シリーズの後継製品群として、「KORE」の技術を適用させて2024年に登場したのが、この「RUBIKORE」シリーズだ。今回はシリーズ最上位で165mmコーンウーファー×3基搭載の「RUBIKORE 8」をL/Rに、165mmコーンウーファー×2基搭載の「RUBIKORE 6」をサラウンドL/Rに、シンプルな2ウェイ機「RUBIKORE 2」をサラウンドバックL/R、そしてセンターに「RUBIKORE CINEMA」を用いたサラウンドシステムを構築した。ウーファーユニットは全て同一素材かつ、RUBIKORE 2以外はリボン型+ドーム型トゥイーターを搭載したユニット構成となり、音のつながりが抜群。シームレスかつ濃厚なサラウンド環境を構築し、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の緻密かつ大胆な音響世界を描き出した

問合せ先 : デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター TEL.0570(666)112

 

 

 この他、奇数次高調波歪みを排除するSMC(ソフト・マグネティック・コンパウンド)ウッドファイバーコーンや、クラリティ・コーン・テクノロジー等、上位機で培われた独自のKOREテクノロジーが活かされている。

 今回このRUBIKOREラインで7.2ch(サブウーファーはイクリプスTD725SWMK2を2基使用)を組み、AV10+AMP10のマランツのセパレートAVセンターにてサラウンドシステムを構成。ひとつの作品をじっくり鑑賞しながらそのAV適性を深ることをしてみたい。

 視聴コンテンツは、ホアキン・フェニックス主演で大ヒットした『ジョーカー』の続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のUHDブルーレイ盤。今回新たな配役としてレディー・ガガ扮するリー(ハーレイ)が登場。ジョーカーことアーサーと親しい関係になるのだが、裁判の判決が言い渡されるクライマックスで、物語は思わぬ方向に転がり始めるのだった。

 

UHDブルーレイ
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ <4K ULTRA HD&ブルーレイセット>』

¥8,580 税込
(NBCユニバーサル/ワーナー1000842824)

●2024年アメリカ
●2枚組(本編UHDブルーレイ+本編BD)
●片面3層
●映像 : 4K&ドルビービジョン
●音声 : ドルビーアトモス、ほか

 

 

アーサーの想いが込められた純粋な歌声に引き込まれる

 チャプター4、アーカム州立刑務所の音楽療法の集まりで知り合ったアーサーとリー。映画鑑賞会でハーレイが火事を誘発させ、そのどさくさで二人は脱走を試みるも、あっさり捕まって戻されてしまう。アーサーは独房入りだ。

 ここで場面は転換し「ホテル・アーカム」の屋上でワルツを踊る妄想シーンになる。優雅な音楽に合わせて踊るアーサーとリーが実に幸せそうで、立体的なサラウンド音場が濃密に広がる。RUBIKOREの奏でるストリングスのメロディが切ないほど美しく、魅了された。この曲は本編内で唯一レディー・ガガが作曲した「フォリ・ア・ドゥ」だ。

 しかし次のチャプター5で、アーサーは社会から阻害されていることを再び痛いほど思い知ることとなる。テレビのインタビュー撮影で、キャスターからの執拗かつ見下した質問に答える過程で感情が昂ぶり、声を荒げていく。背景では不穏な音楽が流れ始めるが、やがてアーサーは「Bewitched(魅せられて)」の詞に載せ、リーへの想いを滔々と歌うのだ。その純粋な歌声と情感に私はグイグイ引き込まれた。その様子を街頭のショーウィンドウ内のテレビで観ていたリーは、ガラスを破ってテレビを奪い去る。二人の結び付きがより強固になった瞬間だ。

 RUBIKORE CINEMAが再現するアーサーの歌声は、時にむせび泣くようなムードをたたえている。それはリーへのピュアな想いであり、ストレートな心情の表れだろう。決して上手くはないけれど、抑揚があって実体的だ。世の中で自分のことを理解してくれる人とようやく出会えた喜びを訴えているのだ。RUBIKORE CINEMAの描き出す声のボディ感が生々しい。

 それにしても、「哀しいミュージカル映画」というのが過去にどれだけあったのか。途中の過程がたとえ悲哀的でも、「最後にはハッピーエンド」、それがミュージカル映画のお約束ではなかったか。そうした点でも本作は異色といえるのかもしれない。

 もっとも本作をミュージカル映画とするにはいささか無理があるという意見も少なくない。決して私はミュージカル映画を好んで観る方ではないので断定はできないが、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は<正統派ミュージカル映画>ではなく、<ミュージカル映画>という様式を借りた「アーサーの物語」だから私にも違和感なく受け入れられたのではと思っている。これが、ピュアで本格的なミュージカル映画だったら、私は劇場鑑賞途中で席を立っていたかもしれない。本作の賛否両論はそうした点にも要因があったのだろう。

 

画像3: DALI RUBIKORE Series with『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』次第にシステムの存在を忘れ、アーサーの哀しくも過酷な物語にわたしは完全に没入したのだった【PICK UP REPORT】

取材はHiVi視聴室で実施した。ダリRUBIKOREシリーズ以外の視聴システムは次の通り

● プロジェクター : ビクターDLA-V90R
● スクリーン : キクチ Dressty 4K G2
● 4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1 
● AVセンター : マランツAV10+AMP10
● サブウーファー : イクリプスTD725SWMK2×2
● オーバーヘッドスピーカー : イクリプスTD508MK4×6

 

 

ガガ演じるリーの魂胆を如実に容赦なく描き出す

 話をRUBIKOREでの再生に戻そう。チャプター7、アーサーとリーの架空のテレビショー。70年代風の二人のファッションがどこか懐かしく、ソニー&シェール(編註:1960〜70年代に活躍した夫婦によるポップスデュオ)のステージを彷彿とさせる。リーはアーサーに向けて銃を構える。たじろぐアーサー。一瞬ドキッとするが、このシーンは後の展開の伏線となる。

 続いての場面、刑務所の面会室のガラス越しにリーが歌うのはカーペンターズの全米ナンバーワンヒット「(They Long To Be) Close To You(遥かなる影)」だ。リーの心情を疑っていたアーサーだが、ここで再びリーと打ち解けることになる。リーが歌い始め、アーサーがそれに追随して二人の関係修復となるわけだが、この辺りからリーの思惑が徐々に表れてくるのがわかる。アーサーを利用しようと企てる心理が表情から、そして歌や言葉の端々から感じ取れるようになるのだ。

 「Close To You」は親密なバラードのはずだが、メインスピーカーRUBIKORE 8がリーの秘めた心象を容赦なく曝け出す。裏があることを音から示すのである。そうした機微、微妙な情報を描き出すRUBIKOREの写実力には畏れ入った。加えて各スピーカーの音色の整合性がきっちり取れていることで、シーンに刷り込まれた様々な意図、メッセージが如実に伝わってきたことに私は少なからずビビッた。特にサラウンドやサラウンドバックに配置していたRUBIKORE 6やRUBIKORE 2がそれをしっかり引き出したことに驚かされた。それはもちろん、マランツAV10+AMP10とのコンビネーションのよさに負うところも大きいのだが。

 

アーサーとゲイリー、リーの複雑な心境を情感豊かに描く

 さて、いよいよクライマックスである。チャプター10でアーサーの元同僚、ゲイリーが証人喚問に登場する。ジョーカーのメイクで、この時点で既に専属弁護人を解任して自ら被告人兼任として弁護に立つアーサーは、始めからゲイリーを蔑んでいるのが言動の端々から感じ取れる。尋問の調子が威圧的かつ嘲笑的だからだ。ゲイリーは自分が居合わせた当時の状況を赤裸々に語っていく。そこに嘘はなく、涙ながらにアーサーの問いに応えるゲイリー。その姿は極めて正直で、アーサーへの同情と哀れみが綯い交ぜになった複雑な心理だ。

 この場面で、RUBIKORE 8をメインにして、RUBIKORE CINEMAとのコンビネーションの巧みさがここに極まった。緊張と怯えの裏で、自分が犯した罪に素直に向き合ってほしいと願うゲイリーのアーサーへの懇願がヒシヒシと伝わってくるのだ。

 チャプター11、刑務所に戻されたアーサーは、看守たちから再び蔑まされ、「掃き溜めは俺たちを楽しませろ」と吐き捨てられ、衣服からメイクからすべて剥がし落とされる。私は、ここでジョーカーたるアーサーの虚像が剥がされたと解釈した。

 それを受けてのチャプター12、再び法廷シーン。「ジョーカーはもういない、これ以上ジョーカーを演じることは不可能」と、アーサーはあっさり罪を認める。その瞬間、法廷に大事件が起き、アーサーは解き放たれるのだが、その後のチャプター13ーー本作を象徴するシーンだがーー、長い階段でリーと再会したアーサーはまた突き放されてしまうのだ。歌われるのは、「That's Entertainment!」。原曲はフレッド・アステアが歌う陽気な曲。「これぞ、エンターテインメントだ!」と歌い上げるリーの心情は、アーサーに失望し、失笑し、自分一人で事を進める意志の表れだろう。

 このチャプター11から13に到る過程で、私は完全にストーリーに没入した。そこでは最早、システムの存在(介在)を完全に忘れていた。それほどまでにRUBIKOREのスピーカー群のパフォーマンスが見事だったからに他ならない。こんな体験は久しぶりだった。

 上位機KOREシリーズのDNAを受け継ぎ、それを買い求めやすいプライスレンジでまとめたRUBIKOREは、同社ラインナップの中で最もAV適性に優れたスピーカー群と断言したい。
 

>本記事の掲載は『HiVi 2025年夏号』

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