レイフ・ファインズ主演、エドワード・ベルガー監督最新作『教皇選挙』。カトリックの総本山バチカンのトップに君臨するローマ教皇を決める教皇選挙=コンクラーベの内幕を描くミステリー作品だ。
ジャーナリスト兼作家のロバート・ハリスの原作を、『裏切りのサーカス』(11)でアカデミー賞にノミネートされたピーター・ストローハンが脚色し、第97回アカデミー賞では8部門にノミネートされ、脚色賞を受賞した。

日本では去る3月20日に公開され、週末映画ランキングに8週連続でトップ10にランクイン。公開10週目には興収10億円を突破し、最新の累計興収は11億円を突破している。この大ヒットを受けて、6月20日(金)からドルビーアトモスでの上映が決定した。上映劇場はTOHO シネマズ日本橋、TOHO シネマズ梅田ほか13館を予定。ドルビーアトモス上映劇場はホームページから確認できる(一部劇場は期間限定上映)。
今回ドルビーアトモスの試写にうかがうことができたので、その印象を紹介したい。
本作は、当然ながら脚本が素晴らしい。聖職者といえども、様々な誘惑もあるし、権力欲にも苛まれる。そんな苦悩の中でも、「私達は理想に仕える」といい切ろうとするローレンス枢機卿の姿が、生身の人間らしさを表している。またテンポのいい展開が、2時間という長さを感じさせない。
さらに本作は映像の編集も見事。HDR(ハイ・ダイナミックレンジ)での撮影はしていないとのことだが、クリーンでキレのいい画質で楽しめる。登場人物が着ている法衣の朱色や装飾、屋外や窓から差し込む陽射しのまばゆさも印象的だ。一転して礼拝堂の内部や階段での密談シーンも暗部階調が豊かで、相談内容の重さ、息苦しさまで感じさせる。多用されるカットバックも緊迫感を生み出している。

音そのものも映像同様にクリアーでくっきりしており、セリフの押し出しも強く、ため息などのディテイル再現も鮮明で、思わず耳をそばだててしまうはずだ。
さらにドルビーアトモスとしての演出も上手い。冒頭のトンネルやエレベーター内の反響も自然で、全方向から密度感を持って見る人を包んでくる。開始早々に作品にのめり込ませる、まさに “イマーシブ” な体験ができる。
もうひとつ本作のサラウンドデザインで面白かったのが、スクリーンの外の情景を音で表現しているところだろう。登場人物がスクリーンの外に出ていくと、それに合わせて足音が横に広がっていくし、コンクラーのカットでは、左右や後方、天井面からため息やペンの音が響いてくる。わずかな風の音がどこからともなく響いてきて、室内の空気が張り詰めていることが伝わってくる。

また映像とリンクした音づくりもポイントだろう。音楽がカットバックに合わせて切り替わるし、礼拝堂のドアを開けた瞬間に外気が吹き込んでくる様もしっかり感じ取れる。その緩急がストーリーにさらなる緊張感を与えている。
本作はドルビーアトモスで見てこそ、物語の奥深さ、監督や脚本家の狙いを感じ取ることができるのではないだろうか。既に5.1chや7.1chで鑑賞した方もぜひドルビーアトモスで見直していただきたい。初回とは違う没入感を味わえるはずだ。
なお6月20日(金)より、ドルビーアトモス上映来場者限定で、選挙ポスターや投票用紙に用いられることが多いユポ紙を採用した投票用紙(ポストカードサイズ)が配布される(数量限定につきなくなり次第終了。入場時にひとり1枚を配布)。 (取材・文:泉 哲也)
『教皇選挙』(全国公開中)
●監督:エドワード・ベルガー(『西部戦線異状なし』)●脚本:ピーター・ストローハン(『裏切りのサーカス』)●原作:ロバート・ハリス著「CONCLAVE」●2024年アメリカ・イギリス作品●カラー/スコープ●120分●原題:CONCLAVE●字幕翻訳:渡邉貴子●配給:キノフィルムズ●提供:木下グループ
<出演>レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ

<ストーリー>全世界に14億人以上の信徒を有するキリスト教最大の教派・カトリック教会。その最高指導者にして、バチカン市国の元首であるローマ教皇が、死去した。悲しみに暮れる暇もなく、ローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)は新教皇を決める教皇選挙<コンクラーベ>を執り仕切ることに。世界各国から100人を超える候補者たちが集まり、システィーナ礼拝堂の扉の向こうで極秘の投票が始まった。票が割れるなか、舞台裏で蠢く陰謀、差別、スキャンダルの数々にローレンスの苦悩は深まっていく。そして新教皇誕生を目前に、厳戒態勢下のバチカンを揺るがす大事件が勃発するのだったーー。
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