現在NHK BSプレミアム4Kで絶賛放送中の『空想特撮シリーズ』。円谷プロダクションの人気作品『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』を順番に放送するというもので、熱心に録画しているファンも多いだろう。Stereo Sound ONLINEではこれまでも、『ウルトラQ』『ウルトラセブン』の4K/HDRリマスター作業について担当者へのインタビューを行ってきた。今回はいよいよ『ウルトラマン』ということで、その思いの丈を存分に語っていただいた。対応してくれたのは円谷プロダクション 製作本部 エグゼクティブマネージャーの隠田雅浩さん、同プロジェクトマネージャーの池田 遼さん、同IMAGINEERINGマネージャーの小林奈穂子さん、さらにグレーディング作業を担当した東映デジタルラボ ポスプロ事業部の佐々木 渉さんにも同席いただいている。(取材・まとめ:泉 哲也)

オープニングロゴの色もHD(上)と今回の4Kレストア(下)で大きく変化している
ーーこの4月から、NHK BSプレミアム4Kで『空想特撮シリーズ』の放送が始まりました。過去に『ウルトラQ』と『ウルトラセブン』の4K版が放送されましたが、今回はそれに加えて『ウルトラマン』も4Kでオンエアされるとのことで、楽しみにしているファンは多いと思います。
Stereo Sound ONLINEではこれまでも4Kレストアについてのインタビューをお願いしてきましたが、今回は『ウルトラマン』を中心に、改めて製作秘話をうかがいたいと思っています。まずは今回、この3作品がBSプレミアム4Kで放送されることになったいきさつからお聞かせください。
隠田 円谷プロとして、歴代の作品をリマスターして後世に残していきたいという思いがあります。例えばですがフィルムには経年劣化といった課題がありますので、この3作品に限らず各作品を大事に思っているというとこで、常に気にしているんです。
その中で年代的に一番古いのが『ウルトラQ』で、次は『ウルトラマン』という順序になります。ウルトラマンシリーズというとではその次が『ウルトラセブン』です。その流れから言っても、『ウルトラマン』をリマスターするということは必然でした。弊社の意図として、4Kリマスターしたものを世の中に届けたいと考えていたので、4年ほど前からリマスターを計画し始めていました。

第2話「侵略者を撃て」より。分身するバルタン星人のボディカラーも上のHDと下の4Kで異なっている
ーーそれは、今回のBSプレミアム4Kでの放送が決まる前から、円谷プロさんの判断で4Kレストアを始めていたということでしょうか? 39話すべてを4K/HDRでレストアするとなるとコストも掛かりますし、会社としてもかなりの決断だと思いますが。
隠田 ウルトラマンシリーズの源流として『ウルトラマン』は非常に大切な作品です。先程、経年劣化というお話をしましたが、そこを踏まえて最先端のメディアに対応できるようにリマスターしておく、そして再び多くの方に見ていただきたいということです。
現代の視聴環境に適したメディアとして、4K/HDRにチャレンジしようという狙いもありました。『ウルトラQ』や『ウルトラセブン』でNHKさんとご一緒させていただいたことで私たちも知見を得て、社内でもそういう意欲は高まったと思います。
池田 順当に行くと、『ウルトラQ』の次は『ウルトラマン』という気持ちは社内にもありました。ただ『ウルトラセブン』は、2022年に55周年を迎えるなど様々な要素を勘案し、先駆けて作業を進める判断となりました。
隠田 今回の『ウルトラマン』では、『ウルトラQ』『ウルトラセブン』で培った技術を踏まえて、新しい展開に取り組みました。その一番大きいチャレンジをするために必要だったプロセスがありましたので、今回そこについて担当した小林を呼んでいます。

第15話「恐怖の宇宙線」より。HD(上)と4K(下)では、空の色やウルトラマン、ガヴァドンのボディカラーやディテイル再現にも違いが
ーー新しいチャレンジに必要だったプロセスとのことですが、小林さんはどんな作業を担当されたのでしょうか?
小林 正確にはレストア作業ではなく、4K/HDRリマスターするにあたり、当時のスタッフの方々にお力添えをいただくべく、テストピースの試写をする場を、桜井浩子さんにコーディネートしてもらいました。そこでは、色味や明るさ暗さなどの確認をお願いしました。
試写に集まっていただいたのは、ハヤタ隊員役の黒部 進さん、フジ・アキコ隊員役の桜井浩子さん、スーツアクターの古谷 敏さん、撮影部の佐川和夫さんと鈴木 清さん、記録部の田中敦子さんという、当時の現場を知る皆さんでした。
ーー『ウルトラQ』の時も、飯島敏宏監督や桜井さんに集まっていただいて、4Kの映像を確認されていましたが、『ウルトラマン』でも同じような機会を設けられたんですね。
隠田 今回の取り組みで一番大きいのは、鈴木さんに全話を通してスーパーバイズいただいたことです。これは、小林のおかげで実現できたことになります。

第34話「空の贈り物」から。4K(下)では背景の水のきらめき、フジ・アキコ隊員の肌色の再現などにHDRの恩恵が見て取れる
ーーそうだったんですね。それは小林さんから鈴木さんにお願いしたのでしょうか?
小林 元々私はビデオグラムを担当していたのでHDリマスター版のリリース等もあり、レジェントスタッフの皆さんに連絡を取っていました。それもあって、今回の件を鈴木さんにご相談したところ、ぜひやりたいというお返事をいただくことができました。
隠田 ビデオグラムでは、その時代の最新メディア、DVDだとかブルーレイを製作するという作業とともに、過去に遡って、当時の出演者やスタッフの皆さんからこの作品はどうやって作られたのかという情報を得たり、解説書も含めてのご意見をいただいたり、試写に参加していただいたりといったことも担当しています。
今回は、小林が製作部に合流したタイミングでもあったんです。僕としてはそのつながりを生かして、ぜひレジェンドスタッフの皆さんの協力を取り付けて欲しいとお願いし、鈴木さんに応じていただけたのは、ものすごく大事なポイントでした。
『ウルトラQ』の時もそうでしたけれど、僕達は当時の撮影現場にはいなかったわけですし、当時のスタッフたちの狙いといったものを知りません。でも、今回の4K/HDRリマスターはそれを現代に蘇らせる作業だったと思うんです。当時のフィルムに収められている情報を現代の4K/HDRのダイナミックレンジにどう置き換えていくかにあたっては、本物を見ていた人に監修していただきたいというのは、僕の願いでもありました。
『ウルトラQ』の時は作業スケジュールの影響もあり、ある程度作業したものをお見せして全体の方針をご指南いただき、『ウルトラセブン』の時はさらにコロナ禍の関係もあって20話くらいまで作業が進んだ段階でご確認いただくことになってしまいました。
これに対して『ウルトラマン』では、作業の最初に当時の関係者の皆さんにご覧いただくことができましたし、佐川さんと鈴木さんという撮影を担当していた方々にも加わっていただけた。しかも記録部の田中さんもいらっしゃるということで、本当に嬉しかったですね。

第22話「地上破壊工作」より、夜のテレスドン襲撃シーン。手前の鉄骨の見え方などがHD(上)と4K(下)では違っていることがわかる。このあたりが見せすぎない演出なのでしょう
ーー先ほど、既発売のブルーレイと今回の4K映像を比較させていただきましたが、ここまで違っていいのかとびっくりしました。
隠田 当時を知っていて、ジャッジできる人がいたから、これが実現できたということなんです。
池田 オープニングでタイトル文字が回っているシーンがありますが、その周辺部分のマーブル模様にキラキラした粒子の情報がちゃんと残っています。そこも注目して欲しいポイントです。
ーーBSプレミアム4Kで『ウルトラマン』が放送されたら、そのオープニングを含めて、多くのファンがこんな色だったのかと仰天すると思います。でもこれが、当時のスタッフの皆さんが納得したもの、本物に近い映像なんですね。
隠田 鈴木さんがおっしゃっていたのですが、当時撮影現場で本当はこうしたかったっていうところについては、HDR技術の中で再現にチャレンジされていると思います。当時のテレビの制約があったけれども、今ならここまで表現できるっていう思いを持っていらっしゃいました。そこは、撮影部ならではの凄さだなと思いました。
今回は、弊社の池田や東映ラボ・テック(東映デジタルラボ)の佐々木さんと一緒に、その点についてどのように復元できるかにチャレンジしていただきました。HDRの表現力を活かした、現代の『ウルトラマン』の見せ方になっているんじゃないかと思っています。
佐々木 僕は『ウルトラセブン』からグレーディング作業に参加させていただきました。もともと特撮作品のファンで、映像作品に関わりたくて東映デジタルラボに入社したんです(笑)。『ウルトラQ』の時は別の作品を担当していたのですが、円谷プロさんのお仕事をやりたいと社内でアピールし、『ウルトラセブン』から参加させてもらいました。
HDRという新しい規格に可能性を感じていたので、これを生かして新しいジャンル、作品に関わっていければ、グレーディングの幅も広がるんじゃないかなと感じていました。
池田 HDRをどう使うかは、『ウルトラQ』の時から大きなテーマでした。物語の演出意図だったり、ここは見せたいとか、ここは抑えておきたいといった判断は、これまでの経験を踏まえて、佐々木さんと相談しながら仕上げていき、最終的に鈴木さんにご確認いただく形で進めました。

第23話「故郷は地球」より。下の4K映像では、バックの天井の光の抜け感もあり、科特隊メンバーの表情も自然だ
ーー『ウルトラQ』の時にも、当時のブラウン管では出せなかった情報を、今の技術で蘇らせたといったお話があったと思います。今回は4K/HDRという点もかなり配慮されているわけですね。
隠田 鈴木さんは、当時撮影現場にいた人たちはこうしたかったんだという思い、狙いを知ってらっしゃるので、それを今の4K/HDRで表現するならこういう映像になるんだよということにチャレンジされたと思います。
池田 そこについてはとても楽しんで作業されていたと思います。鈴木さんは平成シリーズの映画のプロデュースもされていますし、CGなどにも詳しい方ですので、もっと色々やりたいこともあったようです。
小林 そこについては、あんなこともしたいとか、結構言われていましたね(笑)。こうしてリマスター作業に携わっていただき、放送から半世紀以上たった現在に、当時のスタッフの方々が望んでいた表現に近づけるよう再び挑んでいただける機会とできたならば、とても意義のあることだと感じています。
隠田 試写の時も、レジェントスタッフの皆さんに4K/HDRだとこういう風に見えるんだということを体験していただいたら、その場で当時はこうだったっけ? というディスカッションが始まったんです。その時の内容も踏まえた上で実際の作業に入っていって、さらに全体を通して鈴木さんに監修していただくという流れでした。
小林 当時の記憶が呼び覚まされたみたいで、皆さん、そうそう、こんな風だったとおっしゃっていました。
隠田 人の記憶を呼び覚ますほどのリアリティが4K/HDRにはあるのだなということを、側で見ていて感じました。
小林 佐川さんが、鈴木さんが全編通して監修されるということについて、それだったら安心だねとおっしゃっていたんです。それを聞いて、お願いしてよかったなと思いました。

●取材に対応いただいた方々:写真右から、株式会社 円谷プロダクション 常務執行役員 製作本部 エグゼクティブマネージャー Chief Creative Officer 隠田雅浩さん、同 製作本部 製作部 企画・製作グループ プロジェクトマネージャー 兼 製作本部 フランチャイズ/コア室ベースグループ プロジェクトマネージャー 池田 遼さん、東映デジタルラボ株式会社 ポスプロ事業部 カラーリストグループ 佐々木 渉さん、円谷プロダクション 製作本部 IMAGINEERINGマネージャー 小林奈穂子さん
ーーちなみに、今回のレストア作業はいつころから始められたのでしょう?
池田 フィルムのレストア作業は2021年始めにとりかかっていて、最終的には2023年3月に全話の4K/HDRマスターが完成しています。延べ日数として2年くらいでしょうか。
ーーBS4Kで放送するのは、NHKからの打診があったということでしょうか?
隠田 NHKさんには、『ウルトラマン』の4K/HDRマスターを作っていることはお知らせしていました。NHKさんも、これまでの『ウルトラQ』『ウルトラセブン』の実績を認めていただいたのだと思います。
ーー3作品をまとめてというのも、ファンには嬉しい英断です。
隠田 おっしゃる通りで、NHKさんにはとても感謝しています。
またそれに先駆けHDRではありませんが、『シン・ウルトラマン』の公開に合わせ庵野秀明さんがセレクトした4話分を劇場上映しました。さらにその後に『ウルトラマン 4Kディスカバリー』として16話分をセレクトし、新規ドラマパートの撮影・編集を加えることで、4エピソードの劇場作品として公開しています。両方とも、先行して4Kリマスター素材があったからできたものです。
※後編に続く(6月18日公開予定)
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