恋人を待ち続ける女性と、妻の幻影を追い続ける男性がふとしたきっかけで出会い、お互いの執着の内を重ね合わせることで、やがて迎える“永遠”の始まり。太田慶監督の最新作『永遠の待ち人』は、ドストエフスキーの名作「白夜」に着想を得て、まったく異なる展開を魅せる注目作。ここでは、ヒロインを演じた北村優衣と高崎かなみにインタビューを実施。役作りだけでなく、自ら演じた役柄の考察まで、話を聞いた。
――よろしくお願いします。お二人とも、なかなかに個性的な女性を演じられていました。まずは、本作への出演の経緯を教えてください。
北村優衣(以下、北村) よろしくお願いします。太田監督が、私が前に出演した『ビリーバーズ』を観て下さって、美沙子にぴったりだということでオファーをいただきました。『ビリーバーズ』で演じた女性(副議長)は信仰心の深い女性だったこともあり、本作・美沙子の“信じる”という行為につながる部分もあって、適役じゃないかということだとお聞きしました。

――そうなんですね。副議長があの島から戻ってきて、平穏(?)な日常を送っているようにも見えました。
北村 それは面白い解釈ですね。
――そう言えば、『ビリーバーズ』では、オーディションも、試写も、インタビューも、緊張していましたが、本作は大丈夫でしたか?
北村 あははははは、今日は大丈夫です。高崎さんと一緒に取材を受けて、たくさんお話をしてきましたから、いい感じに緊張もほぐれてきました。
――次に高崎さんお願いします。
高崎かなみ(以下、高崎) よろしくお願いします。私は、ウエダアツシ監督の『うみべの女の子』という作品で、主役の男の子が好きになる海辺の女の子を演じたのですが、そのちょっとしか出てこない役を太田監督が観て下さって、その一瞬の姿がとても儚く見えたそうなんです。それが、本作の麻美にぴったりなんじゃないかということで、オファーをいただきました。
――そう伺うと、(麻美には)ポスターからも儚さを感じます。
北村 めちゃめちゃ儚いですよね(笑)。透明感が素敵です!
高崎 麻美には大きなヒミツがありますから、それも含めてそう見えますよね。ちょうどこの写真の撮影の時、私は晴れ女なのに雨が降ってきてしまって……。それもあっての儚さですね。

――北村さんは雨女で、『ビリーバーズ』の撮影では雨が多くて大変だったと仰ってましたが、雨女効果抜群ですね。
北村 天気が見方してくれたのでしょうね。でも、私のシーンの撮影では雨は降らなかったので、そこは助かりました。やっぱり晴れの撮影はいいですよ。
――劇中では、お二人の共演シーンはありませんね。
北村&高崎 そうなんです。
北村 劇中でご一緒するシーンはないですし、それ以前に撮影前に顔合わせがなくて、読み合わせの時も高崎さんはいらっしゃらなかったので、ほぼ今日が初対面なんです。
高崎 さっき、初めましての挨拶をしましたね(笑)。

――それでは話を進めまして、出演が決まって、台本を読んでの感想や、役作りについて教えて下さい。
北村 正直、難しいな~って思いました。美沙子をどう捉えるのか、どう作っていくかについては、すごく悩みましたけど、脚本の持つ力が強い――愛とは、生きる意味とは、というように哲学的なことを話す部分――と思ったので、まずはそのセリフをしっかりと明確に伝えることが、この作品を伝えることに繋がるんじゃないかと思って、役作りよりも、作品の強さをどう伝えるかを意識してお芝居していました。
――結構、舞台的なセリフに感じました。
北村 そうですよね、なかなか日常生活では使うことのない言葉だったりするので、自分でお芝居しながら、美沙子って本当に存在しているのかな? と感じる瞬間もありました。
――そうですね、美沙子は幻の存在なのかも、と思うことがありました。
北村 そういう捉え方もできると思ったので、現実・妄想という枠組は決めずに、観てくださる方に委ねようという気持ちでやっていました。
――そもそもベンチに座って本を読んでいる段階で、この人ちょっとビリーバーかもと感じました。
北村 あははははは、本当ですか。お恥ずかしい。

――ある意味、泰明(永里健太朗)とは会話が成り立っておらず、言いっぱなしでしたから。
北村 それも演出の一つで、ここで目を閉じてほしい、ここは見ないで全部言ってほしい、ここで立って欲しいというように明確な演出があって、監督が頭の中で思い描いている美沙子の像がはっきりとあったので、それを信じてやってみました。
――普通なら、会話のキャッチボールでお芝居が続くと思いますが、今回はそれがありません。やりにくくはなかったですか?
北村 確かにセリフは覚えづらかったです。けど、本作ではリアリティのある会話を求めているわけではありませんし、美沙子が自分に問いかけているような感じでもあるわけですから、それは意識していました。
――登場人物はみな、幻だった?
北村&高崎 それも考えられますね。
――次に高崎さんお願いします。
高崎 存在しているのかも分からないような、さきほどからお話に出てくる“儚さ”がキーワードの女性でもあるので、それをどう見せるのかは、本当に難しかったです。

――その儚さはどのように表現したのでしょう?
高崎 台本を読んで、メンタルが弱い子なんだなと思いました。自己主張もそれほどできないし、旦那が約束を守ってくれないだけですごく落ち込んでしまう。そういうところをめちゃくちゃ想像しながら、気持ちを作りながら挑みました。
――旦那が休みに家でゴロゴロしている時に、麻美からのどこかに連れて行ってくれないの? アピールは、男として結構身につまされました。
高崎 はっきり言葉で言えばいいんでしょうけど、言えないので、掃除機の柄でつんつんして、気付いてよ、みたいなことをするタイプなんですよね。
――なんで泰明と結婚したんだろうと思いました。逆に、美沙子と結婚すれば、うまくいくようにも感じました。
北村 美沙子は慎一を3年もベンチで待っているので、休日は、ゴロゴロしていたり、家に居るだけでよさそうです(笑)。
――お二人は、美沙子や麻美、あるいは他の登場人物に共感はありますか?
北村 難しいですね。泰明が提案した行動――ずっと待っていても変わらないんだから、違うことをしよう――については、気持ちは分かります。同じことを繰り返していては、変化も成長もないわけですから。私も、これがだめだと思ったら、違う方向に行ってみる性格なので。
高崎 共感かぁ、難しいですね。私は麻美とは違ってあまり落ち込まない性格ですけど、自分の思い描いていることがしっかりあって、周囲が見えなくなってしまう、というところは理解はできます。
――その麻美は、終盤に思い切ったことをします。
高崎 そこはもう、吹っ切れた気持ちでいるからこその行動だと思っています。今日、他の取材の方に、麻美はなぜ微笑んでいたの? と聞かれて、確かに! と思いました。覚悟を決めたからこそ出てきた表情、と感じています。
――他の行動も取れたのでは?
高崎 麻美の中ではそれしかできなかった、考えられなかったんだと思います。自分の思いを実現したかった。でも、出来なかった……という感じです。
――では、最後に読者へメッセージをお願いします。
北村 この映画を観て下さったみなさんがどう思うんだろう? ということが一番気になります。美沙子ってどういう人物なのかとか、泰明はどうなるのかとか、そういうことを充分に語り尽くせる内容になっていると思いますし、それこそ美沙子は、愛とは信じることだとか、人生の生きる意味は愛しかないみたいなことを言っていますけど、じゃあ自分は愛することをどう考えているのかなどを考える機会になると思うので、観て下さった方とお話したいです。
高崎 そうですね、人によっていろいろな捉え方ができる作品だと思います。決まった答えのない、余白のある映画になっていますので、みなさんの感想をぜひ、お聞きしたいです。加えて、一つひとつの芝居・仕草には監督のこだわりが詰め込まれているので、そういうところにも注目しながら観てほしいです。映画をお楽しみください。
映画『永遠の待ち人』
2025年6月6日(金)より池袋シネマ・ロサにて1週間限定公開、他 全国順次公開
<キャスト>
永里健太朗 北村優衣 高崎かなみ 釜口恵太 藤岡範子 ジョニー高山
<スタッフ>
監督・脚本・編集:太田慶 撮影:河村永徳 照明:近藤啓二 録音:松川航大 衣裳:赤井優理香 ヘアメイク:清水彩美 配給:OTAK映画社
2023年/日本/カラー/16:9/83分
(C)太田慶
★トークイベント情報(登壇者予定・敬称略 @池袋シネマ・ロサ)
6月6日(金)18:15~上映後
永里健太朗 北村優衣 釜口恵太 藤岡範子 ジョニー高山(以上、出演) 太田慶(本作監督)
6月7日(土)17:30~上映後
永里健太朗 北村優衣 高崎かなみ(以上、出演) 太田慶(本作監督)
●北村優衣プロフィール/高村美沙子 役
1999年9月10日生まれ。神奈川県出身。
2013年に女優デビュー。2020年に『かくも長き道のり』(屋良朝建監督)で映画初主演。2022年、『ビリーバーズ』(城定秀夫監督)で“副議長”役を演じ、注目を集める。主な映画出演作に『13月の女の子』(20/戸田彬弘監督)、『コーポ・ア・コーポ』(23/仁同正明監督)、『ブルーイマジン』(24/松林麗監督)など。
公式サイト
https://www.knockoutinc.net/sp/artists/?id=1697529300-776290
●高崎かなみプロフィール/篠田麻美 役
1997年7月14日生まれ。神奈川県出身。
「第1回サンスポ GoGo クイーン」「ミスジェニック 2019」をはじめ数々のオーディションでグランプリを勝ち取り、“無敵のグラドル”と称される。近年は女優としても活躍の場を広げており、主な出演作に映画『うみべの女の子』、ドラマ「セクシー田中さん」、「ヤりたい男と、殺りたい女。」、舞台「応天の門」などがある。
公式サイト
https://asiapro.co.jp/profile/kanami_takasaki/
スタイリスト:豊島今日子
ヘアメイク:ビューティ★佐口(OFFICE BEAUTY)