4K UHD BLU-RAY REVIEW:DIRTY HARRY

タイトルダーティハリー
1971
監督ドン・シーゲル
製作ドン・シーゲル
製作総指揮ロバート・デイリー クリント・イーストウッド(ノンクレジット/マルパソ・カンパニー)
脚本ハリー・ジュリアン・フィンク R・M・フィンク ディーン・リーズナー ジョン・ミリアス(ノンクレジット) テレンス・マリック(ノンクレジット)
撮影ブルース・サーティース
音楽ラロ・シフリン
出演クリント・イーストウッド ハリー・ガーディノ アンディ・ロビンソン ジョン・ヴァーノン レニ・サントーニ ジョン・ラーチ ジョン・ミッチャム アルバート・ポップウェル ジョセフ・ソマー メエ・マーサー リン・エジングトン
画像1: 4K UHD BLU-RAY REVIEW:DIRTY HARRY
TitleDIRTY HARRY
ReleasedApr 29, 2025 (from Warner Bros.)
Run Time1:42:28.600 (h:m:s.ms)
PackagingSteelBook, Inner print
SRP$34.99(Steelbook)$23.79
CodecHEVC / H.265 (Resolution: Native 4K / HDR10 compatible)
Aspect Ratio2.40:1
Audio FormatsEnglish Dolby Atmos (48kHz / 16bit / Dolby TrueHD 7.1 compatible), English DTS-HD Master Audio 2.0 Mono (48kHz / 24bit), Spanish Dolby Digital 1.0, French Dolby Digital 1.0, German Dolby Digital 1.0, English Dolby Digital 1.0, Italian Dolby Digital 1.0, Japanese Dolby Digital 1.0 ※other format(s) TBA
SubtitlesEnglish SDH, English, French, Spanish, Danish, Dutch, Finnish, German, Norwegian, Swedish, French, Italian, Japanese ※other subtitle(s) TBA
Video Average Rate72086 kbps (HDR10)
Audio Average Rate3686 kbps (Dolby Atmos / 48kHz / 16bit / English), 1823 kbps (DTS-HD Master Audio 2.0 Mono / 48kHz / 24bit / English)
画像1: 4K SCREEN CAPTURE

4K SCREEN CAPTURE

汚れた英雄か!孤独の狼か!

ご存じクリント・イーストウッド最大の当たり役、マグナム44が火を噴くハリー・キャラハン・シリーズ第1作『ダーティハリー』の登場である。1971年、サンフランシスコ。ビルの屋上プールで泳ぐ女性が銃撃されるという事件が発生した。サンフランシスコ市警殺人課の警部キャラハンが捜査に当たることになるが、まもなく「さそり」と名乗る犯人が当局に10万ドルを要求、支払わなければ次の犠牲者を狙うと脅迫してくる。ベイエリアが「ゾディアック殺人事件」の余波にまだ震えている中で登場した本作品は、まさに時代の産物だった。アメリカの犯罪率は数十年にわたって上昇を続けており、本作品が製作される前年の1970年にはさらに11%も上昇していた。一方でアメリカン・ニューウェイヴの作品はさまざまな暴力を描いていたが、いつもは保守的なアカデミー賞選考委員会も(本作品と同じく1971年に登場した)『フレンチ・コネクション』の質の高さを認め、オスカー作品賞を含む主要4賞に選出した。だが『ダーティハリー』は大した評価を受けていない。映画評論家ポーリン・ケイルなどはキャラハンのアウトロー的な性格を「ファシスト」と評したが、勘違いも甚だしいものであった。刺激的なレンズを通してクールなジャンル・エクスプロイテーションの手法で描かれるハリー・キャラハンのサンフランシスコは、ポパイ・ドイルのニューヨークと大差ない病巣のような大都市であり、汚さは控えめではあるが、それでもなおその様相は異様である。

画像2: 4K SCREEN CAPTURE

4K SCREEN CAPTURE

監督ドン・シーゲルのシンプルでストレートなスタイル、緊迫感溢れる犯罪描写は観ごたえたっぷり。腹に怒りをため込んだキャラハンのキャラクターは、本質的には勧善懲悪の西部劇ヒーローと同じであり、それを1971年の犯罪社会に置き換えた存在だ。古き良きハリウッドの伝統であるボガートやキャグニー時代のタフ・コップ映画にのめり込んだオールドファンも多いと思うが、本作品はそうした映画もまた下敷きにしつつ司法や官僚主義との対立を描いてみせる。その生々しいアプローチと考察は、当時の人びとの共感を呼び、映画ファンはキャラハンに心を奪われ、その結果、全米興行成績第5位となるヒットを記録したのも頷けよう。その後の計り知れない影響については疑いの余地がない。数え切れないほどの模倣作を生み出し、現在に至るまでのフランチャイズの基礎を築くことになった。アンチヒーロー像のテンプレートを確立したのはキャラハンだけではない。当時映画初出演のアンドリュー・ロビンソンが演じた殺人鬼像も然りだ。予測不可能の脅威を可視化したような異常犯罪者スコルピオは、カウンターカルチャーがひどく間違った方向へ進んでいくというアメリカ人の恐怖を体現して忘れ難いものとなっている。余談となるが、昨年、13Kスキャン/6.5Kレストアで蘇ったフォード西部劇『捜索者』を鑑賞して感じたのだが、ジョン・ウェイン演じるイーサン・エドワーズとハリー・キャラハンは、多くの類似点があり興味深い。

画像2: 4K UHD BLU-RAY REVIEW:DIRTY HARRY

本作品の映像とサウンドのスタイルは、半世紀以上経った今でも驚くほど洗練されている。自意識過剰なモダニズムやポストモダニズムを掲げているわけでもなく、気取りもまったくない。1970年代のサンフランシスコでロケ撮影されたアクション・スリラーとしては、ドキュメンタリー的な生々しさで切り撮ったディテイルを有しており、サンフランシスコという街とその多様性をフィルムに余すところなく刻印してみせたのである。その立役者が撮影のブルース・サーティースである。「The Prince of Darkness/闇の王子」として知られるサーティースは、イーストウッドのビジュアルスタイルの創出に大きく寄与した撮影監督であり、極度に光量を出し惜しんだローキー画調が最大の魅力となっている。原則として人工照明の数を絞り、フィルライト(補助光)を極力排除しながら限られた光と深い闇を対比させた大胆な明暗構図は、フィルム・ノワールを特徴づける極端なキアロスクーロ(明暗法)を生み出した撮影監督ジョン・オルトンを思わせるものだ。こうした光彩陰影へのアプローチはナイトショットにとどまらず、強い日差しが作る陰影など、白昼堂々たる外光の中でさえ不気味で重苦しい雰囲気を漂わせてみせている。サーティースの撮影アプローチとビジュアルセンスは、過度の照明を常とするハリウッドの規範から大きく逸脱するものであり、その効果を利用して時代を表現する映像言語を示したのである。

画像1: 2008 WARNER BLU-RAY

2008 WARNER BLU-RAY

画像1: 2025 WARNER 4K UHD BLU-RAY

2025 WARNER 4K UHD BLU-RAY

本作品のBLU-RAYは、2008年、35mmインターポジからの2Kレストア/VC1コーディック(映像平均転送レート23.6Mbps)仕様で登場している。当時としては映像クオリティが良好だったが、ネガポジ変換による2層のフィルム粒子をDNRしており、シーンによってディテイルの消失と多くのアーティファクトに悩まされていた。今回の4Kマスターは初めて35mmオリジナルカメラネガ(OCN)を使用。入念なクリーニングを経たOCNは、ワーナーMPI(モーション・ピクチャー・イメージング)で8Kスキャン。その後の4Kデジタルレストア/HDRカラーグレードもMPIが担当している。カラーグレード(HDR10およびドルビービジョンHDR)監修は4K HDR『ゴッドファーザー』『捜索者』などのMPIシニアカラリストのヤン・ヤーブロー。修復パイプラインはP3 D65(6500°K)カラースペース。LUT(ルックアットテーブル)はコダック100T 5254 35mmフィルムストックをベースとしたMPIオリジナル。さらにテクニカラー・ハリウッドの残存していたカラータイミングデータ、本作品のカメラアシスタントのトーマス・デル・ルース(『スタンド・バイ・ミー』などの撮影監督)などのサポートを得ながら、30作超に及ぶイーストウッド監督・出演作の編集に携わってきたジョエル・コックス(本シリーズは第3作から)が総監修を行っている。HDRピーク輝度は3947nits、平均411nits。

画像2: 2008 WARNER BLU-RAY

2008 WARNER BLU-RAY

画像2: 2025 WARNER 4K UHD BLU-RAY

2025 WARNER 4K UHD BLU-RAY

8Kスキャン/4Kレストアの恩恵は誰の目にも明らか。遠きリアルタイムの記憶やリバイバルや名画座の記憶を思い起こしても、再見したBLU-RAYの画調と比べてみても、間違いなく最良の映像クオリティ。BLU-RAYで散見された傷痕やアーティファクトはほぼ一掃されている。前述したコダック100T 5254は本来スタジオ用に設計され、制御されたライティング環境で最適化される、肌理細かい粒状性を持つタングステンバランスのカラーネガだ(3200°Kのタングステン照明用にバランス調整/1968年-1976年)。『ゴッドファーザー』『バリー・リンドン』などにも使用され、肌色の再現とニュートラルな色のバランスが特徴で、ラチチュードが広く、増感現像も良好であった。後継品5247よりも滑らかでクリーミーな解像感を持つため、製造中止後も5254を使う撮影監督が多かったという。通常(コダック推奨)では64デイ用ライトとラッテン85フィルターで色補正されるが、本作品では偏光膜を改良したフィルターと組み合わせ、100T 5254固有の有機性と改良フィルターがもたらす美観と色調を忠実に再現したのだという。4K HDRではこれまでにないクールトーンに改善されているが、それは重要な鑑賞ポイントだ(後述)。デル・ルースによれば、サーティーズは厳格な現像とプリントの管理を維持するため、意図的に露光過多のフルネガを避け、露光不足のネガを作成したという。これにより現像所では融通が利かなくなり、サーティーズの意図した画より明るく、または暗くプリントできなくなる。ヤーブローとデル・ルースは、「求めた明暗のトーンはひとつだけ」とするサーティーズのこだわりや強い意志をも復元させたかったのだという。

画像3: 2008 WARNER BLU-RAY

2008 WARNER BLU-RAY

画像3: 2025 WARNER 4K UHD BLU-RAY

2025 WARNER 4K UHD BLU-RAY

ご存じのようにタングステンバランスのカラーネガは、スタジオ内のタングステン照明(白熱灯)の色温度の低い光を白として感光するように作られている。日光は白熱灯に比べて色温度が高いため、日光下で使用すると画は青味を帯びてしまう。そのため色補正フィルターが必要となる。だがサーティースは、ナイトーシーンの色調トーンを重要視。フィルターで青味を残したあと、現像所でナイトーシーンのトーンと整合性を持たせるカラータイミングを行っている。このラボデータがテクニカラー・ハリウッドに保管されていたことにより、黄系のトーンが残るDVDやBLU-RAYとは決定的に異なる、オリジナルのクールトーンが再現されたのである。開放で撮影(1ステップ増感現像)された闇の王子十八番のナイトショットは、幾分粒子感が高まり、意図したテクスチャを保持したより有機的な画調となっている。ナイトショットの立役者は明らかにHDRで、HDRグレードはコントラスト範囲を拡大(昼夜を問わず)アナモフィックの特徴を余すところなく再現している。

画像4: 2008 WARNER BLU-RAY

2008 WARNER BLU-RAY

画像4: 2025 WARNER 4K UHD BLU-RAY

2025 WARNER 4K UHD BLU-RAY

アナモフィックレンズによる画には固有の楕円状のボケ味、水平または垂直のフレア、ケラレや周辺減光、周辺解像度の低下、さらに浅い被写界深度という特徴がある。ショットによっては光の透過率が低下することによる歪みも目立つ。50年代の開発から20年近くを経た撮影時において、クオリティの改善は明白であったが、それでもフォーカス性能は球面レンズよりも劣っている(光学処理されたショットはより軟調な画となる)。こうした固有の特徴を理解したうえで本作品の映像を鑑賞すると、すべてが100%に近い状態で再現されているのが分かるはずだ。通常、ロー・ライトレベルで照明すると、絞りを開けて撮影せねばならず、被写界深度が浅くなる。これにレンズ固有の浅い被写界深度が加わるわけだが、HDRはそうしたレンズの特徴を的確に掴み取り、その再現にも鋭敏だ。フィルムが持つ、光(映写光)を遮断する特性のアセテート(酢酸セルロース)や乳剤層(感光層)を通した黒や暗闇、陰影の再現は圧巻である。ハイライトを繊細なさじ加減で拡張し、スペキュラーハイライト(鏡面ハイライト)の深みを演出、過剰なギミックも感じさせることもない。

画像5: 2008 WARNER BLU-RAY

2008 WARNER BLU-RAY

画像5: 2025 WARNER 4K UHD BLU-RAY

2025 WARNER 4K UHD BLU-RAY

サウンドに関しては、リマスター・オリジナルMONOサウンドトラックがDTS-HD MA収録されるほか、新たにリミックスされたドルビーアトモス・サウンドトラックを収録する。まずMONOトラックだが、今回初のロスレス化となる(音声レートは上欄スペック表を参照)。不可解なことに2008年BLU-RAYでは未収録であったことを考えると、これは大きなアップグレードである。オリジナル重視派は是非ともこのMONOトラックを楽しまれたい。2008年BLU-RAYにはリミックスされたドルビーTrueHD 5.1トラック(平均転送レート3.7Mbps/24ビット)が収録されていたが、古くなった音源をリミックスするのはいつも難しい課題だ。ことにその音源が1971年に制作されたMONOトラックである場合はなおさらだ。ドルビーTrueHD 5.1トラックは平均点以上の出来栄えであったし、多くの場面で新たな効果音が追加編集されていたものの、マルチチャンネル・パフォーマンスの説得力に欠けるものとなっていた。リアスピーカーの使用は控えめで、LFE出力は2008年当時の基準でも甲高くおとなしいものであったが、アトモス・トラックはこうした点を払拭してみせた。

画像3: 4K SCREEN CAPTURE

4K SCREEN CAPTURE

画像4: 4K SCREEN CAPTURE

4K SCREEN CAPTURE

そこで今回、『北北西に進路を取れ』『ツィスター』『リーサル・ウェポン』などのアトモス・リミックスや、『マルタの鷹』『捜索者』などのMONOレストアを手掛けた、ワーナーPPCS(ポストプロダクション・クリエイティブ・サービス)のサウンドミキサーであるダグ・マウンテンがアトモス・ミックスを担当。アドバイザーには長きにわたりイーストウッド作品の音響エンジニアとして活躍し、2008年BLU-RAYで効果音編集を務めたアラン・ロバート・マレーが参加。2008年5.1ミックスよりもはるかに説得力のあるマルチチャンネルサウンドに仕上げている。2008年制作のアーカイブ・サウンド・マスターに加え、今回は2023年にレストアされたオリジナル・マルチトラック音楽録音マスターが使用されている。発声はほぼセンターに固定され、同時録音とアフレコの差異を明確化してしまう場面もあるが、全編を通じて活気とエネルギーが加味されて快調。街の喧騒音が空間を軽々と駆け巡る感覚はなかなかなもの。44マグナムの発砲音も腹に響いて心地よし。重厚感と低域の伸びが豊かに表現される、ラロ・シフリンによるパーカッションの効いたスコアは聴きどころのひとつ。シフリンと言えば、ドルビーTrueHD 5.1トラックで欠落していた音源の修正復元も嬉しい。

UHD PICTURE - 4.5/5  SOUND - 4/5

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画像: When viewing this clip, please set resolution to 2160p/4K

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