国内オーディオメーカー・finalから、有線イヤホンの新製品として、「トゥルーダイヤモンド振動板」を搭載した新フラッグシップモデル「A10000」が発表された。また、カラーバリエーション(金色)として全世界300台限定生産の「A10000 Collector’s Edition」もラインナップされている。現在予約を受け付け中で、発売は2025年6月の予定。価格はA10000が¥398,000(税込)、A10000 Collector’s Editionは¥428,000(税込)となる。


「A10000 Collector’s Edition」
初めに記してしまうと、ダイヤモンド振動板による音は、この後のリリースにも詳しく紹介されているが、歪みが極限まで抑制されることで、これまで体験したことのない異次元の高音質が体験できた。一口にイヤホンといっても、ドライバーや形状によってさまざまな種類があるが、記者の好みのアーティストの歌声には、いつも“色”が付いている感覚があったのだが、A10000ではそれがなくなり、よくいう生成りの声というか、かつてアナログレコードで聴いていた歌声そのものが体感できた次第。ということで、まずは製品の特長について紹介したい。
A10000という型番から分かるように、finalの有線イヤホンAシリーズの新たなフラッグシップとなる製品だ。これまでの「A8000」は振動板材の入手が難しくなってしまったことから生産は完了しており、A10000はその置き換えというか、さらなる音質の向上を果たしていることから、「A8000 MK2」や「A9000」ではなく、桁が繰り上がってA10000という新たな指標を示す製品にまとめられている。

左からダイヤモンド振動板単体、エッジを追加した状態、エッジとボイスコイルを追加した状態
さて、finalのダイヤモンド振動板の開発の始まりはおよそ7年前の2018年になるそうで、その音に惚れこんで開発を進めようとしたが、結果、国内での製造は難しいことから海外のメーカーと提携して入手しているという。

A10000を手に微笑む細尾社長
その製造はなかなかに難しいというか、量産効果のないもので、簡単に説明すると、凸型の銅箔の上に人工ダイヤモンドを蒸着(結晶化)する形で成型(成膜?)し、土台を溶解させてダイヤモンド振動板を取り出すそうだ。話だけ聞いているとシリコンウエハーのように多数の振動板が同時に作られているように感じるが、実は一枚一枚の成型で、さらに出来上がったダイヤモンド板を、ドライバーサイズに切り出す工程が必要になるという。
ダイヤモンドは、物性として音速や硬度に優れているそうで、その優れた曲げ剛性が、今回目指した“超低歪ドライバーユニット(DU)”の実現に大きく貢献したそうだ。ちなみに、音質には硬さよりも曲げ剛性のほうが大事になるそうで、ダイヤモンド振動板は、薄さは追求していないとか(30μmほどあるそう)。
こうして振動板ができたら、次はイヤホンに組み込むためのドライバーにする工程が必要になるが、ここでもその実現に数年の月日を擁している。上に書いたように、軽さを求めていないため、普通のエッジでは(振動板が)重たくて動かない。この問題をクリアすることに時間がかかったそうだ。結果、接着剤ではなく、特殊ポリウレタンを採用し、それを熱と圧力によって分子間結合させること見事、一体化を実現したそう。ただし、ダイヤは熱に弱いので200度以下での作業になる。この工程の歩留まりはあまり高くないという。
次の課題は、そこにボイルコイルをどうくっつけるか! こちらも接着剤は使いたくない、ということでボビン付のコイルとし、導電性や重量バランスの課題をクリアしたという。ダイヤの振動板とこうした工程の工夫によって、100Hz以下の歪み率は従来の100分の1以下を実現。ある意味、イヤホンとしては空前絶後のスペックを可能にしている。
筐体にはステンレスを用い、それを「コート・ド・ジュネーブ」という波型の模様に切削加工を施して成型。美観性、デザイン性、精度を高めた仕上がりにしている。
なお、今回は発売を記念して、同時にカラーバリエーションとなるゴールド仕上げの「A10000 Collector’s Edition」もラインナップされる。これは、ノーマル(銀色)にアルマイト処理にて彩色するという(音が変わる可能性あり)。世界限定300台で、4月26日のヘッドフォン祭の同社ブースにて、初展示される。

製品は将来のメンテナンス性も考慮して、リケーブルに対応しており(メーカー曰く、ケーブルの交換はあまりおススメしないとのこと)、コネクターには汎用性の高いMMCXを採用。――しているのだが、精度や強度を考慮して、ほぼ手では外せないようながっちりと嵌合されている。取り外し用の治具も付属しているが、通常のクリップのようなものでは無理で、さらにもう一つの治具を組み合わせて(2種類を組み合わせて)、グッと力を入れて外すようになっている。ケーブルは、潤工社との共同開発品で、線材にはシルバーコートのOFC、絶縁被膜にはさらに性能の高い(誘電率が低い)発泡テフロンを採用。A10000用に専用結成されたものになるそうだ。ちなみにこのケーブル、今後単品発売も予定されているそうで、価格は10万円前後になるそう。その際は、カスタム2ピンもラインナップされるそうだ(プラグは4.4mmバランス)。

A10000の主な特徴
・トゥルーダイヤモンド振動板搭載した超低歪DUの開発
・コート・ド・ジュネーブを施したステンレス切削筐体
・長期使用を考慮し、修理を容易にする設計
・接触面積の少ない優れた装着感
・高精度自社製MMCXコネクター採用の発泡テフロンシルバーコートケーブル
・「FUSION-G」と「TYPE E」の2種類のイヤーピース(各5サイズ)を同梱
A10000 Collector’s Editionの主な特徴(差分)
・世界で300台限定
・初回限定パッケージとして、本体色は華やかなゴールドカラーを採用
・特別な桐箱に収納
・錫(すず)の板を叩いて薄く圧延したfinalロゴ入りの「すずがみプレート」を同梱

さて、上にも少し記したが、発売前に音を聴く会があったので簡潔に紹介したい。通常では、音質はこうでと書き始めるものだが、本当にこれまで経験のない“音”であり、音質云々というより上質な音空間を体感しているよう。S/Nがよく、空間は広く、響きの余韻は素晴らしいし、音そのものに艶がある。ボーカルの再現性は出色で、色付けされていない、本当にピュアなサウンドが楽しめた。ここ10年ほどは、リアルスピーカーで音楽を楽しむことも減り、ほぼポータブルプレーヤー+イヤホンで音楽を聴いてきたが、そこでなんとなく感じていたボーカルの色付けが払しょくされたのは、心が躍るよう。ヘッドフォン祭で展示されるそうなので、オーディオファンにはぜひこのサウンドを体験してほしいと思う。
A10000の主な仕様
筐体:ステンレス
ドライバー:ダイナミック型(ダイヤモンド振動板)
感度:99dB/mW
インピーダンス:13Ω
コネクター:MMCX
プラグ:4.4mmバランス
ケーブル:ePTFE被膜シルバーコートケーブル
コード長:1.2m
質量:63g
付属品:キャリーケース、イヤーピース(FUSION-G 5サイズ、TYPE E 各5サイズ)、イヤーピースケース、 MMCX ASSIST、メンテナンスツール、ダストフィルター、シリコンシート、筐体保護テープ、補助プレート/【A10000 Collector’s Editionのみ】すずがみプレート