ヴィム・ヴェンダース監督の人気作『パリ、テキサス』。Stereo Sound ONLINEでは、先般発売された『【4Kレストア版】 4K UHD Blu-ray』についてのインプレッションをお届けした。今回はそのUHDブルーレイを、オノ セイゲンさんと音響ハウスの先輩・後輩という親交もある赤木マキさんに、ご自宅ホームシアターにて家族で楽しんでいただいた。ここではその感想をご本人によるリポートで紹介する。

『パリ、テキサス【4Kレストア版】 4K UHD Blu-ray』¥6,600(税込)

画像: 『パリ、テキサス【4Kレストア版】 4K UHD Blu-ray』による、教育的ホームシアターのススメ。8歳の息子も、異なる土地への興味や探究心を刺激されている

●1984年●西ドイツ・フランス作品●カラー●16:9/ヨーロッパビスタ●本編146分●ディスク仕様:3層●映像圧縮方式:HEVC●HDR方式:ドルビービジョン●音声:リニアPCM 96kHz/24ビット/2ch(英語、スペイン語)、リニアPCM 48kHz/24ビット/5.1ch(英語、スペイン語)、DTS-HD Master Audio/2.0ch(コメンタリー・英語)●字幕:日本語、コメンタリー用日本語※特典:ヴェンダース監督本編コメンタリー、解説リーフレット

 未来ある子供達には多くの「良い作品」に出逢ってほしいと、常に願うものですね。そのひとつ、『パリ、テキサス』は、マジックミラー越しのトラヴィスとジェーンの顔が重なる数秒のシーンに、膨大な情報と感情が込められていることを読み取り、心震わせ、新たにそれを上回る高い芸術表現が産まれる軸になるような作品なのです。

 1984年作品の本作のUHDブルーレイは映像・音ともにクリーンナップされ、まず冒頭で鷲の鼻先の鮮やかなブルーに、またメインテーマとなるギターの艶めきと心地よい音圧に驚かされました。

 主人公トラヴィスが目前に立っているかのようなくっきりとした稜線。トラヴィスがバーに入る前の、乾いた砂を歩く音、空気音、ドアを開けた時の音量。歩行音、チープなラジオの音楽、会話。まるで現場にいるような自然な生活音。好みはリニアPCM 5.1ch、静けさと深みが没入感を増します。音が艶めくと目に映る映像も艶めきクリアーかつ鮮やかに見える。不思議なことですよね。

 83年に撮影された映画であり、ある時期までの再生機器では作家が見ているものと同様の色で再現できていたとは考え難いのですが、UHDブルーレイでは「昔の機器では見ることはできなかったであろう、限りなくフィルムに近い色」を見ることができるのです。

画像: 赤木邸のリビングシアターは、大画面&ドルビーアトモスにも対応済み(撮影:井田宗秀)

赤木邸のリビングシアターは、大画面&ドルビーアトモスにも対応済み(撮影:井田宗秀)

 同監督作品である『ベルリン・天使の詩』のサントラ及びSE(効果音)は、私自身のDJ表現に影響を与えた作品のひとつですが、楽器音とリリック、複数人の思考、生活音が複合した「音楽」。同作のUHDブルーレイでは多情報な音達の定位がはっきりし、それぞれがよく聴こえ、美しい。

 当然、懐古上映を行う小さなシアターや繰り返し観たその時代のVHSとテレビのスピーカーなどからでは知る由もなかった表現で、おそらくその音が本当に表したかった「状態」なのだろう。

 作品の「オリジナル情報」をより忠実に細密に再現することにより、実は届けきれていなかった作家の想いやキャストの表現が、時を超えてダイレクトに届く。これが保存目的と併せての、現代技術をフル活用し旧作をレストア及びリマスタリングする醍醐味であり、そのスペックを再生出来れば出来るほど、情報量は「体感」で受け取るものだと実感できるのです。

 昨年、7歳になった息子が『ホーム・アローン』を気に入り、繰り返し見るように。母となった私は、ケビンとケイト母子の再会シーンに感情がシンクロし涙腺崩壊。ふと隣を見ると夫も涙ぐんでいる(笑)。同様のことが、この『パリ、テキサス』でも起こる。

画像: スクリーン裏には直視型ディスプレイを備える、2ウェイシアターだ(撮影:井田宗秀)

スクリーン裏には直視型ディスプレイを備える、2ウェイシアターだ(撮影:井田宗秀)

 そんな親の様子を、ニヤニヤと覗き込んでくる現8歳の息子。当の本人は、米国特有の異常に長い貨物列車とテキサスの風景、クラシックカー、モーテル、電話、ハンターのゲームに好反応。ロードムービーは最高のドキュメンタリーであり、どんな教科書よりもその時代の文化や土地風土を知り、また異なる土地への興味や探究心を刺激する良い教材となる。

 これをわざわざスクリーンを降ろしてマルチチャンネルで聴くことは “体験” です。まだ劇場に連れて行けない産後〜幼児期にはある程度の設備であれホームシアターが大活躍しました。子供が幼くまだ理解できない、または興味の湧かない内容であっても、ハイハイ時期であっても、アーティスティックな映像美や大きさによる映像圧、音の情景や音圧、そういった空気が動くようなライブ感に触れることは、釣りやキャンプに行くような、リアルな四季を感じると同様に芸術的感性を磨く大切なエレメントだと考えています。

 お父さんとお母さんと観たな、という単純な思い出でもいい。誰かと時間や感情を共有したことは、すべての五感が記憶する。短い映像のザッピングで時間を消失するよりも、家族で気軽に映画を見る習慣は、家族の共通言語を増やし疑問や感情について話し合う時間にも恵まれる、家庭内における幸せのピースではないでしょうか。

●筆者プロイフィール
赤木マキ(makiAKAGI/akg++)
華道家/プランツデザインアドバイザー/DJ。華道家元 池坊 華督。一般社団法人日本ボトルプランツ・テラリウム協会 代表理事

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