A24の新たなスリラー『異端者の家』が、4月25日(金)にいよいよ日本公開される。本作は2024年11月に全米で公開され、製作費1000万ドルに対し、全米で2790万ドル、海外で3120万ドルという抜群のコストパフォーマンスを見せた。内容は、モルモン教を布教すべく、日夜、歩き回っているふたりのシスターが、ある屋敷を訪ねるものの、そこの主人に翻弄され、追い詰められていくというものだ。
主演は『フォー・ウェディング』(1994)、『ノッティングヒルの恋人』(1999)などで絶大な人気を誇り、近年では『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』(2023)で悪役にも挑戦しているヒュー・グラント。ふたりのシスターを演じるのは、つい先日、全米でSFスリラー『COMPANION』がヒットしたソフィー・サッチャーと、『フェイブルマンズ』(2022)に出ていたクロエ・イースト。
監督と脚本は幼なじみでコンビ活動を続けるスコット・ベックとブライアン・ウッズ。ふたりは大ヒット作『クワイエット・プレイス』(2018)の脚本で注目を集め、イーライ・ロス製作の『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』(2019)の監督・脚本を担当。続いてサム・ライミ製作の『65/シックスティ・ファイブ』(2023)でも監督・脚本・製作を務めた。そんな彼らが手掛けた新作『異端者の家』について、今回、話をうかがうことができた。

撮影中の様子。左がスコット・ベック監督で、右がブライアン・ウッズ監督
――まずは、おふたりのプロフィールと、本作制作への思いを教えてください。
スコット監督 ふたりとも本当に幼い頃から親友で、その頃からずっと映画を愛して、映画を共に作ってきました。同じ作品が好きな点も共通していて、サスペンスやホラーっていうジャンルに対する、思いも共有しているんですね。
また幼い頃から宗教の意味、何かを信仰する、しない、その理由というものもずっと語り合ってきました。なぜそれが大切なのか、当たり前に生活の中に取り入れている宗教、信仰というものがあるのかっていうことを、話し合ってきて、この作品がその延長線上にあるものだと思っています。宗教、カルト、神学、存在論とか、そういうものをまとめて、この作品の中に取り入れたかったのです。
――限られた登場人物でのストーリー構成が素晴らしかったです。主な出演者を3人にしたのはなぜですか?
ブライアン監督 新しいジャンルに挑戦したかったというのがあります。過去にはモンスターが出てきたホラー映画を撮ってきたんですけれども、それはいわゆる典型的な映画のテクニックを用いた、人を怖がらせるための映画です。
一方で『クワイエット・プレイス』を撮った時に一番楽しかったのは、まったくセリフがない映画を作ることでした。セリフがないのに、どこか観客をジェットコースターのようなストーリー展開で怖がらせるという手法にすごくワクワクしたんですね。
今回は真逆で、会話がとにかく多い作品になっています。音で怖がらせるとか、モンスターで怖がらせるとかいうのではなくて心理的、哲学的な理論で聞いている人々を追い込んでいく。観客の頭に入り込んで怖がらせるっていう手法を今回は取ることにしたんです。
抑制されたミニマリスト的な手法によって、3人の会話だけで死後何が起こるのかという恐怖心を観客に与える、そういう手法を敢えて取ることにしました。怖い上にエンタテインメント性も高く、見終わった後に何かしらの会話を生むような作品というものを目指したので、出演者も3人に絞ったという面があります。

――出演者3人は、どのように選んだのでしょう?
スコット監督 まずはヒュー・グラント演じるミスター・リードですね。笑顔がポイントになってくると思うんですけど、どこかチャーミングで、ドアを開けた時に彼の家に入りたくなるようなキャラクター性が必要だったので、それがヒュー・グラントには備わっていたと思うんです。
ストーリーが進んでいくうちにだんだんリードの本性が分かって、どんどんダークになってくるんですけれども、その重苦しい映画の雰囲気っていうのをさらに深く引きずり下ろす。でも、どこかチャーミングさが残るダークさっていうものが彼には備わっていたので、ヒューしかいないと思っていました。温かみがありつつ、コミカルな部分もある。だからこそ、ちょっと怖さがある、異様な雰囲気によって怖さを表現することができる役者という意味で、ヒュー・グラントをキャスティングしました。
彼は役者としても本当に一流だと思うんですね。役に入り込むこともできますし、セリフも完璧ですし、努力家なので、それは今回の作品を通じてさらに強く感じました。
シスターのふたりに求めたものは、宣教師としての信憑性です。モルモン教の宣教師の場合、喋り方ですとか、生活スタイルですとか、ちょっと独得なものがあります。シスター・バーンズ(ソフィー・サッチャー)とシスター・パクストン(クロエ・イースト)をキャスティングするにあたり、何度かオーディション用のビデオを送ってもらって、それを4〜5回繰り返したわけですが、彼女たちの配役を決める直前に、実はモルモン教がふたりの生活に深く結構根付いていたっていうことを知ったんです。だからこそ、リアルな描写と演技ができるんだっていう風に感じました。なので、そこはすごい大きなポイントになったと思います。
――おふたりは、『クラウド アトラス』(2012)を見てヒュー・グラントが気になっていたと聞きました。
ブライアン監督 そうですね。以前、『クラウド アトラス』を一緒に見に行ったんですけれど、すごく壮大なSF作品で、ふたりともウォシャウスキー兄弟(現・姉妹)の大ファンでもあったので、見終わった後に何について語ればいいんだろう? とお互い感じていたんです。
そこで一番ショックを受けたのが、ヒュー・グラントの演技でした。一本の作品で何役も演じているのですが、彼だと気づかないぐらい入り込んでいた意外性っていうところに目が行って、見終わった後はヒューについて熱く語り合ったんです。
そこから、この10年ほどの彼は、いわゆるキャラクターが際立っている役というものを引き受けていたってことに気づき始めたんです。『ノッティングヒルの恋人』や『ラブ・アクチュアリー』(2003)などのラブコメのイメージが強かったんですけれども、彼はムービースターから、立派な役者になっていたっていうことに気づいたんです。
ミスター・リードというキャラクターは、ストーリーの中でギアチェンジが必要になりますし、センスも必要ですし、会話によって観客を引きつける力がなければいけない難しい役なので、本当に一流の役者が必要だったんです。そういう風に考えた時に、ヒュー・グラントしかいないとふたりの意見が一致しました。

――雷の音が轟くオープニングと、ミスター・リードの家に入ってからの導入部の音場の違いがかなり印象的でした。家の外と中での音の表現に関してはかなり苦労されたんでしょうか?
スコット監督 そうですね。音響は映画の大きな要素でもあるんですけれども、本作においては会話が主体となっているので、サスペンス・スリラー的な面が失われがちでした。それをどのように怖く見せるかというところで、音が大切な役割を果たしたんです。
なので、家の中に入ってから音をどのように使うか、まったく無音にするのか、多少響かせるのか、もしくはある程度リズムを刻ませるのかっていうようなところで工夫を凝らしました。例えばリビングルームの中では、雨の音がポツポツとリズミカルに聞こえていますし、時計の音もあります。書斎に入ってからは雨漏れの音もしますね。その不穏な雰囲気、異様な空気を出すために音を効果的に使うように心がけました。
そこでの感覚、観客の皆さんは不安な感じを受ける原因が音だとは、もしかしたら気づいていないかもしれないんですけども、その雰囲気作りに使うようにはしました。
サウンドデザインを手掛けてくれたのは、マイケル・バブコック(Michael Babcock)です。彼はデビット・リンチ作品にも携わっていたんです。なので、リンチ監督のシュールレアリズム的な世界観っていうものを知り尽くしている人なので、それを僕たちも参考にしました。
――後半、画面が暗くなるにつれ、音響の存在感が増してきたと思いました。その狙いを教えてください。
ブライアン監督 おっしゃる通り、後半に行くにつれて閉鎖的で空間も狭くなっていきます。見た目もそうですし、感覚的にもそうですね。
ここはダンテの「神曲」をイメージしているんです。どんどん下の世界に行くほど暗闇に落ちていくことをイメージしながら作品を描いたんですが、空間が狭くなっている、閉鎖的になっていくというのが怖さの要因なんです。
でもストーリー自体は小さくしたくなかった。ストーリーの面ではさらに壮大な、映画的な体験をしてもらいたかったので、ドルビーアトモスを最大限に使ってスケール感を大きく見せることに務めました。ストーリーで語られているテーマを、だんだん大きく感じてもらえるはずです。
死について、死後何がお望みかについて、信仰と不信について、神についてと、だんだんテーマが大きくなっていくパートでもあるので、音でその壮大さというものを表現することに務めています。音楽とか音だけではなくて、セットデザインに関してもそうですね。それらのツールを用いて規模の大きさっていうものをだんだん広げていくように努めています。

――本作は日本でもドルビーアトモスで上映されます。日本の観客にはどういったところを楽しんでもらいたいかを、最後にうかがいたいと思います。
スコット監督 この映画のサウンドは、もちろんホームシアターでも楽しめるようにもデザインしていますが、さらに観客を引き込んで、かつショック、衝撃を与えるような音づくりを心がけています。すごく些細な音、背景で鳴っている音、観客の3分の1くらいしか気づかないかもしれないけれど、その音が聞こえた人が友達に「今の聞いた?」と喋りたくなるような音っていうものも、所々取り入れています。
それによって想像力が掻き立てられると思うんです。音による想像の力っていうのは、目から入ってくるものより強いことが多いと思います。そのような想像力を掻き立てる音に、本作では注目してもらいたいと思っています。
ブライアン監督 サウンドミキサーのひとりがクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』などを手がけた人なんですけれども、彼がこの作品はキャリアの中でももっともチャレンジングな仕事だったっていう風に言っていたようなんです。
本作は劇場の音響システムを最大限活かして、没入感があって、怖さを味わってもらえる音に仕上げています。さらに先ほどスコットが言ったように、想像力を掻き立てるような音でもあるので、見終わって劇場を後にしても、どこか音が印象に残っている、音からビジュアルが思い起こされるといいなと思っています。そこから新たな会話、議論が生まれたら嬉しいなという風には感じています。
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ひじょうに入念に練られた映像とサウンドデザインが見どころの本作。お近くにドルビーアトモス上映館があれば、是非ともそこでの鑑賞を薦めたい。もちろん通常の映画館でも効果は発揮されるので、まずは映画館に駆け付けてもらいたい。
『異端者の家』(4月25日全国ロードショー)
●監督/脚本:スコット・ベック、 ブライアン・ウッズ●キャスト:ヒュー・グラント、ソフィー・サッチャー、クロエ・イースト●原題:Heretic●2024年●アメリカ・カナダ●字幕翻訳:松浦美奈●上映時間:1時間51分●配給:ハピネットファントム・スタジオ
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