アラン・ドロン主演のヒット映画『太陽がいっぱい』は知っていたものの、その原作者であるパトリシア・ハイスミスについて考えたことはなかった。ゆえにこの作品は発見の連続だ。1950年代のニューヨーク(おそらくグリニッチ・ヴィレッジ地区だろう)が、いかに彼女の感性に刺激を与えたかもわかる。
パトリシア(1921~95)は、アメリカ・テキサス州に生まれた。トルーマン・カポーティに文才を認められ、数々の作品を発表、『太陽がいっぱい』や『見知らぬ乗客』といった映画の原作になったものも少なくない。ほか、この映画では、彼女の代名詞的な長編「トム・リプリー・シリーズ」についての言及もたっぷりだ。また、偽名で発表した自伝的小説『キャロル』は、1950年代のアメリカでハッピーエンドを迎えた初のレズビアン小説であったそうだが、彼女のセクシャリティは時代の先を行っていたのでままならぬ日々が続いたようだ(このあたり、ビリー・ストレイホーンやリベラーチェに通じるものもあろう)。
さらに、複雑な生育環境などについても触れられている。タベア・ブルーメンシャインを筆頭とする元恋人や家族など生き残った者による談話の数々も妙に生々しい。思うような創造活動ができなかった晩年のパトリシアの心境は、いかほどのものだったのかと思いをはせてしまった。
芸能人というわけでもないパトリシアの、生前のインタビューやフッテージが、予想外なほどたっぷり収められていたのも良かった。さらに、ノエル・アクショテ、ビル・フリゼール、メアリー・ハルヴォーソンといったギタリストが、音作りに関わっている。アメリカ文化、LGBTQ、そしてジャズに関心を持つ人であれば、必ず心に響く瞬間があるはずだ。
映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』
11月3日(金・祝)より新宿シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、アップリンク吉祥寺ほか 全国順次ロードショー
監督・脚本:エヴァ・ヴィティヤ
2022年/スイス、ドイツ/英語、ドイツ語、フランス語/88分/カラー・モノクロ/1.78:1/5.1ch
後援:在日スイス大使館、ドイツ連邦共和国大使館 配給:ミモザフィルムズ
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