Cartridge
オーディオテクニカ
AT-ART20
¥300,000 (税別)
●発電方式:MC型●出力電圧:0.55mV(1kHz、5cm/sec)●インピーダンス:12Ω●適正針圧:1.6g~2.0g(1.8g標準)●自重:9g●針交換価格:¥210,000(税別)●問合せ先:(株)オーディオテクニカ TEL.0120-773-417
オーディオテクニカの最高級シリーズのモデルには、ART(オーディオテクニカ・リファレンス・トランスデューサー)のネーミングが与えられている。フォノカートリッジでは、針先の真上に空芯発電コイルを置いたダイレクト発電機構のAT-ART1000が頂点を極める。ここに登場する新製品のAT-ART20は、究極的な鉄芯MC型カートリッジというポジションである。
外観でまず目を惹くのは、光沢のある銀色のハウジングだろう。これは精密切削加工のチタニウム製。福井県鯖江市の眼鏡産業で培われた高度な切削&研磨技術を活かして、美しい曲面で構成した有機的なデザインである。発電機構が固定され、トーンアーム(ヘッドシェル)と接触するボディはアルミニウム製。底面はオーディオテクニカでは初めての採用となるエラストマー(ゴム弾性素材)となっている。
本機の発電回路は、定評あるAT-ART9XIのそれをベースとしながら、パーメンジュール製のフロントヨークを0.6mm厚くしたことで磁束密度を高めて発電効率を上げている。発電コイルの巻き数やインピーダンスを変えることなく、出力電圧の15%以上の効率化を実現したというから驚きだ。
振動系は大幅な改革がなされている。ボロン製カンチレバーに特殊ラインコンタクト針の組合せはART9XIと共通だが、ダイアモンドチップの補強板はステンレス製からART1000と同様のチタニウム製になった。比重で換算すると実行質量は40%も低減したという。さらに、カンチレバー後端と発電コイルのアッセンブリーを結合させるアルミ製ジョイントパイプは、支点方向に向けて段階的に太くなるステップドパイプ構造へと進化。カンチレバーとアーマチュアの接合部分が二重構造となり剛性が高まった。
4本ある出力ピンは、同社従来比で約30倍もの厚膜金メッキが施されている。これは接触抵抗の低減と音質からの判断だという。磁気回路の永久磁石は強力なネオジム磁石。発電コイルの線材はPCOCCである。
AT-ART20は同社製AT-LH15Hヘッドシェルと組み合わせて試聴した。アナログプレーヤーはテクニクスSL1000Rにグランツ製MH1000Sトーンアームを装着した状態。フォノイコライザー以降はウエスギ製で、信号伝送順にU・BROS220Rフォノイコライザーアンプ、U・BROS280Rプリアンプ、U・BROS120Rモノーラルパワーアンプである。スピーカーシステムはB&W800D3。
最初に聴いたアンセルメ指揮「三角帽子」から、私はAT-ART20が奏でる高解像感のフレッシュな音に圧倒されっぱなしだった。MC型らしい芯のある音は立ち上がりの俊敏さが素晴らしく、乱打されるカスタネットや音場空間の天井めがけて鋭く鳴り響く笛の音色も最新録音のような瑞々しさ。オーケストラの骨子が盤石な逞しい音であることも特筆できよう。聴いていて意識させるような音質的なクセが感じられないのは、チタンとアルミ、エラストマーという異種素材の組合せが成功しているのだろう。
ジャズヴォーカル期待の新人、アルマ・ナイドゥーのアナログ盤も、実に魅力的な音を聴かせた。音の生々しさはもちろんのこと、リズムのグルーヴ感や強弱のコントラストも申し分なく、色彩的にも鮮やかな視覚的サウンドで魅了したのである。
ダイレクト盤のデイヴ・グルーシンは、これまで感じられなかったほどの音数の多さで緻密にクッキリと楽器の音色を描いてくる。鉄芯タイプのMC型らしい力強さが宿った音で、デュアルムービングコイルならではのセパレーションの良さも立体的な音に大いに貢献している。
一言でいえば積極的に攻めた美音。AT-ART20は、MC型フォノカートリッジの歴史にその名が刻まれる逸品だと思う。