Amazon MusicやApple Musicでの配信が始まって以来、空間オーディオが注目を集めている。ソニーが提唱する「360 Reality Audio」もその配信フォーマットのひとつとして採用され、既に多くのコンテンツを楽しむことができる。

 しかし現状での再生対応機器は一体型スピーカーやサウンドバーに限定され、AVセンター等を使ったリアルスピーカーによる再生はできない。つまりせっかくのイマーシブオーディオなのに、バーチャルでしか体験できないのだ。

 そんな中、メディア・インテグレーションが運営するMIL Studioでは、360 Reality Audioコンテンツを、22.2chスピーカーで再生できるという。そこで今回はこのMIL Studioにお邪魔して、スタジオの概要をうかがうとともに、360 Reality Audioのデモコンテンツを“理想的な環境”で体験させてもらった。

 対応いただいたのは、株式会社メディア・インテグレーション ROCK ON PRO Product Specialist 前田洋介さんと、同 Director 北木隆一さんのおふたり。(編集部)

イマーシブオーディオを最高の環境で製作してもらうための空間を目指した。
メディア・インテグレーションの「MIL Studio」とは

画像1: メディア・インテグレーション「MIL Studio」で体験する、360 Reality Audioが凄い! 音質と音場が両立するイマーシブオーディオの可能性を見た(前):麻倉怜士のいいもの研究所 レポート76

 メディア・インテグレーション社内に設けられたMIL Studioは、研究と体験、インスピレーションの誕生の場所として運用される空間だ。視聴位置を取り囲むように30度間隔で12本のスタンド(柱)が設けられ、それぞれに同社が輸入販売を手がけているフランス、フォーカルのインウォールスピーカーを設置、合計43.2chぶんのシステムが取り付けられている。

 ソースにはPCやミュージックインターフェイスを使い、Lab.gruppenやinnosonixの業務用パワーアンプで駆動している。この他にパナソニックのUHDブルーレイレコーダー「DMR-ZR1」やビクターの「DLA-V90R」も準備されており、映像付きコンテンツの再生にも対応できるという。

画像2: メディア・インテグレーション「MIL Studio」で体験する、360 Reality Audioが凄い! 音質と音場が両立するイマーシブオーディオの可能性を見た(前):麻倉怜士のいいもの研究所 レポート76

●主なスピーカーシステム
1000 IWLCR UTOPIA×3(フロント、センター)
1000 IWLCR6×21(サラウンド、サラウンドバック、トップ、他)
1000 IW6×12(ハイト)
HPVE1084 搭載カスタム・ロー・ボックス×12(フロント、センター、サラウンド、サラウンドバック、他)
Sub 1000 F×2(サブウーファー)
300 IWLCR×6(ボトム)

麻倉 今日はよろしくお願いいたします。最近は、ドルビーアトモス、DTS:Xはもちろん、オーロ3Dや360 Reality Audioといった様々なフォーマットのイマーシブオーディオが登場しています。私はこれらをずっとチェックしていますが、360 Reality Audioについては再生機器の問題もあり、なかなかリアルスピーカーを使った環境で実力を確認できずにいました。

 しかしメディア・インテグレーションさんのMIL Studioでは、360 Reality Audioの音源を、制作環境でモニターできるとのことで、今回取材をお願いしたわけです。まずはメディア・インテグレーションさんとはどんな会社で、MIL Studioとはどんな施設なのかから教えてください。

前田 弊社は1998年創業の専門商社です、最初はプロオーディオ、コンテンツ・クリエーション分野でのソフトウェアの販売を手がけるRock oN Companyとしてスタートしました。その後はシステム・インテグレーションなども手がけてきました。

 弊社が特徴的だったのは、当初ハードウェアは扱っていなかったことです。ハードウェアの取り扱いを始めたのはここ10年くらいです。

北木 創業者で現在も代表の前田達哉は録音エンジニア出身で、Rock oNという社名も録音をもじっているんです。

前田 制作サイドに関わっている方々がメインのお客様ですので、そういった皆様といろいろな経験、知識を共有しながら一緒に育っていこうというスタンスでやって来ました。

 その中で、今回MIL Studioを作ることになりました。昨今はイマーシブオーディオが盛り上がってきていますので、それらを最高の環境で体験していただける場を作りたかったというのが第一の目的ですね。

画像: トップスピーカーには1000 IWLCR6を12基、円形に配置して天井から吊り下げている

トップスピーカーには1000 IWLCR6を12基、円形に配置して天井から吊り下げている

麻倉 こういうスタジオを作ろうという発想は、数年くらい前からあったのでしょうか?

前田 4〜5年前だと聞いています。僕自身がプロジェクトに関わったのは1年ほど前ですが、ちょうどイマーシブオーディオが話題になってきた頃でした。当時は普通に聴けるイマーシブオーディオのフォーマットはドルビーアトモスくらいでしたが、設計をお願いした株式会社sonaの中原雅考さんから、4π=360度空間を意識した環境を作っておけば、長い目で見ても安心ですというご提案をいただきました。

麻倉 ドルビーアトモスに対応するだけなら、南半球(ボトム=床下)のスピーカーは必要ないですからね。

前田 中原さんはこの分野での先駆者ですから、次のフォーマットを見据えてアドバイスをいただいたんだと思っています。僕らのような、ものを作っている側の人間としては、常に次を考えなくてはいけませんから、今回は360 Reality Audioにも対応することになりました。

麻倉 そのために、ここを新しく作ったということですね。

前田 ちょうどこの建物を作るタイミングでしたので、地下にMIL Studio用のスペースを確保できました。イマーシブオーディオとひと口に言っても様々なフォーマットがありますので、それらをすべて楽しめるようにしようと考えています。

北木 今後はイマーシブオーディオを作るためのツールも増え、技術も進歩していくはずですし、プラグインと呼んでいる、イコライザー等の作り方も変わっていくでしょう。弊社としては、それがいいものなのかという評価や、エンジニアさんに使ってもらったりといった検証もここで行います。

麻倉 なるほど。確かにこれくらいのきちんとした環境がないと、本当にいいものなのかという評価はできません。

画像: 床下にもスピーカー用の空間を設け、ここにも300 IWLCRが取り付けられている。360 Reality Audioを理想的に再生するためのこだわりという

床下にもスピーカー用の空間を設け、ここにも300 IWLCRが取り付けられている。360 Reality Audioを理想的に再生するためのこだわりという

北木 もちろん新しいソフトウェアですから優れた製品が多いのですが、仕事で使うとなると操作性もよくないと普及しないという側面もあります。われわれはそういったことまで検証しなくてはなりません。

麻倉 それは本当に必要なことですね。

前田 そうなんです。僕らとしては、メーカーの発表をただお客さんに伝えるだけではなく、ちゃんと実体験を持って説明できるということがすごく大切です。またクリエイターさんにはいい環境で、新しい技術を体験してもらいたいという思いもあります。

北木 クリエイターさんに新しい体験をしてもらうと、開発者・プログラマーやそれを販売している僕らでは想像もしない提案をしてくれます。あ、そんなことできるんだと。それはクリエイターさんの凄い所だと思いますし、そういった共通体験が、結果としてビジネスにもつながっています。

麻倉 さて、MIL Studioのハードウェア環境についてもうかがいたいのですが、なんと言っても43.2chのスピーカーが設置されているというのが凄いですね。

前田 独立駆動するスピーカーとして43本を設置しています。イマーシブオーディオのレイヤーとしては、トップ、ハイト、ミドル/ローワーになります。ミドルとローワーはセットで駆動していますので、ひとつのシステムとして考えています。さらに南半球側に当たるボトムスピーカーと、天井中央にあるセンタートップ、サブウーファーが2本という構成です。

麻倉 スピーカー配置について、もう少し詳しく教えてください。

画像: 写真左側がフロントチャンネル(右)で、その隣がワイドスピーカー。フロント用には1000 IWLCR UTOPIAが、ワイド用には1000 IWLCR6を使用(どちらも中段に設置)。スタンド上段のユニットはハイト用の1000 IW6で、下段はカスタムのローワーウーファー

写真左側がフロントチャンネル(右)で、その隣がワイドスピーカー。フロント用には1000 IWLCR UTOPIAが、ワイド用には1000 IWLCR6を使用(どちらも中段に設置)。スタンド上段のユニットはハイト用の1000 IW6で、下段はカスタムのローワーウーファー

前田 麻倉さんにお座りいただいている視聴位置を囲むように12本のスタンド(柱)を設置しています。それらは30度間隔で均等に並んでおり、それぞれに埋め込みスピーカーを取り付けています。正面の3本にはミドルの「1000 IW UTOPIA」とローワー用のウーファーを、残りの9本はミドルが「1000 IW LCR6」+ローワーウーファーという構成です。

 スタンドの上部にはハイトスピーカーとして「1000 IW6」を12本取り付けており、さらにその上にトップスピーカーとして「1000 IW LCR6」12台を円形に組んで吊り下げました。視聴位置の上にはセンタートップとして「1000 IWLCR6」が真下を向けて埋め込んであります。

 南半球用スピーカーとしては、床下に「300 IW LCR6」を6台配置し、この他にサブウーファーを2台、フロントL/Rとセンターの間にセットしています。

麻倉 360 Reality Audio再生のためには、これだけのスピーカーが必要だったということですね。

前田 360 Reality Audio のためというよりも、4 πの全球を再現しようとすると実はこれでも足りないんです。人間がどれくらいの精度で音を認知できるかという研究もされていますが、高さ方向については3度ぐらいの違いが分かると言われています。つまりこの10倍以上のスピーカーを並べなくてはいけない。

 しかし、現実問題としてそんなに沢山のスピーカーは設置できません。では、最低どれくらいかあればいいのかを考えると、高さ方向で30度、水平方向では15度くらいだと言われています。MIL Studioではそれを踏まえ、現実にスピーカーを設置できる最大数として、高さ方向20度、水平方向で 30度を実現しました。

麻倉 スピーカーはフランス、フォーカルのインストール用ですが、これはベリリウム振動板を搭載していて音がいいのも特長です。しかも同じシリーズで揃えていますから、全方向で音色やトーンが揃っている。とても素晴らしいですね。

前田 その点はこだわったところでもあります。制作業務を手がけている方は、5.1chの時代からスピーカー1本のクォリティを上げるよりも、同じ製品を5本揃える方がいいという意見も多かったので、それに則っています。

画像: 1000 IWLCR UTOPIAや1000 IWLCR6のトゥイーターは設置位置に合わせて向きを微調整できる(手動式)

1000 IWLCR UTOPIAや1000 IWLCR6のトゥイーターは設置位置に合わせて向きを微調整できる(手動式)

麻倉 イマーシブオーディオの場合、音がいいけど効果が物足りないか、効果は素晴らしいけれど音がよくないかの二者択一になりがちですが、MIL Studioは両方を兼ね備えた貴重な空間です。

北木 ありがとうございます。フォーカルは自社でユニットの企画・開発までできる、欧州では数少ないブランドです。今回のスピーカーは、ハイファイで培った技術とプロ分野の知見、さらにカーオーディオでのインストールの難しさといった経験が活かされた製品になっていると思います。

麻倉 さて、このスタジオは今どのように活用されてるんでしょうか?

北木 今のところは制作作業というよりは、研究目的が中心です。またこの部屋を見学にいらっしゃる方も多いですね。

 弊社ではこれから360 Reality Audioのオーサリングツールも販売しますので、そのデモも行います。360 Reality Audioの場合、自分のスタジオで制作できるという方はまだいらっしゃいませんので、ここでミックスのチェックをしていただければと考えています。

 また360 Reality Audioだけでなく、ドルビーアトモスの制作ツールなども扱っていますので、それらをここで試聴をしてもらうとか、追加のエフェクターについてのデモや試聴、セミナーなどにも活用していきたいと思っています。

麻倉 なるほど、イマーシブオーディオ開発者にとっての聖地になりそうな予感がします(笑)。

北木 また弊社では、フォーカルのスピーカーについて、プロ用だけでなく、ホームシアター用としても展開していきたいと考えています。そのため、全国のインストーラーさんにMIL Studioにおいでいただいて、音を聴いてもらっています。実際にご自宅に導入を検討されている方であれば、ここでのデモを体験してもらうことも検討します。手前味噌ですが、これほどのデモ環境は他にはないと思っています。

麻倉 本当にその通りです。これほど理想的なスピーカー配置で、360 Reality Audioを含めたイマーシブオーディオを体験できる場所は他にありません。しかもフォーカルのクォリティで、ですからね。ではそろそろMIL Studioの360 Reality Audioを聴かせていただきたいと思います。

※MIL Studioでの麻倉さんによる360 Reality Audioのインプレッションは次回お届けします。

画像: 麻倉さんを囲んで、株式会社メディア・インテグレーション ROCK ON PRO Product Specialist 前田洋介さん(左)と、同 Director 北木隆一さん(右)

麻倉さんを囲んで、株式会社メディア・インテグレーション ROCK ON PRO Product Specialist 前田洋介さん(左)と、同 Director 北木隆一さん(右)

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