カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でも話題になった“日韓のコラボ作”

 第75回カンヌ国際映画祭で、主演の韓国俳優ソン・ガンホが最優秀主演男優賞を受賞して話題を集めた『ベイビー・ブローカー』。監督は、『万引き家族』(18年)で同映画祭のパルムドール賞を獲得している是枝裕和だ。そこには、“日・韓の素敵なコラボレーション”への称賛もたっぷり含まれている。

 “赤ちゃんポスト”に預けられた赤ん坊を盗んで売る“ベイビー・ブローカー”を演じるソン・ガンホとカン・ドンウォンは、ヤバい稼業に手を染めているのに、お人好しオーラが漏れてしまうのが微笑ましい。そんな彼らの前に赤ん坊の母親が現れ、結局、3人は赤ん坊を大切に育ててくれそうな“買い手”を探す旅に出る。

 人生を諦めつつもどこか居直りきれない母親役を、“韓国の妹”として愛されるイ・ジウンが演じ、汚れ役に挑戦。そんな3人を尾行するのは、現行犯逮捕を狙う女性刑事。演じるペ・ドゥナは、是枝監督との初コラボ作『空気人形』(09年)とは違うタフな女性になりきっていて、びっくり。

 いやー、とにかく、みなさん巧い! 微細な感情の揺れですら丁寧にさり気なく表現し、時にハラハラさせて、時にほっこりさせて、幸せな余韻を刻んでくれる。まさに、アジアの優れた才能が集結した珠玉作だ。

画像: 左より、カン・ドンウォン、イ・ジウン、カンヌで主演男優賞を受賞したソン・ガンホ。日本の是枝裕和監督のもと、韓国の俳優・スタッフが集い、その才能を遺憾なく発揮している

左より、カン・ドンウォン、イ・ジウン、カンヌで主演男優賞を受賞したソン・ガンホ。日本の是枝裕和監督のもと、韓国の俳優・スタッフが集い、その才能を遺憾なく発揮している

画像: 『空気人形』でも是枝監督とタッグを組んだぺ・ドゥナ(左)と、日本でも大人気となったドラマ『梨泰院(イテウォン)クラス』でトランスジェンダーのシェフを演じたイ・ジュヨン(右)は、3人を追う刑事を演じる

『空気人形』でも是枝監督とタッグを組んだぺ・ドゥナ(左)と、日本でも大人気となったドラマ『梨泰院(イテウォン)クラス』でトランスジェンダーのシェフを演じたイ・ジュヨン(右)は、3人を追う刑事を演じる

 さて、ここで俳優をフィーチャーするなら、当然いまや世界に名を轟かせるソン・ガンホ。担当編集者Sさんからも、「『JSA』 (00年)の頃から好きです」とオススメされたのだが……。

 しかし敢えてというか、やはりというか、イケメン好きの私が注目するのはカン・ドンウォン! どうしても目を奪われてしまうのですよ。正直、40代になった姿を見て「老けたなぁ」とは思うのだけど、その代わり“旨味“が増して、まだまだ私の守備範囲。5月に行なわれたカンヌ国際映画祭のレッドカーペットで、ハウスアンバサダーとなったルイ・ヴィトンのラメ入りタキシードを身にまとったお姿! ファッションアイコンとしても健在であります。

画像: ドンウォンは、過去に傷を抱えるブローカーの片割れ役。お世辞にも裕福とは言えず、劇中はずっと地味な服装で過ごす“普通の男性”だが……

ドンウォンは、過去に傷を抱えるブローカーの片割れ役。お世辞にも裕福とは言えず、劇中はずっと地味な服装で過ごす“普通の男性”だが……

ひとたびカンヌのレッドカーペットに登場すれば、スタイルの良さで派手なスーツもさらりと着こなしてしまう

アイドルのような出で立ちながら、演技への思いを語るまなざしは真剣

 彼を見初めたのは、2005年。映画初主演作『オオカミの誘惑』(04年)の来日記者会見だ。“韓国ではガタイが良くなければスターになれない”と言われた当時にあって、ドンウォンは身長186センチ、体重68キロの長身痩せ型。短めのジャケットに細めのタイという難しいコーディネートもセンス良く着こなして、甘い笑顔を見せる。そんな彼に、「次は絶対に個別インタビューを!」と萌えた。

 そして、その願いは早くも1年後に叶えられた。2006年、『デュエリスト』(05年)の共演者ハ・ジウォンとの来日だったが、ドンウォンにとっては2作目の主演となる『私たちの幸せな時間』(06年)の宣伝も兼ねていた。当然、コメントも死刑囚という難役に挑んだ『私たち~』に熱が入る。

 「死ぬことがわかっているなんていう経験はありませんから、悩みました。監督からは“最後に向かって感情が高まらなければいけない”と言われていて。とにかく最初は淡々と、撮影が進むにつれて感情をむき出しに。でも、どこか違和感があって。そんな時、寝ている間に逮捕されて連行される夢を見たんです。それがすごく怖くて。なんだかその夢を見てから、演技が変わったような気がします」

 物語では、3人の女性を殺した死刑囚と、3回の自殺に失敗した元歌手が、ひょんなことから面会を繰り返すうちに心を通わせていく。

 「恐怖や閉塞感を味わって、もう、二度と死刑囚の役はやりたくないと思いました(笑)。でも、ソン・ヘソン監督のおかげで“演技とはこういうもの”という片鱗を知って、“俳優を続けたい”と、初めて思いました」

 当時、日本では韓流ブームの真っ最中でもあったのだが、それについての考えも聞かせてくれた。

 「ブームに巻き込まれても、絶対に埋もれたくはない。俳優として、いろいろな監督と良質の映画を作っていきたいです!」

 ゆるふわのカーリーヘアに、シルバーグレイのフロックコートを着た、まさに“王子様系アイドル”の出で立ちだっけど、語る顔つきは真剣。そのギャップにちょっとたじろいだ。

是枝監督や中島哲也監督の映画に出たい! 夢が叶った今回の出演

 その後、2010年には兵役入隊直前にも関わらず『義兄弟 SECRET REUNION』(10年)を携えて来日。7年後の2017年には大先輩イ・ビョンホンと共演した『MASTER/マスター』 で、さらにその翌年にも『ゴールデンスランバー』(18年)のプロモーションで来日している。

 じつは『義兄弟』の時に「日本映画に出演したいと思っているけど、日本語がうまくしゃべれないから」と言っていたが、除隊してから勉強したらしく、『MASTER/マスター』の会見では「是枝裕和監督や中島哲也監督の作品に出てみたい」と、かなり具体的な野望と、ちょっぴりの自信を披露してくれた。

 ちなみに、その願いが叶った『ベイビー・ブローカー』のプロジェクトは、ある映画祭で是枝監督やペ・ドゥナ、ソン・ガンホが顔を合わせた6年前=2016年にスタート。ということは、2017年のころのドンウォンの胸には、すでに“夢の実現”が見えていたのかもしれない。

 ともあれ、かつては“恋人にしたい男性No1”だったアイドル俳優が、17年後には世界に注目される魅力的な演技派になっている。これだから美形ハンターはやめられません!

ベイビー・ブローカー

6月24日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:ソン・ガンホ/カン・ドンウォン/ペ・ドゥナ/イ・ジウン/イ・ジュヨン
原題:Broker
2022年/韓国/130分
配給:ギャガ
(c) 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

This article is a sponsored article by
''.