HiVi6月号・2022年夏のベストバイでは、どうやらひと休み状態で格別おおきな動きがみられなかったAVセンターに対して、オーディオコンポーネント全般の動きはけっこう活発だった。とりわけ目立って印象的なのが、デノン製品の躍進ぶりだ。これから市場に出てくる最新モデル3機種がいきなり得票上位にランクインしている。しかもCDプレーヤーDCD-900NEとプリメインアンプPMA-1700NEは、それぞれの部門第1位なのだからちょっと驚いてしまう。

 残るPMA-900HNEだけは第5位にとどまったがここはやむを得ないと思う。なぜなら、第1位に収まったPMA-1700NEと同一価格帯の同一部門に属しており、二択になって票が散るのはむしろとうぜんのことなので。

 念のため記しておくと、選者各人の持ち点数は部門ごとに決まっていて、☆(3点)がひとつ、◎(2点)は三つ、〇(1点)が五つまでである。

 DCD-900NEからみていこう。当機はディスクプレーヤー部門Ⅰに新登場でトップ当選。第2位にはおなじデノンのDCD1600NEが入っている。見事に票が割れたわけだが、よくみれば☆の数はいずれも合計三つ。その意味では互角の評価といってもよいだろう。けれど得票数に差がついた。ここでは、新しさに対する期待がおおきかったからということになりそうだ。前回2021年冬のベストバイに、DCD-900NEはもちろん含まれていない。もともと価格ランクが大幅にちがうので、直接比較することはできないにせよ、あのとき部門トップに輝いたのがDCD-1600NEだったのである。

 

画像1: 上位機の進化点を踏襲したエントリー〜ミドルクラスの雄。デノン CDプレーヤー「DCD-900NE」/プリメインアンプ「PMA-900HNE」「PMA-1700NE」

CD PLAYER
DCD-900NE
¥77,000 税込
2022年6月下旬発売

● 接続端子:アナログ音声出力1系統(RCA)、デジタル音声出力2系統(光、同軸)、デジタル音声入力1系統(USBタイプA)
● 対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜192kHz/24ビット(PCM)、〜5.6MHz(DSD)
● 再生可能メディア:CD、CD-R、CD-RW
● 寸法/質量:W434×H107×D328mm/4.9kg

画像2: 上位機の進化点を踏襲したエントリー〜ミドルクラスの雄。デノン CDプレーヤー「DCD-900NE」/プリメインアンプ「PMA-900HNE」「PMA-1700NE」

DCD-900NEの接続端子は、アナログ音声出力(RCA)、デジタル音声出力2系統(光、同軸)を備える。端子部分は金メッキ加工で、劣化を防ぐ

 

 

注目技術

デジタル/アナログ完全分離構成

画像3: 上位機の進化点を踏襲したエントリー〜ミドルクラスの雄。デノン CDプレーヤー「DCD-900NE」/プリメインアンプ「PMA-900HNE」「PMA-1700NE」

DCD-800NEと比べて筐体を大きくし、デジタル部とアナログ部を完全に分離。さらにアナログオーディオ用電源回路をフルディスクリート化して、周囲の影響を極力排した電源供給を可能にした

評価のポイント

内部レイアウトの変更による音質の向上
弾むように鳴る低域の質感
S/Nが向上したことで、響きが美しい

 

 

前モデルから大きく進化した900シリーズの二機種

 最新製品DCD-900NEは、DCD-800NEの後継機とされる量販ゾーンの CDプレーヤーである。MP3やWMAのファイルを書き込んだディスク再生にも対応するけれど、事実上はコンベンショナルCDに狙いを定めた手堅くシンプルな設計。ローダーメカや電源トランス等は800NEと変わらないのだが、シャーシ構造を改め、奥行方向のサイズを50mm以上拡大して1600NEと同様な基板レイアウトを採用した。これにより生じたスペースの余裕を活かして、基板自体のパターン設計やD/Aコンバーターチップをはじめとする回路素子も一新。さらにデジタル系とアナログ系の分離配置を徹底させることで相互干渉を抑制するなど、800NEから大きく飛躍して音質を磨いた新しい上位モデルになっている。あるいは、実機を見るとUSBのAポートをフロントパネルに装備。この機能を利用し、USBメモリースティックを接続すれば、2.8/5.6MHz DSDや、192kHz/24ビットPCMのハイレゾ再生も可能になる。

 つぎに、PMA-900HNE。型名が示唆するとおり、DCD-900NEとのペア仕様を想定したプリメインアンプで、PMA-800NEの後継機だが、このアンプだけ末尾がNEでなくHNEとされている。NEはNew Era(新時代)のイニシャルだった。加えてのHはなんだろう?

 これはHEOS(ヒオス)のHで、デノンが近年デジタルオーディオ全般で推進している独自のネットワーク機能を取り込んだという意味である。同社のハイファイコンポーネントアンプとして初めて、ヒオステクノロジー搭載を実現したネットワークプリメインアンプ。ハイグレードなアナログアンプとネットワーク機能の一体化には、デジタルノイズの排除など多くの難関があって、簡単に高音質が得られるわけではない。さまざまな経験を積み、試行錯誤を重ねていよいよ統合、ブレイクスルーの時がやって来た、ということのようだ。

 したがって、PMA-800NEの後継機に位置づけられたPMA-900HNEの技術内容を簡単にいえばこのようになる。PMA-800NE相当のアナログプリメインアンプをベースとしながら、800シリーズの中にあった単体ネットワークプレーヤーDNP-800NEに負けない諸機能を移植したもの。それがPMA-900HNEである。

 

画像4: 上位機の進化点を踏襲したエントリー〜ミドルクラスの雄。デノン CDプレーヤー「DCD-900NE」/プリメインアンプ「PMA-900HNE」「PMA-1700NE」

INTEGRATED AMPLIFIER
PMA-900HNE
¥132,000 税込
2022年6月下旬発売

● 定格出力:85W×2(4Ω)、50W×2(8Ω)
● 接続端子:デジタル音声入力5系統(光×3、同軸×1、USBタイプA×1)、アナログ音声入力4系統(RCA×3、PHONO×1[mm/MC])、レコーダー出力1系統(RCA)、ヘッドホン出力1系統(6.3mm)、サブウーファー用プリアウト1系統(RCA)、LAN1系統
● 対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜192kHz/24ビット(PCM)、〜5.6MHz(DSD)
● 備考:HEOS対応 

画像5: 上位機の進化点を踏襲したエントリー〜ミドルクラスの雄。デノン CDプレーヤー「DCD-900NE」/プリメインアンプ「PMA-900HNE」「PMA-1700NE」

PMA-900HNEの背面。スピーカーターミナルはA・Bの2系統あり、バイワイヤリング接続に対応しやすい。光・同軸デジタル入力は、テレビなどの外部ソースからの入力信号を検出すると自動的に電源が入る機能を搭載している

 

 

注目技術

HEOS対応

画像6: 上位機の進化点を踏襲したエントリー〜ミドルクラスの雄。デノン CDプレーヤー「DCD-900NE」/プリメインアンプ「PMA-900HNE」「PMA-1700NE」

デノン・マランツが展開するネットワーク機能「HEOS」(ヒオス)に、デノンのHi-Fi 2chアンプとしては初めて対応した。スマホやタブレットの操作で、NASやUSBからの音源や、Amazon Music、Deezerなどハイレゾ(ロスレス)ストリーミングの再生が可能となった

評価のポイント

ハイレゾストリーミング対応
ヒオス搭載による回路周りのチューニング
上位のPMA-1700NEに迫るサウンド

 

 

 PMA-900HNEの価格は、同800NEに対して一見大幅に上がったようにみえるけれど、その差はヒオスネットワークプレーヤーの価格にほぼ合致している、あるいはむしろすこし割安になったのだと理解すればよいだろう。またCDその他在来のソースを聴きたいときには、ネットワーク回路をオフにすることもできるようになっている。

 ネットワーク機能をさておいたアンプ本来の仕様も細かく見直され、新しくなった。定格出力表示等の主要スペックにおおきな変化はないが、信号系の回路設計が変わって可変ゲインアンプと電子ボリュウムを採用。いっそう高S/Nで安定性も増した実用性能重視の回路構成にしたり、従来ハイエンドクラスの製品のみに使用していたサウンドパーツを導入するなど、音質に関わる改良点は全回路におよんで800NEからヒオス搭載仕様への進化をしっかり支えている。

 

エース級に練られた作りのPMA-1700NE

 今回の新製品3モデルを代表するベストバイ・ナンバーワン機がPMA-1700NEプリメインアンプである。NEシリーズの中では既存のトップエンドPMA-2500NEに次ぐ二番手。約5年のあいだ大健闘したPMA-1600NEに代わるミドルクラスの新たなエース、といった期待を担う注力作だ。弟機の900HNEと異なり、ヒオスは非搭載だが、高性能なUSB DACを内蔵。つかい馴れたTI(テキサス・インスツルメンツ)社の定番素子、PCM1795は、384kHz/32ビットPCMや11.2MHzのDSD信号も受け付ける。

 

画像7: 上位機の進化点を踏襲したエントリー〜ミドルクラスの雄。デノン CDプレーヤー「DCD-900NE」/プリメインアンプ「PMA-900HNE」「PMA-1700NE」

INTEGRATED AMPLIFIER
PMA-1700NE
¥218,900 税込

● 定格出力:140W×2(4Ω)、70W×2(8Ω)
● 接続端子:デジタル音声入力4系統(光×2、同軸×1、USBタイプ B×1)、アナログ音声入力4系統(RCA×3、PHONO×1[mm/MC])、レコーダー出力1系統(RCA)、メインイン1系統(RCA)、ヘッドホン出力1系統(6.3mm)
● 対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜384kHz/32ビット(PCM)、〜11.2MHz(DSD)
● 寸法/質量:W434×H135×D410mm/17.6kg
● 問合せ先:デノン・マランツ・D&M インポートオーディオお客様相談センター ☎0570(666)112

 

画像8: 上位機の進化点を踏襲したエントリー〜ミドルクラスの雄。デノン CDプレーヤー「DCD-900NE」/プリメインアンプ「PMA-900HNE」「PMA-1700NE」

PMA-1700NEもスピーカーターミナルは2系統。PMA-900HNEとの大きな違いは、USBタイプB入力端子を備えていることと、ユニティゲインでAVセンターとの共存が図れるエクストラプリ(メインイン)入力端子の搭載だ

 

 

注目技術

1.新型の増幅回路

画像9: 上位機の進化点を踏襲したエントリー〜ミドルクラスの雄。デノン CDプレーヤー「DCD-900NE」/プリメインアンプ「PMA-900HNE」「PMA-1700NE」

PMA-A110で採用した差動2段アンプ回路であるUltra High Current(UHC)-MOSシングルプッシュプル回路を踏襲。PMA-1600NEの差動3段アンプと比較して、位相回転が少なく発振に対する安定性が高いため、優れた駆動力を実現している

 

2.電子ボリュウムの採用

画像10: 上位機の進化点を踏襲したエントリー〜ミドルクラスの雄。デノン CDプレーヤー「DCD-900NE」/プリメインアンプ「PMA-900HNE」「PMA-1700NE」
画像11: 上位機の進化点を踏襲したエントリー〜ミドルクラスの雄。デノン CDプレーヤー「DCD-900NE」/プリメインアンプ「PMA-900HNE」「PMA-1700NE」

こちらもPMA-A110を踏襲し、同じ電子ボリュウム回路を採用した。機械式ボリュウムで起きやすいギャングエラーを回避し、S/Nの向上に寄与している

 

評価のポイント

PMA-A110譲りのアンプ回路と電子ボリュウム
高性能なUSB DAC機能
やすらぎを感じるハイファイサウンド

 

 

 トータルな回路設計については、900HNEと同様な考えかたで(というよりもこちらが先のお手本リファレンスなのかもしれないが)信号系全体の見直しをおこなっている。キーポイントは、やはり可変ゲインアンプによる電子ボリュウムの採用だ。この新機能をうまくつかうと、ボリュウム回路自体がゲインをもつのだからパワーアンプのムダなゲインを削って信号経路を短縮し、残留ノイズや伝送損失を減らすことができる。原理としては900HNEとまったく変らない。

 でもちがうところがある、と気づくのは、実機のマスターボリュウムを操作したときである。PMA-1700NEのマスターボリュウムは、ふつうのメカニカルボリュウムとおなじく回転ストッパーがあって、右にも左にもそれ以上廻らない。PMA-900HNEのマスターボリュウムはエンドレス回転構造だ。

 ストッパー付きの電子ボリュウムは、ふつうのメカニカルボリュウムと同様に廻すと回転子が移動し、その位置情報あるいは回転角度を可変ゲインアンプに伝えることで音量を制御する。

 それに対しエンドレス回転方式の場合は、廻すことでパルス信号をつくり出し、その数をかぞえる。何回も廻せばパルスの数は多くなる。廻す速さを変えてもパルスの数は変る。つまり回転子の位置や角度などとは関係ないパルス信号の数情報によって可変ゲインアンプの増幅度が変り、音量が決まるというしくみだ。

 どちらの方式でも、ボリュウム素子そのものを音楽信号が通ることはないので、信号線を長く引き回す必要もなく、ボリュウムによる音質の劣化がすくなくなる。電子ボリュウムの利点とされるのはそのことで、位置検出とかパルス制御とかで生じる音質の優劣は原理的にないといえる。

 ただ、むろん馴れもあるだろうけれどホームオーディオの場合、よりつかいやすく便利なのは位置情報がつねに把握できるストッパー付きのほうだ、と筆者は思う。上位機PMA-1700NEのそれがストッパー付きなのは、そのことがわかっているからにちがいないけれど、すべてリモコン、タップ操作の近未来にこんな話はおそらく通じない。手で廻す音量調整器の感触なんて、遠からず旧時代のトリビアになるのだろうか。

 PMA-1700NEには、ハイグレードなデノンアンプならではの特徴がもうひとつ。出力段のUHC-MOS FETである。シングルプッシュブルのすっきり簡易な出力回路を実現したこの素子は、デノンの専売特許というわけではないのだが、たぶん他社に成功例がない。つまりはつかいこなしがむずかしいわけで、ここは長所を伸ばし短所を補うオリジナルな技術とノウハウを、デノンがひとり確立していることの証拠になる。

 このアンプは、直近2ヵ月ほどの短い期間に何度も聴く機会をもった。印象は変わらず。清新さに富んで気持ちのいい、そして肝心なのはつぎの一点なのだが、ほっとするようなやすらぎを覚える、落ち着いたハイファイコンポーネントの音になっている。

 筆者の感覚でいうなら、これは2チャンネルの純オーディオアンプが持っているべきなかなか大切な基本の性格、素養である。話のピントがちょっと外れるかもしれないが、もしもこの種のいわく言い難いやすらぎ感がなかったら、前世紀の真空管アンプなど遥か昔に打ち捨てられているはずなのだ。

 PMA-1700NEはUSB DACが同居するアナログアンプなので、ソースダイレクトのほかに2段階の「アナログモード」切替えがあり、デジタル回路をオフにしたり、パネルディスプレイも消したりすることができる。基本的に奥行描写の深いクリーンな音だし、これらの機能のほどよい効力も聴き取れるのだが、いちばん嬉しいのはUSB入力のハイレゾファイル再生だった。

 「ハイレゾ」と「ほっとするような~」の両立は実のところ困難なことが多い。下手をすれば鋸の目立てそこのけに危うくビラビラなハイレゾトーンが飛び出して驚くわけだが、まともな音源であるかぎり、このアンプはなんと伸びやかで迷いのないサウンドを展開してくれる。ワイドレンジなデジタルオーディオの醍醐味が、素直に感得できるのだ。価格もそれこそリーズナブルでほっとする。

 

試聴ソフト

● CD:『ディス・ドリーム・オブ・ユー/ダイアナ・クラール』『カメレオン/ハービー・メイソン』『ワルツ・フォー・デビイ/ビル・エヴァンス・トリオ』『モーツァルト:協奏交響曲変ホ長調 K.364(320d)/オーデギュスタン・デュメイ (指揮、ヴァイオリン)、ヴェロニカ・ハーゲン(ヴィオラ)、ザルツブルグ・カメラータ・アカデミア』

● デジタルファイル:『ワルツ・フォー・デビイ/ビル・エヴァンス・トリオ』(192kHz/24ビット FLAC)

リファレンス機

● スピーカーシステム:モニターオーディオ PL300Ⅱ
● CDプレーヤー:デノン DCD-SX1 LIMITED
● プリメインアンプ:デノン PMA-SX1 LIMITED

 

 

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