ブルーレイソフトやYouTubeの音楽コンテンツをテレビで見るとき、音をどう再生するかでその印象はガラリと変る。テレビでは中高音が目立ってうるさく感じるのに、アンプとスピーカーをつないだらベースが聴こえてきて、重厚なサウンドだったことに気付いたりする。薄型テレビが主流となりテレビの音は明らかに後退した。近年はその流れも徐々に改善されつつあるものの、オーディオ機器ではないのでやはり限界は隠せない。いっぽう、AVアンプと複数のスピーカーが必須の本格サラウンドはハードルが高く、リビングに入れるのは抵抗がある。サウンドバーという選択肢もあるが、それで音楽を聴くのはさすがに寂しい。できればCDも良い音で聴ける製品を選びたいものだ。

 そんな課題と悩みをすべて解決する製品はこれまで選択肢が限られていた。テレビとつなぐにはHDMIが便利だが、そもそもHDMI端子付きのアンプがピュアオーディオ用だと極端に少ない。

 そんな需要と供給の課題を早い時期に認識し、貴重なHDMI付きのプリメインアンプを入門クラスで提供してきたのがマランツである。2019年秋に発売したNR1200は5入力/1出力のHDMI端子を装備するステレオプリメインアンプで、ストリーミング対応ということもあってヒット作となった。

 

HDMI/ARC伝送に注力。リニアPCM信号を後段セレクターに直接送り出す

 しかし、マランツの開発陣はそこで満足せず、さらに次のステップを目指す。そして、この3月、ミドルレンジ初のHDMI搭載機としてモデル40nを発売した。2020年に発売したモデル30の流れを汲む新デザインを採用し、新開発のアナログAB級アンプを載せるなど、力の注ぎ具合は半端ではない。型番に「n」が付くことからわかるようにネットワークオーディオにも対応。このクラスではディスクプレーヤーのSACD30nが対応しているが、プリメインアンプでは初の快挙だ。価格が近いモデル30はアンプがDクラスでネットワーク非対応と、アンプとしての基本構成がかなり違う。

 

画像1: テレビ音声を芳醇な音で聴く。マランツ モデル40nに搭載された HDMI/ARC伝送の先進性

マランツ Model 40n ¥260,000

● 型式:デジタルファイルプレーヤー内蔵プリメインアンプ
● 出力:70W+70W(8Ω)、100W+100W(4Ω)
● デジタル入力:同軸1系統(RCA)、光1系統(TOS)、HDMI 1系統(ARC)、イーサネット1系統(RJ45)、USB 1系統(Aタイプ)
● アナログ入力:MMフォノ1系統(RCA)、アンバランス3系統(RCA)
● 対応ファイル形式:DSD(~5.6MHz)、AIFF、ALAC 、FLAC、WAV(~192kHz/24bit)、他
● 寸法/重量:W443×H130×D432mm/16.7kg
● 備考:写真の仕上げはブラック、他にシルバーゴールドあり
● 問合せ先:D&Mお客様相談センター TEL.0570(666)112

https://www.marantz.jp/ja-jp/shop/amplifier/model40n

 

 

画像2: テレビ音声を芳醇な音で聴く。マランツ モデル40nに搭載された HDMI/ARC伝送の先進性

テレビの音などを高品位に楽しめるHDMI(ARC)端子の装備が本機最大の特徴。ほかのデジタル系端子も充実しており、ストリーミングサービスに対応したイーサネット入力(RJ45)とデジタル入力(同軸、光)を各1系統備え、Bluetooth、WiFiにも対応する。また、アナログ入力端子3系統に加え、MMフォノ入力、プリ出力、パワーアンプ入力も備えるなどリビングルームにおける様々な聴取スタイルにも対応する。

 

 

 モデル40nのHDMI端子はARC(オーディオ・リターン・チャンネル)に対応しているので、HDMIケーブルをつなぐだけでテレビの音声をすべてモデル40n側でD/A変換し、再生できる。放送やテレビにつないだBDプレーヤーはもちろんのこと、テレビ側が対応していればYouTubeやNetflixなど、ネット動画のコンテンツも高音質で再生できる。そして、ただ再生するだけではなく、本機だけの音質改善策を導入している。どういうことか説明しよう。

 テレビが出力するARC音声はステレオのリニアPCM信号だが、HDMIを介して映像信号や機器操作用の制御信号と一緒に受信機器側のHDMIインターフェースに入力される。一般的なARCではそこでの音質劣化が避けられず、音の鮮度が落ちてしまうことが多い。いっぽう、モデル40nでは受信したリニアPCM信号がHDMIインターフェースをバイパスし、その後段のセレクターに直接送り出されるのだ。筆者もAVアンプなどでARCの音を聴き、レンジ感や情報量に物足りなさを感じた経験がある。そこにメスを入れた設計者はとてもいい仕事をしたと思う。

 ところで、テレビから出力されるPCM信号のフォーマットはいまのところ大半の機種で48kHz/16ビットが上限で、それを超える高音質Blu-rayの音声はいったん48kHz にダウンコンバートされてしまう。これはアンプではなくテレビ側が対応すべき問題だ。映像コンテンツのハイレゾ再生はとりあえず諦めるしかないが、ロスレスのリニアPCMなのでCD相当のクォリティは確保できるはずだ。

 

Model 40nに搭載されるHDMI/ARCについて

マランツ サウンドマスター 尾形好宣

近年、テレビは多機能化し、YouTubeやNetflixなどを楽しむ方が増え、その高音質化を望む声が高まってきました。Model 40nは、それらの要望に応えるべく、初めてHDMI/ARCの音質改善に徹底的に取り組んだモデルです。こだわった点は2つあり、1つ目は、音声信号のショートシグナルパスです。様々な信号に対応するAVアンプでは、音声信号をHDMIインターフェースで経由する必要がありますが、Model 40nは受信する信号はステレオPCM信号のみであるため、直接セレクターで受けるバイパス回路を実現しました。2つ目は、マランツ試聴室に各社のテレビを持ち込み、他の入力ソースと同様の音質チューニングを実施したことです。S/N感やサウンドステージの表現などハイファイ・アンプでの再生に耐えうるクォリティを実現できたと思います。ぜひ、Model 40nをテレビと接続していただき、これまで聴いていた番組や音楽をハイファイな音で楽しんでみてください。

 

 

HDMIケーブルのみ接続。ライヴ音源をステレオ音声でハイクォリティに再現する

 ARCの話題はこのぐらいにして、実際にブルーレイを再生して音を確認してみよう。パナソニックのBDプレーヤー/DP-UB9000と東芝のテレビ/レグザ48X9400Sを本誌試聴室に持ち込み、B&Wの800D3をつなぐ。ミドルレンジのプリメインアンプが800D3をどこまで鳴らせるのか興味津々で、まずはウィーン・フィルの『ニューイヤー・コンサート2022』から「こうもり序曲」を聴いた。冒頭からムジークフェラインザールの天井の高い空間が目の前に広がり、オーケストラは弦と木管のフレーズがきれいに分離。ステージ手前の弦楽器と後方で鳴るベルの音の前後感をリアルに再現する。映像はカメラが寄るので距離はランダムだが、ステレオ音声ではステージが画面のはるか奥まで広がって余韻も伸びやかだ。今回は48型を組み合せたが、あとふたまわりぐらい大きなテレビでも良かったと悔やむ。

 

画像3: テレビ音声を芳醇な音で聴く。マランツ モデル40nに搭載された HDMI/ARC伝送の先進性

試聴システム
BDプレーヤー:パナソニック DP-UB9000
テレビ:東芝 Regza 48X9400S
プリメインアンプ:マランツ Model 40n
スピーカーシステム:B&W 800D3

 

デジタル信号の流れ

画像4: テレビ音声を芳醇な音で聴く。マランツ モデル40nに搭載された HDMI/ARC伝送の先進性

 

 

 次にサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルのブルーレイ(ビデオ)でシベリウスの『交響曲第3番』を再生した。ホールはベルリンのフィルハーモニー。ステージとの自然な距離感やホルンが空間に広がる様子から、ウィーン・フィルとベルリン・フィルの違いが鮮明に浮かび上がる。細部を克明にとらえつつ一体感のある響きなので、カット割が細かい映像とのシンクロ具合も良好だ。レンジは十分に広く、全奏の瞬発力で頭を打つこともない。800D3をここまで鳴らすとは意外だった。

 次にロジャー・ウォーターズ『ザ・ウォール』を再生。このライヴはサラウンドで楽しむべきコンテンツだが、ベースとギターのエネルギーはむしろステレオ再生のほうが強靭で、ヴォーカルもサラウンドより力強く前に出る。挿入される映像とも連動した巧みな編集は何度見ても感動を誘う。ただし、音に妥協したらここまでの高揚感はけっして得られない。

 オペラも音質がカギを握るコンテンツの代表格だ。コヴェント・ガーデンの2017年のライヴで『魔笛』を見る。お目当てはドゥヴィエルが歌う夜の女王だ。この場面はむしろステレオ再生のほうがアリアのディテールを鮮明に聴き取れるし、モデル40nが最高音の輝きを見事に再現し、目と耳が釘付けになった。限界に挑むコロラトゥーラの名唱をテレビの音では聴きたくない。

 最後にレストアされた『真夏の夜のジャズ 4K修復版』を試聴した。モノーラル音声を選んだが、これが驚きの高音質で、ジミー・ジュフリーもアニタ・オデイも一音一音の質感が高く、表情の動きも息遣いも生々しく伝わる。96kHz/24ビットのオリジナルであらためて聴いてみたくなった。

 モデル40nとテレビの接続はHDMIケーブル1本だけ。その簡単な方法を選ぶ組合せが限られていたのは実に不思議なことだ。アンプ側がここまで工夫しているのだから、ぜひテレビメーカーもARC伝送の高音質化に本気で取り組んでほしい。

 

マランツ Model 40nで聴いた音楽ソフト

ニューイヤー・コンサート2022
ダニエル・バレンボイム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ソニー・クラシカル SIXC59)
Blu-ray

画像6: テレビ音声を芳醇な音で聴く。マランツ モデル40nに搭載された HDMI/ARC伝送の先進性

シベリウス:交響曲全集
サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(キング/Berliner Philharmoniker Recordings KKC9137)
4CD+Blu-ray Audio+Blu-ray

画像7: テレビ音声を芳醇な音で聴く。マランツ モデル40nに搭載された HDMI/ARC伝送の先進性

ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール
(NBCユニバーサル・エンターテイメント GNXF1950)
2Blu-ray+DVD

画像8: テレビ音声を芳醇な音で聴く。マランツ モデル40nに搭載された HDMI/ARC伝送の先進性

モーツァルト:歌劇『魔笛』
ジュリア・ジョーンズ指揮コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団 & 合唱団
ミカ・カレス(BS)、マウロ・ペーター(T)、他
(ナクソス・Opus Arte NYDX50182)
Blu-ray

画像9: テレビ音声を芳醇な音で聴く。マランツ モデル40nに搭載された HDMI/ARC伝送の先進性

真夏の夜のジャズ 4K修復版
(カドカワ DAXA5773)
Blu-ray

 

 

本記事はステレオサウンド No.223に掲載されております。

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