NHK放送技術究所は、今週末の5月26日(木)~29日(日)に、「技研公開2022」をオンラインとリアル展示の両方で開催する。ここでは、注目展示の第3回目をお届けする。

(9)オブジェクトベース音響による次世代放送システム

画像: (9)オブジェクトベース音響による次世代放送システム

 8K放送の音声、22.2chが楽しめる展示。ここで何が新しいのかというと、タイトルにもなっている「オブジェクトベース音響」というところ。現在の22.2ch音声にはメタデータが付けられない仕様になっており、放送を受信する側は22.2chでしか受けることができない。しかし、次世代放送システムでは、音声をオブジェクトとして扱え、つまりchごとにメタデータ(詳細情報)を付加することができるようになった。分かりやすい例えを使うと、従来二か国語放送を行なう場合、日本語の5.1chと英語の5.1chの二つの音声素材を用意しないといけないが、オブジェクト化できると、音声の素材に日本語、英語という識別を与えられ、背景音は同じ5.1ch素材が使える、ようになる。中央に展示されている音声卓は、世界初のch(音声トラック・ADM)にメタデータを付加できる製品。

画像: ▲オブジェクトベース音響に対応した音声卓

▲オブジェクトベース音響に対応した音声卓

画像: ▲オブジェクトベース音響の再生デモ。多言語の音声(解説:ナレーション)それぞれにメタデータが付加されていて、その音声のみ切り替えられますよ、というもの。背景の音声(22.2ch)は共用

▲オブジェクトベース音響の再生デモ。多言語の音声(解説:ナレーション)それぞれにメタデータが付加されていて、その音声のみ切り替えられますよ、というもの。背景の音声(22.2ch)は共用

(10)ラインアレイスピーカーによる音場合成技術

画像: (10)ラインアレイスピーカーによる音場合成技術

 小さなスピーカーをたくさん並べて(ラインアレイ)、音声の出し方を細かく制御することで(波面合成)、仮想音源の位置を自在に操り、水平方向の移動感・臨場感をアップさせるという展示。展示では前面(スクリーン裏)と背面に、64個のユニットを並べたラインアレイスピーカーが設置され、仮想音源が自在に動き回る様子を体感できるようになっていた。アンプは一つで駆動しているそうだ。ユニットは1インチのカスタムメイド品。

画像: ▲ユニットは1インチ。スピーカーの幅は3.2mとか

▲ユニットは1インチ。スピーカーの幅は3.2mとか

(11)曲げられる、丸められる、音を出せるディスプレー

画像: ▲30インチのフレキシブルな4K有機ELディスプレイ

▲30インチのフレキシブルな4K有機ELディスプレイ

 薄いフィルム1枚で映像を表示できる、フレキシブルな30インチの4K有機ELディスプレイを使って、さまざまな展示も行なわれていた。30インチシートを4枚組み合わせて(タイリング)60インチの8K画面を作り、後ろに平面スピーカーを張り付けた、音の出るディスプレイや、シートを回転させ縦長で貼り付けたVR的な展示など(サラウンドシステムと組み合わされていた)、楽しめる展示となっていた。

画像: ▲60インチの8Kディスプレイ。裏面に平面スピーカーが貼り付けられていて、画面から音が出る感覚が楽しめる

▲60インチの8Kディスプレイ。裏面に平面スピーカーが貼り付けられていて、画面から音が出る感覚が楽しめる

画像: ▲60インチの8Kディスプレイの裏側

▲60インチの8Kディスプレイの裏側

画像: ▲30インチのシートを縦長にして3枚組み合わせ、扇状に配置することでVR的な感覚が味わえる展示。画面は平面にすることもできる。椅子には振動するデバイスが組み込まれている(ボディソニック的な感じ)

▲30インチのシートを縦長にして3枚組み合わせ、扇状に配置することでVR的な感覚が味わえる展示。画面は平面にすることもできる。椅子には振動するデバイスが組み込まれている(ボディソニック的な感じ)

(12)厚さ0.07ミリ! 紙より薄い有機ELフィルム

画像: ▲0.07mmの有機ELフィルム。RGBの発光は可能になっている

▲0.07mmの有機ELフィルム。RGBの発光は可能になっている

 (11)の展示をより一歩進め、さらに薄いディスプレイを目指して開発されたもの。一般的な有機ELでは、発光に必要な電子の供給にアルカリ金蔵などを使用していたが、これは水分に弱い性質を持つ。そこで、そのアルカリ金属を使わずに電子を供給できる技術を探し、それを確立しました、という展示。水分を除去する必要がないため、より薄い成型が可能になったという。今後は、そこに画素構造を作り、映像を表示する仕組みを盛り込むのが課題という。

画像: ▲ひも状に成型した展示

▲ひも状に成型した展示

(13)コンピュテーショナルフォトグラフィーによる3次元撮像

画像: ▲インコヒーレントデジタルホログラフィー撮像システム。中央の筒のような部分から映像を取り込み、回析素子(液晶とか)で90度曲げて偏光子へと送り込み撮像する。

▲インコヒーレントデジタルホログラフィー撮像システム。中央の筒のような部分から映像を取り込み、回析素子(液晶とか)で90度曲げて偏光子へと送り込み撮像する。

▲デモでは腕時計が撮影されていて、秒針の動きが確認できるようになっていた

 3次元の物体を平面に撮影(静止画)するホログラフィー技術で、動画を撮ろう、より高精細な映像を撮ろう、という技術開発の展示。ホログラフィー撮影では、一度に複数の条件(見る角度の違う)絵が必要になるが、ここに展示されたものは、入力した映像を4つに分解し取得することで、動画の撮影を可能にしたという。現時点では、秒1枚の動画となる。

画像: ▲もう一つのホログラフィー装置。回析素子にDLPプロジェクターの心臓部ともいえるDMDを使い、それを高速駆動させ、反射させた映像を2台のカメラに送り込むという仕組み

▲もう一つのホログラフィー装置。回析素子にDLPプロジェクターの心臓部ともいえるDMDを使い、それを高速駆動させ、反射させた映像を2台のカメラに送り込むという仕組み

画像: ▲少し分かりにくいが、緑の丸が見える部分がDMD

▲少し分かりにくいが、緑の丸が見える部分がDMD

(15)日本語ニュースからの手話CGアニメーション生成技術

画像: (15)日本語ニュースからの手話CGアニメーション生成技術

 日本語のテキストから、CGキャラクターに手話を再現させるという技術展示。手話では、手の動きだけでなく、口の動きも重要になるということで、NHKが持つ豊富なデータベースをAI学習させ、単語の表現だけでなく、会話の表現がスムーズになるように、動き(モーション)を構築させているという。

その他

画像: ▲エントランスホールの奥、入ってすぐ右には、技研キャラクター「ラボちゃん」が出迎えてくれる。会話もできる。AIなので、中の人はいないらしい。

▲エントランスホールの奥、入ってすぐ右には、技研キャラクター「ラボちゃん」が出迎えてくれる。会話もできる。AIなので、中の人はいないらしい。

画像: ▲(2)の「パーソナルデータとコンテンツデータの活用技術」の応用展示として、「NHKラーニング」もあり。これは、NHKでは新たに始めたラーニング=学びのためのサイトで、番組に関連する情報がいろいろと検索でき、関連番組のダイジェストも見られるという

▲(2)の「パーソナルデータとコンテンツデータの活用技術」の応用展示として、「NHKラーニング」もあり。これは、NHKでは新たに始めたラーニング=学びのためのサイトで、番組に関連する情報がいろいろと検索でき、関連番組のダイジェストも見られるという

画像: ▲同じく、(2)の関連展示として、将来は日常生活の中に、ニュースを確認できるデバイスが浸透してきますよ、というもの。洗面台の鏡の上部や、キッチンの吊り下げモニター、壁などに、気になるニュースが常時表示されるようになるでしょう、ということらしい

▲同じく、(2)の関連展示として、将来は日常生活の中に、ニュースを確認できるデバイスが浸透してきますよ、というもの。洗面台の鏡の上部や、キッチンの吊り下げモニター、壁などに、気になるニュースが常時表示されるようになるでしょう、ということらしい

▼関連記事 「NHK技研公開2022」その1はコチラ

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