NHK放送技術究所は、今週末の5月26日(木)〜29日(日)に、「技研公開2022」をオンラインとリアル展示の両方で開催する。

 技研公開は、同研究所の研究成果を展示・発表する場で、一般公開もされることから例年多くの来場者が訪れる人気のイベントだ。2022年は「技術が紡ぐ未来のメディア」がテーマで、世田谷・砧にある同研究所でのリアル展示は3年ぶりになる。

 その一般公開に先駆け、24日にプレス向けの発表会が開催された。今回の発表テーマは「イマーシブメディア」「ユニバーサルサービス」「フロンティアサイエンス」の3分野で合計16に及ぶ。StereoSoundONLINEではそれらについて取材してきたので、注目テーマを順次紹介していきたい。

(1) 放送と通信のシームレスな視聴プラットフォーム技術

画像: テレビ、スマホ、PCなどのデバイスで、放送から配信までシームレスに楽しめるアプリとして提案

テレビ、スマホ、PCなどのデバイスで、放送から配信までシームレスに楽しめるアプリとして提案

 展示の最初は、テレビ放送と配信コンテンツを気軽に楽しめる提案だ。視聴するデバイス(テレビかタブレット、スマホか)や、放送・ネットといった伝送経路に関係なく、シームレスにコンテンツを楽しめる視聴プラットフォーム(アプリ)を提供しようという試みだ。

 「コンテンツポータル」と名付けられたアプリは、各デバイスにインストールして使うことを想定したもので、メニュー画面には各放送局の番組やそれに関連したネットコンテンツが表示されている。

画像: 地デジについては、住んでいる地域に応じたチャンネルがアプリにも表示される予定

地デジについては、住んでいる地域に応じたチャンネルがアプリにも表示される予定

 ここからチャンネルを選ぶとテレビ放送(チューナー非内蔵デバイスの場合は同時配信されているもの)を、ネットコンテンツを選ぶとその本編が再生される。こうすることで視聴者はどれが放送で、どれが配信されたものなのかを気にすることなく番組ザッピングができるというものだ。

 このサービスを実現するためにコンテンツリストサーバーを設置し、ここで放送から配信まで様々なコンテンツの情報を管理する。そしてこの情報とユーザー情報、デバイス情報を組み合わせて快適な視聴環境を実現するのだという。

(2) パーソナルデータとコンテンツデータの活用技術

画像: (2) パーソナルデータとコンテンツデータの活用技術

 ネットコンテンツを視聴するなどの際に、個人のパーソナルデータを使うケースは増えている。ここでは、そんなパーソナルデータを放送コンテンツと結びつける研究が発表されていた。

 とはいえパーソナルデータはプライバシーにつながるもので、その使用には細心の注意が必要だ。今回はパーソナルデータを扱うのはスマホなどのデバイスの中に限定し、PDS(パーソナルデータストア)機能を活用した動画配信アプリとして考えられている。

 クラウド等にパーソナルデータをアップしないため、デバイスのスペックによっては処理時間がかかる可能性もあるが、セキュリティの面から今回はこの形式に落ち着いたという。

画像: 「NHKラーニング」でのPDS活用例。ユーザーの視聴履歴に応じて、準備されたコンテンツの中からお勧めを表示する

「NHKラーニング」でのPDS活用例。ユーザーの視聴履歴に応じて、準備されたコンテンツの中からお勧めを表示する

 また同じくPDSを活用した例として、「NHKラーニング2025」のレコメンド機能も提案されていた。「NHKラーニング」は今年4月にスタートした、NHKが制作するコンテンツを“まなび”という視点で集めて配信するサービスだ。

 現在は表示されたコンテンツをユーザーが選ぶ方式だが、PDSと組み合わせることでその人の関心のある番組をチョイスしてお勧めしてくれるというものだ。視聴済みのものは自動的に排除してくれるので、番組選びも快適になるだろう。

(3) 地上放送高度化に向けた伝送方式と放送サービス

画像: 地デジ1チャンネル分の帯域(6MHz)で4K番組ふたつと2K番組を放送する取り組みも進められている。写真は左が2Kで、右が4K放送。2030年代の実用化を目指している模様

地デジ1チャンネル分の帯域(6MHz)で4K番組ふたつと2K番組を放送する取り組みも進められている。写真は左が2Kで、右が4K放送。2030年代の実用化を目指している模様

 2020年に標準化された次世代圧縮技術のVVC(Versatile Video Coding)を使って、地デジの高品質化を実現しようという興味深い新提案も行われていた。

 具体的には、地デジ1チャンネル分(6MHz)の帯域で4K×2チャンネルと2K×1チャンネルを放送しようというもの(2Kの内容はどちらかの4Kと同じ)。同時にチューナーを持たないタブレットなどでも放送コンテンツを視聴できるように、宅内IPネットワークを利用して配信するホームゲートウェイも開発されている。

画像: (3) 地上放送高度化に向けた伝送方式と放送サービス

 今回のデモでは、6MHzの帯域を36分割し、そのうち8つを2K用、27を4K×2用に使っている。4Kチャンネルひとつでは10Mbpsほどのデータ量になるのだという。会場では10Mbpsで再現した4K映像もデモされていたが、動きの少ないシーンではディテイルまできちんと情報のある映像として再現されていた(圧縮には後述するマルチレイヤー符号化を使用)。

 ちなみに2Kチャンネルは今のワンセグのような位置づけで、4K受信機能を持たないデバイス等で視聴するための配慮だという。なお、この方式ではすべての映像がプログレッシブで圧縮されるとのことで、地デジでも4K/60p、あるいは2K/60pで放送されることになる。

(4) 地上放送高度化に向けた映像・音声符号化技術

画像: VVCのマルチレイヤー符号化に関するデモ。ベースレイヤーで2K映像、エンハンスレイヤーで高精細情報を圧縮することで、2K/4Kどちらも高品位に楽しめる伝送を目指している

VVCのマルチレイヤー符号化に関するデモ。ベースレイヤーで2K映像、エンハンスレイヤーで高精細情報を圧縮することで、2K/4Kどちらも高品位に楽しめる伝送を目指している

 ここでは、テレビからスマホ、タブレットなど様々なデバイスに適した複数の映像を効率的に圧縮できるVVCコーデックの仕組みが紹介されている。

 VVCにはマルチレイヤー符号化という技術が含まれている。これは圧縮する際に、ベースレイヤーと呼ばれる基本符号化映像と、エンハンスレイヤーという拡張符号化映像に分け、その組み合わせで複数の解像度の映像を伝送したり、ベース映像に補助的な情報を重ね合わせたりといったことができるものだ。

画像: こちらは補助情報を使ったデモ。ベースレイヤーで4K映像を圧縮し、そこにエンハンスレイヤーを使った映像を重ね合わせている。エンハンスレイヤーは複数設定できるそうなので、様々な応用が期待できる

こちらは補助情報を使ったデモ。ベースレイヤーで4K映像を圧縮し、そこにエンハンスレイヤーを使った映像を重ね合わせている。エンハンスレイヤーは複数設定できるそうなので、様々な応用が期待できる

 複数の解像度の伝送は展示(3)で使われているもので、ベースレイヤーは2K映像として圧縮しておき、エンハンスレイヤーには高精細情報などを抽出して圧縮する。デコード時にこのふたつを組み合わせることで、高品質な4K映像を再現できるという。

 補助情報を組み合わせる方式では、ベースレイヤーで4K映像を圧縮、エンハンスレイヤーにはスーパーインポーズなどの画像を受け持たせて、テレビ側で補助情報のオン/オフが選べるようにできるという。今のクローズドキャプションが、動画アイコンに進化するイメージなのだろう。

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