映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第76回をお送りします。今回取り上げるのは、アニメ業界の裏側を熱い視点で描いた『ハケンアニメ!』。吉岡里帆演ずる斎藤瞳の奮闘に共感したい。とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『ハケンアニメ!』
5月20日(金)全国ロードショー

 タイトルの“ハケンアニメ”とは、覇権アニメのこと。2010年代の中盤まで数年間ほどネット掲示板を中心に流行した言葉で、各クールに放映されたアニメで最も人気のあった作品のことを指す。

 国立大学を出て県庁の職員をしていたが、自分を導いてくれたアニメ業界への夢を捨てきれず、業界大手のトウケイ動画に入社して7年。初演出作の「サウンドバック 奏の石」にすべてを賭ける新人アニメ監督、斎藤瞳(吉岡里帆)。

画像1: 【コレミヨ映画館vol.76】『ハケンアニメ!』世のなかにはもしかして魔法があるのかもしれない。物づくりの労苦と喜びを伝える胸熱ムービー

 奇しくも土曜日午後5時半という同日同時刻には、伝説の天才監督、王子千晴(中村倫也)の復帰第2作、ライバル社スタジオえっじの「運命戦線リデルライト」の放映が決まっていた。

 ふたりを取り巻く海千山千のスタッフたちとの軋轢や、同じゴールを目指して走りつづける戦い。できあがったものを観る者に、そして過去の自分たちに向けて届ける(簡単には答えの出ない)努力。

 という意味で、本作は作画監督や原画の作成、脚本や撮影監督など細かく担当者が決められたアニメ製作者たちのお仕事図鑑であり、同時に多くの人々にも共通する仕事に対する夢や悩み、喜びを見つめた俯瞰図でもあるだろう。

 ふだんアニメはまったく見ないよ、そんな歳でもないし、というあなたにこそお勧めしたい一本だといえる。予想より歩幅が広いエンターテイメント作品なのだ。

 銀縁の丸メガネをかけ、適度なボサボサ頭でスタジオを駆け回り、夜には電車の座席で疲れた身体を休めるアニメ監督、斎藤瞳役の吉岡里帆を筆頭に、俳優陣がみな好演。

画像2: 【コレミヨ映画館vol.76】『ハケンアニメ!』世のなかにはもしかして魔法があるのかもしれない。物づくりの労苦と喜びを伝える胸熱ムービー

 特にトウケイ動画のプロデューサー役の柄本佑が、新人監督とスタッフたち、製作サイドと外部のスポンサーをつなぐ裏方役で際立つ個性を発揮する。目の上のたんこぶとして何度も瞳とぶつかる彼も、終わりには彼女の主張を支持してスタッフたちを説得するのだ(エンド・クレジットの最後にもうひとひねりがあるので、最後まで離席しないようにしましょう)

画像3: 【コレミヨ映画館vol.76】『ハケンアニメ!』世のなかにはもしかして魔法があるのかもしれない。物づくりの労苦と喜びを伝える胸熱ムービー

 瞳がアパート隣室の男の子に語りかける「この世の中は繊細さのないところだよ。でもごくたまに、君をわかってくれるひとはいる。わかってくれそうな気がするものを見ることもある」という言葉が胸に迫る。あなたもぼくも、苦労してなにかを作ろうとしているのだ。

 原作はメフィスト賞を受賞したデビュー作「冷たい校舎の時は止まる」や、直木賞を受けた「鍵のない夢を見る」、ほかにも映画脚本も担当した「映画ドラえもん のび太の月面探査記」などで人気の辻村深月。

 音楽は池瀬広、音響効果は勝亦さくら。登場人物の失意や喜びにそっと寄り添う音楽の響きがいい。

 中村倫也と組んだミステリー『水曜日が消えた』につづく吉野耕平監督注目の長篇第2作。

 最後には「劇中ポスター協力」として『白蛇伝』(1958)、『ガンマー3号 宇宙大作戦』(1968年)、『安寿と厨子王』(1961年)といった東映が製作した先人たちが残した諸作の名前が流れる。

映画『ハケンアニメ!』

5月20日(金)より、丸の内TOEI、グランドシネマサンシャイン、TOHOシネマズ 日本橋ほかにて全国ロードショー

原作:辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス刊)
監督:吉野耕平
脚本:政池洋祐
出演:吉岡里帆、柄本佑、中村倫也、尾野真千子、古舘寛治、工藤阿須賀、小野花梨、徳井優、高野麻里佳、六角清児、前野朋哉
配給:東映
2022年/カラー/シネスコ/5.1ch/129分
(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

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