ネットワークオーディオプレーヤーを中心にラインナップしてきたLUMIN(ルーミン)は、今では一体型システムやパワーアンプなどまで展開するハイエンドブランドに成長した。
そんなルーミン製品で今回注目したのは、ARCに対応したHDMI端子を持ち、プリアンプ機能まで備えた「LUMIN P1」。多様なデジタル、アナログ機器との接続が可能で、Amazon Fire TV Stickなどを組み合わせれば日本で契約できるハイレゾストリーミング音楽サービスまで楽しめる。今回は特に「Amazon Music」の再生について、さまざまな機器を使って徹底検証してみた。

HDMI対応プリアンプ機能付きストリーマーDAC(写真上段)
LUMIN LUMIN P1 ¥1,694,000(税込、シルバー)、¥1,863,400(税込、ブラック)
●対応信号:最大PCM 384kHz/32ビット、DSD256(22.6MHz)/1ビット、MQAフルデコーディング
●対応フォーマット:DSD(DSF、DIFF、DoP)、FLAC、Apple Lossless (ALAC)、WAV、AIFF、MP3、AAC、MQA
●接続端子:HDMI入力×3、HDMI出力×1(ARC)、USB Type-B×1、USBType-A×1、デジタル音声入力×3(AES、同軸、光)、デジタル音声出力×1(BNC)、アナログ入力×2(XLR、RCA)、アナログ音声出力×2(XLR、RCA)、光LAN端子(SFP)、LAN端子(RJ45)
●デジタル入力対応フォーマット:
USB=PCM44.1〜384kHz/16〜32ビット、DSD128
AES、/OPTICAL/SPDIF=PCM 44.1〜192kHz/16〜24ビット、DSD64
HDMI=4K映像、PCM 2ch
●特徴:TIDAL/MQA/Qobuz/AirPlay/TuneInRadioネイティブ対応(LUMIN App)、すべてのファイルでDSD128及びPCM384kHzアップサンプリングに対応、Leedh Processingロスレスデジタルボリュームコントロール、他
●寸法/質量:W350×H107×D380mm /12kg
モノーラルパワーアンプ(写真中、下段)
WestminsterLab Rei ¥4,400,000(ペア、税込、WestminsterLab 1.5m電源ケーブル付属)
●出力:100W(8Ω)、200W(4Ω)、400W(2Ω)
●周波数特性:5Hz〜40kHz(±0.1dB)、2Hz〜52kHz(-1dB)
●接続端子:バランス入力1系統(XLR)、バランス出力1系統(XLR)
●入力インピーダンス:200kΩ
●出力インピーダンス:0.018Ω
●出力電圧:12Vrms
●寸法/質量:W232×H112×D320mm/16kg
LUMIN P1についてはこれまでにもStereoSound ONLINEで紹介記事が掲載されているが、改めて概要を紹介しよう。横幅35cmのコンパクトな筐体に、ルーミン自慢のネットワークプレーヤー機能を内蔵。デジタル入力は、USB、光、同軸、AES/EBU、HDMI(Ver.2.0、4Kパススルー対応、PCM2ch音声専用)×3を持ち、さらにARC対応HDMI出力を1系統備える。アナログ入出力もバランス/アンバランス各1系統となっている。ネットワーク入力は一般的なRJ45ポートに加え、今話題の光LANケーブルポートも備えている。
DACチップはESS製「SABRE ES9028Pro」を2個使用し、クロックはプレシジョンFPGAによるフェムトクロックシステムを採用する。アナログ入出力やプリアンプ回路はWestminsterLab(ウェストミンスターラボ)と共同開発しているなど、あらゆる面において最先端の機能を備えたオーディオシステムの中核となるモデルだ。
まずはUSBメモリーからの再生で、LUMIN P1の実力を聴かせてもらった。システムはLUMIN P1にパワーアンプのウェストミンスターラボ「Rei」を組み合わせ、スピーカーはモニターオーディオ「PL300II」としている。
ウェストミンスターラボは前述の通りLUMIN P1のプリアンプ機能の設計にも関わっているメーカーで、Reiは同社のモノーラルパワーアンプ。ハイエンドオーディオとしては意外に感じるほどシンプルでコンパクトな筐体に収まっている。

LUMIN P1は豊富な入力端子を備えているのもポイント。今回は背面のUSB Type-A端子に挿したUSBメモリーや、HDMI入力につないだFire TV 4K MAXでAmazon Musicの再生を検証している
まずはテオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナの『チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」』の「第3楽章」(96kHz/24ビット/FLAC)を聴いたが、音場の広がりが見事で奥行豊かな表現は立体的と言っていい。オーケストラの各楽器の配置が見渡せるようだ。S/Nがきわめて良いため、個々の音の鮮明さや響きの余韻まで美しく、ホールに音が広がっていく感じまでよく伝わる。
コントラバスなどの低音楽器は音階どころか楽器の数までわかるようだし、ローエンドの伸びと量感のバランスもまさに元の音のままと言える正確な表現だ。まさしくハイエンドオーディオの表現力で、うっとりとさせられてしまう。
また、宇多田ヒカルの『BADモード』から「One Last Kiss」(96kHz/24ビット/FLAC)を聴くと、ヴォーカルがとても瑞々しい。高い声がきれいに伸びていく様子がとても色っぽいし、ニュアンスも豊かだ。基本的に音調はニュートラルだし、周波数的なバランスもフラットに近い、色づけの少ない音だが、特に中音域の密度の高さが印象的で、ヴォーカルの音像は肉厚で実体感あふれたものになる。
このほかAimerの「残響散歌」(96kHz/24ビット/FLAC)は、うっかりするとガチャガチャとしたやかましい音になりがちなのだが、LUMIN P1を中心としたシステムでは、すべての情報を出し切ったかと感じるほど、ヴォーカルを始めとする個々の音を鮮明に描き、エネルギー感溢れるドラムスやギターの演奏をレスポンスよく再生する。パワー全開の音なのに破綻せず、実にスムーズに鳴らし切る。音楽の持ち味をきちんと描くというか、ハイエンドオーディオの表現力の奥深さを改めて実感するような音に感服してしまった。

Fire TV 4K MAXにはオプションのFire TVイーサネットアダプターを組み合わせ、有線接続で試聴している(写真右)。左のApple TV 4Kも有線でインターネットに接続し、LUMIN P1のHDMI端子に信号を送っている
さて今回のテーマであるAmazon Musicだが、最初に言うと再生にはいくつか制約がある。組み合わせる端末によって挙動が異なるのだが、ハイレゾ品質の音源の再生はいわゆる「ビットパーフェクト再生」にはならず、端末側でダウンコンバート/アップコンバートされてしまう。
この理由はAmazon Music側がオーディオ機器に特化したAPI(Application Programming Interface)の提供をしていないことが主なもので、ルーミンに限らず、その他のピュアオーディオ機器でも同様の制限が生じてしまう。筆者の想像するところでは、AVセンターなど映像・音声を処理できる機器のネットワーク機能では特に制限が生じることもないので、Amazon Music側が音楽サービスのみの対応には消極的で、動画サービスや音声アシスタント機能、家電連携機能まで盛り込んだシステム向けのAPIしか提供するつもりがないのかもしれない。
しかし、ルーミンのユーザーからは“この音質”でストリーミング音楽サービスも手軽に楽しみたいという声があるのも事実。特に日本国内では、ハイエンド機器が採用している海外のロスレスストリーミングサービスが提供されていないことが多く、普及率の高いAmazon Musicを使いたいという要望がでてくるのだろう。それもあって今回は、LUMINP1の多様な入力を活かしてハイエンドのクォリティとストリーミングの両立に挑んでみたわけだ。
具体的に各端末での再生結果と音のインプレッションを紹介していこう。
まずは「Fire TV 4K MAX」で、OSは取材時点で最新のFire OS 7.2.7.3へアップグレード済み。Amazon Musicアプリも最新のバージョン3.4.355.0に更新している。これで、Amazon Music HDのULTRA HD品質(96kHz/24ビット)音源を再生すると、LUMIN P1側では48kHz/16ビットで受けていることが確認できた。その他の音源でもすべて48kHz/16ビットで入力されており、Fire TV 4K MAX側でダウンコンバート出力されてしまうようだ。

Fire TV 4K MAXをLUMIN P1につないだところ
この点はやや残念であり、実際に音を聴いてみてもUSBメモリー再生に比べると、宇多田ヒカルは広がりは豊かだが奥行感がやや寂しく思えるなど、多少の差はあった。とはいえ、LUMIN P1本来の実力が高いので、48kHz/16ビットでもがっかりするような音質にはならない。
ヴォーカルは高域の伸びも美しいし、ニュアンスも豊かだ。低音も弛んだり痩せたような感じになることはなく、よく弾む。オーディオ品質としてはCD相当に制限されてしまうとはいえ、Amazon Music HDの再生としてはかなりレベルの高い音であることは間違いない。
続いては、「Apple TV 4K」。いわゆるネットワークサービス用の端末としては音のよさで評価の高い製品だ。ただし、Apple TV 4Kはハードウェア側の制限で48kHz/24ビットの再生しか行えない。LUMIN P1に接続して再生した場合でも、48KHz/24ビット再生になっていることが確認できた。念のために、Amazon Music HDだけでなく、Apple Musicの音源も再生してみたが同様の結果だった。
そしてApple TV 4KのAmazon Musicアプリ(バージョン1.0.1.126.0)では、楽曲選択時にULTRA HDやHDのアイコンが表示さない(つまり選べない)。どうやらアプリの制限で、ロスレス音源ではなくAAC音源が再生されている可能性が高いのだ。
ただし、音質は決して悪くはない。ハイレゾ音源とCD音源ほどの落差は感じないし、ヴォーカルの再現性や声の伸びの美しさはきちんと出ている。Aimerはイントロから炸裂するリズムセクションのパワー全開の音もパワフルでしかも破綻することなく鳴らし切る。若干メリハリが強めの音になったと感じるが、これはApple TV 4Kの音質傾向が表れたものだろう。

iPhoneやMacBook Airを使ったAmazon Music再生も試した。それぞれをLUMIN P1のUSB Type-B端子につないでおり、iPhoneの場合は別売のLightning-USB3カメラアダプターを、MacBook AirではオヤイデのUSB C→B変換ケーブルを使っている
続いてはiPhoneでの再生だ。iPhone 12のOSは最新のiOS15.4.1に更新済みで、Amazon Musicアプリもバージョン22.4.2.84115としている。なおiPhone12にはLightning端子しかないので、LUMIN P1とUSB接続するためにアップル純正のLightning-USB3カメラアダプターを別途用意した。このアダプターのUSB Type-A端子からLUMIN P1のUSB Type-B端子につないでiPhone12側のAmazon Musicアプリを操作するだけで、すんなり音が再生されている。
この状態で宇多田ヒカルなどの96kHz/24ビット音源を再生すると、192kHz/32ビットでアップコンバート出力されていた。iPhone側でLUMIN P1が受け取れる最上位のサンプリングレートで出力されてしまうようで、CD品質の楽曲を含めすべて192kHz/32ビット出力となる。ビットパーフェクト再生ではないものの、帯域や転送レートとしては高くなっているので、ここはあまりこだわらないで楽しむべきだろう。
音質的にもUSBメモリー再生にかなり近づいたと感じる。宇多田ヒカルでは、滑らかさや瑞々しい感触が出てくるし、音色の正確さや個々の音の実体感もしっかりと出る。Aimerでも、絶対的なエネルギー感がやや大人しくなったような感じこそあるが、パワーに不満はないし、疾走感のあるリズムもキレ味よく再生できている。Amazon Music HDでのULTRA HD品質のクォリティはきちんと再現できていると考えていいし、筆者はiPhoneを送り出し機器としたAmazon Music HDの再生でここまで素晴らしい音を聴いたことがない。
そして最後は、Mac Book Air(M1チップ搭載)。こちらもOSはMacOS 11.3.1、Amazon Musicアプリは9.0.2.2321にバージョンアップ済み。Mac Book AirのUSB Type-C端子とLUMIN P1のUSB Type-B端子をUSBケーブルでつないで、Amazon Musicアプリを操作すればOKだ。
アプリ側で排他モードをオンにしているのだが、最終的に内蔵のオーディオMIDI設定に従っているようで、ここを192kHz/32ビットと設定すると、どの音源も192kHz/32ビット出力になってしまう(今回のLUMIN P1との接続ではオーディオMIDI設定を192kHz/32ビット出力に設定している)。

Fire TV 4K MAXでAmazon Music のULTRA HDコンテンツを再生した場合(HDMI入力)

Apple TV 4KでAmazon Music を再生した場合(HDMI入力)

iPhone12/MacBook AirでAmazon Music のULTRA HDコンテンツを再生した場合(USB Type-B入力)
出力される信号の品位としてはiPhone12と同様なのだが、音質は明らかに上回っていて、声の定位はカメラのピントをより正確に合わせたかのようにフォーカス感が向上するし、音像の厚みやニュアンスの豊かさも生き生きとしたものになる。音の広がりも向上し、ハイレゾ音源を聴いているという実感を楽しめる。
USBメモリーからの再生とは多少音質的な差はあるが、これは、音源をUSBメモリーからダイレクトに受け取っているか、インターネット(無線接続)からストリーミングで受け取っているかという経路の違いに起因するものだと考えられる。
トータルの結果としては、LUMIN P1でAmazon Music HDを楽しむならば、音質的にはMac Book Airがもっとも優れているとわかった。iPhone12での再生も満足度は充分に高いので、iPhoneユーザーならばカメラアダプターを用意してLUMIN P1とUSB接続するのが一番簡単な方法だ。
音質的にここまでUSBメモリー再生に迫る品位が実現できるのであれば、ビットパーフェクト再生にこだわる必要はあまり感じない。いずれにしても今回の組み合わせでHDMI/USB接続する以上は、元の音源がFLACだとしてもPCMでの出力になる。その点を理解して、LUMIN P1を中心としたハイエンド機器のシステムで、Amazon Music HDを充分以上のクォリティで楽しむことの方が重要ではないだろうか。
最後に薄型テレビとLUMIN P1との組み合わせも試した。東芝の48X9400Sと組み合わせたが、どちらもARC対応なので音声はリニアPCM 48kHz/16ビットでの伝送となる(LUMIN P1はAACには非対応)。当然ながら、テレビ放送とは思えないほどの豊かな音だ。高価なハイエンド機器を薄型テレビの外部スピーカー的に使うのもきわめて贅沢な話ではあるが、リビングでオーディオを楽しんでいる人ならば、テレビの音もお気に入りのスピーカーで再生したいと思う事は少なくないだろう。

ディスプレイには東芝のARC対応有機ELテレビ「48X9400S」を使用。スピーカーにはStereoSound ONLINE試聴室常設のモニターオーディオ「PL300II」を組み合わせた
取材時には深夜を想定してかなり小さな音での再生も試した。試聴時の音量から4分の1以下まで絞っても、低音が痩せて非力な音になってしまうようなことはなかった。微細な音が聴こえにくくはなるが、中域の密度の高さもあり、ヴォーカルも鮮明でニュアンスの豊かさがきちんとわかる。これはパワーアンプReiの優れた駆動力の効果も大きいと思うが、小音量でも満足度の高い音を楽しめるのは、近隣や家族への音漏れが気になる人にもありがたいはずだ。
LUMIN P1は音質的な優劣を測定器のように再現するのではなく、楽曲自体の持ち味を引き出してくれるモデルだと強く感じた。だからAmazon Musicの検証で、スペック的にダウンコンバート出力される場合でも、違いはわかるものの、聴いていて不満に感じることはなかった。ストリーミングサービスへの対応や薄型テレビとの組み合わせに対応したということで、そうした点もきちんとケアした製品なのだろう。
これまでのルーミン製品と同様にハイエンドオーディオの優れた実力を持ちながら、幅広いソースにも柔軟に対応するLUMIN P1は、より多くの人に楽しんでもらいたい製品だ。親しみやすいハイエンドという価値は、LUMIN P1の一番の魅力かもしれない。