小椋佳の声の神髄が引き出されたこだわりのSACDとアナログレコード登場

 小椋佳。叙情性に富んだ繊細なメロディと心に深く響く歌声。そしてていねいにつづられた歌詞のもつ陰影と、彼は歌い手であると同時に、一言一言、細やかな心遣いをもって言葉を紡ぐ吟遊詩人と言っていいかもしれない。

 ここで紹介する2作品は、デビューから50年を数え、現在公演中のコンサートツアーを最後に第一線から退く、小椋桂の名曲の中から、ステレオサウンド社がオリジナルでセレクトした15曲を収めたSACD+CDの2枚組と、同10曲収録のアナログレコードである。

 収録楽曲は、NHKホールでの初コンサートを収めた『遠ざかる風景』(1976年)とセルフカバー曲集『彩影』(1987年)、映画『聯合艦隊司令長官 山本五十六—太平洋戦争70年目の真実—』のために作詞を手掛けた「眦(まなじり)」(2011年)などから選出されたもので(詳細は後述)、厳重に管理/保管され、奇跡的と思えるほど状態のいいアナログマスターテープから制作されている。

 音源のマスタリングおよびレコード制作の要とも言えるカッティングの作業は、東京・南青山にある「ワーナーミュージック・マスタリング」スタジオで行なわれた。マスタリング担当は同スタジオのチーフエンジニアの菊地功氏。過去にも幾度か彼の作品を手がけた経験があり、SACD/CD、アナログレコードと、各メディアの特質を知り尽くしたベテランエンジニアだ。

 マスターテープはスチューダーA80テープレコーダーで再生され、そこからダイレクトにマージングテクノロジーズ社製のD/A、A/Dコンバーター・ホルスでアナログからデジタル信号に変換。その際、小椋佳の声質の魅力を最大限に活かすべく、サウンドフォーマットを探りながら試行錯誤を重ねた結果、最終的にはPCM 384kHz/32bit音源をメインマスターとし、以降のマスタリング作業が行なわれた。

 唯一、オリジナルマスターが48kHz/24bit音源だった「眦」は、ミキサーズラボ考案の「Lacquer Master Sound」が用いられた。これはHiViグランプリ2021において「技術特別賞」を獲得した高度な信号処理システム(HiVi1月号33ページ参照)で、この技術を駆使し、今回のSACD/CD/アナログレコード用のマスターデータとなるPCM 384kHz/32bit音源が作られた。

 アナログレコードの原盤となるラッカー盤の製作は、同スタジオのカッティング・エンジニア、北村勝敏氏が担当。スタジオ録音の『彩影』から選曲したA面5曲は、幾度か作業を行なう過程で、前述のマスタリング後のPCM 384kHz/32bitのデータを、さらにホルスでPCM 96kHz/24bitに変換し、プロトゥールスを通して最終的なカッティング用音源が作られた(詳細は後述)。

 いっぽうライヴ音源の『遠ざかる風景』から選曲したB面は、PCM 384kHz/32bitマスタリング音源はそのままにホルスでアナログ変換し、カッティング作業が行なわれた。カッティングはノイマンVMS80とカッターヘッドSX74が使われ、熟練の北村エンジニアが持ち前の技を駆使し、丹精こめてラッカー盤を仕上げている。

 ではSACDから聴いていこう。収録曲は『彩影』と『遠ざかる風景』からそれぞれ7曲ずつ、さらに「眦」を加えた全15曲の収録だ。1曲目の「愛しき日々」。風の音を模した効果音から始まるが、小椋佳が歌い始めて10秒もたたないうちに、アナログマスターの質の高さが実感できる。ヴォーカルの落ち着き、実在感といい、オーケストラの緻密さ、雄大さといい、とにかくその音の鮮度の高さに驚かされた。収録からすでに35年近く経過しているとは信じられないクォリティ感だ。

画像: シングルレイヤーSACD+CD 2枚組

シングルレイヤーSACD+CD 2枚組

Stereo Sound ORIGINAL SELECTION Vol.13 小椋佳
(ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSMS-052/53)¥4,950 税込
●マスタリング・エンジニア:菊地功(ワーナーミュージック・マスタリング)
●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル
      03(5716)3239(受付時間:9:30〜18:00 土日祝日を除く)
●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/recordshop/4571177052780

◾️収録曲
 1. 愛しき日々
 2. 俺たちの旅
 3. 泣かせて
 4. 愛燦燦
 5. シクラメンのかほり
 6. ただお前がいい
 7. 夢芝居
 8. しおさいの詩

 
9. 少しは私に愛をください
10. 揺れるまなざし
11. 白い一日
12. めまい
13. 木戸をあけて
  〜家出をする少年がその母親に捧げる歌〜
14. さらば青春
15. 眦

 8曲目からはNHKホールでのライヴの収録。7曲目までの録音とは10歳ほど若い歌声となるが、その年齢の違いがそのまま歌声から感じとれる。全体にライヴらしい場内の盛り上がり、空間のスケールまで感じさせる自然な収録のサウンドだが、小椋佳の歌声はもとより各楽器の響きの鮮度が高い。

 おすすめは13曲目の「木戸をあけて」。13歳のとき母親に反抗し、家出したときの気持ちを書いた曲を、弾き語りで歌うが、素朴で艶やかな声といい、優しく響くアコースティックギターといい、とにかく心を揺さぶり、深く浸透する。歌の上手さだけでなく、誠実な人柄まで感じさせるような声は、まさに小椋佳の真骨頂といっていいだろう。

 アナログレコードは、A面には『彩影』から大ヒット曲「シクラメンのかほり」をはじめとする5曲を選出。B面には『遠ざかる風景』から我々の心に残る往年の名曲5曲が収録されている。

画像: アナログレコード

アナログレコード

Stereo Sound ANALOG RECORD COLLECTION 小椋佳
(ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSAR-059)¥8,800 税込
●マスタリング・エンジニア:菊地功(ワーナーミュージック・マスタリング)
●カッティング・エンジニア:北村勝敏(ワーナーミュージック・マスタリング)
●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル
      03(5716)3239(受付時間:9:30〜18:00 土日祝日を除く)
●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/recordshop/4571177052766

◾️収録曲
[Side A]
  1. 愛燦燦
  2. シクラメンのかほり
  3. 俺たちの旅
  4. 愛しき日々
  5. 夢芝居

[Side B]
 1. しおさいの詩
 2. 少しは私に愛をください
 3. めまい
 4. 木戸をあけて
  〜家出をする少年がその母親に捧げる歌〜
 5. さらば青春

 実は、このアナログレコードについては、私自身、マスタリングスタジオにうかがい、製作現場の様子を取材している。大元の原盤となるラッカー盤や仕上がってきたテストサンプル盤も数パターン聴かせていただき、私なりの意見をフィードバックさせてもらった。

 特に印象に残っているのは、ラッカー盤のクォリティの高さだ。音の粒子まで感じさせるほどの分解能で、声は息づかいが温かく、汚れがない。そして空気のグラデーションの描き分けがきめ細かく、緻密な響きが奥行方向にスムーズに拡がる様子が清々しい。その生々しさと言ったら、レコーディング現場の気配、雰囲気まで感じさせるほど。ここまで品位の高いサウンドが体験できるとは——。

 基本的な音調はSACDに近いが、微細な響きの重みだったり、空間に浸透していく余韻の深さだったり、アナログレコードならではの懐の深さを感じさせる部分が少なくない。

 『彩影』は、PCM 384kHz/32bit音源をダイレクトにDSD化しているSACDに対して、前述のようにレコードではいったん96kHz/24bitに変換した後、アナログ音源が作られている。これにはいくつかの理由があるが、最大の狙いは小椋佳の声の神髄を引き出すため。実際、私も両者を聴き比べさせてもらったが、この判断は間違いではなかった。96kHz/24bit変換というひと手間が入ったことで、小椋桂本来の伸びやかな声が甦り、目の前に拡がる空間の生々しいこと。繊細さと力強さを併せ持った、優しく語りかけてくる声にすっかり魅了されてしまった。

 熟知した二人の名エンジニアが、小椋桂という偉大なアーティストに対して、特別な想いを抱き、作り上げた意欲作、ぜひ、お聴きいただきたい。

※本記事は「HiVi」2月号に掲載

★StereoSound ONLINE YouTubeチャンネル
「小椋佳の名曲たちはどのようにして音のいいレコードになったのか? その制作秘話とは」↓

画像: 小椋佳の名曲たちはどのようにして音のいいレコードになったのか? その制作秘話とは www.youtube.com

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