葉名恒星監督の映画『きみは愛せ』が、1月28日(金)からアップリンク吉祥寺ほかにて公開される。リサイクルショップで働く無欲な男・慎一(海上学彦)、スナックで働きながら好きな人を待つ毎日を過ごしている慎一の片想い相手・凛(兎丸愛美)、雀荘で働く凛の兄で慎一の同居人の朋希(細川岳)という若者を中心に、兄妹の親代わりをしつつ凛と不倫関係にもある弘志(髙野春樹)なども登場する濃厚な群像劇で、カナザワ映画祭と金沢市竪町商店街が2019年から発足させた「期待の新人監督スカラシップ」第1回作品に選出され、企画製作された話題作だ。

 凛を演じる兎丸愛美は、『シスターフッド』『COME & GO カム・アンド・ゴー』等でも鮮烈さをふりまいていた要注目の存在。以前どこかで見た覚えがあるなと思ったら、ラブリーサマーちゃんの名曲「私の好きなもの」のMVに出演していたり、フレデリック「オワラセナイト」のMVで、あわつまいと共に不思議なダンスを踊っていたことに気づいた。それから約5年が流れ、役者・兎丸愛美は開花の時を迎えている。早速、話を聞いてみよう。

画像1: 「愛ってなに?」「好きってなに?」。東京から遠く離れた小さな町を舞台に描かれる、痛くて、儚くて、もどかしい、彼らの青春の最終章『きみは愛せ』

――話題の映画『きみは愛せ』がいよいよ公開されます。拝見しているうちに、僕は切なくなったり苦しくなったり、最後のところではちょっと嬉しくなったりしました。
 私も観ていて苦しかったですね。演じていた時も苦しさはあったんですけど、それよりも観ている時の方が苦しさ倍増でした。愛について悩んでもがき苦しむ姿がリアルに描かれているんじゃないかなと思います。“愛”って聞くと、なんか美しいものって感じが私はするんですけれども、そんなことのない、すごくてドロドロして醜いところをあえて描き出している。美しいだけじゃない部分が捉えられていて、好きだなと感じました。

――葉名恒星 監督はどんな感じの方ですか?
 役者に寄り添ってくれるタイプの方です。すごく優しい中に、ちゃんと一定の距離が保たれていて、本当に演技以外の話は一切しなかったですね。常にだれにも敬語で、ていねいに演出してくださいました。

――撮影されたのは新型コロナウイルスがはびこる前ですね。
 そうです。撮影は確か(2020年)1月末で、コロナが多分3月とか4月ぐらいに流行り出したので、いいタイミングで撮影はできたなと思いました。2週間ホテル暮らしだったんですけれども、毎日現場があるわけではなく、ちゃんとお休みとかもいただいていたので、金沢滞在も楽しみつつ撮影することができました。

 私がいた時の金沢の天気は基本、曇っているか雨だったんです。ずっと晴れている日はなかったんですが、朝のちょっとした時間、ほんの少し光が差したり、夕方に陽が一瞬差したりする。それがすごくきれいに見えて、なんか人生を感じました。

――人生とは、ちょっと光が差し込むようなものだと……。
 そうですね。私は、人生はそう常に晴れているわけではないと思っています。

画像2: 「愛ってなに?」「好きってなに?」。東京から遠く離れた小さな町を舞台に描かれる、痛くて、儚くて、もどかしい、彼らの青春の最終章『きみは愛せ』

――兎丸さんは「凛」という女性をどんな方だと捉えて、演技なさいましたか?
 凛ちゃんは、愛し方を知らないけれども、これが愛だって信じ込んでしまっている女の子だと思います。愛するということをよく分かっていないから、「分かんない」というセリフがけっこう多いです。両親がいなくて、愛を受け取ってこなかった。だけど愛に飢えているわけではないんです。まわりにすごく愛されていますから。弘志さんの前では本当の自分を出そうと思っていて、それ以外の人には、ちょっと仮面をかぶるというか、明るくて、天真爛漫で、いつも笑顔で、みたいなキャラクターを演じている。暗い部分、本音の部分も含めて全部見せたら嫌われちゃうだろうみたいな恐れを持っているから。でも、弘志さんには、暗い部分が漏れ出しても構わない。そういうところは意識して演じました。

――弘志は、凛にとって特別な存在なんですね。相手や場所によってルックスを変えたり、シチュエーションによって声にすごみを聞かせたり、個人的にはズル賢い奴という印象を持ちましたが、彼女は彼のことを信頼している。
 凛ちゃんには、彼の前だからこそさらけ出せる部分があるんですよ。凛ちゃんとお兄ちゃんの朋希が小さかった頃から、面倒を見てくれていたのが弘志さん。だから、本当に本当に 2人は弘志さんが大好きなんです。でも弘志さんは凛にとっての父親のような役割も持ちつつ、肉体関係にもなってしまって。洗脳するみたいにもなっていくんですが、家族みたいな存在でもあるから、ちょっとイヤな部分を見ても、そんな簡単には嫌いになれない。

画像3: 「愛ってなに?」「好きってなに?」。東京から遠く離れた小さな町を舞台に描かれる、痛くて、儚くて、もどかしい、彼らの青春の最終章『きみは愛せ』

――兎丸さんはinstagramで「愛するってささやかなしあわせをだれかと分け合うことだとわたしは思います。この作品の中で生きる凛も慎一も朋希も、この作品を見て苦しくなってしまったひとも、みんなみんなしあわせになってほしいです」と書いていました。
 幸せについて考え始めたのは、けっこう最近です。『シスターフッド』という映画がきっかけになって……インタビューのシーンがあったじゃないですか、その時からですね。幸せという概念を、誰かに勝手に決めつけられる理由はない。幸せにはいろいろな形があっていい。誰かに“おまえは幸せだな”って決めつけられるのってイヤでしょ?

――そうですね。俺の心の状態くらい俺に決めさせてくれ、と思います。
 私は、なんとなく幸せそうじゃないって思われがちなんですよ。なんでしょう、分かんないんですけどね。でも、そう言っている人はすごくいるんですよ。“私はかわいそうじゃないし、ぜんぜん不幸せじゃないから”って、幸せをテーマに写真集(「きっとぜんぶ大丈夫になる」「しあわせのにおいがする」)を作ったりしました。写真は今でも撮っています。

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――これまで取り組んできた役柄の影響もあるのでしょうか。ハッピーな兎丸さんがスクリーンで観られたら、外からのイメージが変わっていくはずです。
 よくインタビューで“演技していて、どういう時にわくわくしますか?”や“楽しいですか?”と聞かれるんですけど、私はまだ分からないので、早くそういうのを感じてみたい、知りたいという気持ちがあります。だからもっと幅広い演技をしてみたいです。私も今年で30歳ですし、母親役もやってみたいです。写真も撮り続けたいし、演技も続けたいです。このあいだ共演した舞台役者さんが私の声を褒めてくださって励みになりました。私はどちらかというと自分の声が嫌いなんですけど……。いつか舞台にも挑戦してみたいです。

――話している時に自分の脳内で響く声と、録音物を通じて聴く自分の声は、まったく別物のように感じられますから。
 笑い声が大きくてすごく響く、とはプライベートで言われます。どこにいても笑い声が聞こえると(笑)。でも、普段はけっこう声は小さいので、何を言っているのか分からない、みたいな感じかもしれません。

――『シスターフッド』や、ミュージシャンの曽我部恵一さんと共演した『三つの朝』など、数々の作品に出演されていますが、幼い頃から映画や演技はお好きだったのですか? 特に思い入れのある作品や役者は?
 私はそんなに映画を観ないほうだと思います。憧れる役者さんがいるわけでもないですし。ただ『ダンサー・イン・ザ・ダーク』はすごかった。(4Kデジタルリマスター版で)劇場上映されているのは知っているのですけど、ちょっと怖くて、まだ行けていません。大学生の時に初めて観てからトラウマだし、本当に好きな作品でもあるので。

――いろいろなバンドやシンガーのMVにも登場されていますが、音楽については?
 中学校高校大学と電車通学中、毎日のようにART-SCHOOLやSyrup16gを聴いていました。自分の暗い部分に寄り添ってくれるような音楽がすきです。

――自分の出演した作品のDVDを集めたり、自分の活動歴を細かくファイルしていくタイプですか?
 いいえ。出演作品のパッケージを棚に並べるようなこともしないですね。そういう蒐集力はないですけど、自分のポートレートは飾っています。お花も一緒に飾っているので、友達からは“仏壇かよ”って言われますけど(笑)。

画像5: 「愛ってなに?」「好きってなに?」。東京から遠く離れた小さな町を舞台に描かれる、痛くて、儚くて、もどかしい、彼らの青春の最終章『きみは愛せ』

――『きみは愛せ』の話に戻しますと、屋上のシーンに僕はすごい希望を感じました。あの後3人はどうなっていくのか。兎丸さんはどう予想しますか?
 凛ちゃんと弘志さんの間の子供は、できれば産んでほしいかな。でも凛ちゃんがすべてを背負わなくてもいいと思っています。でも、彼女はきっとあの街から離れるんじゃないかな。たぶん一人で暮らして、本当の愛を探して行くと思います。凛ちゃんはこれから始まる感じがすごくしますね。一回あったものを前に進むために手放して、ようやく新たなスタートを切る。慎一さんは分からないな~、どうなるんでしょう?

画像6: 「愛ってなに?」「好きってなに?」。東京から遠く離れた小さな町を舞台に描かれる、痛くて、儚くて、もどかしい、彼らの青春の最終章『きみは愛せ』

――働いているリサイクルショップに置いてあるシタール(インドの弦楽器)を弾くのではないでしょうか。
 シンプルにすごくいい人なので、しばらく凛ちゃんがいなくなって心にポッカリ穴が開くと思いますけど、またちゃんと他人を好きになれるんだろうなって。慎一さんはちょっと、愛し方が複雑なだけなんですよ(笑)。朋希に関してはずっと元カノのことが好きなんじゃないかと。それはそれで私はとてもいいなと思っていて、ずっとその彼女のことを好きでいてほしいという願望はあります。弘志さんは、奥さんがしっかりされているので、なんだかんだいっても奥さんの元に戻るんじゃないでしょうか。

――弘志はズル賢い奴ですから、たぶん何度も同じような悪さを……。
 いや、そんなに悪者でもないですよ。凛ちゃんだからそういう態度をとったんだと私は感じています。そんなめちゃめちゃ悪い奴じゃないと思うんですけどね。まあ、それほど弘志さんは凛ちゃんが好きだったのでしょう。

――という間にも『きみは愛せ』の公開が近づいて来ました。最後にもう一度、コメントをお願いいたします。
 『きみは愛せ』というタイトルは恋愛映画みたいですけど、私は恋愛映画ではないと思っています。恋愛じゃなくて、愛の映画。愛について考えることって普段あまりないじゃないですか? 私も普段は考えていません。だけど、この映画を観ると、やはり愛について考えたくなってしまうんです。みなさんが愛についてどう感じるのか、ぜひ観に来てほしいと思います。

画像7: 「愛ってなに?」「好きってなに?」。東京から遠く離れた小さな町を舞台に描かれる、痛くて、儚くて、もどかしい、彼らの青春の最終章『きみは愛せ』

映画『きみは愛せ』

1月28日(金)よりアップリンク吉祥寺、2月12日(土)より金沢・シネモンド ほか 愛知・シネマスコーレほか全国順次公開

【キャスト】
海上学彦 細川岳 兎丸愛美 高野春樹 田中爽一郎 花影香音 白子 川添野愛 宮城大樹 南ユリカ

【スタッフ】
脚本・監督:葉名恒星
企画・製作:一般社団法人映画の会竪町商店街振興組合
制作:HANAOHANACO Co.
配給:映画の会
宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
配給協力:シネマスコーレ、ミカタ・エンタテインメント
2020/日本/ビスタ/103分
(C)2020「きみは愛せ」製作委員会

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