ネットワークプレーヤー(ストリーマー)の人気ブランドとなったルーミンは現在、「X1」「T2」「U1」「U1 MINI」など多くのネットワークプレーヤー/トランスポートを発売している。そこに今回、たいへん嬉しいニュースが飛び込んだ。コストパフォーマンスに優れたアンプ内蔵一体型モデル「LUMIN M1」が登場したのだ。
コンパクトオールインワンオーディオシステム
LUMIN M1 ¥176,000(税込、シルバー)、¥193,600(税込、ブラック)

●対応フォーマット:DSD(DSF、DIFF、DoP)、FLAC、Apple Lossless (ALAC)、WAV、AIFF、MP3、AAC、MQA
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:リニアPCM=44.1kHz〜384kHz/16〜32ビット、DSD=最大5.6MHz
●接続端子:Ethernet(1000Base-T)、USB Type-A×2系統(シングルパーティションFAT32/exFAT/NTFSのみ対応)、スピーカー端子(4mmバナナプラグ対応)※付属のUSBアダプターを使ってアナログ入力2系統(RCA、3.5mmミニジャック)を追加可能
●出力:60W×2(8Ω)、100W×2(4Ω)
●寸法/質量:W361×H58×D323mm/4.5kg
ロサンゼルスと香港に拠点を持つPixel Magic Systems Limited社が、「LUMIN」ブランドを立ち上げてネットワークオーディオに参入したのが2013年。当時の日本のネットワークオーディオ事情といえば、ネットワーク再生黎明期からの脱却を図る途中で、国内外から少しずつネットワークプレーヤーが発売されていた時期にあたる。しかし率直に言うとユーザビリティやネットワーク上の安定性に難がある製品も少なくなかった。
そのような中、ルーミンのネットワークプレーヤーは、上述した要素の安定性に優れ、iOSやAndroidデバイスにインストール可能な専用操作アプリ「LUMIN App」のユーザビリティも高く、スコットランドのオーディオメーカー、リンが発売するDSと共に、飛び抜けた存在だったことを鮮明に覚えている。
僕は、先進的な考えとそれを実現する高度な技術力に感銘を受け、当時のフラグシップモデル「S1」を導入、現在もX1をリファレンスの1台として使用している。
話をM1に戻すが、本モデルは、アンプ内蔵の一体型ネットワークプレーヤーであり、小型かつ同社製品群の中でもっとも安価なモデルである。
M1の開発意図は、進化するデジタルソースに対し、最新の内容を備えながら、価格を抑えること、そして直接スピーカーを接続することで、DSDを含む多くのファイル/ストリーミング音源の再生をシンプルな構成で実現することだという。

「M1」のリアパネルはひじょうにシンプル。入力は写真右にあるUSB Type-A端子がふたつとLAN端子で、あとはスピーカー出力のみ
シャーシサイズは横幅361mm。他の機器と組み合わせる必要のない一体型機は、特にコンパクトなシャーシによる設置の自由度が魅力だ。本体カラーはシルバーとブラックから選択できる。フロントパネル中央部には他のルーミン製品と同じく美しいブルーの表示部を備え、左右には電源ボタンとボリュウムが備わる。
背面部にはRJ45の有線LAN、2系統のUSB Type-A端子、アース端子、そして1組のスピーカー端子が備わる。この内容を見る限りM1はまさしくファイル再生やストリーミングに特化した一体型機といった面持ちである。ただし、裏技的な付属パーツを使うとアナログのオーディオ信号も入力可能だ(後述)。
対応ソースについては、デジタルファイルは、NASを利用するネットワーク再生や本体背面に挿入したUSBメモリーからの再生が可能で、レゾリューションについては、DSDは5.6MHz(DSD128)、PCMは最大384kHz/32ビットに対応している。
ストリーミングサービスは現時点でTIDAL、Qobuz、Spotify(SpotifyConnect)に対応し、Amazon Music HDへの対応予定もアナウンスされている。
昨年から一部のオーディオ製品が対応する「TIDALコネクト」(Spotify Connectと同様にストリーミングメーカー純正アプリを使用してストリーミングを聴取する)については、現在対応を検討中とのこと。またRoon Readyで、AirPlay接続も可能な充実した内容だ。

今回はM1を土方さんの自宅オーディオルームに持ち込んで、JBLのフロアー型スピーカー「L100 Classic 75」と組み合わせている
興味深い点としては、M1を含むルーミン製品は、ロスレスのインターネットラジオを聴取できる。局によりレゾリューションが違うが、現時点では44.1/48/96kHz/16ビットのクォリティで47のロスレスラジオ番組が楽しめるほか、「Mother Earth Radio HiRes」という局では96kHz/24ビットで試聴できる。
ネットワークプレーヤーの肝ともいえる操作アプリは、LUMINN Appが利用できる。本アプリはユーザビリティの高いOPEN HOMEにも対応することが特長だが、それだけでなくルーミン独自規格での動作が可能で、レスポンスやユーザビリティを高めている。
M1が搭載するアンプは、クラスDアンプで、8Ωでは60W、4Ωでは100Wをギャランティする。開発陣によると、ただアンプを乗せただけではなく、アンプモジュールの選定や、回路の高品質化には特に力を入れたそうだ。
そのアンプモジュールには、定評のあるTI社の「TAS5614A」にベースに熱対策された「TAS5624A」を左右チャネルごとに搭載し、MOS-FETと組み合わせることで電力効率を上げ、さらに新型のゲートドライブ方式の採用により、低出力信号でのアイドル損失を減らし、ヒートシンクサイズの小型化に成功。最終的にコンパクトなシャーシへの搭載を可能とした。
一体型のネットワークプレーヤーで気になるのがボリュウム回路だが、DACチップの機能を使う一般的なデジタルボリュウムではなく、丸め誤差を排除し情報損失がないと同社がアナウンスする「Leedh Processing Volume Control」を搭載している。

「M1」の操作は専用アプリの「LUMIN App」から行っている。ハイレゾ音源やストリーミング再生、ボリュウムコントロールなどすべてがアプリから可能
今回、M1を自宅の1Fにある試聴室に持ち込み、クォリティチェックを行なった。スピーカーにはJBL「L100 Classic 75」を組み合わせたが、ストリーミングサービスやデジタル楽曲ファイルを聴くだけなら、あとは、iPhoneやiPadなどの操作端末を用意すれば完結してしまう。接続もシンプルで、LAN環境さえあれば、M1にLANケーブルを接続して、あとはスピーカーとM1を接続するのみだ。
今回はRoonや高品位なNASからのネットワーク再生も試したいので、前者にはRoonサーバーの「Nucleus」、後者にfidata「HFAS1-XS20」も投入した。
しかしここにきて、一抹の不安がよぎる。L100 Classic 75は30cmウーファーを搭載したフロアー型スピーカーだ、見るからに小さいM1がどこまで駆動できるだろうか?
まずはストリーミングサービスQobuzから、アデル「Easy on me」(44.1kHz/24ビット)を聴取する。本楽曲は録音のよさからポップスのリファレンスとして使用している。楽器の質感表現や空間の見通し、ヴォーカルのリアリティやバックミュージックとの対比、ベースの重量感など聴きどころも多い。
音が出た瞬間にまず感じたのは、JBLのスピーカーが、聴感上元気に鳴っていることだった。イントロのピアノタッチは明瞭に聞こえるし、透明かつ適度な音色のよさもあり聴き応えがいい。
ヴォーカルのリアリティについても中々のもので、2本のスピーカーのセンターに彼女の口元がピンポイントに浮かび上がるし、前後の定位、すなわちバックミュージックに対する浮かび上がり方も立体感がある。

主な試聴機器
●ネットワークプレーヤー・アンプ:ルーミンM1
●スピーカーシステム:JBL L100 Classic 75
●スイッチングハブ:SOtM sNH-10G(別売の電源、クロックも使用)
●ミュージックサーバー:フィダータHFAS1-XS20
●Roonサーバー:Roon Nucleus
ベースなどの低域表現については、さすがにハイパワーなセパレートアンプで鳴らすような圧倒的なローレンジの伸びこそないが、立ち上がりの表現に優れている。本スピーカーでここまでの表現ができるなら、ブックシェルフタイプやトールボーイスピーカーであれば、さらに満足できる駆動力を発揮してくれるはずだ。
続いてハイレゾ楽曲ファイルを使ったネットワーク再生から、オーケストラの山田和樹、読売日本交響楽団『マーラー:交響曲第1番 ニ長調「巨人」/花の章』(96kHz/24ビット/FLAC)を聴いた。
帯域バランスは、ごくわずかにハイとローが上がる元気のいいサウンド。聴感上、各楽器のディテイルも立って立体的に聞こえる。サウンドステージの広さや奥行もソースに忠実。
いいなと思ったのがLeedh Processing Volume Controlの品質で、特に音量を絞った際、以前のデジタルボリュウムを採用した機器で感じる情報量の欠落による分解能の低下が抑えられている。
筆者はJBLのスピーカーを鳴らすときに、X1とファーストワットのパワーアンプ「f7」を組み合わせる、いわゆるプリアンプレスのシステムをよく使っている。この構成だとLeedh Processing Volume Controlにより、情報量の欠落は最小限に抑えられ、部品点数が少ないファーストワットの鮮度の高い音を活かすことができるからだ。本ボリュウムは、プリアンプを使う、使わないという、以前からのオーディオ的探究心に一石を投じるクォリティが備わっている。

付属の「アナログ音声キャプチャー用USBアダプター」。写真右のアナログ入力にレコードプレーヤー(フォノイコライザーを経由したうえで)などをつなぎ、左のUSB Type-A端子をM1の入力につなげばいい
話は戻るが、LUMIN Appは「音源表示」「プレイリスト」「再生中の楽曲情報の表示」というネットワーク再生に必須の3要素を1画面内で表示できるし、当然ボリュウム調整もできる。
アプリ内で再生指示からボリュウム調整までできるとなると、なかなか煩雑な操作系には戻れない。これも一体型の強みだ。ちなみにM1本体の設定も本アプリ内で行える。
M1の魅力は、評価の高いルーミン製品と同一のソースとユーザーインターフェイスに対応していること(DSDは5.6MHzまで)。ハイレゾやストリーミングを楽しめる最先端のプレーヤーでありながら、高品位なアンプとボリュウムを搭載することで、一体型として音質を担保していることは高く評価したい。最後はRoonを用いて、大好きなジャズをJBLのノリのいい音で縦横無尽に聴き尽くした。
余談となるが、付属の「アナログ音声キャプチャー用USBアダプター」を使えば、アナログ音声の入力も可能なので、フォノイコライザー内蔵レコードプレーヤーと組み合わせるといった発展性も期待できる。
それにしても何よりも嬉しいのは、この内容を持ちながら、かなり戦略的な価格を実現していることだろう。素晴らしくコストパフォーマンスが高いM1は大注目の一台である。