香港中に愛された巨匠、ベニー・チャンの遺作

 『レイジング・ファイア』は、香港アクション映画好きには感涙の必見作。オススメ・ポイントは限りない。

 まずは、ドニー・イェンとニコラス・ツェーが15年ぶりに“ガチ”で共演! “正義の警官”ドニーと“復讐に燃える元警官”ニコラスが繰り広げる死闘! 監督は香港アクション映画の巨匠ベニー・チャン! しかも8年ぶりに手掛けたお得意のポリス・アクションは、銃撃戦にカーチェイスはもちろん、大スケールの市街戦、激しい肉弾戦やナイフ・バトルなどなど。とにかく香港アクションの醍醐味がてんこ盛り! しかも繊細な人間ドラマの織り込みも巧みで、洗練された語り口。まさに「ベニー・チャンの集大成」とドニーが言い切る傑作なのだ。

 そしてなにより、ニコラスが「ベニー・チャンとニコラス・ツェーの命がけのアクション映画は、もう作ることができないからね。香港はベニー・チャンを永遠に失ってしまった」(プレスシートより)と言うように、本作は2020年8月に亡くなる直前まで編集をしていた、ベニー・チャンの遺作。巨匠が最期に魂を込めた<香港アクション映画の真髄>にひれ伏すばかりだ。

画像: ドニー・イェン(左)×ニコラス・ツェー(右)の超人的な身体能力を活かしたアクションは必見だ。スタント・コーディネーターは、アクションファンおなじみの谷垣健治氏

ドニー・イェン(左)×ニコラス・ツェー(右)の超人的な身体能力を活かしたアクションは必見だ。スタント・コーディネーターは、アクションファンおなじみの谷垣健治氏

画像: ニコラス・チェーの役どころは、ドニー・イェン演じる警察官と敵対する、不気味で冷酷な殺人者。彼の背負う過去が、ストーリーのドラマ部分を盛り上げる

ニコラス・チェーの役どころは、ドニー・イェン演じる警察官と敵対する、不気味で冷酷な殺人者。彼の背負う過去が、ストーリーのドラマ部分を盛り上げる

19歳当時の貴重なインタビュー音源を発見!

 本作の公開を前に、手持ちの資料を捜索。ありましたよ、ニコラス・ツェーのインタビューを録音したMDが。いまやICレコーダーが録音機器の主流だけど、1999年当時はカセットテープより軽量のMDが最先端。そこで聞き直してみると、19歳のニコラスの声も懐かしいけれど、なにより22年の時を経て“なるほど、こうなったのね”と私的な納得が得られて、感無量だった。

 1999年10月。ニコラスはベニー・チャン監督作『ジェネックス・コップ』(日本公開2000年2月26日)を携えて来日した。この映画出演第2作目は、共演のスティーヴン・ウォン、サム・リーと共に、香港映画の未来を担う次世代スターの集合作として脚光を浴びた超大作アクション。落ちこぼれの新米警官3人が、エリック・ツァン演じる一匹狼の刑事にリクルートされて、仲村トオル演じるテロリストと戦う展開だ。その壮絶なアクションは言わずもがなで、メイキング映像でも、2階からの落下シーンなど、本当に痛そうだった。

 「落ちたシーンは、本当に骨が折れたかと思った。あれ程の痛みは生まれて初めてだから“僕の役をブラック・アウトさせるか、殺してくれ”って言ったけど、もちろんベニーには無視された(笑)。ベニーは現場で“あれやって”、“次はこれやって”とは言うけれど、説明的なことは言わない。最初に出会った時に、なぜ僕を選んだのかも尋ねたけど、ニコニコ笑っているだけだった。ひたすらアクション映画が好きな、子供のように純粋な人。大好きだよ」

画像: 『レイジング・ファイア』撮影現場でのベニー・チャン(左)とニコラス・ツェー(右)

『レイジング・ファイア』撮影現場でのベニー・チャン(左)とニコラス・ツェー(右)

スター俳優の父が作った借金を返済するために香港芸能界へ

 7歳からカナダの寄宿学校で暮らし、15歳の頃アメリカに。そこで「恩人だった」という日本人男性と出会い、数年間は日本に滞在していたこともある。だからインタビューは流暢な英語と日本語まじり。

 「アメリカに行った頃はすごく不安定な時期で、気持ちが爆発寸前。何かをぶち壊したい、とか思っていた。でも、アリゾナ州のフェニックスにある中古屋の前でドラムを見つけて。無性に叩きたくなって、モヤモヤをドラムにぶつけて……。それがきっかけで、日本に音楽の勉強をしに行った感じかな。あの頃は家族もゴタゴタしていたし、やんちゃで悪ガキだった」。

 そこで、すかさず「いまもやんちゃ坊主でしょ?」というと「ぐふッ、そうだね」と苦笑い。

 当時、両親が離婚したうえに、スター俳優だった父パトリック・ツェーの莫大な借金騒動も勃発。結局、ニコラスが香港の大手エージェントと契約し、借金返済をすることになったのだが。

 「正直に言うと、お父さんが住んでいる家も、乗っている車も借金で買った。スターであるお父さんにはメンツがあるからね。だから、そのメンツを守るために、僕が香港に戻ってショービジネス界で働くことはぜんぜんかまわない。もともとやりたいと思っていた音楽活動もできるし、絶対に嫌だった俳優業も、ベニーとの出会いですごく面白いと思ったし。これからは好きなことをやっていく。人生は短いからね」

 今になってインタビューを聞き直してみると、「偉いねぇ」とか「まだ19歳なのに、人生は短いなんて言っちゃダメ」とか合の手をいれつつ、根掘り葉掘り聞き出している自分が、お節介な親戚のおばちゃんのようで赤面するばかりだ。

画像: 19歳の“やんちゃ坊主”だったニコラスが書いたサイン

19歳の“やんちゃ坊主”だったニコラスが書いたサイン

画像: 『レイジング・ファイア』メイキングより、すっかり落ち着いた風情のニコラス

『レイジング・ファイア』メイキングより、すっかり落ち着いた風情のニコラス

ベニー・チャンとの出会いで開眼し、押しも押されぬアクションスターへと成長!

 ともあれ、ベニー・チャンとのコラボによって<アクション俳優ニコラス・ツェー>が覚醒したわけで、その後も『香港国際警察/NEW POLICE STORY』(04年)や『インビジブル・ターゲット』(07年)、『新少林寺/SHAOLIN』(11年)などで組みつつ、技を鍛え上げてきたのだ。

 そう、『ジェネックス・コップ』を撮り終わったニコラスは、「この作品ではなんの準備もしなかったけれど、次からはスタント・コーディネーターに特訓してもらってから撮影に臨みたい」と、アクションへの意欲を見せていた。「ハリウッドと違って準備期間のない香港では、撮影現場で学んでいくしかないけどね」と言っていたけど、後にワールドテコンドー(WT)を習得。そのキレキレのアクションは、本作でも見惚れるばかりだ。

 ちなみに、20代になってから現在まで、11歳年上のフェイ・ウォンとの恋や復活愛、その間には“交通事故の替え玉事件”や、セシリア・チャンとの結婚&離婚などでメディアを騒がせたことはあったけれど、いまや不惑。41歳になったニコラスは、美青年だったころの面影もスタイルそのままに、深みのあるアクション俳優としてスクリーンで大暴れ。これからの香港映画界を担うスターとして、ぜひとも頑張って欲しいなぁ。

レイジング・ファイア

12月24日(金)TOHOシネマズ日比谷 他 全国公開

監督・脚本・プロデュース:ベニー・チャン
主演・アクション監督・プロデューサー:ドニー・イェン
出演:ニコラス・ツェー/チン・ラン
スタント・コーディネーター:谷垣健治
原題:怒火・重案
2021年/香港=中国/126分
配給:ギャガ
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