D/Aコンバーター(DAC)と言えば、近年のデジタルオーディオにおける中心的な機材のひとつだ。ハイレゾ楽曲ファイル再生に加え、ストリーミング再生が活況となっている最新シーンでもその存在は大きく、事前の予想を超えるクォリティのモデルに出会うこともたびたびある。今回紹介するaune audioのヘッドホンDACアンプ「X1sGT」オーディオ・クロックジェネレーター「XC1」もそうだ。

aune audio
ヘッドホンアンプ/USB DAC/プリアンプ
「X1sGT」(写真右)
¥40,900(税込)
11月20日発売

オーディオ・クロックジェネレーター
「XC1」
¥38,900(税込)
11月20日発売

画像: ▲aune audioの新製品「X1sGT」(写真右)と「XC1」

▲aune audioの新製品「X1sGT」(写真右)と「XC1」

「X1sGT」は、ヘッドホンUSBアンプ「X1」シリーズの第8世代となる製品。USB接続なら、最大 PCM 768kHz/32bit、DSD512、同軸接続では384Hz/24bit、DoP128のデコードに対応する。一方の「XC1」は、OCXO(水晶発振器)を搭載、10MHzのクロック信号を発振できるクロックジェネレーターとなる。

 aune audio は、2004年に6人のメンバーによって中国で設立されたオーディオメーカー。設立当初は、コストパフォーマンスの高いプロフェッショナル向けオーディオ機材が好評を博し、その勢いのままにコンシュマー市場に参入。現在は、DAC、デジタルトランスポート、DAP(デジタル・オーディオ・プレーヤー)ポータブル/据え置き型ヘッドホンアンプなどをラインナップしている。

 本企画のレビューを担当することになった僕は、同社のオフィシャルウェブサイトをつぶさに見てみた。同社の製品は比較的、というかはっきりいってかなり安価だ。

 一昔前までこのような製品は、安価なだけあって音質はそこそこ、ましてや所有欲を掻き立てられるようなものは少なかった。しかし、今回レビューした「X1sGT」と「XC1」は全く違っており、おおいに感心した。

 まずは2台の外観を見ていただきたい。近年のエントリークラスのオーディオ製品のトレンドに合わせたコンパクトなシャーシ。そしてデザインがたいへん洗練されている。2モデルとも、正面から見ると左右中央が窪み、天板は平面ではなくわずかに湾曲しており、面と角のアールの付け方のセンスも良い。エルゴノミクスかつオーディオ機器としての品位を両立する絶妙なバランスでデザイン構築されている。

画像: ▲「X1sGT」

▲「X1sGT」

画像: ▲「XC1」

▲「XC1」

 さらに言うなら、「X1sGT」の方は、入力やクロックの接続を表すLEDやボリュームが赤色で統一されておりカッコ良い。ベテランオーディオファイルなら理解していただけると思うが、ブラックボディと赤のLEDの組み合わせはマインドを刺激してくれる。チープさとは無縁で、おそらく優秀なプロダクトデザイナーが参画しているのではないか。この美しいラインがさらに映えるシルバーモデルを選択するのも良い。

 そしてスペック面でも、両者とも価格を感じさせない充実した内容だ。「X1sGT」は、プリアンプ機能も持たせたヘッドホンDAC。aune audio はDAC製品に強く、「X1」シリーズはすでに8世代目となっており、シリーズ累計10万台を超える出荷実績を誇っているという。

 内部構成については、ESSテクノロジーの「ES9038Q2M」DACチップに、ADI社のPLL(Phase Locked Loop)チップを組み合わせた独自のコア技術が注目ポイントで、ヘッドホンアンプ部はBipolar junction transistor(BJT)を採用したディスクリート構成となる。

 入力端子は、USB、同軸デジタル、光デジタルを装備。出力端子は、RCAインターコネクトのライン出力と、音量可変のできるRCAのプリアンプ出力の2系統をそれぞれ搭載することにこだわりを感じる。またヘッドホン端子も充実しており、6.35mm標準ジャックによるアンバランス出力に加え、4.4mmのバランス出力も搭載。さらにクロック入力端子も搭載し、「XC1」等のクロックジェネレーターから10MHzのクロック信号を受け取ることが可能である。また、電源供給にはDCアダプターを利用する。

 対応レゾリューションも最新のトレンドを網羅しており、PCMは768kHz/32bit、DSDは512(22.4MHz)までサポートしている(USB接続の場合)。

画像: ▲「X1sGT」のリア端子

▲「X1sGT」のリア端子

 一方の「XC1」もご紹介しよう。本モデルはaune audioのエントリーラインとして新たに発売される10MHz対応のワードクロックだ。安価ながら、高精度のOCXO(水晶発振器)と低インピーダンスかつ低歪みでノイズレベルも低いパナソニック社製フィルムコンデンサー「ECPU」を搭載することもトピック。クロック出力は4系統を備えている。

画像: ▲「XC1」のリア端子

▲「XC1」のリア端子

価格を超える精密なサウンドで、コストパフォーマンスはとても高い

 今回は自宅の試聴ルームに、「X1sGT」と「XC1」を設置して試してみた。トランスポートには、イギリスのiFiオーディオから発売されたデジタル出力が可能なストリーマー(ネットワークトランスポート)の「ZEN Stream」を使い、「X1sGT」とUSBケーブルで接続。さらに「X1sGT」と「XC1」をBNCのクロックケーブルで結び、10MHzのクロック信号を「X1sGT」に入力している。

 今回は「X1sGT」のプリアンプ機能を生かし、RCAケーブルでLINNのパワーアンプ「MAJIK 6100」と直結。そして筆者が新規導入したスピーカーのJBLの「L100 Classic 75」を、MAJIK 6100の4チャンネル分のアンプでバイアンプ駆動した。

 余談だが、「X1sGT」は背面にあるRCA端子のアウトプットを表す文字が一部上下逆になっている。これはケーブルの接続時に、シャーシ正面に立って下を覗き込むように見下ろした場合、ちょうど上下が反対になるので、認識しやすくする配慮だ。さらに、付属のUSBケーブルは、端子が金メッキされた太めのしっかりとしたものが同梱される。これらはちょっとした配慮かもしれないが、同社のオーディオマインドが感じとれる部分で嬉しくもなった。

画像: ▲「X1sGT」と付属のUSBケーブル

▲「X1sGT」と付属のUSBケーブル

 とは言っても、トランスポートからDAC、クロックを入れても10万円少々の構成だ。音質はどうだろうか?

 結論から言えば、いわば安価なオーディオ製品としてのイメージとは違う、思った以上の音質を持っていることが分かった。

 ハイレゾファイルのホセ・ジェイムス「リーン・オン・ミー」(44.1kHz/24bit FLAC)から『ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス』を再生すると、1つ1つの音がクッキリ、ハッキリとした質感を持っており、音のディテイルが立体的。ベースは膨らまないが弾力感のある、正々堂々とした音だ。無論、価格が大幅に高い製品と比べれば、絶対的な音の分解能やステージング表現は控えめになるが、この価格帯でここまでの音質が実現できるなら、コストパフォーマンスは高いと言って良いだろう。

 気に入ったのは、エントリークラスの製品で時折感じる意味のないブライトな質感がなく、正攻法の音だということ。ソースに対してアキュレイトに表現しようとする姿勢が音から伝わってくる。また、クロックを入れた効果もしっかりと現れており、ボーカル音像とバックミュージックの描き分けや、立体感などが向上する。

 クロック「XC1」の効果も確かなものだ。接続しクロック信号を入力すると、ディテイルに明瞭さが出てくる、バックミュージックに対して、センター定位するボーカルの骨格が上がる、まるで写真のピントがさらに合ったような効果があり、ベースラインも僅かながら立体的になる。「XC1」も安価だが、しっかりとした音質向上を聞き取れた。

画像: ▲ケーブルや電源を交換してチューンナップすると、その期待に応えたサウンドを奏でてくれた

▲ケーブルや電源を交換してチューンナップすると、その期待に応えたサウンドを奏でてくれた

 と、ここまでは一般的な試聴だ。しかしそのコスパの良さに「工夫次第でもっと音質を上げられるのではないか」と考え、筆者の所有する周辺機器を動員して、色々と試してみた。USBケーブルをサエク・コマースの「STRATOSPHERE SUS-020」に、最も気になったDCアダプター(電源)は、Ferrum Audioのクリーン電源「HYPSOS(ヒプソス)」に交換して、電源を供給する事にした。

 「3万円代の製品にここまでやるか?」なんて思われる方もいるだろう。しかし、様々な音質向上アイテムを試したくなるオーディオ的な魅力を「X1sGT」と「XC1」から感じたのだ。

 そして、結果は期待を裏切らなかった。ホセ・ジェイムスは、一聴して中高域のノイズフロアが下がり、今まで若干スポイルされていた小レベルの音の分解能が上がり、ボーカルやキックドラムに立体感が出てきた。音がより良くなったことに嬉しくなる。

画像: ▲試聴システム一覧

▲試聴システム一覧

 この状態で、JBLで聴く大好きなハードバップジャズは最高だ。リー・モーガンが1958年に出した「Candy」のハイレゾファイルを再生したが、トラック1、楽曲冒頭のアート・テイラーのスネア、タム、キックドラムは、スピーカーの持つキレの良さも後押ししてグルーブ感が秀逸。リー・モーガンのトランペットの砲口が、鋭く前へグイグイと飛び出してくる。良質なアナログレコードを聴いているようなグルーブの高さも感じるといったら大袈裟かもしれないが、この音が聴ければ充分満足できる。ちょうどこの状態で、取材に訪れた編集部メンバーに聴いてもらったのだが、価格を言った時の感心した顔が忘れられない。

 ヘッドホンアンプとしての音質もチェックした。ULTRASONE(ウルトラゾーン)の「Signature STUDIO(シグネチャー スタジオ)」を使って、帯域バランスや質感表現、左右の距離感の正確性を確認したところ、ソースに忠実な帯域バランスで、ライン出力同様、低域を無碍にブーストすることもないことが分かった。中高域のフォーカスや音色の艶やかさなはもう少し欲しいかなとも思ったものの、モニター調の質感は好ましく感じた。

音質・操作性・デザイン、そして価格の4拍子が揃ったお買い得モデル

 「X1sGT」と「XC1」は、音質はもちろん、そのユーザビリティ、そして全くチープさを感じないデザインなどから、オーディオ製品として良いものを作ろうとするメーカーの強いマインドを感じ取れる逸品である。

 2000年代前半は、パソコンと組み合わせて使用することが多かったDACだが、昨今では、fidataやDELAなどのミュージックサーバーや、デジタル出力専用のトランスポートと組み合わせることで、ハイレゾ楽曲ファイルやTIDAL、Spotifyなどの定額ストリーミングサービスを、高音質かつ手軽に楽しめるようになった。このようなシステムを安価で手軽に構築してみたいと思ったら、「X1sGT」と「XC1」は積極的に選択肢に入れて欲しい組み合わせだ。ヘッドホン専門のユーザーが、スピーカーシステムをデスクトップで試す懸け橋にもなるだろう。

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