アストロデザインが音頭を取って開設された、YouTubeチャンネル「8K Video Album」。様々な立場で8K映像に関わる業務を行っている7社(団体)が、幅広いジャンルの8Kコンテンツをより多くの人に体験して欲しいという思いからを立ち上げたチャンネルだ。

 本連載ではその構成メンバーに、どんな観点から8Kに関わり、また8K Video Albumにどんなコンテンツを提供しているのかについてインタビューを実施している。後編ではメ〜テレ、株式会社ジョイ・アート、株式会社ブライセンの3社へのインタビューを紹介する。(編集部)

「技術がメディアを規定する」という信念で8Kに取り組む「メ〜テレ」

●インタビューに対応いただいた方:メ〜テレ(名古屋テレビ放送株式会社) 技術局 設備戦略部 主事 兼 コンテンツビジネス局 イベントコンテンツ部 原 大智さん

麻倉 次はメ〜テレ(名古屋テレビ放送)さんですね。メ〜テレさんは8Kへの取り組みも早く、地方局の8Kの雄として私も色々な取材でお世話になっています。まず、なぜここまで8Kに熱心に取り組まれているのかからお聞かせ下さい。

 メ〜テレの原と申します。弊社は名古屋の放送局のため、放送用コンテンツとしては2Kを主軸において番組作りをしております。7〜8年前から4Kや8Kにも注目しながらコンテンツ制作に取り組んできました。というのも弊社にはNex’BNという次世代を検討するプロジェクトがあり、「技術がメディアを規定する」という考えのもと、新しい技術にはどんどん取り組んでいくべきだと感じているからです。われわれ技術担当も8Kの映像表現に可能性を感じていましたので、取り組んでいるうちに加速度的に8Kコンテンツが増えてきました。

麻倉 具体的にはどういった番組を制作されたのでしょう?

 当初は花鳥風月が多かったのですが、一昨年頃は8Kの3Dコンテンツを作りましたし、去年は8Kドラマにも初挑戦しました。コンテンツとして残せて、また地デジでも放送できる番組として作成しました。

麻倉 「8K Video Album」にはどんな番組を提供しているのですか?

 花火の映像です。3年ほど前に、ウェブ等での流用も想定して8Kで製作しました。ちょうどアストロデザインさんの8Kカメラを購入したばかりでしたので、暗い環境でどれくらいの絵が撮影できるかといった画質評価を兼ねてトライしたものです。

麻倉 アストロデザインさんの8Kカメラを最初に導入したのがメ〜テレさんでしたね。このコンテンツで一番こだわったポイントはどこでしょう?

 8Kだから特に撮り方を変えるということはなかったのですが、海辺の花火大会でしたので、花火の細かい部分や色再現などがしっかり再現できるといいなと考えていました。

麻倉 なるほど。今後はどんな映像を撮っていこうとお考えですか?

 風景作品に留まらず、番組やドラマ等、様々なコンテンツに取り組みたいと考えています。8Kでユーザーに届ける伝送路が放送局としてもなかなかありませんので、「8K VideoAlbum」などを通して多くの方に体験していただきたいと考えております。

麻倉 ネイティブな8K映像という意味では、エンドユーザーが目にする機会はなかなかありませんからね。YouTubeでそのチャンスが増えていくのはいいことだと思います。これを活用することで皆さんの8Kへの製作意欲が増えていくことを期待します。

 ありがとうございます。

画像: 8Kをより身近に楽しめるYouTubeチャンネル「8K Video Album」に注目! 様々な映像のプロが送り出す高精細映像とはどんなものなのか?(後):麻倉怜士のいいもの研究所 レポート63

 今年8月に発表された22.2ch Chair Style Speaker「TamaToon SA-1852」も体験させてもらった。

 SA-1852は、ユーザーをドーム状のシェルが取り囲んでおり、その内側に24個のスピーカーが理想的な配置で内蔵されている。これを使えば、BS 8K放送等で採用されている22.2ch立体音響を楽しむことができるわけだ(別途22.2chのデコーダーやアンプは必要)。

 今回は8K大画面テレビの目の前にSA-1852を設置し、録画した8K番組を麻倉さんに体験してもらったところ、「きわめて繊細な情報再現力を備えつつ、リアルスピーカーならではの包み込むような没入感を体験できる空間」との感想でした。

 SA-1852では、22.2chだけでなく2chステレオやDolby Atmosの再生も可能。またアストロデザインでは22.2chデコーダー「MA-1851」も発売済みで、SA-1852とこのデコーダーを組み合わせて使うことも推奨している。

画像: 取材時は、アストロデザイン株式会社 代表取締役社長 鈴木茂昭さん(写真右)に、SA-1852や前編で紹介したHDMIケーブルテスター「CT-1860」+「CT-1860-HDMI」について解説していただいた

取材時は、アストロデザイン株式会社 代表取締役社長 鈴木茂昭さん(写真右)に、SA-1852や前編で紹介したHDMIケーブルテスター「CT-1860」+「CT-1860-HDMI」について解説していただいた

舞台をより多くの方に知ってもらう手段として8Kを活用「ジョイ・アート」

●インタビューに対応いただいた方:株式会社ジョイ・アート 代表取締役 越智 陽一さん

麻倉 ジョイ・アートさんの「坊っちゃん劇場」については、アストロデザインの鈴木社長からも色々とお話を聞いています。8Kコンテンツでは有名な存在ですね。

越智 ありがとうございます。弊社は2015年に鈴木社長から提案をいただいて、舞台芸術を8Kカメラ一台で撮って、それを大型スクリーンで上映することで、舞台を再現出来るのではないかという実験を続けてきました。

 これまで国内外の作品を20タイトルほど撮影しました。それらを集めて「アジア8K映像演劇祭」を4年前から開催しています。ロシア、韓国、台湾の作品も上映して、現地からも演劇祭に参加していただいています。そこで『銀牙 -流れ星 銀-』という作品を上映しましたが、これはBS8Kでも放送されました。

 また、ここ3年くらいは2,5次元ミュージカルにもスポットを当てていて、6〜7作品を上映しました。秋葉原や板橋でも上映会を行いましたが、若い方々には生の舞台を観ているようだと喜んでもらいました。コロナ禍でライブが難しい、あるいは全国ツアーができないといったこともあって、8Kで撮影したものをプロジェクターで上映するといったニーズがあることを主催者側に強く感じてもらうことができ、追加撮影のオファーもいただいています。

麻倉 2.5次元というと、どういったコンテンツになるのでしょう?

越智 漫画やアニメの舞台化作品とお考え下さい。こういった作品ではファンには推しメンが必ずいます。2K解像度の舞台映像では主役級の出演者のアップで画面を構成していたので、他のメンバーは写っていませんでした。しかしわれわれは8Kのワンカメラで舞台全体を捉えていますから、推しメンをずっと観ていることが出来ます。

麻倉 舞台と同じような楽しみ方が出来るという意味では、コロナ禍のエンタテイメントとして、新しい可能性を提示していますね。

越智 舞台は生の公演をお客さんに直接観てもらうのが大則だけど、それにこだわってより多くの方に観てもらうことが出来ないのもどうかと考えていました。なんとか生舞台に近い形で観てもらう方法はないかということで、8K映像が役に立つのではないかというところからスタートしました。

 ただ舞台役者さんに8Kで映像化したいと相談しても、なかなか同意していただけなかったのです。その時私は、昭和30年代に相撲をテレビ放送しようと考えた時の例を出して説得しました。当初は相撲協会もテレビ中継したら誰も国技館に相撲を見に来なくなると反対したのですが、実際には全国に相撲ファンが広がって国技館に来る人も増えたというのです。

 このように、多くの方に知ってもらう、普及の手段としての映像化は必要だと思っています。コロナ禍以降舞台関係者の意識も変わって、映像化にも肯定的になってきました。舞台を映像化してそれを配信で観てもらうのも価値のある方法だと考えるようになったのです。

麻倉 コロナ禍という状況もあるでしょうが、相撲と同じで多くの人に知ってもらう価値に気がついたのでしょうね。

越智 これをきっかけに新しい演劇ファンを育てていくことが必要だと思います。とはいえ粗い映像では舞台の息づかいまでは伝えられません。8Kで撮ることで舞台の臨場感が再現でき、生の舞台の雰囲気を伝えられるわけで、舞台関係者にもそこが分かってもらえれば、このムーブメントは広がっていくのではないかと思っています。

麻倉 「8K Video Album」にはどんなコンテンツを出されているのでしょう?

越智 愛媛のお祭りの映像を公開しています。松山の鉢合わせ、西条祭りのだんじりといったものですが、どれも8Kならではの迫力を感じていただけると思います。8Kなら担ぎ手ひとりひとりの表情までわかるんですが、実際の現場ではここまではっきりと観ることはできません。

麻倉 確かに、こんなに迫力のあるお祭り映像は初めてです。

越智 普通は御神輿のアップを撮影するのですが、今回は8Kの引きの映像で撮ってみたら、御神輿の周辺で担ぎ手が喧嘩をしている様子まで捉えていました。また観衆の中にアストロデザインの鈴木社長がいらっしゃったそうで、後からスクリーンで確認したら、ちゃんと写っていたそうです(笑)。

麻倉 引きの映像でありながら、アップにすれば細かい部分まで判別できるのは8Kのメリットですね。ちなみに今後、舞台映像を「8K Video Album」で公開していく予定はあるのでしょうか?

越智 著作権などがクリアーできれば可能性はありますが、有料サイトか無料サイトかなど細かい点も確認が必要です。今後はそこをどう解決していくかがテーマでしょう。

麻倉 有料でもいいから推しメンの舞台を観たいというファンは、全国にたくさんいるはずです。今回のYouTubeをきっかけにそういった展開も期待したいですね。ありがとうございました。

画像: アストロデザイン本社の8Kシアターにて、8K Video Albumを上映してもらった

アストロデザイン本社の8Kシアターにて、8K Video Albumを上映してもらった

社会に役立つ8Kという、新しい視点での展開を探る「ブライセン」

●インタビューに対応いただいた方:株式会社ブライセン ロジスティクス本部 シニアエンジニア 青木 順伸さん

麻倉 最後はブライセンさんですね。まず、ブライセンさんはどんな会社なのかから教えていただけますでしょうか。

青木 ブライセンの青木です。弊社はAIを活用した映像処理を手がける会社で、工場での検品といった産業関連の映像処理を行っています。弊社社長の藤木優が8Kはこれからの未来だと捉えていて、高解像度映像を利用して産業で役立つようなものを作りたいと考えております。また8Kをもっと知ってもらいたいという思いから、コンテンツ制作も手がけています。

 これからは、8KとAIを使った人の自動認識や、工事現場などで重機に人が近づいた時にアラートを鳴らすといった危険予測、事故防止などでの8K映像の利用などに可能性を感じています。

麻倉 それは新しい視点での8K展開ですね。そんなブライセンさんは、どんなコンテンツを「8K Video Album」に提供されたのでしょう?

青木 今回はCG作品が中心です。『HOSHI_short ver』は、8Kでどんなことができるのかのテスト映像として制作したもので、粒子をどこまで細かく再現できるかを探りました。普段は2K映像が多いので、8Kではマシンパワーが必要だということもよくわかりました。他にも雨の日比谷公園を捉えた『RAINY DAY_Hibiya Park in Tokyo』などを公開しています。

麻倉 『HOSHI〜』はファンタジックというか、宇宙の深みまでわかる楽しい内容ですね。雨に濡れた日比谷公園の木や水の表現も生々しい。

青木 『SHOWBIZ』はダンサー向けのプロモーション映像として作ったものです。生演奏とダンサーのパフォーマンスを8Kの一発撮りで撮影したものですが、クライアントさんも8Kで撮影しておくと、将来的にも映像が色あせない、という点を評価してくれました。

麻倉 先進的なコンテンツ製作として、これからあるべき姿ですね。8Kで残しておけばどんなコンテンツにも使えますからね。

青木 これらのコンテンツを撮影する傍らで、工事現場やトンネルのヒビなどを8Kで撮影し、そこから危険予測を行うと行った業務も進めています。

麻倉 素晴らしい。まさに社会に役立つサステナブル8Kです。以前何かの番組で、トンネルの傷みなどは目視でも難しいので、8Kで撮影して解析していることが紹介されていました。まさにあの技術を開発していると。

青木 まだ課題はありますが、これが実現したら社会インフラもかなり安全になると思います。現実には、今でもトンネルのひびは人が目視して探しているそうですので、8Kで識別できれば相当な負担軽減になるでしょう。

麻倉 今後は『8K Video Album』にどんなコンテンツを提供していく予定ですか?

青木 コンテンツ自体はどんどんアップしていきたいと思っていますが、産業用寄りの内容ではユーザーさんが面白くないでしょうから、そのあたりを考えていきたいですね。

麻倉 YouTubeという意味ではエンタテインメントが中心になりますが、逆にAIを使った8Kへの取り組みもとても重要だと思いますので、そういった展開、他とは違う応用についてもどんどん紹介していただきたいと思います。

青木 ありがとうございます。

麻倉 今回はありがとうございました。皆さんやる気満々でとても頼もしく思いました。ぜひこのYouTubeチャンネルを多くの方に8Kで観てもらい、8Kの普及を後押ししてもらいたいと思います。

画像: 社会に役立つ8Kという、新しい視点での展開を探る「ブライセン」

This article is a sponsored article by
''.