香港映画ファン歓喜! サミー・チェン&アンディ・ラウのコンビも見られる『花椒の味』

 香港の銅鑼灣(コーズウェイベイ)で火鍋店を営んでいた父が急死。父と疎遠だった長女は、諸事情により父の店を継ぐが、父オリジナルの“花椒(ホアジャオ)の味”が出せなくて苦戦する。そんな長女を尋ねて、父の葬儀で初めて会った、それぞれ母親の違う2人の妹がやってきた。長女は香港、次女は台湾、末娘は中国・重慶で暮らしている……。

 『花椒の味』は三姉妹の心模様を通して、香港・台湾・中国=3つの中国のいまのあり様もさり気なく浮き彫りにしていく。3都市の特徴的な風景をエモーショナルに映し出す美しい映像にため息をつきつつ、考え方も抱えている悩みもまった違う姉妹の心が徐々に寄り添っていく姿に、目頭が熱くなる。

画像: 異母姉妹である3人は、父の葬儀でぎこちない初対面を果たすが……

異母姉妹である3人は、父の葬儀でぎこちない初対面を果たすが……

画像: 長女は香港のトップスターであるサミー・チェン(中央/『インファナル・アフェア』)、次女は台湾で活躍する俳優・歌手・モデルのメーガン・ライ(左/『あの頃、君を追いかけた』)、三女は中国で女優や司会者を務めるリー・シャオフォン(右/『芳華-Youth-』)。三姉妹が住んでいる設定の地域から、それぞれ女優を起用しているのも楽しい

長女は香港のトップスターであるサミー・チェン(中央/『インファナル・アフェア』)、次女は台湾で活躍する俳優・歌手・モデルのメーガン・ライ(左/『あの頃、君を追いかけた』)、三女は中国で女優や司会者を務めるリー・シャオフォン(右/『芳華-Youth-』)。三姉妹が住んでいる設定の地域から、それぞれ女優を起用しているのも楽しい

画像: 観たあとは絶対に“麻辣火鍋”が食べたくなる! 見た目にも美味しそうなシーンの数々が

観たあとは絶対に“麻辣火鍋”が食べたくなる! 見た目にも美味しそうなシーンの数々が

 監督は、30代の若手女性監督として注目されるヘイワード・マック。その優しいけれど奥の深い語り口には、誰もが魅了されてしまうだろう。

 そして、もうひとつ。じつをいうと、オールドな香港映画ファンには、密かに興奮する“ツボ”がある。長女を演じるのはサミー・チェン、その婚約者にはアンディ・ラウ……。どうです、垂涎のキャスティングではありませんか?

 『Needing You』(00年)、『ダイエット・ラブ』(2001年)『名探偵ゴッド・アイ』(13年)などで<ゴールデン・カップル>と称された、サミー&アンディの相性は、いまだ抜群! なんと言っても忘れられない『インファーナル・アフェア』シリーズ(02年、03年)での新婚夫婦が、本作で復活! となれば、感激もヒトシオなのです。

画像: 本作でも、アンディ・ラウとサミー・チェンが恋人同士の役で登場。『インファーナル・アフェア』ファンは、本作での“普通のカップル”の姿にほっと胸を撫で下ろすかも……

本作でも、アンディ・ラウとサミー・チェンが恋人同士の役で登場。『インファーナル・アフェア』ファンは、本作での“普通のカップル”の姿にほっと胸を撫で下ろすかも……

『花椒の味』の豪華キャストは、プロデューサーを務めたアン・ホイの力?

 この素敵な“シオ加減”は、やはりプロデューサーをつとめたアン・ホイ監督の為せるワザ? まぁ、プレスにある<Note>で、『脚本や監督など、クリエイティブな部分においては、私はただ、そばで励まして感想を伝えただけ』とホイ監督は語っているが、この豪華なキャスティングに関しては影響大だっただろうと、勝手に推察。とくにアンディは。

 ホイ監督による『望郷/ボート・ピープル』(82年)でアンディが映画デビューを果たして以来、2人はず~っと強い絆で結ばれている。そして、久しぶりにがっちりタッグを組んだ『桃(タオ)さんのしあわせ』(11年)では、アンディが主演ばかりかエグゼクティブプロデューサーを務めたことで、困難だった製作資金もクリアした。

 アン・ホイ監督にお会いしたのは、はるか昔。たぶん、『女人、四十。』(95年)の頃だったように思う。いまとなっては、どういう状況でインタビューをすることになったかもはっきりしないのだが……。

 覚えているのは、「<香港ニュー・ウェイブの旗手>と称される気鋭の監督」というよりは、香港の中年女性によくいる“ショートヘアのよく笑うおばちゃん”だったこと。そして、映画の話になると、クルクルとよく動く黒い瞳に鋭い聡明な光が宿ることだった。

 その後、東京国際映画祭に参加された時にお会いしているのだが、最初の印象は少しも変わらない。香港電影金像奨をはじめとする、アジアの映画賞の数々を手にする巨匠であるにも関わらず、だ。

『我が心の香港 映画監督アン・ホイ』では、ツイ・ハークら“時代の顔”が続々登場

 『花椒の味』と同時期に公開される『我が心の香港 映画監督アン・ホイ』は、そんなアン・ホイ監督のプライベートも、映画作りの現場も、丁寧に追ったドキュメンタリーだ。

 本作が監督デビューとなるマン・リムチョンは、『君のいた永遠(とき)』(99年・シルヴィア・チャン監督作)で香港電影金像奨 芸術監督性を受賞し、2002年から現在までアン・ホイ監督作に参加している。

 いわば、ホイ監督の裏も表も知り尽くしたリムチョン監督だからこそ、彼女が“アジアのみならず、2020年にはヴェネツィア国際映画祭で終身成就の金獅子賞「栄誉金獅子賞」を授与されるほどの世界的な巨匠でありながら、いまだインディペンデントな小作品にこだわるわけ”や、“70歳を超えても活躍しつづける<現役>としての原動力”などを浮き彫りにしているのだ。

画像: 日本人の母(左)とともに。アン・ホイは16歳になるまで、母が日本人であることを知らなかったという

日本人の母(左)とともに。アン・ホイは16歳になるまで、母が日本人であることを知らなかったという

 さらに、登場する証言者たちも、すごい。弟子(?)のアンディ・ラウはもちろん、ツイ・ハーク(徐克)、ホウ・シャオシェン(候孝賢)、フルーツ・チャン(陳果)、ティエン・チュアンチュアン(田壮壮)など、時代を代表する監督たちが揃う豪華な顔ぶれ。まさに1970年代に台頭した<香港ニュー・ウェイブ>から現在までの約半世紀、香港映画の隆盛と衰退を知る貴重な内容に感涙だ。

画像: アン・ホイと誕生日が2ヶ月ほどしか違わないホウ・シャオシェン。『冬冬(トントン)の夏休み』や『悲情城市』などで知られる台湾の巨匠で、日本でもたびたび特集上映が組まれている

アン・ホイと誕生日が2ヶ月ほどしか違わないホウ・シャオシェン。『冬冬(トントン)の夏休み』や『悲情城市』などで知られる台湾の巨匠で、日本でもたびたび特集上映が組まれている

画像: フルーツ・チャンは、若き日にアン・ホイやツイ・ハークらが設立した“香港フィルム・カルチャー・センター”で学んでいる。『ドリアン ドリアン』や『ハリウッド★ホンコン』などが有名

フルーツ・チャンは、若き日にアン・ホイやツイ・ハークらが設立した“香港フィルム・カルチャー・センター”で学んでいる。『ドリアン ドリアン』や『ハリウッド★ホンコン』などが有名

 そう、思い返せば、私の“香港映画熱”は、レスリー・チャンや、チョウ・ユンファや、トニー・レオンといった、イケメン俳優たちへの愛から生まれたものであり、監督や香港映画界の時代背景については、<愛>に付随する知識として身についたものだけ。つまり、恥ずかしながら、かなり浅いということだ。

 となれば、『映画だけを、夫か妻のように愛し続け、これからも伴侶として撮り続ける』と言うアン・ホイ監督の40年に及ぶ映画人生=本作を教材に、あらためて香港映画の昔と今、そしてこれからを勉強してみたいと思う。

花椒(ホアジャオ)の味

11月5日(金)より新宿武蔵野館他全国順次公開

監督・脚本:ヘイワード・マック
出演:サミー・チェン/メーガン・ライ/リー・シャオフォン/リウ・ルイチー/ウー・イエンシュー
特別出演:リッチー・レン/ケニー・ビー
友情出演:アンディ・ラウ
原題:花椒之味
2019年/中国=香港/118分
配給:武蔵野エンタテインメント株式会社
(c) 2019 Dadi Century (Tianjin) Co., Ltd. Beijing Lajin Film Co., Ltd. Emperor Film Production Company Limited Shanghai Yeah! Media Co., Ltd. All Rights Reserved.

我が心の香港 映画監督アン・ホイ

11月6日(土) 新宿K's cinemaにてロードショー

監督:マン・リムチョン
出演:アン・ホイ/アン・ホイの母/アリス・ホイ(アン・ホイの妹)/アルバート・ホイ(アン・ホイの弟)/ナンサン・シー/ツイ・ハーク/フルーツ・チャン/ティエン・チュアンチュアン/ホウ・シャオシェン/アンディ・ラウ/ジャ・ジャンクー/シルヴィア・チャン
原題:好好拍電影
2020年/香港/119分
配給:パンドラ
2020 (c) A.M. Associates Limited

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