70年代、日本の音楽シーンに大きな足跡を残した伝説のグループ、アリス。「今はもうだれも」のカバーヒットをはじめ、「帰らざる日々」、「冬の稲妻」、「ジョニーの子守唄」、「遠くで汽笛を聞きながら」、「チャンピオン」、「秋止符」などなど、歴史に残るビッグヒットを世に送り出し、世代の枠を越えて、いまも広く歌い続けられている。

 アリスのヴォーカルと言えば、谷村新司のイメージが強いが、その実績からすると谷村と堀内孝雄のツインヴォーカルという表現の方が適切かもしれない。この二人がアコースティックギターを抱えて歌っている様子からして、生粋のフォークグループであることは疑いようがない。

 ところが彼らが実際に聴かせるその楽曲は、魂に揺さぶりかけるようなロック調だったり、甘く、酸っぱい恋愛を綴った歌謡曲風だったり、いわゆるフォークソングとは趣を異にした作品が多く、その全体像を把握するのは難しい。

 見方を変えると、このつかみどころのなさ、多様性こそ、アリスというグループの本質であり、彼らの豊かな才能の証明といっていいように思う。フォーク、ロック、あるいはシティ・ポップと、ひとくくりにできない独自の音楽性と鋭い感性、そして熱量の高いメッセージ性は、他のグループからは得られないアリスならではものと断言できる。

 70年代の終盤、「夢去りし街角」「秋止符」とヒットを飛ばすも、この頃から谷村新司、堀内孝雄のソロ活動が増え、音楽的な方向性の違いが次第に顕著となっていく。「陽はまた昇る」「昴‐すばる‐」「群青」からも分かるように、重みのある内容で人の生きざまを歌う谷村新司に対して、堀内孝雄は「ジョニーの子守唄」「秋止符」、あるいは山口百恵に提供した「愛染橋」といった作品にみられるように、叙情的で明快な曲調のものが多い。

 この対照的とも言える2人の才能のミクスチャーこそが、アリスというグループの魅力を根底で支えていたわけだが、これはいわば、諸刃の剣。音楽的な指向の乖離は避けることができず、81年5月、アリスは解散という選択を強いられることとなった。

人生を歌い上げる堀内孝雄の名曲を
極上のアナログレコードで味わう

 前置きが長くなってしまったが、ここで取り上げる『堀内孝雄』は2021年の今年、アリスのデビューから数えて、歌手生活50周年を迎えたタイミングで制作されたベスト盤である。熱心なオーディオファイルを中心に根強い支持を得ているステレオサウンド・アナログレコードコレクションから、最上のクォリティを目指して仕上げられた力作だ。

画像: 人生を歌い上げる堀内孝雄の名曲を 極上のアナログレコードで味わう

アナログレコードコレクション『堀内孝雄<ベスト>』
(ステレオサウンドSSAR-051)¥8,800(税込)
 ●仕様:33回転アナログレコード
 ●カッティング・エンジニア:武沢茂(日本コロムビア)

〈SIDE-A〉
 1. 影法師
 2. 河
 3. ガキの頃のように
 4. カラスの女房(ニューバージョン)
 5. 冗談じゃねえ

〈SIDE-B〉
 1. 恋唄綴り
 2. 東京発
 3. 遠くで汽笛を聞きながら
  (ゴスペル・バージョン)
 4. 恋文

 ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_lp/4571177052674
 ●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル03(5716)3239
      (受付時間:9:30〜18:00 土日祝日を除く)

 ソロになった堀内孝雄が演歌路線に舵を取り、大きな成功を収めたのは周知の事実だ。その要因が彼の持つ音楽性にあることは間違いないが、それよりも彼の魅力的な声、歌声を演歌が放っておかなかったという側面も少なからずあったように思う。

 世の中、歌のうまい人は星の数ほどいる。しかし心に響く、魂を揺さぶるような魅力的な歌声となると、そう多くはない。私がこのレコードを再生し、堀内孝雄の歌声に触れて改めて分かったことは、その声には歌のうまさだけではない、人の心の奥底まで浸透し、魂を揺り動かし、深い感動や共鳴を引き起こすような不思議なパワーが感じとれることだ。

 目の前の空間に力強く浸透するエネルギー感に満ちた歌声は、聴き手を優しく覆い包むような包容力があり、安定したトーン、優しさ、さらにその声に秘められた男の色気、いつまでも聴いていたいと感じさせるほどの心地のよさなのである。

 今回収録された10曲は、80〜90年代にヒットした作品が中心で、すべて堀内孝雄自身が作曲したもの。この心地よさは自分の曲を歌うことで、その持ち味が際立っているとも言えるが、彼の人柄、人間性も少なからず関係しているようにも思われる。

 レコード制作では、まず現在、考え得る最上の音源が確保され、東京・南麻布の日本コロムビアのカッティングスタジオにそのまま持ち込まれた。マスタリングとカッティングを手がけたのは、日本を代表する名匠エンジニア、武沢茂氏。歴代の大物歌手のアナログ盤カッティングを手がけてきた熟練エンジニア、武沢の一流の技と感性を駆使し、同社の技術、経験を集積させた特注のアナログコンソールでカッティングのための入念な音調整が施されたという。

 細心の注意を払い、入念に仕上げられたカッティングマスターから、ノイマンのVMS70カッティングレース+SX74カッターヘッドを駆使してレコードの原盤となるラッカー盤を製作。そして最終的なレコード盤は東洋化成において、特別に配合されたプレス材料を吟味し、180g重量盤として仕上げられている(通常盤は130g程度)。

 日本歌謡大賞を受賞した「影法師」、紅白歌合戦での熱唱が話題となった「東京発」、そして人気ドラマ『はぐれ刑事純情派』の主題歌に起用されたヒット曲「ガキの頃のように」と“ベーヤン”が手がけた名曲が並ぶが、実際にターンテーブルにセットして、針を盤面の溝の上に落とすと、安定感のある大人の歌声と、躍動感に富んだ質の高い演奏に魅了される。

 B面1曲目「恋唄綴り」も聴き応えがある。日本レコード大賞と日本有線大賞のダブル受賞に加えて、全日本有線放送大賞でもグランプリを獲得した大ヒット曲だが、もともとは麻生詩織への提供曲で、後に堀内孝雄のセルフカバーシングルが発売。『はぐれ刑事純情派』の挿入歌としても使われているため、聴き馴染みのある方も少ないだろう。

 人情味あふれるドラマのストーリーと、離れてしまった恋人への想いを綴る胸キュンの歌詞だが、ここでも堀内孝雄の歌唱力の非凡さが際立つ。女性の思い、心情を彼が女性の語り口で歌うが、これが実にいい雰囲気。わずかなくすみを伴ない、伸びやかに聴かせるサビの歌声が、聴き手の心にジワッと浸透する感覚は、良質なレコード再生の賜物と言っていいだろう。

 大ヒット曲「遠くで汽笛を聞きながら」は、コーラスとのハーモニーを意識した“ゴスペル・バージョン”として収録されているが、その空間の広さといい、響きの緻密さといい、レコード再生ならではの圧倒的とも言える情報量は感動的だ。

 そこに感性豊かな堀内孝雄の声。日々思う後悔の気持ちや、前向きに生きようという感情が複雑にからみあうが、最後まで聴き終えた時に感じる、なんとも言いようのない清々しさ。ストレスの多い日常の生活の中で、鬱積した苦悩、不安、煩しさが、不思議とキレイさっぱり押し流され、なんとも晴れやかな気分になった。

 人生の深みを感じさせてくれる堀内孝雄の歌声を、ぜひご自分のシステムで聴いていただきたい。

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