液晶テレビの画質を改善する提案として “ミニLED” が注目を集めている。従来よりも小型のLEDをバックライトに使うことで、部分駆動の分割エリア細分化やハロー(漏れ光)を抑え、コントラスト改善を実現できるというものだ。では実際にテレビメーカーはミニLEDにどのように取り組んでいるのか? 今回はミニLED搭載機を発表・発売している3社に、その取り組みについてインタビューを実施した。第1回は、既に製品を発売しているLGエレクトロニクスにお邪魔している。(編集部)

ミニLED搭載の「QNED」シリーズは、8Kから4Kまで合計4モデルをラインナップ

画像1: 注目技術 “ミニLED” は、液晶テレビにどんな進化をもたらすか(1)LGの新世代フラッグシップ「QNED」シリーズの進化を聴く:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート60

●QNED99シリーズ(8Kモデル)
86QNED99JPA 市場想定価格¥1,210,000前後(税込、9月28日発売)
●QNED90シリーズ(4Kモデル)
86QNED90JPA 市場想定価格¥720,000前後(税込)
75QNED90JPA 市場想定価格¥550,000前後(税込)
65QNED90JPA 市場想定価格¥380,000前後(税込、9月28日発売)

「86QNED99JPA」の主なスペック
●画面サイズ:86V型(IPSパネル)
●画素数:水平7680×垂直4320画素
●内蔵チューナー:BS8K×1、BS4K/110度CS4K×2、地上デジタル×3、BS/110度CSデジタル×3
●接続端子:HDMI入力×4、光デジタル音声出力×1、USB端子×3、LAN端子×2
●特長:α9 Gen4AI Processor 8K、AI 8Kアップスケーリング、AI映像プロ 8K、HDR10 Pro/HLG/DolbyVision IQ対応、他
●消費電力:770W(待機時0.5W)
●寸法/質量:W1917×H1162×D359mm/55.9kg(スタンド含む)

麻倉 最近、液晶テレビの画質改善技術としてのミニLEDが話題です。技術そのものは従来から液晶テレビで使われていたバックライトの部分駆動ですが、LEDが小さくなることで様々なメリットがあるといいます。

 テレビメーカー各社もミニLEDに注目しており、LGも2021年のオンラインCESで大々的にミニLED搭載機を発表しました。さらにその技術を搭載した製品を日本で発売済みとのことです。まず、そのラインナップからうかがいたいと思います。

宇佐美 LGエレクトロニクス・ジャパン マーケティング統括責任者の宇佐美です。今日はよろしくお願いいたします。

 弊社では今年5月にミニLEDを搭載した液晶テレビとして「QNED99」と「QNED90」を発表しました。QNED99シリーズは86インチの8Kテレビ「86QNED99JPA」を、QNED90シリーズは4Kで「86QNED90JPA」「75QNED90JPA」「65QNED90JPA」の3サイズをラインナップしています。今日ご覧いただく75QNED90JPAは7月に、他のモデルは9月末までに順次発売する予定です。

麻倉 液晶テレビの、コントラストが悪い、視野角が狭い、動きボケがあるといった3悪を私は指摘してきました。。視野角や動きボケはかなり改善されてきましたが、コントラストについてはまだ不満が残っていた。しかし今回のミニLEDはそこが対策できるという意味で、とても重要です。

宇佐美 弊社としては、4K/8Kテレビの醍醐味は大きい画面で見ることにあると思っております。そのためには先ほど麻倉さんがおっしゃった液晶の弱点を解決しなくてはなりませんが、QNEDシリーズならそれが可能だと考えています。

麻倉 まず、QNEDとはどういう意味なのでしょう?

宇佐美 「Q」はクォンタムドット(量子ドット)で、「N」がナノセルテクノロジー、「ED」がミニLEDで、この3つの技術を搭載している製品ということになります。

麻倉 なるほど、技術の全部入り、LG液晶の最上級モデルという位置づけですね。それぞれの技術についても教えて下さい。

画像: QNEDシリーズには「量子ドットテクノロジー」「ナノセルカラーテクノロジー」「ミニLEDバックライト」の3つの技術が投入されている。この組み合わせによって高いコントラストや色再現、明るい画面を実現している

QNEDシリーズには「量子ドットテクノロジー」「ナノセルカラーテクノロジー」「ミニLEDバックライト」の3つの技術が投入されている。この組み合わせによって高いコントラストや色再現、明るい画面を実現している

宇佐美 量子ドットは光の波長(色)を変える素材で、量子のセル(核)のサイズによって取り出す波長を選択できます。その特長を活かして、望んだ波長に適した偏光フィルターを作ることができます。弊社では、この量子ドット偏光フィルターをパネルに組み込んでいます。

 QNEDシリーズのバックライトは青色LEDを使っていますが、量子ドットフィルターでそれを緑と赤に変えます。その際にサイドバンドといって、欲しい波長の横に広がるエリアのコントロールがしやすいので、純度の高い色、正確な色が取り出せます。

 また、レッドナノオーガニックフィルムという機構も備えています。これはナノテクノロジーのひとつでもあり、偏光フィルターで青から緑に変換した際に余った波長成分を赤に変えています。ここがQNEDの特長で、緑の色彩、色数が増えると同時に、赤も濃くできるのです。また、中間色のオレンジが強い部分を抑えるといった効果も期待できます。

麻倉 液晶テレビの場合、画面全体で緑がかったり、オレンジがかったりする製品もありましたが、量子ドットとナノテクノロジーの合わせ技で、それらを根本から抑えているということですね。

 ところで、ミニLEDは一般的には直径が100μmから200μmのLEDのことを言いますが、LGでは具体的にはどれくらいのサイズのLEDを使っているのでしょうか。

宇佐美 その点については、業界としてもはっきりした定義がなく、弊社もサイズは公表していません。

麻倉 では今回、バックライトにミニLEDを採用した狙い、背景は何だったのかを教えてください。

宇佐美 コントラストの改善です。量子ドットフィルターで獲得したRGBの色情報を最大限に活かしていくにはコントラストも重要ですから、ミニLEDに着目しました。

麻倉 しかしいくらLEDが小さくなっても、部分駆動に活かせなければ意味がありません。その点はどう工夫したのでしょう?

画像: 液晶テレビのバックライト部分駆動の方式としては、「エッジ型」と従来サイズのLEDを使った「直下型」が使われていた。今回ミニLEDの「直下型」が加わることで、LED数や分割エリア数が格段に向上、輝度再現も改善されている

液晶テレビのバックライト部分駆動の方式としては、「エッジ型」と従来サイズのLEDを使った「直下型」が使われていた。今回ミニLEDの「直下型」が加わることで、LED数や分割エリア数が格段に向上、輝度再現も改善されている

宇佐美 8Kモデルの86QNED99JPAは、28,800個のミニLEDを搭載し、分割エリア数は2,400です。4KモデルのQNED90シリーズはこれらの数値は公表されていませんが、同じ75インチなら従来のNANO91シリーズに対し、LEDの数が32倍、分割エリアが16倍になっています。輝度は2倍にアップしました。

麻倉 今年のCESでは多くのメーカーがミニLED搭載機を発表していましたが、28,800個というLED数はとても多いですね。この数と分割エリアが多くなるほど、コントラストも上げやすいはずですから、そこは有利です。

宇佐美 実際の映像もハイコントラストで、有機ELに近い印象だと思います。

麻倉 となると問題はハローですね。今回技術的にはどんな対策をしているのでしょう?

宇佐美 今回は、信号処理でハローを抑えています。LEDが小さくなることで光源と液晶パネルとの距離も近づけられますから、その点でもハローを抑えやすくなっています。またもうひとつのメリットとして、パネル自体を薄くできています。

 弊社の場合、液晶パネルと製品を垂直統合で作っていますので、パネルの設計から関われるというメリットもありました。今回のミニLED搭載パネルは、LGエレクトロニクスから仕様や設計を提案して、LGディスプレイと一緒に開発したという経緯もあります。これは、LGエレクトロニクスとして、液晶テレビの最高峰を作りたいという意思の表れでもあります。

麻倉 それは面白いですね。川下から川上にリクエストが通るという好例で、垂直統合のメリットにつながります。

宇佐美 ユーザーさんにとっても、NANOシリーズでは液晶テレビのフラッグシップとしては画質的に物足りないだろうと感じていました。また液晶テレビの限界とはどんなものかも見てみたかった。有機ELテレビで培った絵づくりのノウハウを、どこまで液晶テレビに反映できるかという挑戦でもあります。

画像: 量子ドットテクノロジーを使った偏光フィルターを採用することで、青色LEDバックライトから純度の高いRGB光を得ている。さらにナノセルカラーテクノロジーで緑近傍の光を赤成分に変換することで、赤の光量もアップ、バランスのいい光再現を実現した

量子ドットテクノロジーを使った偏光フィルターを採用することで、青色LEDバックライトから純度の高いRGB光を得ている。さらにナノセルカラーテクノロジーで緑近傍の光を赤成分に変換することで、赤の光量もアップ、バランスのいい光再現を実現した

麻倉 有機ELテレビが出てきてから、市場でも液晶テレビは古い技術で、安い製品というイメージがありました。でも昨年頃から、ミニLEDなどの新技術が出てきて、復活・進化する余地が生まれています。これは興味深い動きです。

 LGのマーケティング自体も、これまでは有機ELテレビが中心でしたが、今後は液晶テレビを含めた二刀流になる、ということですね。

宇佐美 弊社は2015年に有機ELテレビを日本市場で発売しました。それから6年が過ぎましたが、常に新しい技術を有機ELテレビに搭載してきました。その効果もあって、有機ELテレビのブランドとして広く認知してもらえたと思います。

 とはいえ、市場全体の販売台数では液晶テレビの方が多いのも事実です。弊社としては液晶テレビの新時代を作りたいという自負もありますので、今回ミニLEDを投入しました。有機ELといえばLG、というだけでなく、液晶テレビもLGと思っていただけるように、マーケティングとしても舵を切っていきたいと考えています。

麻倉 10年間にLGが日本市場に参入した時は、日本メーカーの絵づくりを追いかけているような印象がありましたが、今ではすっかり逆になってしまいました。特にパネルメーカーと一緒になって製品作りをできる点がパワフルです。新しいテクノロジーを提案してくる開発力にはこれからも期待したいと思います。

宇佐美 今年の春にミニLEDについての発表をさせてもらいましたが、その時も “LGは新しい技術に積極的だ” といった応援の声を多くいただきました。これはとても嬉しいことですし、この一歩を続けていきたいと思います。

ミニLEDがもたらすリソースを活かした、素直でナチュラルな映像。
QNEDシリーズは、液晶テレビの歴史上でも画期的な製品になるだろう …… 麻倉怜士

 今回はLGエレクトロニクスの視聴室にお邪魔して、ミニLED搭載機「75QNED90JPA」の絵を拝見しました。映像モードは、明かりを残した環境では「シネマブライト」を、全暗では「シネマダーク」を選んでいます。

 まず、これまでの液晶テレビとは違う雰囲気の絵だなというのが第一印象でした。液晶には基本的に3つの弱点がありますから、設計側としてはいかにそれを目立たせないようにするかを考えるわけです。特にコントラストが弱い。そうなると、どうしても弱点を意識した、キャラクターの強い癖っぽい絵になりがちです。

 しかし75QNED90JPAではそういった人工的な癖があまり感じられない、液晶として素直でナチュラルな絵が得られています。これは液晶テレビの歴史では画期的だといえます。欠点を目立たせないようにするのではなく、元々のリソースが沢山あって、それをうまく配分していこうという狙いが感じられます。

画像2: 注目技術 “ミニLED” は、液晶テレビにどんな進化をもたらすか(1)LGの新世代フラッグシップ「QNED」シリーズの進化を聴く:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート60

 UHDブルーレイ『宮古島〜癒しのビーチ〜』での遠景も、従来の液晶テレビでは強調感があって、奥行感が再現できにくかったのですが、75QNED90JPAでは生成りの絵で、豊かな表現が感じられました。

 『4K夜景』も、これまで液晶テレビが苦手とするコンテンツでした。神戸の街の遠景がだんだん暗くなっていくなかで、これまではどこかが黒浮きしたり、つぶれたりということがあったのですが、今回は時間に沿って徐々に暗くなっていく様子が見事に再現できていました。

 QTECの4Kチェックディスクで観た炭の映像もよかった。ノイズも意外に少ないし、黒浮きも抑えられた貴重な映像です。ミニLEDなどの新技術をこれ見よがしに使うのではなく、自然な映像に仕上げているところに感心しました。

 QNED90シリーズは、液晶的な明るさ、開放感を持ちながら、これまで液晶テレビで難しかった安定感、素直なリニアリティを備えた、新世代フラッグシップになっています。さすが、新技術を活用するLGならではの提案といえるでしょう。

画像: インタビューをお願いした方々。麻倉さんの左はLG Electronics Japan株式会社 Marketing Team Team Leaderの宇佐美有佳さんで、右はMarketing Team Marketing Communication Partの塩野拓也さん

インタビューをお願いした方々。麻倉さんの左はLG Electronics Japan株式会社 Marketing Team Team Leaderの宇佐美有佳さんで、右はMarketing Team Marketing Communication Partの塩野拓也さん

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