Amazon Musicに続いてApple Musicもハイレゾストリーミングを始めるなど、“ハイレゾ”はオーディオファンの枠を超えて、広く認知されてきた。しかしひと口にハイレゾ再生と言っても、コンテンツのフォーマットの種類も多く、さらにポータブルから据置き型まで様々な再生機器が登場している。またそこには、ブランドによる音作りの違いも存在する。今回はそれらの中から、ルーミンとウェストミンスターラボをピックアップ、このふたつのブランドを組み合わせたらどんなハイレゾの世界が楽しめるのかを探ってみた。体験いただいたのは土方久明さんと、永瀬宗重さんのおふたりだ。(編集部)
●参加メンバー:永瀬宗重さん、土方久明さん

――今日は永瀬さんと土方さんに、StereoSound ONLINE試聴室においでいただきました。おふたりは早くからハイレゾ再生に取り組まれており、その様子は以前も紹介させてもらいました。特に永瀬さんのこだわり抜いたオーディオルームにお邪魔した際の記事( https://online.stereosound.co.jp/_ct/17371054 )は多くの読者の注目を集めています。
今回は、おふたりが愛用しているルーミンのネットワークプレーヤー「X1」を核に、ウェストミンスターラボのプリアンプ「Quest」とパワーアンプ「Rei」を組み合わせたシステムを体験いただき、ハイレゾ音源を高品質で楽しむ魅力について語り合っていただきたいと思います。
ちなみにおふたりは現在、どんな環境でハイレゾを楽しんでいるのでしょうか。
永瀬 ハイレゾ再生環境は、前回取材に来てもらった時から大きくは変わっていません。ソース機器はルーミン「X1」と、コード「DAVE」+「Hugo M Scaler」を主に使っています。さらに別の部屋で、リン「KLIMAX DS/3」を愛用中です。
土方 最近は2Fのオーディオルームでハイレゾを聴くことが多いのですが、そこには3つのソース機器を準備しています。よく聴いているのがルーミン「X1」です。あとはリン「KLIMAX DS」の初代モデルと、カクテルオーディオの「X50 Pro」のデジタル出力をソウルノート「D2」につないでいます。これらを、適宜使い分けています。
――おふたりともルーミンのX1を愛用されているわけですが、どんな点が気に入っているのでしょうか?
土方 一番の理由はやはり音質です。また操作性がいい点も重要ですね。ルーミンは、2013年の登場初期からアプリの操作性がいいことで評判でした。当時はリンとルーミンが使いやすいハイレゾプレーヤーの両巨頭だったと思います。
永瀬 当時のルーミンのフラッグシップモデルは「S1」でしたが、私も音のよさと使いやすさに惹かれて導入しました。
土方 その後、ルーミンのネットワークプレーヤーはX1などの第二世代に進化して、さらに音がよくなっていきました。分解能はもちろん、中低域の力感や立体的な鳴り方が素晴らしいですね。
それと同時に、X1に光LANに対応したSFPポートを搭載するなど、いい音のための取り組みが早い点も魅力です。またアップデートにも熱心で、アプリの操作性や機能も頻繁に更新されています。常に最新の状態で使える、満足度の高いネットワークプレーヤーだと思います。
ネットワークプレーヤー
LUMIN X1 ¥2,000,000(税別、Silver)、¥2,200,000(税別、Black)

●接続端子:光LAN接続用SFPポート1系統、Ethernet(1000Base-T)1系統、USB端子1系統、デジタル音声出力1系統(BNC同軸)、アナログ音声出力2系統(バランス、アンバランス)
●対応サンプリング周波数/ビットレート:
アナログ出力時=PCM 768kHz/16〜32ビット、DSD 22.6MHz/1ビット
デジタル出力時
USB接続時=PCM 768kHz/16〜32ビット、DSD 22.6MHz/1ビット
BNC SPDIF接続時=PCM 44.1kHz〜192kHz/16〜24ビット、DSD 2.8MHz/1ビット
●サポートフォーマット:DSD(DSF、DIFF、DoP)、FLAC、ALAC、WAV、AIFF、MP3,AAC
●特長:ESS製ES9038Pro DACチップ2基搭載、フルバランスレイアウト、UPnPプログラム、ギャップレスプレイバック、DSD11.2MHzおよび384kHzまでのアップサンプリングに対応、Lumin APPサポート、他
●寸法/質量:W350×H60×D345mm/8kg(本体)、W106×H60×D334mm/4kg(電源ユニット)
――なるほど。ではそんなおふたりが目指している理想のハイレゾ再生とはどんなものなのでしょう?
永瀬 ハイレゾに限らず、音の密度や高域のクリアーさはしっかり出て欲しいですね。私自身は80年代から“音色”にこだわってオーディオを楽しんできました。でも最近は再生機器の性能があがってきたためか、音色だけでなく、ステレオイメージの再現も気になっています。
土方 永瀬さんは、僕が8年ほど前に初めてお会いした頃から素晴らしい音を楽しまれていましたよ。その後、デジタルファイル再生に取り組むようになって、さらにステージングの再現性にもこだわるようになったと思います。もともと音色にこだわっていた方がステージングにも配慮し始めたから、さらに凄いことになっています。
――永瀬さんは弊社の試聴室に初めておいでいただきましたので、まずは耳慣らしに数曲聴いていただきたいと思います。お持ちいただいたUSBメモリーから、お気に入りの楽曲を再生します。
永瀬 ……いや、たまげた。響きが素晴らしいですね。今聴いたのは、私の知人で鈴木さんという演奏家の録音ですが、ステージのホール感がよく出ていました。わが家ではここまでの響きは再現できません。
――次は、溝口肇さんの『Almost Bach』(384kHz/24ビット/FLAC)から、1曲目の「GOLDBELG ARIA」です。
永瀬 う〜ん、この部屋だと何でもよく聴こえちゃうなぁ(笑)。以前わが家でもスピーカーのB&W「800D」を使っていたことがあるんですが、どうも好みの音が出せなくて、半年くらいで手放してしまったんです。でも今日はいい音で鳴っている。このスピーカーを見直しました。
土方 今日のシステムは、音源の特徴を素直に出していますね。部屋自体もテストルームとして忠実な再現を目指していることもあるのでしょう。
僕の持ってきた音源も聴かせてもらっていいですか? 先日グラミー賞の最優秀楽曲賞を受賞したH.E.R.の「I Can’t Breathe」(44.1kHz/24ビット/FLAC)です。
永瀬 いや、凄いねぇ。ステージがスピーカーの外側まで自然に広がって、とても気持ちがいい。
土方 最近は逆相成分をうまく使って、音場を綺麗に広げてくれる楽曲も多いのです。この曲はセンター定位するヴォーカルの口元もコンパクトに収録していて、フォーカス感も見事。録音も素晴らしいと思います。
永瀬 女性ヴォーカルもいいねぇ。もう少し色々聴かせて下さい。
その他の主な試聴システム
●プリアンプ:WestminsterLab Quest ¥3,000,000(税別、WestminsterLab 1.5m電源ケーブル付属)
●モノーラルパワーアンプ:Westminsterlab Rei ¥4,000,000(ペア、税別、WestminsterLab 1.5m電源ケーブル付属)
●スピーカーシステム:B&W 800D3 ¥4,950,000(ペア、税込、グロス・ブラック)

今回の試聴では、プレーヤーにはルーミンX1を使い、アンプにはウェストミンスターラボのQuestとReiを、スピーカーはB&W 800D3を組み合わせている。ハイレゾ音源はUSBメモリーに保存し、X1背面のUSB端子に取り付けている

ウェストミンスターラボは、ルーミンの電源回路やオプションの電源ケーブルで協業している。今回の試聴で使った、X1の電源と本体の間をつなぐDCケーブル「X1-X1-C」(¥363,000、税込、0.6m)や、X1とQuest、Rei間をつないだ信号ケーブルは、すべてウェストミンスターラボが手がけている
――では続いて、マイケル・ヘッジス「Jitterboogie」(44.1kHz/16ビット/FLAC)、ジェニファー・ウォーンズ「I Can’t Hide」(DSD64)、スターダスト「STARDUST」(44.1kHz/16ビット/FLAC)を再生します。
永瀬 マイケル・ヘッジスのギターもいいねぇ。44.1kHz/16ビットのCDクォリティなのに、とても生々しい。今日のシステムだとアコースティック楽器の再現が本当に気持ちいい。スターダストの録音が古いことまで明瞭にわかってしまった。
――ここから、X1のデジタルボリュウムを使った音質比較をしてみたいと思います。ルーミンは昨年ファームウェアアップデートを実施し、新しいデジタルボリュウム機能「Leedh Processing Volume Control」をすべてのネットワークプレーヤーに実装しました。
土方 Leedh Processing Volumeはなかなか優れものです。ネットワークプレーヤーに内蔵された
デジタルボリュウムですが、一般的なそれとは違い、小音量でも原理的に音質劣化がないとのことです。僕も自宅のX1でこの機能を試してみたのですが、細かい情報の再現性が改善されていると感じました。
ルーミンの説明によると、Leedh Processing VolumeではCPUに負荷をかけないようにアルゴリズムを工夫しているそうです。CPUに負荷がかかると電力を食って、結果として音に影響がでるのですが、Leedh Processing Volumeならそこも問題ないとのことです。
永瀬 私はプリアンプによる音の違いも好きだけど、シンプルなシステムでいい音が聴けるならそれに越したことはないから、これは興味深いテーマです。
――まずは、X1 → Quest → Rei → 800D3という一般的な接続での音を再確認していただきます。ボリュウムはQuestで調整します。
土方 先ほど聴いた中から溝口肇さんの「GOLDBELG ARIA」と、H.E.R.の「I Can’t Breathe」を再生します。
永瀬 演奏に力もあるし、ちょっと華やかさも感じるサウンドです。オーディオとして見事な再現ですね。
――続いて、Questのボリュウムをパスして、X1のLeedh Processing Volumeを使って音量を調整します。輸入元のブライトーンによると、Questのボリュウムを「54」にすると、入力信号がそのまま出力されるとのことです。
永瀬 Questの回路は通っているけど、音量調整はしていないということですね。ところで、Leedh Processing Volumeはどうやって操作するのかな?
土方 「LUMIN」アプリで変更できます。プレーヤー設定で「OPTION」を選ぶと、「Volume Control」と「Leedh Processing Volume」という項目がありますから、このふたつを「On」にすれば、アプリで音量が調整できるようになります。
Leedh Processing Volumeのセットアップは、LUMINアプリから

ルーミンのネットワークプレーヤーにはデジタルボリュウム機能が搭載されており、LUMINアプリで設定することで高品質なLeedh Processing Volume機能が使えるようになる。アプリからプレーヤー設定の「OPTIN」を選び「Volume Control」と「Leedh Processing Volume」をオンにするだけと設定方法も簡単だ

プレーヤーのVolume Controlをオンにすると、アプリ画面右上のボリュウムが有効になるので、ここで音量調整を行えばいい
――Leedh Processing Volumeを使って、聴感上で先ほどと同じくらいのボリュウム感にしてみました。「GOLDBELG ARIA」は49、「I Can’t Breathe」は32という結果になりました。
土方 この比較だと、僕はQuestで音量を調整した方が好みですね。Leedh Processing Volumeを使うと、ちょっと淡泊になりませんか?
永瀬 私は逆だなぁ。Leedh Processing Volumeを使った方が、音の雑味が取れたような気がする。淡泊なんだけど、その分すっきりしている。Questを通した方が音の密度が濃いというか、存在感がある。そのどっちが好きかでしょうね。
土方 物理的にはQuestを外したわけではないので、音楽信号が通っている回路自体は同じなんですが、それでも音に違いがあるのが不思議ですね。
――次に、Questを使わないシステムをお聴きいただきます。X1とReiを直結して、音量はLeedh Processing Volumeで調整します。Leedh Processing Volumeの値は先ほどと同じ49と32です。
永瀬 うん、私はこれがベストと感じました。
土方 もっともソースに忠実な表現をするのはこの組み合わせですね。情報量も多いし、小レベルの音がスポイルされないので、空間表現や細かな余韻までしっかり聴き取ることができました。
永瀬 音色的には、Questが入った時の艶やかで色彩感のある再現もいいんだけど、情報量を素直に聴こうと思ったら、この構成が一番かもしれない。デジタルボリュウムでこれだけの音が聴けるんですね。Leedh Processing Volumeのアルゴリズムは確かに優れている。
土方 細かい音でも鮮度が落ちないし、楽器の質感表現が一辺倒にならない。生々しい音もしっかり出てくるのが素晴らしいですね。ひと昔前のデジタルボリュウムとはまったく違います。これなら、プレーヤーとパワーアンプを直結する使い方もアリだと思います。

Questはボリュウムを54にすると、入力信号をスルーしてそのまま出力される(いわゆるユニティゲイン)。Leedh Processing Volumeの試聴ではこの値にセットしている
――ちなみにルーミンのプレーヤーには、Leedh Processing Volumeと従来のデジタルボリュウムのふたつが搭載されています。そのふたつでどんな違いがあるかも聴いてみましょう。先ほどのアプリの設定で「Volume Control」を「On」、「Leedh Processing Volume」を「Off」にします。
永瀬 これは差が大きいなぁ。従来のデジタルボリュウムとLeedh Processing Volumeでは音の粒の大きさが違うし、音のなめらかさにも差がある。デジタル回路は同じなのに、どうしてこんなに音が変わるのだろう? いや〜ルーミンもたいしたものを作りましたね。
土方 従来のデジタルボリュウムでは、特に小音量時の情報量がロスしている印象ですね。これが無料のファームウェアアップデートで提供されたのだから、本当に素晴らしい。
Leedh Processing Volumeはすべてのルーミン製品で使えるそうですから、活用しないと勿体ないですね。ただし、Leedh Processing Volumeを使うとDSD音源は自動的に内部でリニアPCM変換されるので、そこはちゃんと認識しておいた方がいいでしょう。
永瀬 X1とReiの直結ではソース機器の切り替えができないという制約はあるけれど、シンプルにデジタルファイルを楽しむという使い方なら、かなり魅力的です。分解能も高いし、プリアンプを使わないぶん予算も抑えられる(笑)。
土方 永瀬さんは本当に先進的ですね。これだけ歴史的名機を使い続けてきた人だから、絶対プリアンプは必要だと主張されると思っていたのに、まさかプリアンプがいらないと言い出すとは思わなかった。昔からのオーディオファンほど、音楽性や愛機にこだわって、なかなかシステムを変えたがらないものですが……。
永瀬 オーディオファンとしては、それが普通なのかもしれませんよ。でも私はあまりそこにこだわりたくない。常に新しいものも追いかけていきたいですからね。

ルーミンでは、ネットワークプレーヤーのオプションとして専用リモコン「LUMIN Remote」(¥35,000、税別)も準備している。これはUSB端子に受光部をつなぐことで、ボリュウムや音源再生操作ができるようになるものだ。アプリからLeedh Processing Volume をオンにしておけば、このリモコンで快適な操作ができることになる。「X1」「S1」「T2」「A1」「T1」「D2」「D1」「U1」「U1 MINI」「M1」で使用可能
――最後に、今日の試聴を通しての印象をうかがいたいと思います。
永瀬 私は昔チェロを演奏していたこともあって、艶のあるチェロの音が大好きなんです。溝口さんの「GOLDBELG ARIA」は、わが家のシステムで聴いてもひじょうに艶やかなんですが、それでも今日聴かせてもらった音には驚きました。
チェロの音の艶と、ステレオイメージが見事に両立できていた。特に奥行方向の情報がなぜここまできちんと再現できるのか、不思議なくらいです。きちんとした環境で、相性のいいシステムを使えばこれほどいい音が再現できるんだと、改めて感心しました。
土方 演奏している溝口さん自身、チェリストであると同時に、熱心なオーディオ愛好家です。そんな方が作っているハイレゾ音源ですからもともと高品質なのですが、今日のシステムは本当に素晴らしい音で再現してくれました。超絶音源の魅力がよく出ていた気がします。
永瀬 ウェストミンスターラボのアンプも素性がいいですね。私は特にReiの音色が気に入りました。
土方 僕は今日初めて、ウェストミンスターラボのアンプをきちんとした環境で聴きましたが、素晴らしかったですね。音がピュアだし、ストレートな再現力も持っています。パワーアンプは味付けのない方向で、プリアンプは少し華やかに聴かせてくれる点も好印象でした。
聞いたところではルーミンとウェストミンスターラボは協業していて、開発時にお互いの機器を使っているそうです。どちらもピュアな方向の音を目指していますし、そんな思いも一致しているのかもしれません。
永瀬 S1の時代からルーミンの音は大好きだったけど、今日は本当に艶のある音が聴けて嬉しかったですね。また、Leedh Processing Volumeも凄かった。X1とパワーアンプを直結しても力感がなくなるわけじゃないし、逆に情報がクリアーに出てくる。これはお薦めです。

試聴はL/Rスピーカーを底辺とした二等辺三角形の頂点にふたつの椅子を縦並びに配置して行った
土方 ハイレゾのメリットとして、ソースに小レベルの音まできちんと録音されていることがあります。だからこそ空間表現のよさ、リアリティの向上も期待できる。同時に小レベルの信号を正しく再現するには、オーディオ機器にも高い性能が求められるわけで、今日のプレーヤーやアンプはそこをしっかりクリアーしていることが確認できたと思います。
永瀬 小レベルの情報がきちんと出ていたことは私も感じていました。昔は小レベルの音を再現するには音源やハードのS/Nが重要でしたが、今日のプレーヤーやアンプならその点は問題ない。
私は一度自宅でウェストミンスターラボのアンプを試聴したことがありますが、その時に、A級アンプの音を保ちながらS/Nを改善していることにも感心しました。ウェストミンスターラボのアンプ
の音は、EIコア時代のクレルKMA-100の初期型を思わせる、ビロードのような美音を現代の技術で再現させた感じです。私は今までこのような美音を追い求めてきたといってもいい。
土方 そうでしたか。永瀬さんは世界中の名アンプを愛用し、それを縦横無尽に使いこなしてきた猛者ですから、そういう方がウェストミンスターラボのアンプをどう感じたのかはとても興味深かったんです。
永瀬 土方さんにそう言われると嬉しいなぁ。でもそのせいで貯金はまったくありませんけどね(笑)。
土方 ところで、永瀬さんは前々からStereoSound試聴室の音を聴いてみたいとおっしゃっていましたが、いかがでしたか?
永瀬 いや〜勉強になる点がいっぱいありました。この部屋の音を聴いて、わが家ももう少しライブにしたいと思ったんです。うちでは今日聴いたH.E.R.のような広がり感が出てこないんだよね。この音を参考に、わが家ももっとよくしていきます。
土方 素晴らしい! 僕も色々な部屋の音を聴く度に、自宅を再調整しているんです。そもそもちゃんとした部屋で試聴しないと、製品にも失礼ですからね。特にハイレゾを楽しむなら、機材だけでなく環境にも気をつけたいと思います。
――今日は、貴重なお話をありがとうございました。
私が求めていたビロード調の音色が、再現できた。素晴らしい響きと音に感激しました
ルーミン「X1」とウエストミンスターラボ「Quest」&「Rei」の組み合わせの試聴はなかなか興味深いものでした。
両機に共通するのは、音の艶です。私はずっと初期クレルのビロード調の音色に惹かれ、その現代版を追い求めてきました。それがチェロのアンプだったり、買うことは叶いませんでしたが、ダン・ダゴスティーノのアンプだったりします。それが今回の組み合わせで再現されました。やはりA級アンプの素晴らしさですね。初期クレルの音調でありながら、現代機らしくS/Nが素晴らしいレベルにあります。
またX1のLeedh Processing Volumeも素晴らしかったと思います。プリアンプなしにはこれまで否定的でしたが、X1はプリなしで充分いけると思いました。
ところで、初めてステレオサウンド試聴室の音を聴かせていただきましたが、その素晴らしい響きと音色に感激しました。このような部屋で、試聴して評価される機器たちが幸せだと思った次第です。(永瀬宗重)

熱心なオーディオ愛好家の集まり「Double Woofers’」の会長である永瀬宗重さん。数十年に渡るオーディオ経験を持ち、ご自宅には9ペアものスピーカーが(すべて稼働状態で)並ぶ、夢のような環境を整えている。日々その夢の空間で、ハイレゾとアナログレコードのふたつを楽しんでいるとか
ハイレゾを、どんな風に楽しむべきか? オーディオの自由さ、奥深さを改めて確認する、興味深い試聴だった
永瀬さんは、「ダブルウーファーズ」というオーディオクラブを主宰し、僕がオーディオ評論の世界に入るきっかけを与えてくれた方で、たいへんアクティブなオーディオファイルである。
今回は、そんな永瀬さんと、たいへん良質にルームチューニングされているステレオサウンド試聴室で、新進気鋭なふたつのオーディオブランド、ルーミンのネットワークプレーヤーと、ウェストミンスターラボのプリアンプ/パワーアンプをテストした。
実は、取材前にその内容を知った僕は「興味深い事になる」と若干緊張していた。
ルーミン「X1」は僕も永瀬さんも使用しているし、ウェストミンスターラボのアンプは僕の周りでたいへん評価が高いから出音は悪くないはずという確信はあった。
ただし、問題はテスト後半のルーミンの先鋭的なデジタルボリュウム「Leedh Processing Volume」を使った実験で、必然的にプリアンプレスも試すテストとなってしまう。
オーディオファイルにとって、セパレートアンプの「プリアンプを使う、使わない問題」は長年議論されていたテーマで、絶対的な情報量を得るのか、音楽再生に大切な情緒感を取るのかは、偉大な先人たちが何度も試してきたテーマだ。そして僕もその結論は出ていない。
永瀬さんがどのように判断するのか? 僕と正反対の意見になったらどうしようか? と結末を想像し、不安もあったのだが、結果は本文の通り。Leedh Processing Volumeもウェストミンスターラボの「Quest」も持てる能力を完全に発揮した。理論的に音質劣化がほぼ起きない先進なボリュウムよる分解能高い音とQuestを利用した音楽性、本当にどちらも捨てがたいのである。やっぱりオーディオは奥深い。(土方久明)
