映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第56回をお送りします。今回取り上げるのは、『フォーリング・ダウン』張りの暴走アクション作『Mr.ノーバディ』。果たして、ブチ切れハッチは無事に帰宅できるのか? とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『Mr.ノーバディ』
6月11日(金)全国ロードショー

 意表を突くオープニングショットが最高! 観終わると“『ジョン・ウィック』は犬、『Mr.ノーバディ』は猫かぁ”と笑いたくなる。全篇POV=一人称視点で進行するトリッキーで斬新なアクション映画『ハードコア』で注目を集めたロシア在住の新進監督イリヤ・ナイシュラーの第2作。

 ゴミ出しが遅れていつも妻に叱られている平凡な中年男ハッチ。毎朝路線バスに揺られて勤め先に向かっている彼は、しかし意外な秘密を持っていた……。

 やっと開き始めた映画館でとにかくスカッとするヤツ観るぜ、と考えている貴方。今月の必見作はこれだろう。

画像1: 【コレミヨ映画館vol.56】『Mr.ノーバディ』 いつも嫁さんに怒られているおじさんは、妻と子どもたちを守れるのか? コロナも逃げ出す大痛快アクション

 主演は『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』で、ワシントンポスト紙の記者を演じていたボブ・オデンカーク。

 といってもすぐに顔は思い浮かばないかもしれない。その普通さ、平凡さが利用されているのだ。

 今回、シャープでアクロバチックなアクションを組み立てたのは、格闘振付師のダニエル・バーンハート。ジョン・ウィック3作の監督チャド・スタエルスキと『アトミック・ブロンド』『デッドプール2』演出のデヴィッド・リーチがロサンゼルスに設立した格闘スタジオ「87eleven Action Design」の中心メンバーで、この施設の由来が興味深い。

 『マトリックス』でキアヌ・リーヴスのスタントダブルをやっていたスタエルスキは、撮影現場で香港からチームを率いて乗り込んできた振付師のユエン・ウーピンと出会う。

 香港映画界ではジャッキー・チェンもドニー・イェンも専属のアクション・チームを抱えるのが定石。アメリカでも見習おう! と設立したのが「87eleven Action Design」なのだ。

 スタントマン、ファイト・コレオグラファー(振付師)、演出家を同時に育てる、これまでアメリカ映画界にはなかった道場の運営がスタエルスキらの狙い。つまり意外な形で香港映画のエキスが流れ込んだ一本だといえるのだ。それに目をつけるナイシュラー監督もたいしたもの。

 近々撮影が開始される『ジョン・ウィック4』(今回もスタエルスキとキアヌのコンビ。2022年春公開予定)にも、もちろん「87eleven Action Design」スタジオが参加。そればかりか、主人公ジョン・ウィックの旧友役でドニー・イェンの出陣が決まった!

 このコンビはアホみたいに強いぞ。キアヌも有頂天になっているだろう。なにせ唯一の監督作が『ファイティング・タイガー』(2013年)というクンフー映画(悪ボス役)なのだから。自身のクンフー・アクションは手足が長すぎてサマになっていなかったけれど。

 話がそれた。すいません。でも米国初のアクション道場「87eleven Action Design」の今後は要注目だろう。

 今年38歳になる『Mr.ノーバディ』のナイシュラー監督はモスクワでインディー・ロック・バンド、ビッティング・エルボウズを組んでおり、彼が演出したバンドのPVもYouTubeに多く上がっている。タランティーノ映画が好きな方は一見の価値あり。

 そのPVのひとつ、「For The Kill」という曲はテンプテーションズの「マイ・ガール」などと共に『ハードコア』に使われていた自分たちのナンバーで、全篇こんなにマヌケで危ない一人称撮影をしていたのかと驚き、笑えるメイキング・フィルムになっていた。

 今回もニーナ・シモンの「悲しき願い」やルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」、フィラデルフィア・ソウルの立役者バニー・シグラーがルイ・ジョーダンのブルースの名曲を歌った「レット・ザ・グッドタイムス・ロール」など、曲のチョイスが洒落ている。これらをBGMにドシャメシャの活劇が展開するのだ。

 撮影は『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』のパヴェウ・ポゴジェルスキ。ドルビー・アトモス・ミックス。『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』シリーズのクリストファー・ロイドが主人公ハッチの父親役で助演しており、その扱いも痛快だ。ナイシュラー監督、子どものころにドクが好きだったんだろうなと微笑ましく思える。

映画『Mr.ノーバディ』

6月11日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー

監督:イリヤ・ナイシュラー
出演:ボブ・オデンカーク、コニー・ニールセン、RZA、クリストファー・ロイド、マイケル・アイアンサイド
原題:NOBODY
配給:東宝東和
2021年/アメリカ/シネマスコープ/92分
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