今や北欧を代表するスピーカーメーカーとなったダリ。1983年、ピーター・リンドルフによってデンマークで設立されたダリは、以来数多くの製品をリリースしてきた。その中でもオベロンは、豊富なラインナップを誇る同社がエントリークラスのユーザーのために作り上げたスピーカーシリーズである。

 オベロン9はシリーズモデルの最上位機種。これまで2ウェイを主体に製品を発表してきたこのシリーズにあって初めて3ウェイで構成されている4基のユニットを配置した高さ117.2cmの大型モデルである。

 オベロン9にもすべて自社製のユニットが採用されているが、23cm口径のウーファーと18cm口径のミッドレンジには、上位機で培ったSMCと呼ばれる磁気回路が導入されている。SMCとはソフト・マグネティック・コンパウンドの略だが、磁性材となる砂鉄の粒に化学的なコーティングを施して透磁率を高め、電気的な絶縁性を確保した新素材のことだ。ダリではこうした磁性材をフェライトマグネットに採用することで、磁気回路内で発生する磁気歪と過電流を低減する工夫を凝らして動特性の改善を図ったのである。

 29mm口径のトゥイーターには、このモデル用に新たに開発したシルク素材のソフトドーム振動板を与えて、ミッドレンジとのスムーズなつながりを求めている。またウーファーとミッドレンジの振動板には、上位機のユーフォニアシリーズなどで実績のあるパルプ繊維と木の繊維を織り交ぜたコーンが使われている。よく見るとこのコーンの表面には不均一な凹凸加工が施されていることがわかる。これはコーンの剛性を高めるとともに振動によって発生する不要な共振を最小限に抑えるためだ。さらにこの振動板に合わせて設計された、4層からなる銅被覆を施したアルミのボイスコイルを組み合わせて、電磁変換のロスを低減していることも特徴である。

 エンクロージャーにはMDFを使ったバスレフ型が用いられているが、従来よりも板厚が増し、ミッドレンジと2基のウーファーはそれぞれ別々のコンパートメントに収納された。ウーファーそれぞれに専用のバスレフポートを設置することで、相互の干渉を防いで最適な動作となるようにつくりこまれている。このほかエンクロージャーの下部には重量バランスを考慮したアルミダイキャスト製のベースが取り付けられ、スピーカー本体をしっかりと支えている。

ユニットの力感が伝わる音。調整次第でさらに化けそうだ

 CDによる視聴から始めてみたが、2基のウーファーとエンクロージャーのサイズ感が再現力によく反映されていることを窺わせる太くて逞しいサウンドを聴くことができた。ボリュウム感を湛えた悠然とした鳴り方は、これまでのダリのサウンドとはいくぶん趣が異なるように感じるものの、音楽にどっぷりと浸りたいというオーディオファンには受け入れてもらえることだろう。

 ステレオサウンド社が発売している今井美樹のSACD『ダイアローグ』でも、ゆったりとしたヴォーカルを聴かせて疲れた魂を癒やしてくれる。以前に視聴したことのあるコンパクトなブックシェルフ型のメヌエットSEとはある意味で対極にあるようなスピーカーだが、おそらく米国のマーケットを意識した音づくりがこうした表現力につながっているのだろう。

 クラシックの楽曲でも優しさに主眼を置いた音づくりがなされていることがわかる。弦楽器の音色をていねいに描き出すが、クリアーネスは平均的なので切れ味という点ではもう少し主張があってもいいのかもしれない。

 UHDブルーレイ『ムーラン』の2チャンネル再生でも落ち着きのあるダイアローグを再現する。効果音は厚みがあり、情景をダイナミックに描き出し、雄大で朗らかな印象を与える。低域に向かっての量感に不足はないものの、音のテンションがもう少し加わると申し分のないバランスになるように感じた。このあたりはユーザーの使いこなしが求められる部分でもあるだろう。今回はそこまでチューニングに費やす時間がなかったので、無責任なことは言えないが、中低域の扱いに気を配ると一皮剝けることは間違いない。BDのライヴ音楽ソフトを再生しても音の傾向は似ていて、会場の空間の描き出しやオーディエンスの盛り上がりをそつなくとらえる点ではなんの不足もないが、熱っぽい感じはもう少し欲しい気がした。

 いずれにしてもこのサイズでこのプライスという点にまず驚かされたが、使いこなしに関してはやや上級者の向けのスピーカーなので、その覚悟のあるオーディオファンには充分期待に応えてくれることと思う。シリーズモデルとしてブックシェルフからセンタースピーカーまで用意されているので、ホームシアターのユーザーも要チェックのスピーカーである。

SPEAKER SYSTEM
DALI
OBERON 9
¥260,000(ペア)+税

●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、180mmコーン型ミッドレンジ、230mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:780Hz、3.4kHz
●出力音圧レベル:90.5dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W260×H1172×D406mm/37.1kg
●問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター TEL.0570(666)112

スピーカー接続はシングルワイヤリング。アルミニウムの台座を備えている

ミッドレンジとウーファーにはダリのシグネイチャー素材である赤茶色のウッド・ファイバーコーンを搭載。ナチュラルでオーガニックなサウンドを志向している

エンクロージャー内部の構造を見ると、ミッドレンジとウーファーそれぞれに別の部屋に仕切られていることがわかる。ウーファーはそれぞれに別のバスレフポートが配されて、低音の抜けのよさを追求している

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