主演作『ダニエル』は耽美と狂気が混じり合ったスリラー

 エキセントリックな母の影響もあって、殺伐とした家庭で育つ少年ルーク。彼の傷ついた心を支えたのは<空想上の親友>ダニエルだったが、ある危うい事件が起こったことからダニエルとの決別を決意する。しかし大学生になったルークは、あまりの孤独に耐えかねて、唯一無二の親友=ダニエルの封印を解き再会を叶えたのだが……。

 孤独な少年と空想上の親友のお話は、これまでも作られてきた。だから、『ダニエル』の簡単なシノプシスを読んだときは、「ちょっぴり泣かせる友情のからんだ成長物語」だと思っていた。ところが、観てびっくり。まさに予想を大きく裏切る展開で、狂気のクライマックスへと突っ走る。

 リリースには「耽美と狂乱の世界へいざなう、イマジナリー×スリラー誕生!」とある。う~ん、言い得て妙だ。確かに「狂気の世界」へ誘ってくれている。しかし、なにより納得なのは「耽美」の部分だ。監督のアダム・エジプト・モーティマーの作品は「次世代のコンテンポラリー古典ホラー」と称されているだけあって、エグいなかにも耽美な映像が特徴的だ。

画像: 左が孤独に苛まれるルーク、右が<空想上の親友>ダニエル。幼い頃ルークをなぐさめたダニエルは、美しく自信に満ち溢れた大人に成長していた。彼の助言に助けられてルークの日々は輝きはじめるが、やがてダニエルが暴走し始め……

左が孤独に苛まれるルーク、右が<空想上の親友>ダニエル。幼い頃ルークをなぐさめたダニエルは、美しく自信に満ち溢れた大人に成長していた。彼の助言に助けられてルークの日々は輝きはじめるが、やがてダニエルが暴走し始め……

 でも私が言う<耽美>は、ちょっと違う。そう、美しく端整なルックスのキャストたちだ。圧倒的なカリスマ性を放つダニエルを演じたパトリック・シュワルツェネッガーのハンサムなこと! スタイリッシュな演技で、魅惑的な悪の華を咲かせている。

 そして、そんなダニエルに癒やされ、憧れ、翻弄され、やがてすべてのものから解き放たれようと、狂気的な決心をするルーク役のマイルズ・ロビンス。彼も負けず劣らず端正なイケメンだけど、そこに脆さやキュートさが加わっていて、う~ん、オネエサマ殺し(笑)。

 さらに、このふたりの少年期を演じる子役たちもめちゃくちゃ整った顔で愛らしく、10年後が楽しみ。そう、本作ではプロデューサーとして名を連ねるイライジャ・ウッドも、子役時代に出演した『背徳の囁き』(90年)、『わが心のボルチモア』(90年)でめっぽう可愛らしく、後に『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(01年~03年)で大人気に。とにかく<イケメン祭り>な作品であることは、間違いない。

輝く二世俳優ふたりが夢の競演! どちらも血のつながりがよくわかる

 そして、もうひとつの売りは、主役のふたりがビッグな二世スターであること。名前でわかるように、パトリックは言わずと知れたアーノルド・シュワルツェネッガーの息子だ。顔は名門ケネディ家の血を引く母、マリア・シュライヴァーの気品と美貌を受け継いだ感ありだけど、ボディは父似。本作でも、美しい筋肉ボディを披露してくれる。

画像: 劇中、見事なボディを披露するパトリック。美しい顔+父に似たボディは最強の組み合わせか?

劇中、見事なボディを披露するパトリック。美しい顔+父に似たボディは最強の組み合わせか?

 対するマイルズ・ロビンスも負けないサラブレッド。なにしろ、父は<アメリカ映画ベスト100>に名を残す名作『ショーシャンクの空に』(94年)で主演し、『ミスティック・リバー』(03年)でアカデミー賞助演男優賞を手にした名優のティム・ロビンス。母は、父の監督作『デッドマン・ウォーキング』(95年)でアカデミー賞主演女優賞を獲得しているスーザン・サランドン。よくこんなピッカピカの二世を共演させたと、プロデューサー=イライジャに拍手を贈るばかり。

画像: 映画ファンであれば、思わず「似てる……!」と唸ってしまうだろう。動いていると、ふたりの血を引いているのがさらによくわかる

映画ファンであれば、思わず「似てる……!」と唸ってしまうだろう。動いていると、ふたりの血を引いているのがさらによくわかる

本格的な俳優になる前、卒業旅行で来た日本で語った“将来のこと”

 で、じつは(たぶん)8年ほど前だったと思うが、字幕翻訳者の戸田奈津子さんのお供で、私はマイルズに日本の飲み屋で会っている。要は、母スーザンが「息子のマイルズが日本に行くので知り合いはいない?」と、今は亡きロビン・ウィリアムズの元妻で、『ミセス・ダウト』(93年)などのプロデューサーでもある、親友のマーシャ・ガーセス・ウィリアムズ相談。マーシャが「奈津子がいるよ」となった次第。私は、その戸田さんに「若い子だから、一緒にどうぞ」とお誘いを受けたのだ。

画像: 『ダニエル』日本メディア向けのオンライン取材が行われた際に撮影されたオフショット

『ダニエル』日本メディア向けのオンライン取材が行われた際に撮影されたオフショット

 実際に対面したマイルズは、パパのティムと同様にヒョロヒョロの長身で、顔のフォルムはパパ似だけど、目とか鼻筋はママ似。人懐っこい笑顔に魅了された私は、もう、質問攻め。いまなにをしているの? 学校は? どこに住んでいるの? 何になりたいの? 日本には、どうして来たの? etc. etc.

 「いまは、ドキュメンタリー映画や音楽を学んでいたブラウン大学を、卒業前に辞めたばかり。日本に来たのは、いわば僕の卒業旅行、ってところかな。もともと音楽に興味があって、バンド活動もしている。それに、ママの恋人(編注:スーザンとティムは2009年に破局)が経営しているニューヨークのピンポン・バー(卓球のできるバー)でディスク・ジョッキーもしてるしね」

 ――バンドの音楽の傾向は?

 「う~ん、一言で言えない。サイケデリックとヒップホップをミックスしたような感じ」

 ――わかんないけど?

 「とにかく、すごくクールなんだよ」

 ――じゃあ、ミュージシャンになるの?

 「いや~、音楽も大好きだけど、演技への興味も捨てきれない。子役でちょっと映画に出たこともあるんだけど、だからといって俳優だけを目指すのもなぁ……」

 ――だって、ご両親が名優なんだから、自分にも絶対に才能があると思わない?

 「……(苦笑)」

 うるさ型の叔母さんに迫られて困ってる、ちょっと頼りないけど素直な甥っ子の雰囲気。思い出しても、可愛かったなぁ。

 日本の文化に興味があるマイルズは、けっこう長めに滞在して、美術館や京都のお寺などを見学し、もちろんクラブやライブにも顔を出して、日本を充分に楽しんで帰国した。その後、ニューヨークで母スーザン・サランドンと会った戸田さんは、「マイルズが、とってもお世話になりました。本人はちょっとニューヨークにいないので、“直接お礼が言えないのが残念だと伝えて”と言っていたわ」と言われたとのこと。礼儀も正しいのだ。

画像: こちらも同じくオンライン取材のときのオフショット。手にしているのはウクレレ? ここでもミュージシャンであることが感じられる

こちらも同じくオンライン取材のときのオフショット。手にしているのはウクレレ? ここでもミュージシャンであることが感じられる

 というわけで、昨年の11月頃に『ダニエル』の主演が<あの、マイルズ>と知ったときは、本当に驚いた。しかも、本作では孤独で頼りない青年の繊細さや陰りがありつつ、自己に目覚め、秘めた強さを爆発させる二面性のあるキャラを魅力的に演じている。

 ほら、やっぱり言ったとおりじゃないの。「才能は、絶対にある」って!

ダニエル

監督・脚本:アダム・エジプト・モーティマー
出演:マイルズ・ロビンス/パトリック・シュワルツェネッガー
原題:DANIEL ISN'T REAL
2019/アメリカ/100分
配給:フラッグ
公開中
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