自宅で過ごす時間を充実させるのには欠かせない映画。しかし、膨大な数の中から好みの作品を見つけ出すのは、なかなかに難しいもの。ところが、近年躍進が著しい動画配信サービスを使えば、定額・見放題で、映画だけでなく、さまざまな映像コンテンツが自由に楽しめるようになる。まさに、巣ごもり生活には頼もしい味方と言えるだろう。本連載では、NETFLIXのオリジナルコンテンツを中心に、優れた作品を紹介していきたいと思う。第1回はジョージ・クルーニー監督・主演の『ミッドナイト・スカイ』。4K/HDRとドルビーアトモスによる、優れた映像と音響にも注目だ。

ジョージ・クルーニー監督作としては珍しいSF映画

 NETFLIXで昨年12月23日から配信されている『ミッドナイト・スカイ』。監督のジョージ・クルーニーは、『グッドナイト&グッドラック』ではアカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされるなど、監督としてもいくつもの名作を生み出している。これまでの監督作は社会派というか、現実を舞台とした作品ばかりだったが、今回はSF映画。とはいえ、キャストとしては日本でも大きな話題となった『ゼロ・グラビティ』に出演するなど、SF映画との縁は意外と深い。

 本作は本格的なSF作品で、謎の災害によって終末を迎えた地球と、地球に帰還中の宇宙船エイテル号が舞台となる。エイテル号は、木星の衛星に人類が移住可能であるという“希望”をもって帰還中。だが、その地球はすでに手遅れの状態で、ほとんどの人々は避難し、地表に残っている人類は死期の迫った老科学者のオーガスティン一人という絶望的な状況だ。

 オーガスティンは通信途絶の状態にあるエイテル号との通信を試み、「地球に帰ってくるな」と伝えようとする。一方のエイテル号は、地球との通信が途絶えたことが原因で正規の帰還航路から外れてしまい、未探査領域を通過する危険な航路で地球に帰還しようとする。任務として地球に帰還するため、家族の元に戻るため、地球に“希望”を届けるためだ。地球とエイテル号のそれぞれで、生き残った人々がそれぞれに生きるために奮闘する姿をせつせつと描いている。

北極圏での孤独な日々と、通信手段を求めて北極圏を移動するサバイバル

 オーガスティン博士は、人々が避難していくなか、ひとり天文台に残る。自分が死期の迫った身体であり、他の者の迷惑にならないためだ。あるいは自らが人生をかけていた仕事を死に場所と決めていたのかもしれない。孤独な日々を過ごすが、地球への帰還が迫ったエイテル号との通信が途絶していることを知り、通信の再開を試みるが、天文台の通信設備では出力不足で通信ができない。そこで、より規模の大きな通信設備のある北極圏の基地へ行く。ただし地表は大災害レベルの天候にさらされ、原因は不明だが、放射能汚染の影響も広がっている。北極圏の移動を単独で行なうだけでも危険なのだが、それでも彼は目的を果たす。

画像: 北極圏での孤独な日々と、通信手段を求めて北極圏を移動するサバイバル

 北極圏の厳しい吹雪のなかでの移動も、4K/HDRの映像はなかなかに見応えがあるが、廃棄されたシェルターで休憩中に氷河が割れて水没しかけるなど、スリリングな場面も数多い。凍てついた氷原の厳しい景色は、ドルビーアトモス音響で吹雪く様子もリアルに再現され、過酷な状況がよく伝わる。水没しかけたときの冷たい海水に沈んでいく様子もなかなかリアルで、まさに命がけのサバイバルを体感できる。そして、回想で挿入される彼の過去で、彼がエイテル号との通信に命を賭ける理由なども明かされ、彼の奮闘を応援したくなる。

木星の衛星の景観と、リアルな近未来の宇宙船の描写が見事

 一転して宇宙船エイテル号は、冒頭では木星の衛星の調査の様子も描かれ、木星の反射の影響で真っ赤に染まった大自然が美しく描かれる。麦によく似た植物が生えた草原の向こうに巨大な木星が浮かんでいる様子など、異様ではあるが美しい景色だ。

 宇宙船エイテル号のデザインもSFファンとしてはおおいに注目したい。宇宙船の姿をゆっくりと映し出すシーンがあるが、細部をみると宇宙船の各部分はモジュール構造で接続されていて、宇宙ステーションのISSのようにも見える。おおざっぱに言うと、形状をシンプルにしたISSの後部に大型の推進用エンジンを装着しているようなイメージだ。現在の宇宙計画の延長線上にあるようなデザインとなっているのが分かる。

 それでいて、ディテイルを細かく見ていくと、船体はパイプを組み合わせて円筒を構成したような骨格で構成されていて、居住部分など船体の多くの部分は外壁が布状のもので覆われていることが分かる。船内もまっすぐ伸びた柱のようなものはあまり見えず、三角形を組み合わせたトラス形状がもっと有機的になったような、骨組みによって強度を確保した構造であることが分かる。宇宙服も現在のものの進化形であるデザインだし、細部に至るまで、近未来の宇宙船の姿を実にリアルに設定していると感じる。これは、4K/HDRの迫真の映像でじっくりと見たくなる。

画像: 木星の衛星の景観と、リアルな近未来の宇宙船の描写が見事

 正規の航路を外れたため、未調査領域を通過して地球へと帰還するエイテル号は、途中で流星群に遭遇し、レーダーや通信アンテナが破損してしまう。船体に無数の石や氷がぶつかるが、布状の外壁はその衝撃をうまく吸収し、船体への致命的なダメージを防いでいる。ここで修理のための船外活動が行なわれるが、ここも見どころだ。CGで再現されているとは思えないようなリアルさの宇宙空間のシーンが広がる。リアルな映像に加えて、ドルビーアトモスの音響は宇宙服ごしに伝わる宇宙船の外壁の音や、作業時のドライバーの駆動音などを、くぐもったリアルな音で再現。宇宙にいる様子を肌で感じられるような場面となっている。

通信に成功した地球とエイテル号。果たしてその結末は……

 ついに地球のオーガスティン博士はエイテル号との通信に成功する。木星の衛星に戻るか、滅亡が迫った地球に帰還するかの選択を迫られるエイテル号の面々。その結末はそれぞれが見届けてほしい。救いのない終わり方と感じる人も少なくないだろう。少なくとも大ヒットを期待しにくい作品ではある。だが、SFファン目線で見ると、そんな大ヒットしにくい企画にこれだけのコストを投じて、映像的にも音響的にも超一流の作品として完成させたことに感激する。おそらくは、動画配信を基盤としたNETFLIXという新しいメディアだからこそ作ることのできた作品だとも思う。

 アクションあり、魔法も奇跡もなんでもありのSF大作(これはこれで筆者も大好物だが)とはひと味違う、本格SFの面白さをじっくりと味わってほしい。

 NETFLIXをはじめとする動画配信サービスには、こうした質の高い作品がとても多い。そんな多彩な作品との出会いによって、映画の楽しみ方の幅が広がり、これまで楽しんでいた映画にも、別の魅力があることに気がつくようになるだろう。そんな、自宅で過ごす時間をもっと豊かにしてくれる映画を、これからも紹介していきたい。

『ミッドナイト・スカイ』

Netflixにて独占配信中
監督:ジョージ・クルーニー
製作:ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロブ、キース・レッドモン、バード・ドロス、クリフ・ロバーツ
脚本:マーク・L・スミス
(C)Philippe Antonello/ NETFLIX

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