「Made in Japan」の上質なモノづくりという明確なコンセプトを掲げ、その品質の高さから熱心なオーディオファンを中心に根強い支持を得ているクリプトン。特にスピーカーについては、日本ビクターでいくつもの銘器を手がけた名匠、渡邉勝氏を迎い入れ、充実したラインナップを構築している。

 ここで取り上げるKX-1.5は、コストパフォーマンスに優れたロングセラーモデル、KX-1の後継となる注目のモデルだ。昨年製品化された弟機、KX-0.5で開発したカーボンポリプロピレン(CPP)振動板のウーファーや、上位モデルのKX-3シリーズで培ったエンクロージャー、内部の吸音材のノウハウなど、これまでの製品開発で培った新技術を積極的に投入した意欲作だ。

 クリプトンのスピーカーと言うと、どうしても独自開発のスピーカーユニットや、線材や構造に凝ったネットワーク回路が注目されがちだが、私がいつも感心させられるのが、エンクロージャーのつくりのよさだ。

 オーソドックスな箱型のフォルムに目新しさはないが、実際に目の前に置いて、手にしてみると、ていねいな表面仕上げといい、頑丈な造りといい、随所でクラスを超えた価値を実感させてくれる。

 もちろん今回のKX-1.5も例外ではない。家庭用スピーカーは木材チップを蒸煮、解繊し、合成樹脂で成形したMDFで本体をつくり、薄い化粧板(突き板)で仕上げるのが一般的だが、KX-1.5では無垢材に近い響きを求めて、針葉樹系高密度18mm厚のパーチクルボードを採用(裏板はMDF)。剛性の高い密閉型エンクロージャーに仕上げている。

 密閉型にこだわるのは、過渡応答特性に優れた、制御可能な良質な低音が再生できるため。バスレフ型では低音の音圧は有利だが、ユニットのコントロールが効かない領域で、原音に含まれない低音が鳴ってしまう可能性が高い。ハイファイ再生を追求するなら、密閉型が好ましいという考え方だ。

 表面には高級ヨーロッパ家具でよく見かける、木目も美しいスモークユーカリを配置し、ポリウレタン塗装で仕上げている。硬く深みのある光沢が生まれ、「自然材のよさが感じられる響き」(渡邉氏)が得られる。

 170mm径ウーファーの振動板は、KX-0.5で実績のあるカーボンポリプロピレン。強度や内部損失を見極めながら、カーボンとポリプロピレンの配合を調整、「軽くて高剛性な理想に近い振動板」(渡邉氏)としている。低域の共振周波数は35Hz。トゥイーターには砲弾型イコライザーを備えた35mmピュアシルク・リングダイアフラム型を投じ、50kHzまでの帯域を確保している。

空気まで音にするような
生々しい音場感がある

 まずHiVi視聴室のリファレンスとの組合せで、聴き慣れた楽曲、ヴォーカル、ピアノ、サントラと再生してみたが、品位の高さを感じさせる響きの緻密さ、粒子の細かさが特徴的だ。
 ギター、ベース、ピアノと、楽器の響きも厚みがあり、音の芯を明確に描き出す。特にベース、バスドラはキリッと引き締まり、躍動する。トランジェントの優れた伸びやかな低音は、まさにクリプトンの証と言っていいだろう。

 サントラCD『アリー/スター誕生 サウンドトラック』では声、演奏ともに刺激的にはならず、穏やかな調子だが、音量を思い切って上げていっても、足元が崩れず、落ちついて、スケール感に富んだサウンドを描き上げていく。ストーリーを刻々と刻み、盛り上げるムービーサウンドが実に楽しい。

 反田恭平の『リスト』では、その場の空気感、気配の描写が実に生々しい。ニューヨーク・スタインウェイCD75の独特な響きと、その余韻が大きな空間にフワッと拡がり、しみ込むように消えていく感じ。ペダルの踏み込みとリリースの描写も曖昧にならず、その空気の動きまで明瞭に音として感じ取ることができた。

 最後にヤマハのAVセンター、RX-V6Aとの組合せでバイアンプ駆動を試してみたが、これが予想以上に効果的だ。特に『アリー~』の再生では、艶っぽいレディー・ガガの歌声といい、スタジアム全体を震わす歓声といい、音場が熱く、響きが生々しい。セリフの微妙なニュアンスと共に空間の余韻が克明に描き出され、各場面、場面の状況が目の前に浮かび上がってくるよう。

 密閉型のブックシェルフで、低音の躍動、微細な響きを、ここまで生々しく描き出せるスピーカーも貴重だ。

画像: 空気まで音にするような 生々しい音場感がある

SPEAKER SYSTEM
KRIPTON
KX-1.5
¥280,000(ペア)+税
※専用スタンドSD-3.5 ¥60,000(ペア)+税

●型式:2ウェイ2スピーカー・密閉型 ●使用ユニット:35mmリング型トゥイーター、170mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:3.5kHz ●出力音圧レベル:88dB/W/m ●インピーダンス:6Ω
●寸法/質量:W224×H380×D319mm/9kg(スピーカー)、W249×H620×D325mm/7.2kg(専用スタンド)
●問合せ先:(株)クリプトン TEL.03(3353)5017

画像: 専用スタンドのSD-3.5は無垢のビーチ材を芯材まで使っている。鉄芯を通さないことで自然な響きを生みだす


専用スタンドのSD-3.5は無垢のビーチ材を芯材まで使っている。鉄芯を通さないことで自然な響きを生みだす

画像: KX0.5から引き継がれた、軽くて剛性の高いカーボンポリプロピレン素材のコーン型ウーファー。歪みの少なさと内部損失の高さが自慢だ

KX0.5から引き継がれた、軽くて剛性の高いカーボンポリプロピレン素材のコーン型ウーファー。歪みの少なさと内部損失の高さが自慢だ

画像: クリプトンでおなじみの砲弾型イコライザー付のリング型トィーターは、50kHzまでの再生帯域を確保し、ハイレゾ音源の充全な再現に対応するという


クリプトンでおなじみの砲弾型イコライザー付のリング型トィーターは、50kHzまでの再生帯域を確保し、ハイレゾ音源の充全な再現に対応するという

画像: KX-1、KX0.5はシングル接続専用だったが、KX-1.5はバイワイヤリング接続に対応した。試聴時にはAVセンターのバイアンプ駆動も試し、音の変化を実感した


KX-1、KX0.5はシングル接続専用だったが、KX-1.5はバイワイヤリング接続に対応した。試聴時にはAVセンターのバイアンプ駆動も試し、音の変化を実感した

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