音楽に対してもっとも多感だった中学から高校にかけて、ほぼ同時にオーディオにも関心を持った私が盛んに聴いていたのが、YMO、そしてスペクトラムである。スペクトラムの音楽は、歌謡曲にブラス・ロックを持ち込んだとも形容できるし、当時勃興し始めたクロスオーバー(今日のフュージョン)と和製ロックの懸け橋と捉えることもできた。解散から40年ほど経った今も、中高生ブラスバンドやアマチュア吹奏楽ファン等から伝説のバンドとして神格化されている。

 今回彼らが残したアルバム5枚がビクターエンタテインメントとステレオサウンドの協力の下、最新機材を駆使してリマスタリングされ、SACDハイブリッド盤としてタワーレコードより発売されることとなった。私はその監修を務めさせていただき、ほぼすべてのアルバムで録音エンジニアとして携わった高田英男さん(現ミキサーズ・ラボ)へのインタビューをライナーノートにまとめた。そこで10月28日に先行リリースされたファーストとセカンドアルバムを紹介したい。

最新リマスターSACDで鮮明に蘇る
伝説のブラス・ロックバンドの迫力

 スペクトラムの起源は、70年代に絶大な人気を誇った女性3人組のアイドルグループ「キャンディーズ」のバックバンドのホーンセクションで、トランペットの新田一郎らを中心に独立し、79年に結成された。楽器編成はトランペット×2、トロンボーン、キーボード、ギター、ベース、ドラム、パーカッションで、ヴォーカルはギターの西慎嗣、ベースの渡辺直樹が担当し、さらに新田のファルセット・ヴォイスがトレードマークとなった。

 スペクトラムの音楽をひと言でいえば、とにかくカッコイイに尽きる。古代ローマ戦士の甲冑を模したコスチュームや、トランペットやベースなどをクルクル回すパフォーマンスなども、そのカッコよさの一因であったが、16ビートに乗せた派手なブラス・アンサンブルとタイトなリズムが、アイドル歌謡全盛の当時大いに刺激的だったのである。本格的なブラス・ロックに日本語詞を乗せた彼らの音楽スタイルは、歌謡界に新しい風を吹き込んだといっても過言でなかった。

画像1: 最新リマスターSACDで鮮明に蘇る 伝説のブラス・ロックバンドの迫力

SACD/CDハイブリッド
『スペクトラム(+4)/スペクトラム』
(ビクターエンタテインメント/Tower To The People[タワーレコード]NCS-80015)
 ¥4,000+税

●1979年作品
●録音:1979年5月12日〜6月7日、米国カリフォルニア州ウエスト・ハリウッド、アルファスタジオ、アミーゴスタジオ

2020年リマスター制作
●サウンド・スーパーバイザー:高田英男
●リマスタリング:袴田剛史
●監修:小原由夫、湯川雅宗

     ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_sacd/3326

 さて、今回のリマスタリングに当たり、高田さんとビクタースタジオ所属の袴田剛史さんがオリジナルアナログマスターを再チェック。5タイトルとも4分の1インチ幅の2トラック38cm/秒・NABで、良好なコンディションを保っていた。それをスタジオ常設のスチューダーA820で再生し、11.2MHzのDSD信号にA/D変換した後にPyramixに取り込んでマスタリング処理。さらにDXD352.8kHzにデジタル変換した後に適宜イコライジング等の調整が加えられた。これをマスタリングして2.8MHzのSACDマスターを作ったというプロセスである。CD層の音もこのSACDマスターから改めて作られているので、これまでに3度CD化された時とは異なる最新リマスタリングの44.1kHz/16bitのサウンドとなる。

 ファーストアルバム『スペクトラム』は米ロサンゼルス録音で、録音エンジニアは当時西海岸で活躍していたボビー・ハタ氏が担当。日本側スタッフの一員として渡米した高田さんは、日本とはずいぶん異なる機材セッティングに現場で戸惑いながらも、その音づくりに加わった。ビクター青山スタジオと一口坂スタジオで録音されたセカンドアルバム『オプティカル・サンライズ』は、全面的に高田さんが従事している。

画像2: 最新リマスターSACDで鮮明に蘇る 伝説のブラス・ロックバンドの迫力

SACD/CDハイブリッド
『オプティカル・サンライズ(+3)/スペクトラム2』
(ビクターエンタテインメント/Tower To The People[タワーレコード]NCS-80016)
 ¥4,000+税

●1981年作品●録音:1979年9月12日〜1980年1月18日、東京・青山 ビクタースタジオ、東京・市ヶ谷 一口坂スタジオ

2020年リマスター制作
●サウンド・スーパーバイザー:高田英男
●リマスタリング:袴田剛史
●監修:小原由夫、湯川雅宗

     ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_sacd/3327

 こうして1枚目と2枚目のアルバムは、異なる環境/スタッフによって録音されたわけだが、高田さんは今回のリマスタリングに際し、1枚目の音を2枚目に近付けるようなことはせず、中域の若干のレベル補正程度に留めたという。

 2枚を聴き比べると、確かに空気感の違いが感じられる。ファーストは開放的な印象だが、セカンドはもっとタイト。これは日米でのリズムの録り方やブラスの質感再現などの違いがもたらしているような気がする。

 ファースト『スペクトラム』の音はベースラインがどっしりと鎮座し、リズム隊が繰り出すグルーヴに誘引されてブラスセクションがファンキーかつハイスピードなリフを連発。ややスモーキーな西のヴォーカルは、LPと聴き比べて確かに明瞭になっており、ギターやパーカッション類の細かなリズムも一段とくっきりしている印象だ。1曲目「アクトショー」で右chから克明に聴こえるカッティングギターは、5曲目「メモリー」ではより細密になって左chに配されている。今回のSACD化では、このカッティングギターとホーンセクションの絡みが実にいい感じだ。いっぽうでは「トマト・イッパツ」の渡辺のチョッパーベースのリズミカルなフレーズとアタックも、DSDならではの鮮明さといっていいだろう。

 『オプティカル・サンライズ』の1曲目「モーション」のイントロのブラスのアンサンブルの盛り上がりなど、今聴いても実にワクワクする。ステレオ音場をワイドに活用したブラスとコーラスの広がり/重なりがパノラミックで、センターには反復フレーズのベースがどっかりと腰を下ろしている。「侍ズ」のイントロのラグタイム風ピアノは、この当時流行していた音づくりの一環から意図的にソリッドな響きにしたと高田さんが言っていた。また、テクニクスのシステムコンポのイメージキャラクターに使われたことから彼らの最大のヒットシングルにもなった「イン・ザ・スペース」は、“和製アース・ウィンド・アンド・ファイアー”と評された演奏で、新田のファルセット・ヴォーカルがとても伸びやかだ。

 11月25日には残る3タイトルもリリース予定。そちらの音がどう仕上がっているかも楽しみである。

●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル03(5716)3239(受付時間:9:30〜18:00 土日祝日を除く)

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