WOWOWでは、昨日(10月28日)の17時から、「第二回高度音声配信実験」を実施した。これは10月6日のMQAによるハイレゾ配信実証実験に続いて行われたものだ。

 会場は前回と同じく富ヶ谷のハクジュホール。健康のトータルプロデュースを提案してきた株式会社白寿生科学研究所が、“音楽”や“心地のよい空間”が“心の健康”に貢献できるとの考えから、2003年にオープンした美しい響きを持つホールだ。

画像: 演奏は富ヶ谷のハクジュホールで行った

演奏は富ヶ谷のハクジュホールで行った

 今回はここで、仲野真世さんと馬場高望さんによる、ピアノとドラムのデュオコンサートを実施、その映像と音をAURO-3Dフォーマットを使ったマルチチャンネルでライブ配信するという、世界初の試みとなっていた。

 配信に使われたのはAURO9.1で、これはフロント(L/C/R)、サラウンド(L/R)とサブウーファーの5.1chに、フロントハイト(L/R)とハイトサラウンド(L/R)の4本を加えたスピーカー構成だ。なお配信をAURO9.1で楽しむにはAURO-3Dのデコード機能を備えたAVセンターが必要だが、非対応機をお使いの場合でも5.1chとして楽しむことができる。この点も今回の配信実験でAURO-3Dが選ばれた大きな理由となっている。

画像: 天吊りされたマイクツリー。写真下段が5.1ch用、上段がハイトレイヤー用でそれぞれ5基のマイクを備えている。今回はこのマイクで収録したサウンドをメインで使用した

天吊りされたマイクツリー。写真下段が5.1ch用、上段がハイトレイヤー用でそれぞれ5基のマイクを備えている。今回はこのマイクで収録したサウンドをメインで使用した

 またマイク配置も前回のMQA 2ch配信時とは異なっていた。今回の配信実験の中心メンバーであるWOWOWの入交英雄さんによると、今回はサラウンド配信ということもあり、視聴者の皆さんに普段なかなか聴けない音を体験してもらおうと思ったという。

 そこで、マルチチャンネル収録用のマイクツリーをステージ中央に天吊り設置した。マイクツリーは2段構造になっており、下段に5つのマイクが、さらに1.5mほど上に同じく5つのマイクが、再生時の5chスピーカーに合わせた形(ITU-R配置に準拠)で取り付けられている。ここで収録した音を基準に、ピアノやドラムなどの音をダイレクトに拾うためのサブマイクを合計8本セット、このマイクからの情報も楽器の演奏のダイナミズムを楽しめるよう適宜使われている。

画像: 9.1chミックスやAURO-3Dエンコード作業は、ステージ脇に設置されたこのシステムで行っている

9.1chミックスやAURO-3Dエンコード作業は、ステージ脇に設置されたこのシステムで行っている

 実際には客席側にも合計8本の環境音収録用のマイクがセットされていたのだが、今回はこれらは使っていない。会場のアンビエントをミックスしなくても、ステージ上のマイクだけで充分サラウンド感を楽しんでもらえるという判断だったのだろう。

 こうして収録した音は、ステージ脇にセットされたミキサーやPC(プロトゥールスをインストールしたマック)を使ってAURO9.1に変換、MPEG-4 ALSで圧縮した後に2Kの映像と組み合わせて配信された。その際の転送レートは約11.5Mbpsで、一般的な動画配信よりはやや高めだが、光回線等をお使いであれば問題なく再生できる値に収まっているとのことだった。

 今回も新型コロナ感染症対策の意味もあり、ハクジュホールは招待者のみの参加となっていた。参加者を3つのグループに分け、演奏曲ごとにホールの生演奏と、ホワイエに設置された9.0chシステムによる配信再生音の聴き比べを行ったのも前回同様だ。

画像: ピアニストの仲野真世さん

ピアニストの仲野真世さん

 ホワイエでは、ストリーミング信号をPC(VLCを使用)で再生し、HDMIケーブルでデノンのAURO-3D対応AVセンター「AVC-X8500H」に入力、そのプリアウトからジェネレックのアクティブモニタースピーカー「Oneシリーズ」につないで、9.0chで再生した。映像は小型モニターに出力している。

 今回僕はホールでの生演奏を聴く前にホワイエの配信サウンドを体験したのだが、それでもふわりと包まれるような音場感と、キレのいいピアノの響き、力強いドラムの低音を感じ取ることができた。ハクジュホールは天井もとても高く、音がストレスなく伸びていくのが特徴的だが、まさにそんな“高さ”を持ったサラウンドが体験できた。

 その後ホールに移動して生演奏を体験させてもらったが、こちらはまさに迫真的なサウンドで、音の凝縮感が高まる。途中ドラムの馬場さんがステージ上を移動しながら音を奏でるという演出があったが、入交さんによると配信ではここの移動感が現場以上に感じ取れたのではないかと言うことだった。こちらについては本日からアーカイブ配信も始まっているので、ぜひご自宅のシステムで体験していただきたい(モニターを希望する方は wowow@stereosound.jp までお申し込みを。なお体験後にアンケートにご協力いただきます)。

画像: ホワイエに置かれたAURO9.1の再生システム。スピーカーはジェネレックのアクティブ型を使用

ホワイエに置かれたAURO9.1の再生システム。スピーカーはジェネレックのアクティブ型を使用

 演奏後のインタビューで仲野さんは「自分の演奏と配信の音を聴ける、未知の体験でした」と語り、馬場さんも「こういったマルチの収録は初めてだったので、どういう風に演奏したら、どう聴こえるのか心配でした。実際には半分は予想通りでしたが、半分はこうなるのかと驚きました。次回はパーカッションの真上にマイクを付けたらどんな風に聴こえるのか、試してみたいですね」と、早くも次のトライアルへの意気込みをみせていた。

 また麻倉怜士さんも、「今日の配信実験は遠くベルギーでも視聴しているとかで、とても意味のあるものになりました。AURO-3Dは解像感、明瞭感に優れて、音楽的解像度も高い。演奏されている空間を再現し、まさにコンサートホールの空気を家庭に届けてくれます。次回はMQAとAURO-3Dの掛け合わせによる配信も期待したいですね」とさらに進んだテーマを提唱していた。

 WOWOWの入交さんは、「今回はB to Cの実験でしたが、今後はホールからホールへの配信でパブリックビューイングを行うといった展開も考えられます。また地方公共団体と一緒になった取り組みも進めていますので、今後にご期待下さい」と話して会を締めくくってくれた。
(取材・文:泉 哲也)

画像: AURO-3Dのデコードには、デノンAVC-X8500Hを使っている

AURO-3Dのデコードには、デノンAVC-X8500Hを使っている

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