安全地帯のヴォーカリストとして、作曲、作詞、楽器演奏(主にギター)までこなす多彩なマルチプレイヤーとして、存在感を放ち続ける玉置浩二。とりわけその歌唱力には定評があり、魂を揺さぶる歌声は性別や世代を超えて、根強い支持を得ている。

 個人的には、男性ヴォーカルよりも女性ヴォーカルを好んで聴く方だが、彼だけは例外だ。囁くようなウィスパーボイスから、熱のこもったパワーボイスまで、あれだけ安定して聴かせてくれるヴォーカリストはまれで、彼の歌声が無性に聴きたくなると、夜な夜なCDやアナログレコードを取り出すことになる。

 たとえば、リズムが激しく、アップテンポで進行していく「田園」。フルオーケストラで歌うとどうしても重々しくなり、本来のリズム感をつかむのが難しくなるが、玉置浩二はそんなことは微塵も感じさせない。自分のリズムで、グングンとオケを引っ張って、彼の声がフルオーケストラの重厚な演奏をしっかりと牽引していく感じ。しかもそこに強引さはなく、心地よい一体感で玉置ワールドへと誘う。

 1音1音にエネルギーを込めていく歌い方も素敵だ。抑揚を効かせて、独特のせつない雰囲気を醸しだす「メロディー」でも、彼の非凡さが実感できる。“メロディー”とファルセット(裏声)でささやくように歌うが、玉置はここでは軽く歌わず、それどころか言葉の終わり、つまり“ディー”に向かって声のエネルギーを強めていく。

 つまりファルセットでも、力を弱めることなく、地声と同じ力感で歌い上げてしまうのである。理論的にはこれが本来あるべきファルセットの歌い方のようだが、ここまで気張らず、ていねいに安定して歌える歌手はそう多くはない。

官能的な玉置浩二の声がリアルに浮かぶ。これぞオーディオ再生の極みだ
ステレオサウンド アナログレコードコレクション

 その玉置浩二が、同じ時代を共有してきたアーティストたちの名曲を歌い上げるカバーアルバム『群像の星』がステレオサウンド社からアナログレコードで発売された。タイトルからもお分かりのように、すでにこの世を旅立った先達への敬愛の念、楽曲に対する愛情の表現として、彼の心に宿る思い入れの深い曲を歌い上げた唯一無二の作品だ。

 実はこのタイトルで、すでに全12曲入りの通常盤CDと、そのCDにライヴDVD『Live at Blue Note TOKYO』を付属した生産限定盤がリリースされている(通常盤は2014年11月発売)。ただ今回のレコードはそのいずれとも異なり、玉置浩二と安全地帯のファンクラブ「Cherry」のメンバー向けとして制作された“弾き語りヴァージョン”のスペシャルCD用マスター音源をアナログレコード化したもの。 ※「上を向いて歩こう」は時間の制約からレコードでは未収録

画像: 官能的な玉置浩二の声がリアルに浮かぶ。これぞオーディオ再生の極みだ ステレオサウンド アナログレコードコレクション

アナログレコード
『群像の星〈1stテイク 弾き語りヴァージョン〉/玉置浩二』
●仕様:アナログレコード33回転、180g重量盤
●カッティングエンジニア:武沢茂(日本コロムビア株式会社)
●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/3299
●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル03(5716)3239(受付時間:9:30-18:00 土日祝日を除く)

[Side A]
1. みんな夢の中 (浜口庫之助 作詞・作曲/享年73歳)
2. 愛の讃歌 (越路吹雪/享年56歳)
3. 圭子の夢は夜ひらく (藤圭子/享年62歳)
4. やっぱ好きやねん (やしきたかじん/享年64歳)
5. I LOVE YOU (尾崎豊/享年26歳)

[Side B]
1. 月のあかり (桑名正博/享年59歳)
2. 初恋 (村下孝蔵/享年46歳)
3. 時代おくれ (河島英五/享年48歳)
4. あの素晴しい愛をもう一度 (加藤和彦 作曲/享年62歳)
5. 男はつらいよ (渥美清/享年68歳)

 実を言うと、この話は当初、通常盤CDをアナログレコード化する方針で企画が始まり、リマスター作業を経て、テスト版の制作まで進んでいた。ところがその途中段階において、入手方法が限られていた“弾き語りヴァージョン”の音源について検討をはじめたのだという。

 このヴァージョンは玉置浩二自身のプライベートスタジオにおいて、気の置けない数人のスタッフだけで収録されたもの。ライナーノーツを執筆する関係で、事前に通常盤CD用マスターを元にしたテスト用アナログ盤まで聴いていたのだが、弾き語りヴァージョンの「I LOVE YOU」(尾崎豊のカバー)を急遽聴かせてもらうと、その驚きと感動で声が出ない……。作品としての内容だけでなく音源としてのクォリティも文句なしで、素晴らしい。

 テスト盤まで仕上がった段階で、音源を変更するなんて、通常では考えられない。悩みに悩んだ末、ここまで内容が魅力的でアナログレコードとの相性がばつぐんなら、今回ばかりは「やるしかない」とステレオサウンド側の担当ディレクターが決断。一般に販売されていない貴重な『群像の星〈弾き語りギターヴァージョン〉』を高品質アナログレコードとして世の中に送り出すことが決まったというわけだ。

 選曲は玉置自身が行なっているが、単にいい曲だからということだけでなく、それぞれの楽曲からは彼の深い思いが見て取れる。たとえば「愛の讃歌」。日本では越路吹雪の歌が広く知られるが、元はシャンソン歌手エディット・ピアフ自ら作詞し、歌い上げた作品で、玉置浩二が音楽の道に進むうえで強い影響力を受けた母の房子さん(故人)が好んで口ずさむ曲だったという。

 マスター音源はPCM48kHz/24ビットのデジタルファイル。今回のレコード化ではCD用としてマスタリングを行なう前段階、つまりオリジナルのトラックダウンマスターの使用が許され、東京・南麻布の日本コロムビアのカッティングスタジオにそのまま持ち込まれた。

 コロムビアスタジオのカスタムメイドDAW(デジタル編集機)を経由し、HDDに格納されたデジタル音源は、厳格な管理の元でアナログ信号に変換された後(コロムビア製カスタムメイドのD/Aコンバーターを使用)、同社の技術、経験を集積させた特注のアナログコンソールでカッティングのための入念な音調整を施している。

 マスタリングとカッティングを手がけたのは、日本コロムビアの名エンジニア、武沢茂氏。熟練の技を集結したカッティングマスターから、ノイマンのVMS70カッティングレース+SX74カッターヘッドを駆使してレコードの原盤となるラッカー盤を製作している。そしてプレスに際しては、ラッカー盤からダイレクトに起こした最初の金属盤を使用。180gの重量盤として仕上げている。

 さて気になる仕上がり具合だが、とにかく音としての鮮度の高さ、生々しさに驚かされる。テスト盤の段階では、開放感や音のヌケ感といった部分で、やや不安が残っていたのだが、東洋化成が担当した量産プレスではそのあたりを見事に払拭。声のヌケといい、ギターの響きの拡がりといい、実に清々しい。さすがはプロの仕事だ。

 “弾き語りヴァージョン”ということで、基本は玉置浩二自ら爪弾くアコースティックギターと、生の声の共演という内容だが、この演奏とレコードとの相性がきわめていい。ささやくように歌う彼のヴォーカルが目の前にフワッと現われるが、その空気感、気配のなんと生々しいことか。官能的な彼の声と柔らかなギターの響きが複雑に絡み合い、そっと目を閉じると玉置浩二の姿が浮かび上がってくるようにさえ思える。

 これぞオーディオ再生の極み。等身大の玉置浩二と対峙できる贅沢なひととき、ぜひ体験していただきたい。

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