麻倉さんの連載でご紹介した通り、WOWOWでは10月6日17時から、放送や配信の音声品質の向上を目指した実証実験を実施した。

 富ヶ谷・ハクジュホールで、ソロ・マリンバ奏者として世界的な活動を続けている名倉誠人氏が演奏を行い、そのサウンドをリアルタイムにストリーミング配信するという内容だ。

画像: 演奏会が行われたハクジュホール。縦長の空間で、天井が高いのが特徴だ。ステージ上と客席の中央に収録用マイクが設置されている

演奏会が行われたハクジュホール。縦長の空間で、天井が高いのが特徴だ。ステージ上と客席の中央に収録用マイクが設置されている

 会場にセットされたマイクは合計14本で、まずステージ上方に十字のアングルが天吊りされ、そこに6本のマイクがセットされている。これでステージサイドのL/C/Rと高さ情報を収録する。さらに客席の中央にもスタンドが組まれ、その上側に4本のアンビエント用マイクが設置されている。その他にも両壁面に2箇所ずつ、4本のマイクが取り付けられていた。

 このマイクシステムで名倉さんの演奏をマルチチャンネル収録し、会場内で2chにミックスしている。ここでポイントとなるのがミックス時にHPLを使っていることで、2chではあるが、アンビエント成分はしっかり残しているそうだ。なお、この段階までは192kHz/24ビットのハイレゾで処理されている。

画像: 天井から吊り下げられたフロント側のマイク(左)と、客席側にセットされたアンビエント用マイク(右)

天井から吊り下げられたフロント側のマイク(左)と、客席側にセットされたアンビエント用マイク(右)

 こうして2chミックスした音源を、MQAを使って48kHz/24ビットWAVファイルに折りたたみ、さらに配信のビットレートに合わせてMPEG4-ALSで圧縮を加えている。この結果、今回のストリーミングは映像と音を合わせて7Mbpsほどのデータ量で済んでいるそうで、ハイレゾ音源の配信としてはかなり現実的な数値を実現しているといえるだろう。

 さて会場にはコロナ禍の関係もあり、招待者のみの参加が許された。さらに来場者を3つのグループに分け、曲ごとにホールの生演奏と、ホワイエに設置されたオーディオシステムによる配信再生音の聴き比べも行われた。

 ホワイエの再生システムは、ストリーミング信号をPC(VLCを使用)で再生し、USBケーブル経由でエソテリックのUSB DAC付きSACD/CDプレーヤー「K-01XD」につないでMQAデコード、そのアナログ出力をプリメインアンプ「Grandioso F1」で再生している。スピーカーはダイヤトーン「DS-4NB70」というハイレゾ対応モデルが使われていた。

画像: ホワイエに設置されたシステムで配信経由の音も確認できた

ホワイエに設置されたシステムで配信経由の音も確認できた

 WOWOWの入交さんによると、マリンバは圧縮が難しい音源で、MP3などを使うとプリエコーが発生して正しい音として再生できないという。その意味では配信には厳しいソースなのだが、今回はMQAを使っていることもあり、ホワイエでの再生でも高域まで伸びた自然なサウンドを聴くことができた。

 僕自身は前から3列目で聴かせてもらったこともあり、臨場感、迫力は生演奏が一歩上をいく印象だった。しかし配信経由のサウンドも、ハイレゾらしさを備えた、きわめて自然でホールの反響まで感じられる再現性を備えていた。ネット経由でこの音が聴けるのは素晴らしい。

 演奏会の最後に麻倉怜士さんが登壇し、「これだけのいい音が、リアルタイムに体験できるのは、まさに夢が叶った気持ちです。ライブでは会場に入れる人数は限られていますが、配信を使えばインターネットの向こうにいるもっと多くの人も一緒に楽しめます。アフターコロナの時代になっても、リッチなコンテンツで配信される意味は大きい」と話してくれた。

画像: ソロ・マリンバ演奏者の名倉誠人さん

ソロ・マリンバ演奏者の名倉誠人さん

 今日の配信実験は、これからのライブ体験、オーディオ再生の可能性を探るという意味でもひじょうに重要な取り組みなのは間違いない。WOWOWでは今日の演奏会のアーカイブ配信も行っているので、興味のある方はぜひ再生にトライしていただきたい。試聴希望者は「wowow@stereosound.jp」まで試聴希望の旨を申し込んでいただければ再生方法をお知らせします(アーカイブ視聴は10月16日18時まで)。

 また本日、10月28日に第2回の配信実験が行われることも発表された。次回はAURO-3Dを使い9.1chマルチチャンネル音源を配信する予定で、今回同様一般モニターも募集します。詳細は近々StereoSound ONLINEでご紹介しますので、お楽しみに。(取材・文:泉 哲也)

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