KEFは2012年に、創立50周年記念モデルとして「LS50 Anniversary」というブックシェルフ型のスピーカーをリリースした。11代目となる独自の同軸型Uni-Qドライバーを採用したこのモデルは、そのサイズからは想像できない豊かなサウンドを奏でるスピーカーとして、多くのオーディオファンを魅了したのである。

 しかし記念モデルのため製造台数には限りがあり、手にできなかった人達から復活を望む声が上がった。そこでKEFは翌年「LS50 Standard」を標準モデルとして発売する。そして今回、7年に渡って好評を博してきたこのモデルが、新しい技術とともに生まれ変った。それがここで紹介する「LS50 Meta」である。

●スピーカーシステム
KEF LS50 Meta ¥145,000(ペア、税別)

画像1: 「LS50 Meta」の音には、気品が宿っている。新技術「MAT」を取り入れて、KEF創立60周年を飾るに相応しい注目スピーカーが誕生した

●型式:2ウェイ1スピーカー、バスレフ型
●使用ユニット:25mm Metamaterial Absorption Technology搭載ベンテッドアルミニウムドーム型トゥイーター、130mmアルミニウムコーン型ウーファー・同軸(Uni-Q)
●公称インピーダンス:8Ω(最小3.5Ω)
●能率:85dB/2.83V/m
●クロスオーバー周波数:2.1kHz
●再生周波数帯域(-6dB):47Hz〜45kHz
●ベースレスポンス(-6dB):26Hz
●周波数応答:79Hz〜28kHz
●最大出力:106dB
●寸法/質量:W200×H302×D280.5mm(端子部含む)/7.8kg

画像: 「LS50 Meta」のリアパネル。従来モデルに比べて丸みを帯びたフォルムとなった

「LS50 Meta」のリアパネル。従来モデルに比べて丸みを帯びたフォルムとなった

 KEFは1961年に、英国ケント州のメイドストンで創業した。この地を流れるメッドウェイ川沿いの建屋で物づくりをスタートさせるが、この場所はケント・エンジニアリング・アンド・ファウンダリーという鋳造会社が使っていたため、創業者のレイモンド・クック氏はこの名前をそのままブランド名にしたという。

 クック氏は英国の国営放送局、BBCのエンジニアでもあったことから、設立当初はBBCに向けたモニタースピーカーを製作していたことでも知られている。そのKEFが飛躍するきっかけは、1978年に誕生した同軸型ドライバー、Uni-Qだった。

 彼は日本で開発されたネオジム・マグネットに出会い、スピーカーが理想とする点音源を実現するためUni-Qドライバーを発想した。ネオジムは従来のフェライト・マグネットの10倍以上の磁力を持つため、小さくても強力なエネルギーを発生でき、同軸構造のUni-Qドライバーにとって必要不可欠な素材だった。以来Uni-Qドライバーは、名実ともにKEFの顔になったのである。

 LS50 MetaはそのUni-Qドライバーに、さらなる画期的な技術を盛り込んでいる。モデル名のMetaは「MAT(Metamaterial Absorption Technology)」から名づけられたものだが、これはトゥイーターの背面から発する不要な音を99%吸収することで、よりクリアーなサウンドの再現を可能にする技術という。

 同様のアプローチはこれまでにもなかったわけではないが、ここで画期的なのはアコースティック・メタマテリアルズ・グループと共同で開発した、その手法だ。

トゥイーターの音を改善する、画期的な新技術「MAT」とは

 今回LS50 Metaに搭載された12世代Uin-Qには、KEFがAcoustic Metamaterial Groupと共同開発したMATが搭載されている。

 これは、トゥイーターユニットの後にMATを取り付けることでノイズを99%吸収、より純度の高い再生を実現するものだ。しかもそれを厚さ1cmほどの吸音器で実現しているのだから驚きだ。

 そのために、MAT本体には迷路のような構造が設けられている。この迷路は長さの異なる30の回路で構成され、各回路が共振器として機能することで小さな周波数帯域を効率的に吸収するという。

画像: 12世代Uni-Qの構造図。図の下側、ドライバーの後ろに取り付けられた黒い円盤が吸音機能を備えたMATだ。トゥイーターからの背圧をドライバー中央に設けられた円柱状のチューブを通してMATに導き、ここで吸音することでクリアーな高音再生を実現している

12世代Uni-Qの構造図。図の下側、ドライバーの後ろに取り付けられた黒い円盤が吸音機能を備えたMATだ。トゥイーターからの背圧をドライバー中央に設けられた円柱状のチューブを通してMATに導き、ここで吸音することでクリアーな高音再生を実現している

画像: MATを分解したところ。写真の2点を、間に緩衝材を挟んで向かい合わせに固定することで、複雑な迷路構造を持ったパーツに仕上げている。ここで600Hz以上の帯域のノイズ成分を吸収する仕組みだ

MATを分解したところ。写真の2点を、間に緩衝材を挟んで向かい合わせに固定することで、複雑な迷路構造を持ったパーツに仕上げている。ここで600Hz以上の帯域のノイズ成分を吸収する仕組みだ

 上コラムの分解図を参照していただくとわかりやすいと思うが、Uni-Qドライバーの背面に円盤型の吸音器が取り付けてある。この吸音器には長さの異なる15の部屋が組み込まれ、合計30の経路が4分の1波長の共振器として働くことで、600Hz以上の不要なエネルギーを吸収するのである。

 トゥイーター背面にある円錐状チューブの形やサイズを調整し、MATに完全に一致するよう再設計されているが、何より吸音器の厚みが11mmしかないところにも大きな特徴がある。従来の方式では背面に数十cmのチューブが必要だったから、いかにこの方式が優れているのか理解していただけるだろう。

 こうした新しいテクノロジーを十全に活かすために、トゥイーター振動板のギャップを見直し、さらにタンジェリン・ウェーブガイドの背面に強化リブを加えることでトゥイーターの下端で発生する歪みの低減にも力を注いでいる。

 またウーファー部を駆動する磁気回路にアルミプレートを追加し、併せて磁気回路の形状を変更した。これにより入力信号によるボイスコイルの偏移が少なくなり、リニアな動作を得て、よりスムーズな再生を可能にする。

 一見するとLS50 Metaは、LS50とまったく同じサイズに見えるが、Uni-Qドライバーの変更に伴い奥行が若干長くなっている。そのUni-QはLS50同様、放射特性が均一になるようフロントバッフルの中央にセットされているが、バスレフポートの形状やエンクロージャー内部の補強方法は改められ、新しいドライバーの特性を余すことなく引き出している。

画像: 「LS50 Meta」では、曲面仕上げのフロントバッフルで回折現象を抑え、内部に設けられた十字構造のクロスブレーシングにドライバーを取り付けるなど、ステルスキャビネットを目指した設計が多く採用されている。またバスレフポートは両端をフレア形状にすることで、高い音量でのノイズを低減したという

「LS50 Meta」では、曲面仕上げのフロントバッフルで回折現象を抑え、内部に設けられた十字構造のクロスブレーシングにドライバーを取り付けるなど、ステルスキャビネットを目指した設計が多く採用されている。またバスレフポートは両端をフレア形状にすることで、高い音量でのノイズを低減したという

 私がプロデュースしたCD『エトレーヌ/情家みえ』から「君の瞳に恋して」を聴いてみたが、大人の雰囲気を醸し出し、彼女の声をていねいに描き出す。コンパクトスピーカーにありがちな、音が詰まった感じは一切なく、このサイズからは信じられないような伸びかで心地よいサウンドを再現する。

 カレン・ソウサの『夜空のベルベット』から「アイム・ノット・イン・ラヴ」を再生すると、彼女の持ち味である色っぽい歌いまわしをたっぷりと奏でる。中高域にかけての歪み感の少なさは謳い文句通りで、そうした印象が落ち着きのある再現力につながっている。

 クラシックでもピアニシモにおける弦楽器の細かな音をよく拾い上げる。ワイリー・ゲルギエフ指揮/マリインスキー劇場管弦楽団の『ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」』では劇場の響きをよく再現するし、グランカッサの強力なエネルギーもしっかりと受け止めている。

 読者諸氏が気になるであろう前作との違いについて触れるなら、LS50 Metaの方が中高域の再現性とヴォーカルのフォーカス感がよりクリアーで、これこそまさにMATの恩恵といっていいだろう。僕自身LS50 Anniversaryのユーザーなので忸怩たるものはあるが、この進化は素直に認めなくてはなるまい。

 LS50 Metaは大型システムに負けない表現力を持つ新製品として、オーディオファンだけでなく、お洒落な音楽生活を送りたい音楽愛好家にも注目してほしい逸品である。Uni-Qドライバーの時もそうだったが、MATもまた、世代を経るごとに進化した姿を見せてくれることだろう。KEFの創立60周年を飾るに相応しいスピーカーの誕生である。

画像: 試聴は有明にあるKEF Music Laboratoryで行った。ソースにはCD/SACDを使い、アキュフェーズのプリ&パワーアンプでLS50 Metaをドライブしている

試聴は有明にあるKEF Music Laboratoryで行った。ソースにはCD/SACDを使い、アキュフェーズのプリ&パワーアンプでLS50 Metaをドライブしている

※KEFジャパンでは、「LS50 Meta」のサウンドを体験できる試聴予約を受け付けています。興味のある方は以下のサイトから申し込みを!

12世代Uni-Qを搭載した、アクティブ型スピーカーも同時発表

画像2: 「LS50 Meta」の音には、気品が宿っている。新技術「MAT」を取り入れて、KEF創立60周年を飾るに相応しい注目スピーカーが誕生した

LS50 Wireless II ¥270,000(ペア、税別)
●型式:2ウェイ1スピーカー、バスレフ型
●使用ユニット:25mm Metamaterial Absorption Technology搭載ベンテッドアルミニウムドーム型トゥイーター、130mmアルミニウムコーン型ウーファー・同軸(Uni-Q)
●内蔵アンプ出力:トゥイーター用100W、ウーファー用280W
●WiFiネットワーク:IEEE802.11a/b/g/n/ac
●再生周波数帯域(-6dB):40Hz〜47kHz
●接続端子:HDMI入力1系統、USB Type-A、デジタル入力(光、同軸)、アナログ音声入力(3.5mm)、LAN端子、サブウーファー出力1系統(RCA)、他
●対応フォーマット:MP3、M4A、AAC、FLAC、WAV、AIFF、ALAC、WMA、LPCM and Ogg Vorbis、MQA
●対応信号:最大384kHz/32ビットリニアPCM、DSD11.2MHz
●対応ストリーミングサービス:Spotify、Tidal、Amazon Music、Qubuz、Deezer、他
●最大出力:108dB
●寸法/質量:W200×H305×D311mm(端子部含む)/20.1kg

 今回、LS50 Metaと同時に、「LS50 Wireless II」も発表された。こちらはハイレゾ入力に対応したアクティブ型スピーカーで、LS50 Metaと同じく12代目のUni-Qドライバーが搭載されているのが特長となる。

 さらに最大382kHz/32ビットのPCM信号やDSD11.2MHzの再生が可能になり、使い勝手の面でもL/Rスピーカー間がワイヤレス伝送できるなど、多くの改良が施されている。

画像: LS50 Meta、LS50 Wireless II用の新型スタンド「S2 Floor Stand」(¥52,000、ペア、税別)も発売される。仕上げはカーボン・ブラック、チタニウム・グレイ、ミネラル・ホワイトの3色と、スペシャルエディションとしてロイヤル・ブルー(LS50 Meta)とクリムゾン・レッド(LS50 Wireless II)を準備する

LS50 Meta、LS50 Wireless II用の新型スタンド「S2 Floor Stand」(¥52,000、ペア、税別)も発売される。仕上げはカーボン・ブラック、チタニウム・グレイ、ミネラル・ホワイトの3色と、スペシャルエディションとしてロイヤル・ブルー(LS50 Meta)とクリムゾン・レッド(LS50 Wireless II)を準備する

画像: Metamaterial Absorption Technology – The latest innovation in loudspeaker design youtu.be

Metamaterial Absorption Technology – The latest innovation in loudspeaker design

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