ステレオサウンド社から、ピンク・レディー『阿久 悠 作品集』がSACDシングルレイヤー+CDの2枚組で発売された。作品としては2008年3月にビクターエンタテインメントから発売された同タイトルのCDとジャケット・内容ともに同じだが、音源はすべて最良のアナログマスターテープから新規に起こされたデジタルマスターを使用。帯の「ピンク・レディー体験が変わる!」というキャッチコピー通りの快音盤に仕上がっている。

 詳しくは本作ブックレットに掲載されたライナーノートをご一読いただきたいが、今回の制作にあたって〈最良のアナログマスターテープ〉として注目されたのが、当時発売された各種ベスト盤のLPカッティング用アナログマスターテープだ。シングル曲などのオリジナル・アナログマスターテープは、LP時代からCD〜ハイレゾへと移り変わる現代に至るまで幾度となくプレイバックされており、テープそのものの劣化がかなり進んでいる。対してLP時代にベスト盤のために作成されたカッティング用アナログマスターテープは、基本的にCD時代にはほとんど使用されていないため、状態としてより良好なのではないか。そんな推測のもと、今回マスタリングを担当したスタジオDedeのエンジニア・松下真也さんと本プロジェクトの制作スタッフがビクタースタジオへ赴き、各種マスターテープを検聴したところ、やはり経年変化の少ないベスト盤のカッティング用アナログマスターテープが音質的に好ましいという判断が下されたのだという。

画像: 名盤ソフト 聴きどころ紹介17/『阿久悠 作品集/ピンク・レディー』 Stereo Sound REFERENCE RECORD

オーディオ名盤コレクション SACD+CD2枚組
『阿久悠 作品集/ピンク・レディー』
(ビクターエンタテインメント/ステレオサウンドSSMS-043〜044) ¥4,500+税
 ●仕様:シングルレイヤーSACD+CD
 ●作詞:阿久悠(1〜16)、作曲:都倉俊一(1〜14)、馬飼野康二(15、16)、
  編曲:都倉俊一(1〜12)、C.Merriam(13)、井上鑑(14)、馬飼野康二(15、16)
 ●マスタリング・エンジニア:吉川昭仁(STUDIO Dede)
 ●テープ・オペレーター:松下真也(STUDIO Dede)

1. ペッパー警部
2. S・O・S
3. カルメン ‘77
4. 渚のシンドバッド
5. ウォンテッド(指名手配)
6. UFO
7. サウスポー
8. モンスター

9. 透明人間
10. カメレオン・アーミー
11. ジパング
12. 波乗りパイレーツ(日本吹込盤)
13. マンデー・モナリザ・クラブ
14. OH!
15. カルメン・シャワー
16. 恋愛印象派

●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_amc/3285
●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル03(5716)3239(受付時間:9:30-18:00 土日祝日を除く)
 

 具体的には、収録全16曲のうち、10曲(トラック①〜⑩)で1978年12月に発売された『ピンク・レディー・ベスト・ヒット・アルバム』(ビクターGX40)のカッティング用アナログマスターテープが使用されている。このLPは数あるピンク・レディーのベスト盤のなかでも音質的にとりわけ優れており、音にこだわるピンク・レディー・ファンに評価の高い1枚だ。他の6曲についても、当時多発されたさまざまな編集盤から松下さんとスタッフがベストと考えたものがピックアップされている。

 スタジオDedeにおける作業は、送り出しのテープレコーダー(テレフンケンM21 1/4)の操作を松下さん、SACDおよびCDのマスタリング作業を同スタジオの吉川昭仁さんが担当した。SACD用のデジタルマスターは、まずマージング・テクノロジーズPyramix+Horusを使って11.2MHzでDSDファイル化。数多くのデジタルマスタリングを手がけてきた吉川さんは「最初からSACDの器と同じ2.8MHzで取り込むよりも、11.2MHzで取り込んでワイス・エンジニアリングのソフトウェアを使ってダウンコンバートしたほうが音質的に優位」と語る。CD用のデジタルマスターにもこの11.2MHzファイルが使用されているが、こちらにも単なるダウンコンバートではなく、数々の経験を重ねてきた吉川さんならではの手法が活かされているという。

〈新曲〉のような新鮮さにメジャーの凄みを識る快音盤登場

 というわけで、今回はSACDシングルレイヤー+CDの『阿久 悠 作品集』(以下、ステレオサウンド盤)のほか、一般的に現在入手しやすいビクターの2枚組ベスト盤『ピンク・レディー ゴールデン☆ベスト〜コンプリート・シングル・コレクション』(VICL63438〜9/以下、ビクター盤CD)、そして先述のLP『ピンク・レディー・ベスト・ヒット・アルバム』(以下、ビクター盤LP)という3種のディスクを、自宅システムで聴いてみた。

 最初に、ビクター盤LPから「ペッパー警部」を再生。リアルタイムではピンク・レディーの音楽に触れられず、その後もテレビで流れるのを見かける程度の体験しかない自分の耳で聴くと、そのゴージャスかつ歯切れのいいサウンドプロダクションに驚かされる。ステレオサウンド盤のブックレットに掲載されているレコーディングエンジニア・山口照雄さんの証言によると、ミーとケイのヴォーカルはインパクトを強くするためにそれぞれ3回分のテイクが重ねられているという。広告畑のコピーライター出身の阿久悠によるキャッチーな歌詞、メロディよりはリズムを重視した都倉俊一の楽曲、宗台春男や武部秀明らによるリズム隊、羽鳥幸次グループのブラス、そして何重にも重ねられた両人のヴォーカル。そういった要素が渾然一体となり、とにかく一度聴いたら忘れられない強さを持ったヒット曲が量産されたわけだ。

 ビクター盤LPはその評価も肯ける好ましい音だが、ステレオサウンド盤SACDではそのゴージャス感や歯切れのよさはそのままに、演奏と演奏の隙間から得体の知れない凄みが漏れ聴こえてくる。S/Nの向上によって、間合いが研ぎ澄まされているからだろうか。オリジナルの持ち味はそのままなのに、まるでピンク・レディーの〈新曲〉を聴いているかのような新鮮味。マスタリングにあえてスタジオDedaを起用した理由が、音からはっきりと伝わってくる。続いてステレオサウンド盤CDを聴いてみると、ベースラインの輪郭がやや柔らかくなり、SACDよりも軽快さが前面に出たサウンドになっている。最後にビクター盤CDを聴くと、ステレオサウンド盤SACD/CDより音量が大きく、パッと聴きの印象は強い。そういう意味でピンク・レディーらしいサウンドなのだが、ステレオサウンド盤を聴いた後では二人のヴォーカルのフォーカス感がやや甘く、もう少しまとまりがほしいと感じてしまう。

 ともすれば懐メロとして消費されがちなメジャーフィールドのポピュラー音楽を、最良と思われる方法・フォーマットで蘇らせるステレオサウンドの高音質復刻プロジェクト。今回のピンク・レディーは、その最新の成果がとてもわかりやすい形で表れた一作だと思う。

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