熱心なオーディオ愛好家の集まりとして知られる「Double Woofers’」の会長を務める永瀬宗重さん。数十年のオーディオ経験を持ち、ご自宅には9ペアものスピーカーが(すべて稼働状態で)並ぶ、夢のような環境を整えている。そして永瀬さんはほぼ毎日、この場所でデジタルファイルとアナログレコードを楽しんでいるという。この3月、そんな厳選された空間にハイレゾプレーヤーのルーミン「X1」が加わった。そこで、同じく「X1」ユーザーである土方久明さんと一緒に永瀬邸にお邪魔し、そのサウンドを体験させてもらった。(編集部)

永瀬さん(右)は、PCアプリのKazooを駆使し複数のハイレゾ再生システムを使いこなしている。土方さん(左)もこれまでもたびたび永瀬邸にお邪魔したことがあるそうだが、毎回音が進化していることに驚かされるとか

右が永瀬さんの著作『暗い低音は好きじゃない!』(CDジャーナル刊)で、左は土方さんの最新著作『ハイレゾの教科書 ハイレゾストリーミング対応版』(StereoSound刊)
--今日は永瀬さんのオーディオルームにお邪魔して、ご自慢の音を体験させていただきたいと思っています。それにしても、著書『暗い低音は好きじゃない!』(CDジャーナル刊)にも書かれていましたが、凄いシステムばかりですね。まずは永瀬さんのオーディオ経歴を教えていただけますか?
永瀬 オーディオに本格的に取り組み始めたのは40年以上前、大学2年生の頃でした。当時のシステムは、ビクター「SX-7」とテクニクスのプリメインアンプ「SU-3500」やアナログプレーヤーの「SL-1300」などでした。
そんな時にオーディオ好きの友達がJBLの「L26 Decade」を買ったから聴きに来いと言われて、そのクリアーな低音に驚いたのです。そこからJBLの「L100」やアルテック「620A Monitor」などにトライし、「4343」を経て「4350」に行き着きました。
4350は当時の住宅環境ではうまく鳴らしきれなかったので、1年ほどで売ってしまった。でもしばらくすると気になって……と、都合6回買い直しています(笑)。ある時、ダブルウーファーを2ウェイで駆動したらどうだろうと思って試してみたら、いい音で鳴ったのです。これをIDDW(Isolatedly Driven Double Woofers)と名付けて、4350以外のスピーカーでも試しているうちに、気がついたらこんなになってしまいました。
--今日は4350でルーミンX1の音を聴かせていただけるのですね。
永瀬 4350にはウッドホーン+TADのコンプレッションドライバー「TD4001」や、ステンレスホーン+「TD2001」を組み合わせてマルチドライブで駆動しています。他のスピーカーシステムもありますから、後ほどそちらも聴いて下さい。再生機もX1だけじゃ面白くないから、聴き比べをしましょう。
土方 永瀬さんは複数のハイレゾ再生システムも準備しているんですよね。今日はどれを聴かせていただけるのでしょうか?
永瀬 最近メインで使っているのは、コードのUSB D/Aコンバーター「DAVE」とスケーラーの「Hugo M Scaler」です。フィダータのオーディオ用NASからUSBケーブルでM Scaler → DAVEの順番につないでいます。最初はDAVEだけだったけど、M Scalerを入れたらさらに音がよくなって、これにかなう物は当分ないだろうと思っていたのです。この組み合わせと、X1で同じ曲を聴いてみましょう。
土方 いいですね、お願いします。
ネットワークプレーヤー
LUMIN X1 ¥2,000,000(税別、Silver)、¥2,200,000(税別、Black)

●接続端子:光LAN接続用SFPポート1系統、Ethernet(1000Base-T)1系統、USB端子1系統、デジタル音声出力1系統(BNC同軸)、アナログ音声出力2系統(バランス、アンバランス)
●対応サンプリング周波数/ビットレート:
アナログ出力時=PCM 768kHz/16〜32ビット、DSD 22.6MHz/1ビット
デジタル出力時
USB接続時=PCM 768kHz/16〜32ビット、DSD 22.6MHz/1ビット
BNC SPDIF接続時=PCM 44.1kHz〜192kHz/16〜24ビット、DSD 2.8MHz/1ビット
●サポートフォーマット:DSD(DSF、DIFF、DoP)、FLAC、ALAC、WAV、AIFF、MP3,AAC
●特長:ESS製ES9038Pro DACチップ2基搭載、フルバランスレイアウト、UPnPプログラム、ギャップレスプレイバック、DSD11.2MHzおよび384kHzまでのアップサンプリングに対応、Lumin APPサポート、他
●寸法/質量:W350×H60×D345mm/8kg(本体)、W106×H60×D334mm/4kg(電源ユニット)

永瀬 カルメン・マキのライブから、「時には母のない子のように」と「それはスポットライトではない」を再生します。
土方 この声は凄い。低域の出方もナチュラルです。これだけストレートに音が出てきて、かつ低音から高音まできちんとバランスを保っているのは驚きました。
永瀬 プレーヤーをX1に切り替えてみましょう。
土方 躍動感が際立ってきますね。X1では、全帯域で出て欲しい音がしっかり聴こえてくるので、システムとしてよく鳴っているなぁという印象を受けます。この曲の印象で言うと、僕はX1の方が好みです。
永瀬 X1は出力レベルが高いのでAudio Suiteへの入力レベルを押さえているのだけれど、それでも迫力が充分出ていますね。
土方 コードのシステムで聴いた音も躍動感があって気持ちいいんですが、X1ではそこに華やかさが加わって、ライブらしい雰囲気がもっと出てきます。粒立ちがいいので、ぱっと聴いて音がクリアーですね。演出しているわけではないのに、必要な情報はすべて出ている。そんな魅力を備えています。
永瀬 X1と4350は、両者が自由に音を奏でている印象で楽しいですねぇ。コードだとお行儀がよくなってしまう気がする。この前まではコードのシステムの方がいいと思っていたんだけど、不思議だなぁ。
土方 最近何かシステムを変更したのですか?
永瀬 一昨日、ハブの接続を変えました。フィダータのLAN出力をSOtMのネットワークハブ「sNH-10G」に入れて、sNH-10GとX1を光ネットワークケーブルでつなぐようにしたんです。これがよかったのかな。
土方 その可能性はあります。ネットワークオーディオでは、最終段階に光ケーブルを使うと音質改善効果が大きいんです。推測ですが、LANケーブルから混入してくるノイズが、光ネットワークケーブルにすることでカットされるのではないでしょうか。
永瀬さんのお宅もネットワーク回線には仕事用や家庭用のPCがすべてつながっているので、どこからノイズが混入するかわからない。そういった複雑なシステムだと光 ネットワークケーブルのノイズアイソレーション効果は大きいですね。
オーディオファンなら一度は聴いてみたい! 永瀬さん入魂のオーディオルーム(1)
永瀬さんのオーディオルームは広さ約28畳の長方形をしている。東西南北それぞれの壁面にスピーカーシステムやアンプ機器が置かれ、そのすべてが常に稼働状態にセットされている。オーディオファンであれば一度はその音を聴いてみたいと思わずにはいられないだろう。

東面にはJBL「4350」をメインにしたシステムと、ゴールドムンドの「Full Epilogue」、B&W「Nautilus」が並んでいる。4350にはウッドホーン+TADのコンプレッションドライバー「TD4001」&ステンレスホーン+TAD「TD2001」も組み合わされ、すべて、マルチアンプで駆動している。スピーカーの手間に置いてあるのは自作の調音ツール

西面は再生機器やアンプを配置。このスペースではすべてを紹介しきれないが、全スピーカーをマルチアンプで駆動しているので、ラックは前後2列が必要とのこと。永瀬さんはこれらをただつないだだけでは満足できず、常に最善の状態を探して調整しているのだとか。その熱意には頭が下がります

JBL「4350」システム再生用プリアンプには、チェロの「Audio Suite」を使用。上段にはハイレゾ機器、下段にはアナログレコード機器を入力している
永瀬 では次に、スピーカーをエクスクルーシブ「2401 twin」にしてみましょう。こちらは2401のダブルウーファーを2ウェイで駆動して、そこにステンレスホーン+TAD「TD4001」を組み合わせ、さらにリボントゥイーター「PT-R7 III」を追加して高域を伸ばしています。「それはスポットライトではない」をX1で再生します。
土方 カルメン・マキさんの声が凄くなまなましく、力のある音です。ホーンやリボントゥイーターの効果もあるのでしょうが、高域の伸びがとてもいい。
永瀬 彼女はこの時60歳くらいです。このパワーは見習わなくてはいけませんね。
次は、チェリストの溝口肇さんの音源を聴いてもらいましょう。彼は時々遊びに来てくれるのですが、以前自分の演奏を録音したファイルを持ってきてくれたのです。384kHzで録音したそうです。
土方 これもいいですね。X1だと音の余裕まで感じ取れます。楽曲が持つ音楽性まで聴き手に届ける再現力を備えている。“ハイレゾです”と主張するような鳴り方ではないけど、奥深い。
永瀬 溝口さんは演奏が素晴らしいのは当然として、再生音にもすごくこだわる演奏家で尊敬しています。
続いて、ステレオサウンドのDSD 11.2MHz音源から『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲』も聴いてもらいましょう。
土方 ヤーノシュ・シュタルケルの演奏は本当に素晴らしいですよね。音楽性、懐の深さともに聴き惚れてしまいます。中低域がしっかりしているから、音楽の表情が変わる瞬間まで目に見えるようです。
永瀬 X1は音の自由さが魅力ですね。厳しく仕込まれた子供じゃなく、のびのび育っているんだけど、道は間違っていない、そんなすくすく育った子供のようです。
さて最後に、ゴールドムンドのスピーカー「Full Epilogue」の音も聴いてもらいましょう。プリアンプにはゴールドムンドの「MIMESIS 22」を使い、その出力をアキュフェーズのチャンネルデバイダー「DF-45」でフィルターは使わずに4分割し、さらに時間軸補正も加えています。
土方 「ホテル・カリフォルニア」が素晴らしいバランスで聴けました。冒頭のドラムが素晴らしく、この鳴りっぷりのよさは体験したことがない。しかも時間軸補正がびしっと決まっていて、音像定位も素晴らしい。このサイズのスピーカーとは思えないまとまりです。
永瀬 X1とFull Epilogueもこれほど相性よく鳴るのは珍しい。今日はシステムの機嫌がいいですね。
土方 よくここまで音を仕上げましたね。大雑把なところがなく、でも大型スピーカーとしての情報量も備えている。まさに永瀬さんの使いこなしの賜です。これだけのアンプやチャンネルデバイダーを駆使して、ベストマッチの状態に仕上げるのは生半可な経験ではできないことです。
永瀬 オーディオは使いこなしで必ず変化があるから、飽きないんです。ほぼ毎日夜9時から12時まではここに籠もっていますよ。
オーディオファンなら一度は聴いてみたい! 永瀬さん入魂のオーディオルーム(2)

南面はエクスクルーシブ「2401 twin」とルーメンホワイト「Light Diamond」が並ぶ。2401 twinは重さ200kgのステンレスホーン+TAD「TD4001」も組み合わせられている。2401 twinの上に置かれた小型スピーカー、エアータイト「AL-05」も最近のお気に入りとか

北面にはJBL「DD65000」やテクニクス「SB-M10000」を配置。DD65000にはヤマハのH3220ホーン+JBLのコンプレッションドライバー「2450」が組み合わせられている。中央のマガジンラックにはご自身の著書の他に、弊社出版物も多く並べていただいている

4350システムを試聴する土方さんと永瀬さん。ふたりとも目が真剣!
--話が前後しますが、永瀬さんと土方さんはいつ頃からのお付き合いなのでしょう?
永瀬 もう5〜6年経ちますよね。
土方 実は僕がこの世界に入ったのは、永瀬さんと知り合ったのがきっかけなんです。当時僕はいちオーディオファンで、自宅のメインスピーカーのリン「KOMRI」をJBL「DD65000」に買い替えようかと悩んでいました。
そこでネットを調べていたら、永瀬さんがDD65000を使っていることがわかったのです。失礼とは知りながら、なぜDD65000を選んだのかなどについてメールで質問したら、わざわざ連絡をくれたのです。そして、家も近いのなら音を聴きに来ませんかと、招待していただきました。
永瀬 当時の土方さんは金髪で、シャコタン車で現れたので、びっくりしました。でも実際は礼儀正しい若者で、そこにまた感心したのです。
土方 その時もスピーカーをひと通り聴かせてもらいましたが、スピーカーから出てくる音でここまでリアルになるのかと、本当にびっくりしました。
永瀬 次は僕が土方さんのお宅にうかがったのですが、せっかく試聴CDを持っていったのに、CDプレーヤーがなかった! その時に、ネットワークプレーヤーとかリッピングというものを初体験したのです。
それまでにもPCオーディオを試したことはあったけど、自分には合わないと諦めていた。でも土方さんがネットワークプレーヤーを使っているのを見て、これならいけそうだと思いました。
土方 それを聞いて、当時セカンドシステムとして使用していたリンの「SNEAKY DS」やNAS、リッピング用のPCなどをお預けしました。さらにリッピングの方法などの解説書を作ったのですが、実はそれが『ハイレゾの教科書』の元になったのです。
ハイレゾの真価を引き出すならネットワーク環境にも注意を!
本文にもある通り、永瀬さんと土方さんはルーミン「X1」の再生用に光ネットワーク対応スイッチ(ハブ)を使っている。おふたりが選んだハブはSOtM「sNH-10G」で、NASなどの機器とは通常のLANケーブルで、sNH-10GとX1を光ネットワークケーブルでつなぐことで外来ノイズを遮断、音楽再生時の品質を改善できるという。

オーディオ専用ネットワークスイッチ
SOtM sNH-10G ¥160,000(税別)、¥180,000(税別、リクロック機能モデル)、¥200,000(リクロック機能およびマスタークロック入力機能モデル)
●接続端子:LAN端子8系統、光SFPポート2系統、10MHzクロック入力1系統(BNC)
●寸法/質量:W296×H50×D211mm/2kg

永瀬邸のsNH-10Gのリアパネル。写真ではちょっとわかりにくいが、右端の光ネットワークケーブルがX1につながっている
永瀬 そうこうしているうちにネットワークオーディオにはまってしまって、「KLIMAX DS」を導入しました。
土方 その直後に永瀬さんは、これはもういらないとCDプレーヤーをシステムから外してしまった。あれにはびっくりしました。
永瀬 持っていた1500枚のCDも全部リッピングしてしまったし、もういいだろうと思ったんだよね。その頃にルーミンの存在を知り、「A1」と「S1」を聴いて、悩んだ末にS1を購入しました。そしたら知り合いのオーディオ雑誌編集者が取材に来たいと言い出したのです。
でもネットワークオーディオは始めたばかりだったので、うまく解説ができない。そこで土方さんに同席してもらって、僕の代わりにコメントしてもらうことにしました。その時に、ネットワークオーディオについてこんなにわかりやすく解説できる人が居るんだよ、こういう人にこそ記事を書いてもらうべきだと推薦したら、本当に書くことになった(笑)。
土方 最初は1ページの解説でしたが、そこから今の仕事につながっていきました。永瀬さんと知り合っていなかったら、今の僕はなかったでしょう。本当に運命的なきっかけを作っていただきました。
ネットワーク環境にも配慮して音質をアップ。土方邸の「X1」はこう使っている
土方さんもネットワークオーディオ再生用としてルーミン「X1」を愛用している。さらに光ネットワークやクロックなどの環境にも細かく配慮しているそうだ。下段写真の左下がSOtMの光ネットワークハブ「sNH-10G」で、右上はマスタークロック「sCLK-OCX10」。右下は電源ユニットの「sPS-500」。


--そんなおふたりは、それぞれご自宅でX1を使ってハイレゾ再生を楽しんでいるそうですが、X1の魅力はどこにあるのでしょう?
永瀬 やっぱり音ですね。最初に導入したのはS1でしたが、その時は、“締まっていながらも、しなった低音”という僕好みの音に惹かれて導入したのです。X1はデモ機を持ってきてもらったのですが、音を聴いてすぐに買い替えを決めました。僕は物事を決めるのは早い方ですが、中でもX1が一番早かったかもしれない(笑)。
土方 僕は、最初は取材でX1の音を聴いたのですが、それがめちゃくちゃよかったんです。また光ネットワークの入力端子が備わっている点も魅力でした。
IoT時代になると、冷蔵庫までネットにつながっていきます。となるとネットワークにはあらゆるノイズも混入するわけで、それが音楽再生にも影響を及ぼしかねません。でも光伝送になるとそういったノイズが取れるので音質的にもいいはずです。
永瀬 X1になって、音質もぐんとよくなっているのは間違いない。
土方 ルーミンの開発陣は、X1や最近発売された一連のモデルを設計する時に、自分たちに足りないものを必死に考えたと思うんです。その第一はオーディオグレードの品質だと思いますが、そこに対する知見を色々な人からもらって、成果をX1に入れ込んできた、僕はそう考えています。でないとこの音は実現できなかったでしょう。
永瀬 S1からX1までに5年かかっていますが、その間に開発陣も研鑽を積んだのでしょう。土方さんも同意してくれると思いますが、今日の音だとX1の勝ち! わが家のハイレゾ再生のメインとして、活躍してもらいましょう。

当日は、試聴や撮影などで取材時間が4時間以上に及んだ。しかしおふたりは最初から最後までとても楽しそうにオーディオ、音楽談義に華を咲かせていた