映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第41回をお送りします。今回取り上げるのは、思春期の真っただ中に、ある一つの想いに囚われてしまった少年の姿を描く『その手に触れるまで』。果たして、少年は成長し、寛容を育めるのか? とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『その手に触れるまで』
6月12日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

画像1: 【コレミヨ映画館vol.41】 『その手に触れるまで』分断と寛容。思春期の風。ベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟が描く、ムスリム少年のアイデンティティ

 育児放棄された男の子のさすらいのドラマ『少年と自転車』、突然の解雇通達を覆すため、同僚の家を回る女の焦燥を描いた『サンドラの週末』。社会の片隅ではいまどんなことが起きているのか、それは世界とどう繋がっているのか、をテーマに数々の秀作を発表してきたベルギー映画界の名匠ダルデンヌ兄弟(お兄ちゃんのジャン=ピエールは1951年、弟のリュックは1954年生まれ)の新作。今回も面白い! 先が読めぬ《冒険映画》だ。

 主役はほとんど演技経験のなかったイディル・ベン・アディが演じる13歳のメガネ少年アメッド。モロッコ系移民の子として、母、兄姉とベルギーで暮らしている彼が、ムスリム(イスラム教徒)の教えに傾倒するあまり、ある日シャレにならぬ事件を起こしてしまう。

 放課後学校の先生から別れ際に握手を求められ、「ぼくは大人だ。大人のムスリムは家族以外の女性に触らないんだ」と拒否するアメッド。この数カットだけで画面に不穏な空気が立ち込め、右に進むか左へ行くか分からぬ物語がラストショットまで、いや、映画が終わったあともつづいてゆく。

 世界の分断と寛容。私たちが現在立ち尽くす問題がアメッドの周囲で起こるけれど、そんな考察と同じくらい、映画が思春期シネマとして揺れているのがすばらしい。

 農場での研修で知り合った少女ルイーズ(こちらも新人のヴィクトリア・ブルック)からぐいぐい迫られて困惑したアメッドは、「ムスリムになる気はある? 今日、畑でしたことは罪だよ」と話すが、ルイーズはけろりとしてひとこと。

画像2: 【コレミヨ映画館vol.41】 『その手に触れるまで』分断と寛容。思春期の風。ベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟が描く、ムスリム少年のアイデンティティ

 大笑いだ。この少女のあっけんからんが映画に涼風を運んでいる。男はダメだなあ。アメッドが導師として慕う食料品店の兄ちゃんを含めて。世界の多くの地域で、神が男の姿をまとっているのもいけないのかもしれない。もちろん、まあ、イスラムは偶像崇拝を禁じた宗教だけれど。

 手持ちカメラでひょいっと撮ってみたようなダルデンヌ兄弟の作品が今回も揺るぎのない映画になっているのは、入念なリハーサルと出演者との交感から生まれたものだ。

 少年アメッドが放課後学校の先生と再会する場面のスリルときたら! 映画の面白さ、可能性とはなんだろうと改めて考えさせられる。

『その手に触れるまで』

6月12日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:イディル・ベン・アディ、ミリエム・アケディウ、ヴィクトリア・ブルック
原題:LE JEUNE AHMED
配給:ビターズ・エンド
2019年/ベルギー=フランス/84分/ビスタサイズ
(C)Les Films Du Fleuve - Archipel 35 - France 2 Cinema - Proximus - RTBF

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