オーディオやオーディオビジュアルの世界は日進月歩。次々に新しい技術やそれを搭載した新製品が登場し、入れ替わりも早い。だが同時にそれらは、常に時代の最先端を走っているモデル達でもあり、思い出に残る製品ともいえる。このシリーズでは、弊社出版物で紹介してきた名機や名作ソフトに関連した記事を振り返ってみたい。

画像: 以下の記事はHiVi2012年1月号に掲載されています

以下の記事はHiVi2012年1月号に掲載されています

“Blade”で目指した理想をより身近に。悦楽的な音響空間に興奮した!

今年創立50周年を迎えた英国の老舗スピーカーメーカー、KEF。新登場のRシリーズは従来のXQシリーズの後継となるモデル群で、同社製品の主力の一翼を担う最重要ラインでもある。50周年記念モデルBladeの見事な造形美と先進的なサウンドデザインにも感心したが、ここではマルチチャンネル展開までを照準に入れたRシリーズの魅力と、注目すべきポイントを詳らかにしていきたい。

 今回テストしたのは、R300、R500、R900の3モデル。それにセンタースピーカーのR200cとQシリーズのサブウーファーQ400b(RシリーズのR400bは未入荷)を加えたサラウンドシステムのパフォーマンスもチェックした。

 Rシリーズに採用された同軸ユニットUni-Qは、12.5cmマグネシウム・アルミ合金コーンと2.5cmアルミドームトゥイーターを組み合せたもの(編注:R100、R800dsを除く)。トゥイーター前面に指向性を改善する花びら形状のタンジェリンウェーブガイドを配置したのが大きな特徴だ。今回聴いた3モデルはすべて3ウェイ構成。ブックシェルフ型のR300には16.5cmウーファーが1基、フロアー型のR500には13cmウーファーが2基、R900には20cmウーファーが2基組み合わされている。

 R500、R900ともにUni-Qを上下のウーファーではさみ込む仮想同軸配置が採られているが、これは全帯域の点音源化を目指してのこと。ウーファーの振動板はパルプにアルミを貼り合わせたハイブリッドコーン。浅いコーンケーブ形状が採られており、Uni-Qとの放射特性の整合が図られている。

 ちなみにRシリーズのエンクロージャーはMDF材によるスクエアなキャビネットで、バッフルは面取りされていないし、リアに向かって絞り込むティアドロップ形状も採られていない。値段相応につくりやすさを優先してのことだろうが、このスクエアなエンクロージャーには、容積を大きく取って低域再生能力を向上させる狙いもあるのだろう。また、3モデルとも背面に設けられたLINKツマミを回すことでシングル&バイワイアリングの切替えができる。音質阻害要因になりかねない、スピーカー端子間をつなぐジャンパーケーブルを追放した、これは面白いアイデアだ。

画像1: “Blade”で目指した理想をより身近に。悦楽的な音響空間に興奮した!

 では、R300から順番にCDを用いて2ch再生してみよう。すばらしいマスタリングが施されたオーディオフィデリティ盤『スウィート・ベイビー・ジェームズ/ジェームズ・テイラー』から「ファイアー&レイン」を聴いたが、汎用スタンドに載せたR300から小気味のよいハリとコクのある音が飛び出してきた。ヴォーカルの質感もあたたかい。元気のよい闊達なサウンドながら、その奥にはKEFのスピーカーらしい品位の高さが隠されていて、帯域バランスのよさは抜群だ。同価格帯でこれほど品格の高いまとまりのよい音を奏でてくれるスピーカーは、他にはちょっと思いつかない。

 少し気になったのは、ジョン・クリアリーのライヴCDを大きめの音量で鳴らすと、キックドラムとベースが飽和気味に聴こえること。容積に限界のある小型スピーカーだけに、ダイナミックレンジの再現にはそれなりの制限があるようだ。

 R500に変えて、「ファイアー&レイン」を聴いてみる。R300の元気のよさは後退して、ゆったりとからだをソファに沈み込ませて聴きたくなる滋味深い音に。R300に比して明らかに大人っぽい音である。ジョン・クリアリーのライヴ盤で強く印象づけられたのは、音離れのよさと低域の解像感の高さ。大音量再生時でも低音が肥大せず、クリアーでヌケのよい音が得られる。

 セッティング上の注意点は、あまり内ぶりにしないこと。仮想同軸タイプのせいか、音軸を両耳にぴしりと合わせるとやや窮屈な音場感になるからだ。R500の場合、ほぼ正面向きで豊かなステレオイメージが得られた。

 20cmダブルウーファーのR900は、さすがに余裕に満ちた鳴りっぷり。「ファイアー&レイン」のチェロの深々としたひびき、バスタムのアタックの広がりなど、格別な雰囲気のよさだ。弦楽四重奏の、銀を燻したような渋みのある音色の魅力がいちばん味わえるのも本機。しかし、テイラーのヴォーカルのあたたかな質感はR300、R500と見事に共通しており、シリーズ全体で完璧なヴォイシングが施されていることがわかる。

画像2: “Blade”で目指した理想をより身近に。悦楽的な音響空間に興奮した!

点音源化の神髄はサラウンド再生にあり!

 では、マルチチャンネル再生へと移ろう。センター用のR200cとウーファー口径(13cm)が揃うR500をL/R用に、R300をサラウンド用に充てて何枚かのBDを再生してみた。

 R200cはスタンドに載せてスクリーン直下ぎりぎりまで持ち上げ、リスニングポイントから見てL/R用とセンター用のUni-Qのアコースティックセンターがほぼ5度以内に収まるように配置した。その効果もあり、スクリーンチャンネルの水平方向の音のつながりがみごとに揃ったシームレスなサラウンドサウンドが得られた。

 『地獄の黙示録』冒頭の、ヘリコプターのローター音が360度パンニングし、ドアーズの荘厳な音楽がフェードインしていくところなど、スピーカーの存在が消え、空間がみっちりと音で埋めつくされる悦楽的な音響空間が構築され、興奮した。すばらしい。セッティングがうまくいっているせいもあって音像と映像の溶け合いもきわめてよく、ダイアローグがあたかもスクリーンに映し出されたウィラード大尉の脳内でひびいているかのようなイリュージョンが得られた。

 フロント3chの中高域の放射特性がぴたりと揃ったシステムならではの極上のサラウンド・パフォーマンス。映像と音像の高度な融合を目指す方は、ぜひKEFのRシリーズに注目していただきたいと思う。

SPEAKER SYSTEM KEF R series

画像: 【HiVi名作選】スピーカーシステム KEF「Rシリーズ」(HiVi2012年1月号)

R900 ¥472,500(ペア、写真左) ※価格は発売当時のもの、以下同
●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:125+25㎜同軸型Uni-Q、200㎜コーン型ウーファー×2
●寸法/質量:W359×H1181×D388㎜/29.5㎏

R500 ¥245,700(ペア、写真右)
●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:125+25㎜同軸型Uni-Q、130㎜コーン型ウーファー×2
●寸法/質量:W299×H1066×D628㎜/21.8㎏

R300 ¥163,800(ペア)
●型式:3ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:125+25㎜同軸型Uni-Q、165㎜コーン型ウーファー
●寸法/質量:W210×H385×D345㎜/12㎏

R200c ¥90,300(1本)
●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:125+25㎜同軸型Uni-Q、130㎜コーン型ウーファー×2
●寸法/質量:W530×H170×D305㎜/14.4㎏

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