多感な青春時代に聴いた音楽は心の中に深く刻まれる。きっと多くの方がそうだろう。

 先日、筆者の元にステレオサウンド社から安全地帯のアナログ盤が2枚届いた。1枚は昨年9月20日にSACDと同時発売されたLP『安全地帯ベスト』、もう1枚は収録数の関係でLPには入らなかった8曲と新たな2曲を追加して2月27日に発売された『安全地帯ベスト 第2弾』である。

画像: 『安全地帯ベスト』(写真左、2019年9月20日発売)と『安全地帯ベスト 第2弾』(同右、2020年2月27日発売)。どちらも33回転の180g重量盤で、価格は各¥8,800(税込)

『安全地帯ベスト』(写真左、2019年9月20日発売)と『安全地帯ベスト 第2弾』(同右、2020年2月27日発売)。どちらも33回転の180g重量盤で、価格は各¥8,800(税込)

 僕は、ステレオサウンド社が手がけたこの2枚を聴くのが本当に楽しみだった。同社は、DSD 11.2MHz音源「ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ」を始めとするクラシックの高音質ソフトから、1970~80年代に日本の音楽シーンを盛り上げた邦楽ソフト群まで様々なラインナップを揃え、オーディオファイルから最大級の評価を得ているが、特に邦楽タイトルでは、音の鮮度感が高い上、僕が重要視している“録音当時の帯域バランス”を大切にしているからだ。

 安全地帯が結成されたのは1973年だが、僕の生まれた年ということもあって、個人的にちょっとした縁を感じている。僕が10代の頃、彼らは毎日のようにテレビの音楽番組で見ていた超人気グループだった。友達の家に遊びに行ったときや自宅のオーディオ装置を買い足したりしたときには、安全地帯の楽曲もよく再生していた。当時の僕のシステムは今とは比べ物にならないほどミニマムなものだったが、あの時の音色はハッキリと覚えている。

画像: レコードプレーヤーには、リニアトラッキング&エアーベアリングを搭載した「Holbo」を使用

レコードプレーヤーには、リニアトラッキング&エアーベアリングを搭載した「Holbo」を使用

 話を2つのタイトルに戻すが、それぞれに共通するアドバンテージは主に2点ある。1点目は、収録されている魅力的な楽曲だ。

 調べた限り、安全地帯はメジャーデビューした1982年の『萠黄色のスナップ』から2011年の『結界/田園』までシングル29枚、アルバムは合計38枚という膨大な楽曲を発売していて、なかでもこの2枚には多くの方がもっとも聞きたいであろうヒット曲がチョイスされ、「再構築」して収録されている。スーパーベスト盤といえるだろう。たとえば『安全地帯ベスト』には、「ワインレッドの心」「恋の予感」「青い瞳のエリス」。『安全地帯ベスト第2弾』には、「月に濡れた二人」「好きさ」「じれったい」など。

 2点目は、ステレオサウンドの名に恥じない素晴らしい音質とリマスターセンスのよさである。

 制作方法には並々ならぬこだわりがある。まず、分散保管されていたオリジナルもしくはオリジナルに準ずるマスターテープを10本以上も集めて、2台のスチューダ「A80」と後継モデル「A820」で再生、ディレクターとカッティング&マスタリングエンジニアを務める日本コロムビアの武沢茂氏が、再生方式に合わせ、場合により比較試聴して再生するデッキを決定し、デジタルでマスター化されたという。

画像: 多感な青春時代に聴いた音楽の雰囲気がひしひしと伝わって来た。今聴くことのできる、最高の安全地帯サウンドがここにある。
アナログレコード『安全地帯ベスト』インプレッション

玉置浩二の血の通ったような暖かい声質に、
「これが聴きたかったんだ!」と声が出た

 今回は、レコードプレーヤーに、最近StereoSound ONLINEでも多く取り上げられるターンテーブル「Holbo(ホルボ)」、カートリッジにデノン「DL-103」、フォノイコライザーにソウルノート「E-1」というシステムで2枚を試聴した。

 まずは、『安全地帯ベスト』から。ターンテーブルに針を落とし、リードグルーブが終了すると、A面1曲目の「To me」が流れ出す。その瞬間、心の中のスイッチが入った。

 使用楽器からエコーのかかり方まで、当時の雰囲気がひしひしと伝わってくる。そして当時は聴けなかった驚くほどの鮮度感ある音。今でもJ-Popの最新チャートをある程度追いかけている僕が聴いて思うのは、現代でも充分以上に通用するメロディアスな楽曲であるということ。バックミュージックセンターに定位する口元がリアル。「こんな音が入っていたのか」とはよく使われるフレーズだが、まさにこの通りの感想を持った。

 続いて『安全地帯ベスト 第2弾』を再生する。ここでは少し冷静な目線で、オーディオファイル視点でもクォリティチェックを行なう。2枚とも180グラム重量盤かつメタルマスターでダイレクトプレスされている事もあるだろう、全帯域における滲みない骨格のある音がする。

画像: 試聴は土方さんのオーディオルームで実施。時節柄編集部も同席を避け、セッティング等もすべてお任せしている

試聴は土方さんのオーディオルームで実施。時節柄編集部も同席を避け、セッティング等もすべてお任せしている

 また嬉しかったのが、玉置浩二の血の通ったような暖かい声質で、同時試聴ではないが、SACDと比べてもアナログの方がより情緒豊かに歌い上げている気がしたことだ。「これが聴きたかったんだ!」と思わず声に出てしてしまうほどだった。しかも、SACDに入らない2曲、「瞳を閉じて」と「オレンジ」が入っていることはファンにとってボーナスである。

 そして、先述した、筆者が大切にしている当時らしい帯域バランスのまま仕上げられている点は何よりも嬉しい。ここはハッキリと言いたいが、名盤のリマスターは音作りのセンスが求められる。ただ音が明瞭に聴こえるように安易に音圧を上げたり、高域と低域を持ち上げるドンシャリサウンドはまったく必要ないのだから。

 今やびっくりするほどのプレミアがついている、ステレオサウンド社による松田聖子の各種SACDタイトルの存在も思い出した。今回の製作陣も含め、ステレオサウンドの邦楽タイトルはリマスターのクォリティが至極高い。

 先に発売されたSACDとアナログレコードを聴き比べてみることもおすすめしたいし、安全地帯の各タイトルは、ハイレゾ楽曲ファイルやAmazon Music HDなどのストリーミングサービスでも聞けるが、ここだけの話、ベストはこの2枚のレコードかSACDだと断言できる。

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