今回よりスタートする「小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所」。声優の小岩井ことりと、オーディオ評論家の山本浩司先生による、オーディオをより多くの人に知ってもらいたい!という思いからHow To、機器の選び方まで、いい音で聴けばもっと音楽を好きになる!をモットーに皆様にオーディオの面白さを伝えていく連載です。
第1回となる今回は、小岩井ことりさんにステレオサウンド誌のリファレンスシステムでスピーカー・リスニングを体験していただきました。(編集部)

画像1: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所 
第1回 スピーカー・リスニングを体験してみた。(前編)

小岩井ことり 声優、ピアレスガーベラ所属。作詞や作曲も行ない、MIDI検定1級、講師資格も所持しているマルチタレント。声優としては「のんのんびより」宮内れんげ、「アイドルマスター ミリオンライブ!シアターデイズ」天空橋朋花、「七つの大罪」エレイン役などを演じている一方で、自身の出演作にも作詞/作曲・提供をしている。肩書は「完パケ納品できる唯一無二の声優」。制作の立場からも良い音で聴いてほしいという思いで啓蒙活動も行なっており、2019年に声優の上野優華と共に「ゆう*こと」を結成し、オーディオショップ「e☆イヤホン」の主催するイベント「ポタフェス」のイメージアーティストとなった。

画像: 小岩井さんの自宅制作/試聴環境。スピーカーはジェネレック 8020A、8010Aを使用しているという。その他様々なヘッドホンが並んでいる。

小岩井さんの自宅制作/試聴環境。スピーカーはジェネレック 8020A、8010Aを使用しているという。その他様々なヘッドホンが並んでいる。

山本 声優、シンガー・ソングライターとしてご活躍で、「ポタフェス2019」のイメージアーティストとしてもお馴染みの小岩井ことりさんをお迎えし、すべての音楽ファンにお贈りするSTEREO SOUND ONLINE版「オーディオ研究所」。記念すべき第1回は、ステレオサウンド誌のリファレンス・システムの音を聴いてもらって、スピーカー・リスニングの面白さとハイエンドオーディオの可能性の高さを体験してもらおうと思います。

最初にお聞きしますが、小岩井さんは家で音楽を聴くときもヘッドホンがメインですか。

画像2: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所 
第1回 スピーカー・リスニングを体験してみた。(前編)

小岩井 そうですね。ジェネレックのパワードスピーカーを部屋に置いていますが、これは作曲する際のモニター用として使うことが多く、音楽を楽しむときはほとんどヘッドホンです。

山本 そうか、せっかくいいスピーカーをお持ちなのに?

小岩井 わたしが使っているスピーカーは、小口径なので低音が物足りなくて。

山本 あれま、そうですか。音量は?

小岩井 どちらかというと、少し小さめじゃないかなと思います。制作中は長時間聴く
ことが多いので、耳疲れしないように。

山本 なるほど、わかりました。低音が物足りないのは音量が小さいからかもしれませんね。

スピーカー・リスニングを体験してみた!

山本  さて、今日はステレオサウンド試聴室のリファレンス・システムを体験してもらって、ヘッドホン・リスニングでは得られない、スピーカー・リスニングならではの楽しさ、面白さを一緒に体験していきたいと思います。まず小岩井さんの作品を聴いてみましょうか。

小岩井 どの曲にしようかな。自分で作詞・作曲、編曲した「運命の輪を廻す者 XX」の96kHz/24bitのFLACファイルを聴いてみます。ハイレゾなのでコンプ(コンプレッサー=ダイナミックレンジを圧縮するマシン、ツール)は一般のCDよりは甘めではあるのですが、それなりにかかってはいるので、こういうハイエンドな再生環境にふさわしい曲ではないかもしれませんが……。

山本 プリアンプの右側のノブで音量調整できます。

小岩井 どれくらいの音量で聴けばいいんですか。

山本 それは自分で決めてくださいよ。

小岩井 自分で決めるものなんですか!?

山本 そりゃそうでしょ。自分が楽しむわけだからね。好きな音量で。

画像3: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所 
第1回 スピーカー・リスニングを体験してみた。(前編)

「運命の輪を廻すもの XX」 アルバム『Harmony of birds feat. 小岩井ことり』より

DTMステーションの藤本健・多田彰文が実験的に運営するレーベル、「DTMステーションCreative」の第2弾。 こちらの楽曲はボーカルのみでなく、小岩井さん自身で作詞・作曲・編曲、録音(!?)も行なっている。CD版は2019年のコミックマーケットC95で頒布された。ハイレゾ含むデジタル版は各種配信サイトより配信中。今回の試聴はハイレゾ版を用いた。

山本 音量はやはり小さめでしたね。さて、いかがでしたか。

小岩井 ざっくりとした感想ですが、ふだん自分のヘッドホンで聴くよりもすごくいい曲に聞こえました(笑)。

画像: スピーカー・リスニングを体験してみた!

山本 あ、それはとても重要なことですね。

小岩井 それから音がとても広がって、定位もすごくシャープでした。

山本 なるほど。

小岩井 定位の善し悪しにはこだわりがあるんですよ。狙った通りに定位すると、演劇を観ているかのような感じになりますから。この曲はたくさんのキャラクターが出てきますし。

山本 ご自分のヴォーカル、声の質感はどうでしたか。

小岩井 生々しくて、驚きました。声を聴きながらちょっと後悔しました。

山本 なぜ?

小岩井 もっと練り上げたいなって。

山本 このクラスの高級スピーカーで聴くと、いろいろな気づきがありますね。この曲のバックトラックはすべて打ち込みですか。

小岩井 ええ、そうです。生楽器は入っていません。

山本 小岩井さんはミキシングやマスタリングのエンジニアに細かな注文を出すほうですか。

小岩井 楽曲の世界観とかはお話しますが、この曲に関しては基本的にお任せです。

山本 そうですか。でも先ほどおっしゃっていましたが、コンプがきつくてボリュウムが上げられない仕上がりだと満足できないでしょ。

小岩井 あぁそれは……。

山本 でもなかなか言えないかぁ。

小岩井 リスナーがみんな高級オーディオをお持ちならコンプをあまりかけずにってい
うのがいいと思いますが、音源を手に取ってくださるみなさんの再生環境が必ずしもいいとは限らないというか、ヘッドホンやイヤホンで聴く方が多いかなと思うので、それなりの加工も必要かなと思うんです。やっぱりきちんと楽曲の世界観が伝わることが大切ですから。

山本 なるほど。それはすごく重要な視点ですね。
ぼくはヘッドホン・リスニングとスピーカー・リスニングには大きな違いが二つあると考えています。一つはスピーカーを正しくセッティングすれば、目の前にステージが出現すること。

小岩井 ステージ!

山本 ステレオサウンド誌では、それを「サウンドステージ」という言い方をします。

小岩井 へぇー。たしかにヘッドホンの多くは、頭の中に音像が定位するので、目の前に広いステージが出現するというのは、なかなか体感できませんよね。

山本 「ステレオ=ステレオフォニック」は「立体音響」という意味です。スピーカーによるステレオ再生って立体的に聴こえるかどうかがすごく大事なのです。人間の耳は左右に二つあって、正しくステレオ配置したスピーカーで正しくステレオ録音された音源を聴けば、「両耳効果」で幅と高さと奥行きを伴った立体的なサウンドステージが「見えるように」構築されます。

また同レベル・同位相で録音されたヴォーカルはL/Rスピーカーの真ん中から聞こえますよね。つまりスピーカーのないところから声が聞こえてくる。これ、じつは脳の錯覚なんだけどね。シャープに眼前に像を結ぶヴォーカル、その背後に広々と広がる伴奏。それがステレオを聴く楽しさなのです。

小岩井 ああそれ!今日聴かせていただいてよくわかりました!

山本 それからもう一つ。イヤホン、ヘッドホンと比べて、こういう本格スピーカーで聴く醍醐味は「低音」です。

小岩井 たしかに。

試聴の合間に感想を述べ合う山本浩司さん(左)と、小岩井ことりさん(右)

山本 低音というか音は、空気の振動、疎密波です。大きな振動板で空気を動かせれば、低い周波数の信号を大きな音量で再生できる。数ミリの振動板のイヤホン、ヘッドホンではリアルな低音再生は難しい。だからうまく低音感を演出した製品が売れるわけだけどね。

ヘッドホンでも音量を上げていけば低音感は増しますが、その状態で長時間聴いていると、耳への負担が大きくなる。鼓膜とヘッドホンの振動板の距離が数ミリしかありませんからね、大音量は危険です。

以前WHO(世界保健機関)の警告をニュースで読みましたが、若年層の「ヘッドホン難聴」※が先進国を中心に年々増えているというデータもあるようですね。難聴が厄介なのは、近視と同じで一度なってしまうとほぼ元に戻らないということ。補聴器に頼るしかなくなる悲劇が待っているんです。

※WHOの勧告によると、80dBで40時間以上、98dBで75分以上(1週間)聞き続けると、難聴の危険があり、100dB以上の大音響では難聴となるリスクが上昇するという。
厚生労働省 e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/sensory-organ/s-002.html より

小岩井 うわぁー。

山本 だから四六時中ヘッドホン、イヤホンで大きな音で音楽を聴くのは避けたほうがいい。移動中は結構だけれど、「家に帰ったらスピーカーで音楽を聴こう」っていう啓蒙活動を音楽業界、オーディオ業界挙げてやるべきだと、ぼくは思っているんです。

小岩井 なるほど。

山本 だから、逆にアーティストのみなさんにはスピーカー・リスニングだからこそ楽しめる音源を制作してほしいって思う。眼前にリアルなステージが出現する豊かなステレオイメージの世界を追求してほしい。

小岩井 そうか、勉強になります。

山本 小岩井さんが先ほど「音源を手に取ってくださる方の多くはほとんどイヤホン、ヘッドホンで聴いている」とおっしゃっていましたが、その小岩井さんが「この曲はスピーカーで聴いてほしい」なんて言ってくれるとインパクトがあるんだけどなあ。

小岩井 スピーカー・リスニング用とヘッドホン・リスニング用でミックスやマスタリングを変えるとか?

山本 そうそう。スピーカーで聴けば、ライブを見に行って目の前で演奏しているイメージが得られますよ、そんなバカでかい音量じゃなくてもスピーカーで聴けば気持ちいい低音が聴けますよって小岩井さんが言ってくれれば「おれ、着いていく」ってファンも多いんじゃないかと思いますけど。

小岩井 2パターンの制作はタイヘンですけれど、そんなことができたらいいなってわたしも思います。

山本 それから先ほど言い忘れましたが、L/Rスピーカーの真ん中から声が聞こえるマジックをリアルに体験するには、L/Rスピーカーから等距離の場所に座って聴く必要があります。L/Rスピーカーを結んだ線を底辺とする正三角形の頂点で聴く。

小岩井 でも正三角形を意識して音楽を聴いている人、今はほとんどいないと思います。

山本 たしかにそうかもね。ぼくらが若い頃は音楽ファンの常識だったんだけどね。では、もう1曲小岩井さんの曲を聴いてみましょう。

小岩井さんの「メタル」楽曲を聴いてみる

小岩井 メタル系を聴いてみますか?

山本 うん、いきましょう。

小岩井 「chaos effect」という曲です。48kHz/24bitのFLACファイルです。

画像4: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所 
第1回 スピーカー・リスニングを体験してみた。(前編)

「chaos effect」 アルバム『ALTER EGO』より

小岩井ことりとBLOOD STAIN CHILEDのRYUによるメタルバンドDUAL ALTER WORLDのファーストアルバム。二人の共通点がDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)からDUAL ALTER WORLDと名付けられた。今作はRYUさんの自宅DAWで制作されたというユニークな作品。全国のレコード店でCDが発売、ハイレゾ含むダウンロード版は各種配信サイトにて配信中。今回はハイレゾ版を試聴した。

山本 いかがでしたか。

小岩井 やっぱり48kHz/24bitだと、解像度の粗さというか・・・。96kHz/24bitの「運命の輪を廻す者 XX」に比べると。

山本 解像度ね。この曲は人力のバンドを従えて?

小岩井 ギターとベースはそうですが、ドラムは打ち込みです。メタルバンドって低音を結構しっかり出すじゃないですか。

ヘッドホンで聴くと、タイトな低音の粒がぎっしり詰まったように聞こえる感覚なんですが、このスピーカーで聴くと、しっかり低音は出ているけれど、広がりがあってまろやか。長時間聴いても疲れにくい感じがします。

山本 ああ、なるほど。今おっしゃったことも重要なポイントですね。

今日はB&W 800D3という邦貨ペア450万円というたいへん立派なスピーカーを使っていますが、なにもこんなに高価なスピーカーじゃなくても、値段が30分の1くらいの製品でも、うまく選べば広がりがあってまろやかな低音を聴くことができます。おいおいそんなスピーカーもご紹介しますね。(後半に続く)

画像: 小岩井さんの「メタル」楽曲を聴いてみる

(聞き手・構成 山本浩司)

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