前回に引き続き、ステレオサウンドの「Stereo Soundリファレンスレコード」シリーズ〈オーディオ名盤コレクション〉から11.2MHzパッケージの最新ラインナップを紹介しよう。前回でも記したが、このシリーズの最大の特徴は、英国デッカが管理・保管するオリジナル・アナログマスターテープをダイレクトにDSD11.2MHz変換している点だ。いわばスタジオマスターの音そのものが聴けるといっても過言でなく、既発のSACD(2.8MHz)に比べていっそうリアルな音色と生々しいプレゼンスが堪能できるシリーズなのである。

 はじめに、前回でのレビュー時とは拙宅の再生環境が少し異なっているので説明しておきたい。デラのディスクドライブD100を介してフィダータのミュージックサーバーHFAS1-XS20に11.2MHz音声を取り込むまでは一緒だが、ソウルノートの新製品SACD/CDプレーヤーS3を組み合わせ、そのUSB入力に接続、再生している。

 なお、これらDSD11.2MHzのディスクはすべてBD-ROMのため(ブルーレイオーディオ盤ではない)、一般的なBDプレーヤーでの再生は不可。BD-ROM対応のディスクドライブを経由して音声データをパソコンやサーバー等の保存媒体に取込み、DSD11.2MHzに対応するDACやプレーヤーで再生することになる。

オーディオの醍醐味を満喫できる
瑞々しい響きに満ちたオーディオ名盤

 同じタイトルのSACD(2.8MHz)と11.2MHzを聴き比べて感じるのは、端的に言えば音の鮮度、響きの瑞々しさの違いだ。DSD特有の音のなめらかさはもちろん、弦楽器の響きの柔らかさ、管楽器の微細なニュアンス等はSACDでも実感できるが、11.2MHzになると、そうした要素が、なおいっそう肌理細かく、立体的に感じられる。ひと言でいえば、表現できるキャンバスが大きいのだ。大きなキャンバスを掲げる(支える)には、システムに安定した高い性能が望まれる。だからこそ、SACDプレーヤーと比べて、11.2MHz対応の再生系にはよりハイレベルなクォリティ/スペックが要求されるというわけである。

 では、各4作品を個別に見ていこう。

 映画『アマデウス』でも使われたモーツァルトの交響曲第25番は、ブリテン指揮、イギリス室内管弦楽団の演奏で、録音は比較的新しい1971年。「室内」と名前につくだけあって比較的小規模のオーケストラだが、驚くほどリッチで豊穣としたリヴァーブ(アンビエンス)とダイナミックレンジが実感できるのは、エンジニアに名手ケネス・ウィルキンソンを擁し、元ビール醸造所を改築したコンサートホール「モルティングス」での録音ということも無関係ではないだろう。アナログマスターに収録されたその澄んだ響きは、DSD11.2MHzでのファイル化によってダイナミックな展開を流麗に聴かせる。とりわけ疾風怒涛の第一楽章の強靭さと、第二楽章の柔らかな心地よさが対象的で、ブリテンの指揮の懐の深さを指し示しているかのようだ。

 カップリングされた交響曲第29番も、ダイナミックレンジを存分に駆使しながら、優雅でゆるやか、柔らかな響きが魅力。その颯爽とした雰囲気には、音場が近い位置に感じられることもあって室内楽的なイメージが現われているようにも思う。

画像1: 名盤ソフト 聴きどころ紹介11/High Resolution MASTER SOUND  Stereo Sound REFERENCE RECORD

DSD11.2MHzデータ収録BD-ROM

『モーツァルト:交響曲第25番&第29番 ベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管弦楽団』
(ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSHRB-014) ¥14,000+税
●初出:1978年デッカ・レーベル
●録音:1971年2月28日[交響曲第29番]、
 9月29日[交響曲第25番]サフォーク州、スネイプ、モルティングス
●Recording Producers: Ray Minshull [K. 183]; David Harvey [K. 201]
●Balance Engineer: Kenneth Wilkinson
●Mastering Engineers:Jonathan Stokes & Neil Hutchinson(Classic Sound Ltd UK)

     ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_hrm/3225

 ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、シゲティ晩年の録音。もともと流麗さや甘美さを排した音色が評価されたヴァイオリニストだが、ここでの録音も時に険しく、要所では軋むような響きさえ聴き取れる。DSD11.2MHzファイルはそれをいささかも曖昧にしないので、時折エキセントリックに感じるほど。しかしそれがむしろスコアに潜む背景を鋭く洞察し、勢いのよさを伴なった気迫の演奏に足らしめているようにも感じさせる。異様に長い第一楽章の章末に付されたカデンツァは、クリアーなオーバートーンが美しく、こうした個性的演奏を前にして、メンゲス指揮ロンドン交響楽団も形なしという印象である。

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲/ヨーゼフ・シゲティ(ヴァイオリン)、ハーバート・メンゲス指揮ロンドン交響楽団』
(ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSHRB-013) ¥14,000+税
●初出:1960年マーキュリー・レーベル
●録音:1959年6月26〜28日ロンドン郊外、ワトフォード・タウン・ホール
●Basic Recording Setup: Wilma Cozart, C. Robert Fine
●Recording Director: Harold Lawrence
●Engineer: Robert Eberenz
●Mastering Engineers:Jonathan Stokes & Neil Hutchinson(Classic Sound Ltd UK)

画像2: 名盤ソフト 聴きどころ紹介11/High Resolution MASTER SOUND  Stereo Sound REFERENCE RECORD

DSD11.2MHzデータ収録BD-ROM

     ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_hrm/3224

 同じロンドン響でも、ドラティ指揮によるプロコフィエフの『《3つのオレンジへの恋》』組曲・他』は、オーディオ的醍醐味が横溢した録音だ。私は初めて聴くアルバムだったが、打楽器群の咆哮と緻密なアンサンブルが繰り出すメロディの激しさに思わず仰け反った。オーディオシステムのトランジェント性能とダイナミックレンジの追従力がモノをいう、ある意味、鳴らし手の腕が試されるアルバムである。静と動のコントラストは半端なく、機材のS/Nが問われることだろう。凄まじく重々しい低音や、ピーンと張り詰めた高域の描写に、貴方の脳内にもきっとアドレナリンが吹き出すに違いない。

画像3: 名盤ソフト 聴きどころ紹介11/High Resolution MASTER SOUND  Stereo Sound REFERENCE RECORD

DSD11.2MHzデータ収録BD-ROM

『プロコフィエフ:《3つのオレンジへの恋》』組曲、スキタイ組曲/アンタル・ドラティ指揮ロンドン交響楽団』
(ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSHRB-012) ¥14,000+税
●初出:1958年マーキュリー・レーベル
●録音:1957年7月4日 ロンドン郊外、ワトフォード・タウン・ホール
●Recording Director: Wilma Cozart
●Musical Supervisor: Harold Lawrence
●Engineer and Technical Supervisor: C. Robert Fine
●Mastering Engineers:Jonathan Stokes & Neil Hutchinson(Classic Sound Ltd UK)

     ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_hrm/3210

 それと同様の感興は、ストラヴィンスキー『バレエ「火の鳥」』でも味わうことができる。ドラティ/ロンドン響の演奏は、強靭なリズムが全体を支え、弦と管が織り成すメロディの緩急(特に『カスチェイ一党の凶悪な踊り』以降、火の鳥が暴れ回っているかのような旋律の急上昇・急降下)が圧巻。DSD11.2MHzがその重厚かつスペクタキュラーなサウンドステージを勇壮に展開するだけでなく、ロマンティックな情緒もしっかりと味わわせてくれる。とりわけ後半部の構成は、オーディオマインドをくすぐるかのよう。まばゆい色彩感で音場空間が埋め尽くされ、ファンファーレのような管の合奏の後ろで繰り出されるティンパニやグランカッサの一撃が、とにもかくにもエキサイティングだ。

『ストラヴィンスキー:バレエ「火の鳥」/アンタル・ドラティ指揮ロンドン交響楽団』
(ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSHRB-011) ¥14,000+税
●初出:1960年マーキュリー・レーベル
●録音:1959年6月7日 ロンドン郊外、ワトフォード・タウン・ホール
●Recording Director: Wilma Cozart
●Musical Supervisor: Harold Lawrence
●Chief Engineer and Technical Supervisor: C. Robert Fine
●Associate Engineer: Robert Eberenz
●Mastering Engineers:Jonathan Stokes & Neil Hutchinson(Classic Sound Ltd UK)

画像4: 名盤ソフト 聴きどころ紹介11/High Resolution MASTER SOUND  Stereo Sound REFERENCE RECORD

DSD11.2MHzデータ収録BD-ROM

     ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_hrm/3209

 こうした優秀録音に接する度に、オーディオシステムをもっともっと追い込まねばという意欲がいつもわいてくる。システムとソフトを両輪としてクォリティアップを図っていくことこそ、オーディオ探求の醍醐味といってよい。

画像: オーディオの醍醐味を満喫できる 瑞々しい響きに満ちたオーディオ名盤

  ●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル03(5716)3239
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